当日レポート ~2017年8月5日実施~
「当日レポート」では、「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード会員限定で実施されたオリジナルイベント(略して、そう京イベント)の模様をお伝えしていきます。
第1回目のレポートは、2017年8月5日に実施した京都春秋との連携企画イベント「寂光院で聴く平家物語演奏会」。寂光院は、平清盛の娘・建礼門院が、平家滅亡後に隠棲し晩年を過ごしたという場所で、「平家物語」ゆかりのお寺として知られています。このイベントでは、お寺の方のご案内で通常非公開の建物や寺宝などを拝見し、さらに琵琶法師によって語り継がれてきた「平家物語」の世界をより深く味わうために現代の琵琶奏者に2曲を演奏していただきました。どのようなイベントとなったのか、当日の様子をどうぞご覧ください。
京都市の北東部・大原に位置する寂光院は、1400年もの古い歴史を持つと伝わる尼寺です。真紅のモミジに染まる境内を想像される方も多いかと思いますが、青々としたモミジに覆われるこの時季もとても清々しくて素敵です。本堂へとのびる階段を下から見上げると、さわさわと風に揺れる葉音が聞こえてきて、イベント参加者の皆さまも思わず階段の途中で足を止め、自然豊かな景色と木々の香りを楽しんでいらっしゃいました。
イベントのはじまりは本堂から。こちらに安置されているご本尊・六万体地蔵菩薩立像は、平成12年(2000)の放火により焼損した旧ご本尊の代わりとして、平成17年(2005)に新たに復元されたものです。とても色鮮やかですが、この色は鎌倉時代制作当時の彩色を再現しているそう。左右に安置されている「大原女(おはらめ)」のモデルとなった阿波内侍(あわのないじ)像や、建礼門院像もご覧いただき、皆さまで手を合わせました。
続いては、通常非公開の書院へ。今回は室内まで入らせていただくことができました。部屋の窓に広がるのは、後ほど拝観させていただく茶室「孤雲(こうん)」と、比叡山系の山々。窓へ駆け寄り、「すごい! きれい!」と普段見ることのできない絶景に皆さま感動されていました。また、部屋の襖絵もとても美しく、しばらくそばに座って鑑賞される方も。あるお客さまは、「この綺麗な部屋で、この景色を見ながらお酒が飲めたら・・・」とポツリ。ずっと眺めていたい美しい景色と襖に彩られたお部屋に後ろ髪をひかれつつ、次の場所へと移動します。
境内奥にやってくると、一本の石碑が。壇ノ浦の戦い(1185)の後、京都へ送還され出家した建礼門院が、草庵を結んだ場所を示すものです。お寺の方から、平家の栄枯盛衰や、建礼門院の悲愴な運命についてもお話いただきました。恥ずかしながら、建礼門院というと“平家物語に出てくる人”くらいの認識しかなかった私でしたが、想像以上に波乱に富んだ生涯を知り、胸が痛むような思いとともに、そのような中でも生き続けようとした建礼門院の芯の強さに感動しました。
境内をさらに奥へと進み、通常非公開の収蔵庫へ。こちらに納められているのは、旧ご本尊の六万体地蔵菩薩立像や、3,000を超える像内納入物。放火による業火に耐え、旧ご本尊はかろうじて形を保っているのですが、炭化で非常にもろくなっていたため、これ以上損傷が進まないようにと特殊な加工が施されたのだそうです。像内納入物は、火事の影響で黒ずんだものもありましたが、奇跡的に色鮮やかなまま遺ったものも。今もなお、力強く立ち続ける旧ご本尊の姿は、きっと皆さまの心を大きく動かしたことでしょう。
次は、通常非公開の茶室「孤雲」を特別に見学させていただきました。この茶室は、昭和天皇即位の儀式が執り行われる際に使用した建物の部材をもとに造られたという非常に格式高いもの。周りは豊かな緑に囲まれ、初夏には、池に珍しいモリアオガエルやおたまじゃくしの姿を見ることができるそうです。ちなみに「孤雲」という名前は、「平家物語」で描かれている、寂光院に隠棲した建礼門院を後白河法皇が訪ねる場面「大原御幸」の一節にちなみ名付けられたそう。境内の随所に、建礼門院との繋がりを感じますね。
最後は、こちらも通常非公開の客殿にて、ご院主さまの法話の拝聴と、琵琶の演奏会です。ご院主さまのお話を真剣に聴こうと、姿勢を正す皆さま。「一日の終わりには、その日一日の反省と感謝を忘れずに」と優しく語りかけるようなお言葉に深くうなずく会員さまの姿が特に印象的でした。
演奏会では、薩摩琵琶奏者である箱崎裕美さんにお越しいただき、平氏と源氏の戦いの佳境といえる「壇ノ浦」と、「大原御幸」を演奏していただきました。「壇ノ浦」では、演奏に用いる“撥(ばち)”で腹板(ふくばん)を打つ薩摩琵琶独特の奏法が、より演奏に迫力を与え、また「大原御幸」では、箱崎さんの声と薩摩琵琶の音色、さらに外から聴こえてくるヒグラシの「カナカナカナ・・・」という声が相まって、会場に儚い雰囲気をつくりだし、建礼門院が感じていたであろうこの世の無常さを思い起こさせるようでした。建礼門院ゆかりの地、寂光院で聴く「平家物語」は、より一層特別な演奏となったのではないでしょうか。
寂光院の皆さま、薩摩琵琶奏者の箱崎さま、京都春秋のスタッフさま、ご参加いただいた皆さま、どうもありがとうございました!