謎多き日本画家・木島櫻谷。“幻の名画”≪かりくら≫に迫る

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2017年の秋は、木島櫻谷に注目!


2017年は、日本画家・木島櫻谷(このしまおうこく)の生誕140年の節目の年。それを記念し、10月28日(土)から、京都の3つの施設、「京都文化博物館」「泉屋博古館(せんおくはくこかん)」「櫻谷文庫(おうこくぶんこ)」で特別展覧会が行われます。その目玉となる作品が、近年発見され、修復が施されたばかりの≪かりくら≫(櫻谷文庫蔵)です! ※期間中は泉屋博古館で展示

・・・ここまで読んで「?? 木島櫻谷って誰??」となられた方、きっといらっしゃいますよね。


木島櫻谷は、近代京都画壇を代表する日本画家なのですが、今では知る人も少なくなった“忘れられた日本画家”です。その日本画家の展覧会が3館同時開催されるのです。いったい、どんな画家であるのか、“幻の作品”≪かりくら≫を通して人物像に迫ってみましょう。


スケール&馬の躍動感にびっくり!


2017年9月22日(金)、櫻谷の旧邸で開かれた「≪かりくら≫修復完成記念 披露説明会」。この場で、修復を終えた≪かりくら≫が、初めてマスコミの前に姿を現しました。


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「≪かりくら≫ってなんだろうな~」と思って現場に向かった私。会場に入るやいなや、

「なんて大きいんだろう!」

と、驚いてしまいました。挨拶をする櫻谷文庫代表理事・門田(かどた)さんの背丈をゆうに超えるその大きさ! まさに大作です。白黒二頭の馬も、鳴き声や風を切る音まで聞こえそうなほどリアルに描かれています。・・・それもそのはず、この作品は、明治43年(1910)の第4回文展(文部省美術展覧会)に出品され、入賞した作品なのです。


門田さんの挨拶を受け、櫻谷作品の「平成の大調査」を行っている泉屋博古館・実方(さねかた)さんが、≪かりくら≫発見の経緯をお話しされました。そしてそこには、驚くべき事実が待っていたのです!


こんな大きな作品が、竹棹に巻かれほったらかしに!?


≪かりくら≫が発見されたのは、9年前の平成20年(2008)。龍安寺や金閣寺にほど近い衣笠(きぬがさ)にある櫻谷旧邸を、泉屋博古館が調査しはじめたときのことでした。


じつは、櫻谷の旧邸自体が、謎の多いお屋敷だといいます・・・。
大正元年(1912)頃に櫻谷みずからが設計に関わり、日常生活を送る「和館」、趣味を尽くした「洋館」、画業に励んだ64畳の「大画室」の3館を建てました。櫻谷亡き後、妻・はるが家を継ぐのですが、昭和30年代には諸事情により家を離れたそうで、このお屋敷はそのまま放置されることになりました。


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当時のままの台所


平成の世になり、何十年ぶりかで櫻谷のひ孫にあたる門田さんがその扉を開けたとき、なんと、昭和30年代そのままの状態がそこに現れたのです! 台所も当時のまま。梅干しや調味料もそのまま。大正・昭和の時代がタイムカプセルのように保存されていたのです(櫻谷旧邸は優秀な近代建築として2017年3月に京都市の文化財に指定されました)。


そんな状態のお屋敷だけに、「平成の大調査」も大変なものとなります。作品群も手つかずのまま遺されていて、まずはその整理をすることに。
その最中、ふと見ると、部屋の隅に竹棹に巻かれた大きな布があります。調査にあたっていた学芸員さんが「なんだろう?」と広げてみると、どうやら絵のようです。しかも、これは・・・

「≪かりくら≫ではないか!?」

突如として現れた“幻の作品”に現場は大騒ぎとなりました。


≪かりくら≫は、明治44年(1911)、イタリアで開かれた羅馬(ローマ)万国美術博覧会に出品後、長らく行方不明とされていた作品です。没後3年の「大回顧展」に出されることもなく、専門家の間では「消失」してしまったのだろうと、諦められていたのだとか。


その“幻の作品”がいきなり現れ、しかもこれほどの大作! ・・・学芸員さんも画集サイズでしか見たことがなかったため、まさかこれほどのスケールとは思いもよらず。 立派な作品に驚くとともに、現場にいた実方さんは「さて、これをどうすればいいのか・・・」と途方に暮れたといいます。


修復も、困難の連続!!


その後、住友財団からの助成を得ることができ(近代美術は優先順位が低いにもかかわらず!)、≪かりくら≫は修復されることになりました。


ここからは、文化財の修復士さんの出番です。担当したのは、京都の岩倉にある「墨仙堂(ぼくせんどう)」。文化財保存修復の専門家です。代表の関地(せきち)さんは記者会見の席上、「直ってしまえばなんでもないですが、最初は絹はぼろぼろ、カビは生え、絵の具はぽろぽろとこぼれ・・・」と、当時を回想されました。言葉のはしばしに、苦労が垣間見えますね・・・。


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墨泉堂・吉田さん


「この作品が一枚の絹に描かれていたこと。それが最初の驚きでした」とは、実際に作業にあたった吉田さんの言葉。とにかく大きいのが大変で、横に敷くしかないのだけれど、部屋一面が作品に覆われてしまい、作業は困難を極めたそうです。


料絹や絵の具の劣化をはじめ、特に問題であったのが「未装丁」であったこと。絹だけのまま竹棹に巻かれ放置されていたため、破れ、穴あき、虫害、しわ、絵の具の剥落、しみ・・・ たくさんの問題が起きていました。


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四隅に現れた“しわ”


修復の実作業は、以下の3工程で行われました。

■作品の補強
クリーニング作業ののち、絵の具の剥落止めの処置を行う。その後、作品を裏返し、裏打ちをする。


■補修・補填作業
穴が空いた箇所に、人工的に劣化させた絹を穴と同じ形に切り抜いて貼っていく。折れが見られる箇所には“伏し入れ”を行い、折れ目を目立たなくする。


■装丁作業
本紙に表装裂を付け回し、中裏打ちを施して、完了。


この作業により、縦約260cmx幅約180cmの、2幅の掛け軸が完成しました。


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修復作業の様子

「どうして、こんなに大きく、賞ももらっている作品が裏打ちもないままにほったらかしにされていたのでしょう・・・ そういうことは、とても珍しいんです。買い手も付かないまま、なぜしまわれていたのか。謎ですね・・・」と、吉田さん。プロの修復士にとっても、謎多き作品であったようです。


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左:修復前、右:修復後


≪かりくら≫鑑賞のポイントは?


泉屋博古館の実方さんによると、この作品には4つのポイントがあるそうです。


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1・臨場感を楽しんで
「かりくら」とは、“狩りの場”や“狩り競べ”という意味。おそらくこの作品は“狩り競べ”を描いている。日本画の題材としては『曾我物語』の「富士の巻き狩り」が有名で、櫻谷の師・今尾景年(いまおけいねん)もその作品を遺している。が、櫻谷の作品には具体的なエピソードはなく、臨場感を楽しむことを主眼としている。


2・注目すべきは、馬の表現!
一番の注目は「馬の表現」。櫻谷は、動物画で評価が高い画家。いまにも動き出しそうな馬の描写には、櫻谷が若い頃から修練していた写生の技術が活かされている。円山応挙に連なる京都画壇の系譜を踏まえつつ、なおかつ西洋絵画的な視点も感じられる。


3・枯れススキに見られる“筆運び”にも注目!
手前や奥に描かれている、風に揺れる枯れススキの表現もすばらしい。「運筆の名手」と呼ばれ、20代の頃から一気呵成に大作を描いてきた、櫻谷。この作品にも、そんな筆の赴くままに一気に描いた雰囲気が感じられる。


4・豊かな色彩に目覚める、ターニングポイント的作品
それまでの水墨画では淡い色で描いていた草(ススキ)。この作品では、明るく濃い黄色を重ねて描いていることに注目。櫻谷の“濃い色を使う”という特徴が現れはじめた、記念碑的な作品。
この作品の2年後に描かれたのが、櫻谷の最も有名な作品である≪寒月≫(京都市美術館蔵)。静かなモノクロームの作品と思われがちだが、実は細部に鮮やかな青や緑を使った色彩豊かな作品である。おそらく≪かりくら≫は、≪寒月≫へとつながる、豊かな色彩に目覚めるターニングポイント的な作品なのではないか。


木島櫻谷、再評価に向けて


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泉屋博古館・実方さん


櫻谷は、明治10年(1877)三条室町の商家に生まれ、20代の頃からその才を発揮。京都画壇における竹内栖鳳(たけうちせいほう)の次代のエースとされ、一時は京都を代表する日本画家ともなりました。
が、昭和初年に画壇から退いた後は、画家とは異なる生活を衣笠で楽しみ、昭和13年(1938)に不慮の事故によりその生を閉じます。そしていつしか、“忘れられた日本画家”となっていきました。


「文展の寵児」とまで呼ばれた櫻谷が、今は名を知る人も少なくなったのには、伝わっている作品が少ないという理由もあるそうです。「平成の大調査」は今も続き、櫻谷の画業の全貌が少しずつ見えてこようとしています。
そんな櫻谷の生誕140年に、100年以上の時を経て甦る大作≪かりくら≫。「運命的」ともいえる、この作品。ぜひそのスケール感を目にしてみてください。そして、知られざる京都画壇の雄・木島櫻谷に、この秋、ぜひご注目ください!


☆≪かりくら≫は2017年10月28日(土)から、泉屋博古館にて展示されます。


【特別展】木島櫻谷 –近代動物画の冒険
≪寒月≫、≪かりくら≫など動物画を中心に約40件を展示!
【日程】2017年10月28日(土)~12月3日(日)
【開館時間】10:00~17:00(入館は16:30まで)
【料金】800円
【場所】住友コレクション 泉屋博古館 詳細情報はこちら
【休館日】月曜日
【問合せ】075-771-6411(代)
【公式ホームページ】https://www.sen-oku.or.jp/
「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード特典協力先です。詳細はこちら

京都市指定文化財 木島櫻谷旧邸 特別公開
櫻谷旧邸の公開とともに、「虎の群れ」の下絵を初公開!
【公開日】2017年10月28日(土)~12月3日(日)の金土日祝
【開館時間】10:00~16:00(受付終了)
【料金】600円
【場所】公益財団法人 櫻谷文庫 詳細情報はこちら
【問合せ】075-461-9395
【公式ホームページ】http://www.oukokubunko.org/

■木島櫻谷の世界
三条室町の旧家から新たに発見された作品群を紹介!
【日程】2017年10月28日(土)~12月24日(日) ※展示替:12月11日(月)
【開館時間】10:00~19:30(入室は19:00まで)
【料金】500円
【場所】京都文化博物館 2階総合展示室 詳細情報はこちら
【休館日】月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)
【問合せ】075-222-0888(代)
【公式ホームページ】
http://www.bunpaku.or.jp/exhi_shibun_post/konoshima2017/
「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード特典協力先です。詳細はこちら

◆お得なチケットは、2017年10月27日(金)まで発売中!
日本画家・木島櫻谷 生誕140年記念「ぐるっと木島櫻谷 3館共通チケット」の発売は、2017年10月27日(金)まで! 1,300円(限定3,000枚)
<チケットの問合せ>京都新聞COM事業局 075-241-2160(平日10:00~17:00)

Written by. みさご

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