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保存修復のプロフェッショナル 澤野道玄さんに聞く国宝の楽しみ方

京の読みもの

 長い歴史とともにはぐくまれてきた、かけがえのない貴重な文化財。それらの劣化をとどめ、本来の姿に近い形で後世に伝えるのが保存修復の仕事です。澤野道玄さんはこれまで、昭和の手法といわれる科学的手法と伝統技法を組み合わせ、数々の老朽化した重要文化財を現代によみがえらせてきました。

手掛けた物件は数知れず。京都御所、桂離宮御殿、清水寺など京都市内はもとより、厳島神社の大鳥居など、活動の場は全国各地に広がっています。そんな澤野さんに、仕事への熱い思いや、国宝の楽しみ方などを伺いました。

保存修復で文化を引き継ぐ

 私たちが手がけているのは、いわゆる建造物装飾の保存修復です。金箔の張り替え、漆塗り、建造物彩色、金具関係など、作業は多岐にわたります。もともと徒弟制度で培われてきた職人技ですが、現在は「さわの道玄」として会社組織で担っています。いわば、伝統技法を継承する現代の職人集団ですね(笑)。専門業種の社員は、美術系大学出身の若手も多く、みな現場に出て学びながら技術を身につけていきます。

 保存修復の場合、建造物の時代が遡るほど、仕事は困難を極めます。現在、手がけている京都府福知山市にある島田神社もそんな難しい物件の一つです。重要文化財の本殿は中世に建てられた数少ない貴重な建築物ですが、何しろ類例が少ない。かすかに残る痕跡からだけでは創建当時の状況が完全にはわかりませんから、可能な限りの資料を探し出し、綿密な調査や分析を重ねています。

 作業をする上で、何より大切にしているのは、「当初に復する」ということです。創建当時の制作者の意図を最優先するのが、私たちの仕事だと思っています。単に建築物を修復するだけでなく、いにしえの人々の思いを汲み取って、次世代に伝えていく。いわば「時代の架け橋」のような役割を果たすのが、保存修復という仕事ではないでしょうか。永遠に完璧な修復は不可能ですが、将来、再び修理する時の障害とならないように細心の注意を払っています。

貴重な文化財から見えてくるもの

 塗装や彩色は建築に華やかな化粧を施すという意味だけではありません。例えば、社寺建築によく使われる赤い色は、命の根源である太陽の色であり、人間の血液の色ですから、生命の象徴として考えられてきました。また、赤い色を出す塗料には、水銀や鉄や鉛が含まれています。それによって塗装と同時に、防腐・防虫効果があるのです。

 塗装という点では、何も塗らない神社と塗る神社があるというのも面白いですね。塗ってはいけない神社があれば、八幡さんなど、絶対に塗らなければならない神社もあります。塗装の技術は、大陸や朝鮮半島から伝来したといわれ、塗り方には神様の渡来のルーツが深くかかわっているようです。そもそも神様は人とともにやって来ますから、もとの文化が強く影響を与えます。例えば、新羅方面からやってきた神様は赤く塗られます。新羅系統は太陽信仰ですから、社殿自体を太陽のように輝かせておきたいという想いがあったのかもしれません。このように塗装という一点を取っても、単純な動機で塗っているわけではなく、塗り方も部分的、全体的などの違いがあり、いろんな意味が含まれています。保存修復によって、歴史を紐解いていくと、文化財も多くの人間の手によって生まれ、継承されてきたことがありありとわかります。時代を超えた人間の営みが、脈々と流れているのです。

国宝は一人ひとりの宝物

 折に触れて、修復物件と自分との縁を感じることがあります。神社の場合など、「神様との絆をいただいているのかな」とか、そういう感覚を得られる時が最も幸せですね。職人冥利に尽きるというものです。

 地方の場合は文化財が点在していますが、京都は圧倒的な数の文化財が町中にあり、いわば面の状態で存在しています。この面としての文化をいかに上手く楽しんでいくか――。それが、京都の町の新たな魅力の発見につながるのではないかと思います。私どもの子会社で主催している円塾というカルチャー教室では、京都の古道を歩く会や、祇園祭の矛先だけを見るユニークな会を開いています。わずかに視点をずらすことで、みなさんに自分自身で何かを発見してもらえたら嬉しいですね。