
京の和菓子の玉手箱 6
冬の寒さも少しずつ和らいできましたね。「そう京」ホームページも桜の話題が増えてきましたが、今月ご紹介する和菓子も春を予感させる華やかなものばかり! ナビゲーターは、“和菓子ライフデザイナー”の小倉夢桜(おぐらゆめ)さんです。
小倉さんは、名前にも“桜”をつけるほど桜がお好きで、毎年いろんな場所の桜を撮影されています。今回は春の和菓子とともに京都の桜についてもご紹介いただきましたので、合わせてお楽しみください♪
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3月となり、いたるところで春の訪れを感じるようになってきました。京都で暮らしていると、これからの時期はやはり桜の開花が気になるところです。
京都では、例年11月頃より、寒空の下で不断桜(ふだんざくら)や十月桜(じゅうがつざくら)などが可憐な花を咲かせて、私たちの心を和ませてくれます。3月になると、晴明神社前の一条戻り橋などでひと足早く河津桜の開花が始まり、その後、早咲きで知られる出町柳にある長徳寺のオカメ桜の開花へと続きます。
様々な品種の桜が植えられている京都では、桜の開花時期も様々。「ソメイヨシノの開花時期に行けないから・・・」と京都へ出かけることを諦めている方は、ご安心ください。例年3月の中旬から4月下旬まで桜を楽しむことができます。時季に合わせてお気に入りの桜を探しに出かけてみてはいかがでしょうか。そして“花より団子”。この春も京都で、お気に入りのお菓子を見つけてくださいね。
聚洸(じゅこう)【花の宴(はなのえん)】
京都の昔ながらの雰囲気や暮らしが色濃く残る、「西陣」。このエリアには、比較的のんびりと桜を楽しめる社寺が点在しています。
紅しだれ桜が楽しめる、水火天満宮。多宝塔の周りをソメイヨシノが優雅に花開く光景が印象的な、本阿弥家ゆかりの本法寺。そして、しだれ桜やソメイヨシノを静かに楽しめる妙顕寺。特に方丈から眺める庭園に咲くしだれ桜は気品に溢れ、静かに流れていく時間に心癒されます。その西陣エリアに店を構えるのが、聚洸(じゅこう)です。

遠方より遥々、こちらのお菓子を求めてお越しになる方もいるほどの人気店。購入はすべて事前の予約制となっています。店内に入ると、その日に予約販売されるお菓子がショーケースの中に並んでいます。

京菓子らしい抽象的な意匠のお菓子たち。美しいだけではなく、見るからに美味しそう。このお店に、多くの支持者がいるのも納得できます。
初めてご主人にお会いするまでは、お菓子の意匠から想像すると、さぞかし怖い職人気質の方かと思っていました。でも、実際にお会いしてみると、その心配は取り越し苦労で、とても気さくな、朗らかなお人柄の方でした。
「茶の湯以外では、お菓子を気軽に食べて欲しいんです。正座してとかではなく、こたつに足を投げ出してパクッていう具合に・・・」
と笑顔で話されるご主人。桜シーズンに作られるお菓子のひとつが、「花の宴」です。

花の宴(380円)
京都では桜シーズンになると、緑色と桜色の二色に染め分けられた「都の春」と名付けられた“きんとん”を多くのお店で見かけるようになります。通常はそぼろ状の餡で表されるこの二色を、「小田巻(おだまき)」という手法で仕上げたお菓子です。
「小田巻」は餡や練切を細い糸状にする手法で、非常に手間と技術を要するため、あまり見かけることがない、珍しい意匠です。こちらのお菓子から都の春を存分に感じてみてはいかがでしょうか。
■御菓子司 聚洸
【営業時間】10:00~17:00(予約販売のみ)
【定休日】日曜日、水曜日、祝日
【電話】075-431-2800
【アクセス】地下鉄「鞍馬口駅」から徒歩約15分、市バス「天神公園前」バス停から徒歩約4分 Google map
☆「花の宴」の製造は3月下旬を予定(要予約)。
芳治軒(よしじけん) 【桜風(おうふう)】
JR東海「そうだ 京都、行こう。」の2018年・春編は、皆さんがご存知の通り「勧修寺(かじゅうじ)」となりました。山科の古刹である勧修寺は、醍醐天皇が創建した真言宗の門跡寺院。個人的にも大好きで足繁く訪れている寺院のひとつです。喧騒から離れて静かにのんびりと境内を散策しながら四季折々の風景を楽しみ、本堂の前に立ちご本尊の千手観音に手を合わせる・・・ 心安らかに過ごせるひとときです。

勧修寺は、桜シーズンになると山科の春を象徴するような光景が目の前に広がります。参道の白い築地塀に沿うようにソメイヨシノ、ヘイアンシダレザクラ、ボタンザクラなどが咲き誇り、参拝者を迎えます。そして、境内には観音堂を包み込むように華やかに咲くソメイヨシノ。華やいだ雰囲気とは対照的な、落ち着いた雰囲気の観音堂が、ひときわ存在感を増す時季です。観音堂前の氷室池(ひむろいけ)では、水面に映り込む観音堂とソメイヨシノの優美な光景に息をのむことと思います。
桜シーズンのみならず初夏になれば、氷室池には花菖蒲、半夏生(はんげしょう)や睡蓮など水辺の花が彩り、その後には多くの紫陽花が彩りを添えます。まだ訪れたことがない方はもちろんのこと、春も初夏も、何度でも訪れていただきたい寺院です。
もしも、本格的な桜シーズンよりも少し早くに山科を訪れる方は、同じ山科にある赤穂浪士・大石内蔵助ゆかりの大石神社を訪れてみてはいかがでしょうか。境内に植わる御神木のしだれ桜は、地元住民から「大石桜」と呼ばれ親しまれています。その桜の開花時期は、少し早く、ソメイヨシノのつぼみがほころぶ前に満開を迎えます。優美な一本桜の姿に、きっと見惚れてしまうことでしょう。
さて、その勧修寺のある山科区は、京都市内の中でも和菓子屋が少ないエリアのひとつです。そのなかでご紹介するのは、地下鉄東西線「椥辻(なぎつじ)駅」から徒歩約4分の、芳治軒(よしじけん)です。

店頭には、看板商品である大石神社の御紋「二つ巴」の型を押した「大石饅頭」(1個141円)をはじめ、様々な和菓子が並んでいます。


お客様のほとんどが地元の方という地域に根ざしたお店です。
「自分が作りたいお菓子というよりは、お客様の意見に耳を傾け、喜んでいただけるお菓子を作るように心がけています」
というご主人。素材も国産、できるだけ京都産を使用するようにされているそうです。桜のシーズンになると、上生菓子「桜風」が店頭に並びます。

桜風(303円)
満開の桜が映った水面。その水面に桜が舞い落ちた情景を表現した、羊羹と錦玉(きんぎょく、寒天と砂糖を煮詰めて固めたもの)で作られたお菓子です。山科にお出かけの際にはぜひお立ち寄りください。
■京菓子司 芳治軒
【営業時間】9:00~19:00
【定休日】火曜日
【電話】075-594-5523
【アクセス】地下鉄東西線「椥辻駅」から徒歩約4分 Google map
☆「桜風」はなくなり次第販売終了。販売時期は3月下旬までを予定。
☆NPO法人 おこしやす“やましな”協議会「おすすめ店舗」です。
「おこしやす山科特典付きガイドマップ」&「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード会員限定特典
⇒「お菓子1品プレゼント」
特典ご利用期間:2018年3月24日(土)~4月15日(日)
※特典利用の際は、下記より注意事項をご確認ください。
http://souda-kyoto.jp/other/tokuten.html
笹屋守栄(ささやもりえ) 【花便り】
冒頭で紹介した長徳寺のオカメ桜が散り始める頃、本格的な京都の桜シーズン到来を告げる、平野神社の魁桜(さきがけざくら)が花開きます。「東は祇園、西は平野」と江戸時代より称されてきた西の平野神社。その神門前に植えられている、神門よりも高い立派な桜が、早咲きの魁桜。白い可憐な花びらが印象的な一重のしだれ桜です。
この桜が見頃になると、京都の花見が始まるといわれています。日中は華やかな姿となり、日が沈みライトアップされると艶やかな姿へと変貌する、ふたつの雰囲気を持ち合わせた桜で、この桜を見続けていると、もしかして桜には喜怒哀楽があるのでは・・・ と、感じてしまいます。
平野神社には、約60種400本の桜が植えられており、4月末に咲く「突羽根(つくばね)」という品種の桜が散るまで桜を楽しむことができます。
平野神社では、「平野の桜」と「平野のもなか」という、境内の桜を使用して作られたお菓子が販売されています。そのお菓子を製造されているのが、神社のほど近くに店を構える、笹屋守栄(ささやもりえ)です。

京都観光をしていると、知らず知らずのうちにこちらのお店のお菓子を口にしているのではないかと思うほど、様々な寺社仏閣のお茶菓子に利用されているお店です。

店内に入るとまず目を引くのが、華やかな掛紙や化粧箱。それもそのはず、その掛紙や化粧箱などは、近代日本画の巨匠と評される堂本印象画伯をはじめ、印象に師事した三輪晁勢(みわ ちょうせい)画伯、その子息である晃久(あきひさ)画伯、ご息女の時子(ときこ)様が特別に描いた作品をもとにした、華やかなものなのです。和菓子好きのみならず、近代日本画にご興味のある方にも喜ばれるお店ではないでしょうか。

店頭には、季節感あふれる上生菓子が並びます。
桜シーズンに販売されるのが、「花便り」という外郎(ういろう)製のお菓子。

花便り(280円)
京都の桜シーズン到来を告げる「魁桜」が花開く頃をイメージして作られたお菓子です。
「よく、ひとつしか買わなくて申し訳なさそうになさるお客様がいらっしゃるんですけど、沢山でなくても、ひとつでもふたつでも気軽にお買い求めいただければいいんです」
と話してくださったのは、毎日店頭に立ち続けている女将さん。平野神社へお花見に行かれた際には、気軽にお菓子を買い求めに立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
■京菓子司 笹屋守栄
【営業時間】9:00~18:00
【定休日】水曜日(最終週のみ火曜日も休)
【電話】075-463-0338
【アクセス】市バス「わら天神前」バス停から徒歩約1分 Google map
【公式ホームページ】http://sasayamorie.com/
☆「花便り」はなくなり次第販売終了。販売時期は3月下旬まで(予定)。
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いかがでしたでしょうか。個人的に京都の桜は和菓子に並んで大好きなのでまだまだ書き足りません(笑) これから始まる京都の桜シーズンの参考になれば嬉しく思います。京都の桜、お菓子を満喫して素敵な思い出を作ってくださいね。
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文・写真:小倉夢桜 —Yume—
和菓子ライフデザイナー/ライター/フォトグラファー。京都五感処・京都Loversフォーラム代表。2012年よりホームページ『きょうの「和菓子の玉手箱」』を運営し、毎日京都の和菓子を紹介し続けている。現在は『月刊京都』(白川書院)で「月刊京都版・きょうの『和菓子の玉手箱』」を連載中。
【きょうの『和菓子の玉手箱』】http://kyoto-lovers-forum.com
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~みさごレポ~
今回は、ほのかなピンク色の和菓子が多く、いよいよ春めいてきましたね♡ 和菓子をじっと見ているだけでも気分が華やぎ、春への期待に胸が膨らみます。
聚洸さんを代表するお菓子「花の宴」は、小田巻という特殊な手法で作られ、とても繊細。糸状の餡は崩れやすいため、丁寧に扱わないといけないお菓子です。それだけに写真に収めるのも難しいのですが、小倉さんの写真では糸状の餡がはっきりと映し出され、見事のひとこと。ご主人の職人技が写真を通しても垣間見えますね。
芳治軒さんは、「おこしやす山科特典付きガイドマップ」でもご紹介しているお店。勧修寺の氷室池を思わせるような優雅な「桜風」は、味わいもすっきりなめらかな、きれいな印象のお菓子でした。
笹屋守栄さんは、小倉さんも書いていらっしゃるように、お菓子はもちろん、華やかな掛紙にも注目したいお店! 昨年から登場したという、井堂雅夫さんの版画をあしらった掛紙もとってもステキでした♡
どのお店も、訪れてみてはじめてわかるステキさがあります。ぜひ春旅の途中に、お立ち寄りになってみてくださいね♪