京の和菓子の玉手箱 1
京の町には、たくさんの魅力的な「和菓子(京菓子)」があります。その豊かな世界を、京都の和菓子を愛する“和菓子ライフデザイナー”小倉夢桜(おぐらゆめ)さんにご案内いただきます! 11月は、どんな和菓子に出会えるのでしょうか♪
霜月となり、京都は木々の色づきが一段と進んできました。もう少しで錦秋の京都の幕開けです。今年も自然が織りなす幻想的な光景に多くの方々が魅了されることでしょう。その京都をより堪能していただくために、“和菓子”から京都を感じてみてはいかがでしょうか。
和菓子は、京都の暮らしと深い関係があります。
京都市街地を取り囲む山々。京都で暮らしていると自然に目に入ってくる日常的な風景です。その山々の風景から季節の移ろいを感じ、作られているのが京都の和菓子。言い換えれば『この時季だけのお菓子』です。
その和菓子を知ることで、京都の感じ方がさらに深まることと思います。
せっかく、京都にお越しになられたのであれば、ぜひとも召し上がっていただきたい、私がおすすめする『この時季だけのお菓子』をご紹介します。
二條若狭屋 【もみじ狩り】
徳川幕府が終焉を遂げた大政奉還から150年となる今年(2017年)。その舞台となった二条城には、国内外を問わず多くの観光客が訪れています。
二条城からほど近い場所に店を構えるのが、「二條若狭屋(にじょうわかさや)」。マスコミにもよく登場するため、おみやげのお菓子を買い求めたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
こちらが二條若狭屋の本店。
二條若狭屋・外観
京都らしい趣きのある店構え。玄関前にかかっている暖簾に、初めて訪れる方は少し気おくれしてしまうかもしれません。でもご安心ください。訊ねればお店の方が親切丁寧にお菓子の説明をしてくれます。
二條若狭屋・店内
店内には、数多くのお菓子が並び、どれもお求めやすい価格。その中でも、この時季だけのお菓子として人気があるのがこちら。
もみじ狩り
上生菓子「もみじ狩り」(378円)です。中には、秋の味覚の“栗”をふんだんに使用している栗餡が。その栗餡を包むように、羊羹製のもみじで仕上げられています。紅葉の色づきを表す、錦秋の京都を視覚から感じることのできるお菓子です。
二條若狭屋・イートインスペース
あまり知られていませんが、店内にはお抹茶とお菓子を一緒に召し上がることができるスペースが用意されています。観光の途中で立ち寄ってみるのもおすすめです。
■二條若狭屋
【営業時間】8:00~18:00/日祝8:00~17:00
【定休日】無休(1/1~3は休み)
【電話】075-231-0616
【アクセス】地下鉄東西線「二条城前駅」から徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】http://www.kyogashi.info/index.htm
☆「もみじ狩り」はなくなり次第販売終了。事前のご予約をおすすめします。販売時期は11月下旬まで(予定)。
亀屋友永 【紅葉狩り】
京都中心部で多くの自然を感じることができるスポットといえば「京都御苑」をおいて他にはないでしょう。敷地内には、京都御所、仙洞御所、京都迎賓館などもある、市民に親しまれている国民公園です。
京都に長年暮らしている方たちは、「京都御苑」と呼ぶことはなく、まとめて「御所」と呼びます。京都の方に「京都御苑はどこですか?」と尋ねると、「ああ、“御所”やなあ」と返されてしまいます。
500種以上の植物が植えられ、四季の移ろいを存分に感じることができます。これからの季節は、もみじはもちろんのこと、銀杏(いちょう)が黄金色に色づき、中でも一條邸跡の大きな銀杏は京都御所の築地塀を背景に、京都らしい雰囲気を感じられます。
京都御苑南西角から西へ歩いて5分ほどに店を構えるのが、「亀屋友永(かめやともなが)」です。
亀屋友永・外観
餡にすり蜜をかけた「松露(しょうろ)」が有名なお店です。店内には、多くの花が活けられており季節を感じながらお買い物ができます。
亀屋友永・店内
数年前より、数種類の上生菓子が通常販売されるようになり、訪れる楽しみが増えました。今回ご紹介するのは、上生菓子の代表的な意匠の一つ「きんとん」製の「紅葉狩り」(324円)です。
紅葉狩り
「きんとん」とは、餡玉にそぼろ状の餡をつけて仕上げたお菓子のこと。菓銘と色合いで様々な情景を感じられる京菓子らしいお菓子です。
今回は、色づいていく木々の様子を表現した意匠。これから、秋の深まりとともに色合いがより赤く変化していきます。季節によるお菓子の変化も楽しみ方のひとつです。
■亀屋友永
【営業時間】9:00~18:00
【定休日】日曜日、第3水曜日(8/15・16、1/1~3は休み)
【電話】075-231-0282
【アクセス】地下鉄烏丸線「丸太町駅」から徒歩約5分 Google map
☆「紅葉狩り」はなくなり次第販売終了。事前のご予約をおすすめします。販売時期は11月下旬まで(予定)。
京都嵯峨野 御菓子司 音羽軒 【亥の子餅】
京都には、一口(いもあらい)、不明門通(あけずどおり)をはじめとする多くの難読地名があります。右京区にある、「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」もそのひとつ。
通称・嵐電(らんでん)と呼ばれている軌道路線の「嵐山本線」と、北野天満宮へ行く際に利用する「北野線」の2路線が接続している駅が「帷子ノ辻駅」。観光の方には、馴染みがある駅かと思います。
このあたりには、松竹撮影所や東映撮影所、そして、かつては大映撮影所もあり、“映画のまち”として栄えてきました。
嵐電「帷子ノ辻駅」より徒歩10分ほど、京町家が立ち並ぶ京都中心部とは少し雰囲気が異なる、昭和を感じる町並みの中に、地域に根ざした和菓子屋さんが店を構えています。人情味あふれるご主人と奥さんが営む「音羽軒(おとわけん)」です。
音羽軒・外観
音羽軒・店内
11月になると「亥の子餅(いのこもち)」(130円)と呼ばれる、伝統的なお菓子が店先に並びます。
亥の子餅
こちらは、様々な由来を持つ餅菓子。“寒中に猪の肉を食べると身体が温まり、万病にかからない”とされ、殺生を慎むために猪をかたどった“亥の子餅”を食すようになった、と伝えられています。
平安時代の宮中では、その年にとれた穀物で作られた亥の子餅を食べて無病息災を祈る「玄猪(げんちょ)の儀」と呼ばれる年中行事が行われていました。その後、「玄猪の儀」は民間にも広まり、旧暦十月亥の日、亥の刻に亥の子餅を食べて冬の無病息災を祈る風習となったのだとか。
猪が多産であることから、子孫繁栄を願って食した、ともいわれています。
茶の湯の世界では、旧暦の亥の月、亥の日に“炉開き”を行い、「亥の子餅」は、その際に茶席菓子として用いられます。「亥」は陰陽五行説では“水性”に当たり、火災を逃れるという信仰があります。そのため、茶の湯の世界だけではなく、庶民の間でも旧暦の亥の月、亥の日に“囲炉裏”や“火鉢”を用意するようになりました。
「亥の子餅」は、今も大切に受け継がれている、さまざまな“習わし”に関わるお菓子なのです。
■京都嵯峨野 御菓子司 音羽軒
【営業時間】9:00~19:00
【定休日】火曜日
【電話】075-864-3472
【アクセス】嵐電嵐山本線「帷子ノ辻駅」から徒歩約10分 Google map
【公式Facebook】https://ja-jp.facebook.com/kyoto.otowaken/
☆「亥の子餅」はなくなり次第販売終了。事前のご予約をおすすめします。販売時期は11月下旬まで(予定)。
『この時季だけのお菓子』から、今の京都を五感で感じてみてくださいね。
文・写真:小倉夢桜 —Yume—
和菓子ライフデザイナー/ライター/フォトグラファー。京都五感処・京都Loversフォーラム代表。2012年よりホームページ『きょうの「和菓子の玉手箱」』を運営し、毎日京都の和菓子を紹介し続けている。現在は『月刊京都』(白川書院)で「月刊京都版・きょうの『和菓子の玉手箱』」を連載中。
【きょうの『和菓子の玉手箱』】http://kyoto-lovers-forum.com
~みさごレポ~
小倉さんにご紹介いただいた3店舗。私も実際にお店を訪ね、菓子をいただいてみました。
お店に伺うと、3店舗とも特色が違うことに気づきます。小倉さん曰く、「お店のスタイルも変えてみたんですよ。暖簾のある京菓子屋さん、暖簾がかかっていないので店内の様子が見えて入りやすい京菓子屋さん、そして餅菓子を販売している庶民的な和菓子屋さん。それぞれが、京都の和菓子屋さんのスタイルなんです」とのこと。
なるほど! 特徴が端的にわかるセレクションなんですね♪
3つの和菓子を並べてみると、見た目もまったく違います。紅葉の羊羹をあしらった具体的な意匠、色合いで紅葉を表す抽象的な意匠、年中行事に由来する猪を模した餅菓子。それぞれが、11月を映しとった菓子なのです。そして実食。二條若狭屋さんの“栗餡”、亀屋友永さんの“つぶ餡”、音羽屋さんの“こし餡”と、餡の種類がすべて違うんですね!
こうやっていろいろなお店の菓子をいただいてみることで、さらに和菓子の世界を深く味わえるように感じました。ぜひ皆さまも、もみじ狩りとともに、秋の和菓子も楽しんでみてくださいね。