トップページ » 京都人インタビュー » 防災にも京都らしさ文化財搬出計画・文化財トリアージ

文化財の宝庫・京都を継なげてゆくチカラ 防災にも京都らしさ 文化財搬出計画・文化財トリアージ

京都は文化財の宝庫として、古(いにしえ)を今に体感できる歴史文化都市。国宝の約19%、重要文化財の約15%を保有し、まるで文化財の中に人が暮らしているようなまちです。それらは“ただそこにある”のではなく、多くの人々の智恵と工夫による“守るチカラ”に支えられて存在しています。
 
例えば、炎から文化財を守るチカラ。「文化財搬出計画」における「文化財トリアージ」という全国でも画期的な文化財の搬出計画を京都市東山、南消防署で研究・検証(訓練)し、消防庁長官表彰で優秀賞として評価されました。

南消防署が文化財搬出計画の策定に取り組んだのは世界遺産の一つ「東寺」。広大な土地に点在する膨大な文化財“搬出への道”には多くの苦楽がありました

京都市南消防署・予防課 西村浩二氏(現 京都市北消防署・消防司令補)/真言宗総本山東寺・総務部庶務課 橋詰政弘氏

【第1章】三省 二度とくりかえさない悲しみ

京都は「ちょっと歩いたら文化財にあたる」ほど、国宝や重文指定を受けた建造物、保有する建物が存在します。それらは人々の暮らしに溶け込み、観光スポットとしてだけでなく、縁日の市で人が集い、心を豊かにさせてくれる、まさに文化財は京都と共にある大切な存在です。

平成18年、「東寺」の担当になった京都市南消防署・予防課の西村浩二さん(現 京都市北消防署・消防司令補)も、当初、足を踏み入れた広大な敷地内に約24000点もの文化財が点在することへの驚き、同時に火災でのそれらの搬出はどうするのかという不安を抱きました。さらに食堂(じきどう)に安置されている炭化で真っ黒になった四天王立像に大きな衝撃を受けます。

それは昭和5年12月21日「弘法市(終い弘法)」に起きた食堂の焼失による、本尊千手観音立像と四天王立像の焼損した姿。四天王立像は平成5年に合成樹脂で表面硬化が修復され、現在は再建された食堂に安置されています。東寺では全僧侶、全職員が真っ黒になった四天王立像の姿に自戒し、防火への意識を高めてきました。自衛消防隊を持ち、防火訓練も熱心で、“その日の座布団はたばこの火種の落下時の危険性を考え、翌日に片付ける”等の教訓も伝えるほどです。

痛ましい四天王立像の姿と膨大な文化財の数に、西村さんは火災時の搬出を整理したいと、搬出計画の策定を東寺の橋詰政弘さんに相談、しかし意外にも反応は思わしくなく、人命救助とは異なる問題に気づかされます。

【第2章】朋心 二人三脚の取り組み 文化財を守りたい心は同じ

(中央)京都市南消防署・予防課長 松井清弘氏

「仏様に優先順位はない」。これが最大の壁だったと西村さんは当時を振り返ります。仏像など文化財を運び出す際、国宝、重文の順に搬出するのが最適だろうという一般的な考え方に、橋詰さんは仏様の世界に上下はない、指定=優先順ではないのだと厳しい意見を返します。未指定の仏像であっても寺宝であり、机上論だけで後回しにされてはかなわない、と。さらに仏様の撮影は禁止、誰も持ったことなどないので重量不明、等々。難題が山積みでした。

しかし西村さんは諦めません。「仏様を敬うお寺の心に沿う」ために、少しでも時間ができると訪ね、いつの間にか寺の誰もが知る西村消防隊員に。そんな熱意に橋詰さんも心を動かされ、“火災から仏様を迅速に守る”ために、まずは「金堂内文化財配置図(コンドウナイブンカザイハイチズ)」の作成に乗り出します。西村さん、橋詰さん二人三脚で一つ一つ、仏様など文化財の配置や構造、国宝・重文などの指定の有無、高さ、把握できる限りの重さから搬出に必要な人員などを、色や印、数字で分け金堂の図面に記しました。例えば大きな仏像でも軽量であったり、寄せ木で分解搬出可能なものや、小さくても重く数名を要するなどの情報を明確にし、また仏様の配置を番号で整理することで消防隊員の探索を容易にすることから、災害時により多くの仏様を救えるようにしました。
同時に西村さんは「仏様に上下なし」というお寺の心を、橋詰さんは少しでも被害を軽減したいという消防署の想いを双方重ねていきます。

【第3章】不易 仏様への想い変わることなく

京都市南消防署・予防課 西村浩二氏(現 京都市北消防署・消防司令補)/真言宗総本山東寺・総務部庶務課 橋詰政弘氏

文化財搬出計画は約1年かけて完成。2009年1月26日、文化財防火デーに行われる防災訓練に導入されました。当日は消防署はもちろん、僧侶による自衛消防隊、弘法市の関係から露店商組合、そして地域住民の消防団など多くの方の参加協力で、「21日の弘法さんの日に講堂から出火した」という設定のもと、仏像の模型を使った搬出が行われたのです。
訓練では「講堂内文化財配置図」を用いて実際にトリアージ(※)を行い、僧侶から燃えている仏像の位置を番号で確認した消防隊員たちは、準備と確認作業を整えて、的確に模型の仏様を選び出し無事搬出。効率よく運び出すことができました。

「消防隊員の作業を見ていて、搬出計画の必要性はようわかりました。
今でも仏様の搬出に順位づけは反対ですが、実際の火災の時には、順番など納得せんならん部分もあるなあと感じましたね」と橋詰さん。
日本の財産でもある京都の多くの文化財を、後世にきちんと継いでいくためには、新しい形での“守るチカラ”も必要です。「文化財搬出計画」における「文化財トリアージ」は京都ならではの防災。けっして文化財に優劣をつけるのではなく、的確に確実に搬出するための取り組みです。仏様を大切に想う心は変わることなく、いつもまでも守り伝えていくための勇気ある一歩なのです。

※)災害時等で医療資源(医療スタッフ、医薬品等)を最大限に活用し、可能な限り多数の傷病者を救護するために、傷病者の傷病の緊急性や重症度に応じて治療の優先順位を決定し、応急手当、病院選定、患者搬送などを行うこと。

PAGE TOP