絵はがきで知る古都のうつろい 1
歴史あるお寺や神社は、昔から変わらないという漠然としたイメージをお持ちではないでしょうか。京都の歴史からすれば100年という比較的短い時の流れのなかでも、じつは少しずつお寺や神社の風景も変化しています。そのうつろいを知る手がかりのひとつが、「絵はがき」。絵はがきは明治33年(1900)に認可されて以降、現在にいたるまで授与品の定番で、まさに時代を映す貴重な史料です。
今回は京都観光の定番である清水寺へ、今と昔の違いを探しに行ってきました。ちなみに、現在、本堂は50年ぶりの大改修中で覆いが掛けられています。完成は2020年ということですので、今から待ち遠しい限りですね♪
~仁王門前の風景~
この記事を書くにあたり、そう京イベントでもお馴染みの京都産業大学現代社会学部教授の鈴木康久(すずき みちひさ)先生から絵はがきをお借りしました。明治、大正、昭和、それぞれの時代の特徴を知ることができる上に、風俗や建物はもちろん、樹木ひとつとっても100年前のメッセージを感じられることに魅力を感じ、鈴木先生はさまざまな絵はがきをコレクションしているそうです。
こちらは清水坂を登った先にある仁王門前の風景。確かに鈴木先生のおっしゃるとおり、まず着物姿の拝観者に目が留まります。「あれ? この時代にカラー?」と不思議に思いますが、モノクロ写真に彩色しただけで、実際の色とは異なることもあるそうです。
さて、清水寺に視線を移して、今との違いを探してみましょう。
現在の仁王門前がコチラ。着物レンタルが人気ということもあり、清水寺は今でも着物姿の拝観者がたくさんいらっしゃいます。絵はがきを手に持ち、現地で「う~ん、何か違うところはあるかなぁ」と、しばらく眺めていると・・・ 見つけました! 昔の絵はがきが鮮明ではないので分かりにくいのですが、狛犬の形が違います!
先ほどの絵はがきのうち、右側の狛犬に注目してみてください。頭の角度と胴体の長さが違いませんか? 以前“みさごさん”が「京都・狛犬わんダーロード」でご紹介した通り、清水寺の狛犬は「阿吽」ではなく、両方とも口を開けているのが特徴です。清水寺の方にお話を伺ったところ、現在の狛犬は昭和19年(1944)に信者さんによって寄進されたもの。先代の狛犬は金属製だったために、昭和17年(1942)に戦争のために供出されたということでした。絵はがきに写っているのは、先代の狛犬だったのですね。
~子安の塔~
仁王門を通り、拝観受付を通って本堂へ向かいます。清水寺の本堂といえば、眺望の素晴らしい「清水の舞台」ですね。京都タワーなど京都市内の街並みの美しさに目がいってしまいますが、注目していただきたいのが舞台から谷を挟んで正面に佇む子安の塔です。
2013年に修復が終わり、色鮮やかな姿で蘇りました。緑の中に朱色が良く映えています。皆さん、この景色をよ~く覚えておいてくださいね。
絵はがきの子安の塔です。先ほどの写真とほぼ同じアングルなのですが、木々の生い茂る様子は、まるで別の場所のよう。似ているのは背後にある山の稜線くらいでしょうか。
絵はがきは通信欄のデザインが時代によって異なるため、そこから販売時期を大まかに特定することができます。しかし、いつの写真を使っているかが定かではないため、はっきりと撮影時期を特定するのが難しいそうです。鈴木先生によると、明治後期~昭和初期の写真ということですが、それにしても今のスッキリとした景観とは印象がまるで違いますね。じつは、これには理由があります。
子安の塔は約500年前に建立された建造物です。周りの景色との馴染み具合から、私はてっきり昔からそこにあるものだと思っていたのですが、清水寺の年表を紐解くと、なんと明治43年(1910)に移転していることが判明!
もとの位置はというと、最初にご紹介した仁王門の前。ひっそりと「子安塔趾」という石碑がちゃんと建っていました(知らなかった・・・)。子安の塔は名前の通り、安産を願う人々の信仰を集めています。石碑からほど近くの産寧坂(さんねいざか)は「やすらか(寧)に産む=安産」という意味ですので、まさに位置的にも子安の塔へお参りするための道だったのですね。
絵はがきの風景は、おそらく移転して間もない頃のため、景観が整っていなかったのだと思われます。およそ100年前にこんな大きな変化があったなんて驚きです。
~音羽の滝~
最後にご紹介するのは清水寺の名前の由来となった音羽の滝。左2枚が絵はがきで、右が現在の写真です。左上が一番古いのですが、音羽の滝はあまり変わりがなさそうです。中世にはすでに水の流れが3本に分かれていたといいますから、音羽の滝ではなく周辺に目を向けてみましょう。
よ~く見てみると、一番古い絵はがきでは、滝の向かいに設置されているお賽銭入れの上に何か載っているようです。しかし、私がお伝えしたいのは、さらにその奥の階段部分! 先ほどの子安の塔ほど劇的なことではありませんが、階段の手すりが徐々に下に向かって伸びているのです! 「え~そんなこと・・・」と思われるかもしれませんが、清水寺はバリアフリー化に力を入れていて、2011年に国土交通省より「バリアフリー化推進功労者表彰」を日本のお寺で初めて受賞しています。
ご本尊の観音さまがすべての人々をお救いになるのと同じように、清水寺もすべての人々にお参りしていただけるようにという想いでバリアフリー化に取り組んでいらっしゃるそうです。砂利道はありますが、あの山の中にも関わらず階段を一切使わずにお参りできるルートがあるとのこと。小さな発見に、すてきな物語が隠されていました。
今回、絵はがきを見ることで、さまざまな発見がありました。鈴木先生、ありがとうございました♪ 皆さんもお楽しみいただけましたでしょうか。次回もお楽しみに!