京都に登場した新アートPart2 “モシュ印”ができるまで

  • イベント・歳時
  • 草花・自然
  • その他・お知らせ
トップ

建仁寺「唐子の間」に展示中の“モシュ印”

 

JR東海が、今年(2018年)の初秋から秋にかけてお送りする「モシュ印・コケ寺リウム」キャンペーン。先日は、“コケ寺リウム”制作の舞台裏をお届けしましたが、今回は“モシュ印”ができるまでの制作秘話を、建仁寺の例を中心にお届けしたいと思います。

⇒「モシュ印・コケ寺リウム」キャンペーンの概要はこちら



制作風景をお届けする前に復習を。“モシュ印”とは?

2


“モシュ印” とは、苔の英訳単語である“moss(モス)”“御朱印”をかけ合わせて作られた造語。墨書きされた文字の部分に、苔を敷き詰めて御朱印を再現するというアート作品です。驚くべきはその大きさ! なんと、“縦1.5メートル x 横1メートル”という巨大サイズなのです!! “コケ寺リウム”と同様、三千院圓光寺、建仁寺、東福寺常寂光寺に、それぞれ1点ずつが展示されています。



クリエイターは海外での活動歴も豊富な、杉田悦朗(すぎた えつろう)さん

3


“モシュ印”の制作を担当したのは、大阪府で唯一の村“千早赤阪村(ちはやあかさかむら)”を拠点に、苔を用いたアート作品の制作や、作庭などにも携わる杉田悦朗さん。フランスで行われた現代芸術家が集う『100人展』で3位を獲得し、それを機に海外での活動も展開されたという実力者です。さあ、杉田さんの手からどのように“モシュ印”が生み出されたのでしょうか。



“御朱印データ”とにらめっこ

4


5つのお寺の御朱印データを前に、まずは作品のイメージ作りを開始。巨大化する必要があるため、“文字”部分だけではなく“朱印”部分も詳細に採寸していきます。実際に苔で文字を作り出し、“再現性”をチェックしていくうちに、データからは算出することができなかった作品としての“見栄え”の問題が浮き彫りに。再現性を失わず、そして見栄えも大事にしながら、苔を敷き詰めていくための“モシュ印”の土台部分の制作が行われました。



土台にはいくつもの問題が

5


もうひとつの問題が苔の“重さ”。巨大な御朱印を“実物の苔”を使って再現すると、それなりの重みになってしまいます。その重みに耐える土台となると、“紙”では強度が足りません。そこで採用されたのがスチレンボード。採寸された通りに、丁寧に文字の型取りをおこなったら土台作りは完成。・・・のはずが、さらなる問題が生まれてしまいました・・・



スチレンボードで“紙質”を再現

6


重みの耐久性をクリアしたスチレンボードですが、表面がテカってしまうなど、無機質で、“作られた感”が否めません。実際に御朱印が書かれるのは “紙”。「そうであるなら…!」と、スチレンボードで紙質を再現することに!
和紙のような質感がでるよう、油絵などで使用するジェッソに砂を混ぜてテカリを無くし、納得の質感が得られるまで微調整を重ねます。そしてようやく、文字部分に着手!! ・・・とはいかず(汗)

今度は“朱印”作りに悪戦苦闘

7


御朱印の大事な要素のひとつが“朱印”。再現する“朱印”の善し悪しが、“モシュ印”の見栄えや出来上がりに大きく影響するため、その制作も慎重に行われました。
当初、想定していたのは、データを元に正確にくりぬかれた型の上から、朱のインクを付けたローラーをころがして印字するもの。すると・・・ なかなか良い感じに、くっきりと文字が浮かび上がったのですが… 「綺麗に“ペイント”され“のっぺり”してる・・・」、「リアリティに欠ける」という声が。「ならば、いっそのこと!」と事態は急展開!! 杉田さんは大阪の工房で別の作業を行う必要があったので、“朱印”部隊が結成されました。



“モシュ印”作りにも大活躍の東海道新幹線

8


“モシュ印”制作の舞台は、大阪府唯一の村から、一転して大都会・東京の六本木へ。まさに東海道新幹線の端から端までの大移動となりました。
“朱印”部隊がやって来たのは、ものづくりとイノベーションの場「TechShop Tokyo」。金属や木、布、アクリルなど、様々な素材の加工を行うことができる施設です。「こんなものまで作れてしまうの?!」と、館内のあちこちで驚きの連続です。

※TechShop Tokyoの施設概要はこちら



持ち込んだデータから作り出されたものは?

9


さて、登場したのは厚さ1センチほどのゴム製の板のようなもの。データをもとに忠実にレーザーカットされていきます。そうしてできあがったのが、そう、お分かりですよね? “朱印”です。1つの“モシュ印”に付き、3つの印が必要となるため、5寺院全ての分となると、その数は15個! いったい“モシュ印”に、どのように使われるのでしょうか? 完成後、早々に杉田さんが待つ大阪の工房へと運ばれました。



芸が細かい! “朱印”を押印

10


TechShop Tokyoで作られた“朱印”。それはそのまま“モシュ印”の土台に貼り付けるのではありません。ハンコのように加工し、そして朱色のインクを塗ったら・・・ 土台にペッタンコ! 失敗が許されない、緊張の工程となりました。

和紙のように加工された“モシュ印”の土台には微妙に凹凸があり、近くで見ると、朱のインクが綺麗に載らず白のままの箇所も。また押印の際の力の強弱によって、“インクの載り具合”も微妙に異なります。この“ムラ”がなんともリアル!! ここまでこだわるとは、すさまじいでしょう(笑)

そしてお待たせしました。いよいよ、メインとなる苔を敷き詰める作業に移ります!



“コケ寺リウム”同様、残り時間わずか・・・

11


“朱印”にあまりにもこだわりすぎたため、5寺院分の土台が完成したのは8月下旬。ここから一気に文字部分の制作を進めます。文字の部分に接着剤を流し、その上に苔を貼り巡らしていきます。

ところで、“モシュ印”に使用されている苔は“ドライモス”と呼ばれるもの。“ドライフラワー”をイメージしてもらうと分かりやすいでしょうか。色あせることもほぼ無く、そして成長することも無いため、一度形成したデザインを安定して長く維持することができるという優れものです。



でも、ただ敷き詰めれば良いというものではなく

12


苔を一気に敷き詰めたら終わり・・・ というわけではありません。文字の中央部は高く、端の部分は低くしてより綺麗に立体感を出すなど、見栄えを考えて調整がされていきます。
また、直筆の文字には、筆跡に沿って流れやリズムのようなものがあります。杉田さんによると、「筆跡の流れを表現することにも注意しました」と。…何というこだわりようでしょうか。“ドライモス”で表現される“生きた文字”は、ぜひ間近でご覧になってくださいね♪



ようやく完成! 質感にも注目してご覧ください

13


威風堂々とした佇まいの、建仁寺の“モシュ印”。写真ではなかなか伝わりませんが、高さ1.5メートルという迫力はやはり現物を見てこそ感じられるもの。真正面からではなく、少し横から見て、苔の立体感も感じてみてください。そして、丁寧に敷かれた苔だけでなく、“朱印のかすれ具合”や“紙質”など、杉田さんのこだわりの部分にしっかりとご注目を!

あっ! 右側の棒のようなものをもった子どもが何やらこちらに話しかけているようですよ。「ほら、うち(建仁寺)のモシュ印、すごくカッコいいでしょ! 絶対見に来てね~♪」と。建仁寺のみならず、対象寺院である三千院・圓光寺・東福寺・常寂光寺の“モシュ印”もそれぞれこだわり抜かれて作られています。ぜひ足をお運びください。

※「モシュ印・コケ寺リウム」のInstagramキャンペーンの詳細はこちら
※JR東海「そうだ 京都、行こう。」Instagram公式ページはこちら

建仁寺
【拝観時間】3月~10月10:00~17:00(受付終了16:30)
      11月~2月10:00~16:30(受付終了16:00)
【拝観料】境内無料、方丈・法堂500円
【拝観休止日】4月19日・20日、6月4日・5日。その他法要のため、休止の場合有り。
【電話】075-561-6363
【アクセス】市バス「東山安井」バス停から徒歩約5分、京阪本線「祇園四条駅」から徒歩約7分 Google map
【公式ホームページ】http://www.kenninji.jp/

 

Written by. カツオ

おすすめコンテンツ