55年の歴史にピリオド! 京都の名物映画館「京都みなみ会館」

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サインがぎっしりの劇場扉

 

「京都みなみ会館」って皆さんご存知ですか?
五重塔で有名な東寺のそばにある小さな映画館で、たったひとつのスクリーンでは、年間300本ほどの映画が上映されています。フランス映画や邦画、ドキュメンタリー、ホラーなど・・・ 多彩なジャンルで、「みなみ会館じゃないと観られない作品(世に言う“マイナー”な映画)がいっぱいある」と、映画ファンからも一目置かれる映画館なのです。

しかし、小さいながらも多くの(熱烈な)支持を集めていた“名物映画館”が、2018年3月31日(土)に閉館することになりました。移転のための一時閉館とはいえ、映画好きの私にとって、衝撃的だったこのニュース。現在の館長・吉田由利香さんにお話を伺ってきました。


一時閉館のお知らせは、SNSで大きな話題に


2017年12月1日(金)に、「京都みなみ会館」の公式twitter・Facebookで「一時閉館のお知らせ」が投稿されると、あっという間に拡散し、全国各地からコメントが寄せられました。小さな劇場の閉館にもかかわらず、多くの方々からの反響があって、現在も情報は拡散され続けています。その中には日本映画の監督さんや役者さんからのコメントもあり、たくさんの方々に愛されていた映画館だということがひしひしと伝わってきます。特に目についたのが「学生時代によく通っていました」というコメント。

なんといっても京都は“学生の街”。学生時代に京都で「京都みなみ会館」に出会った方々が、その後、別の地域に引っ越してもなお、心に残っているというのです。

「京都みなみ会館」の館長 吉田由利香さん


「SNSに“一時閉館のお知らせ”を投稿したときは、誰からも反応されなかったらどうしよう・・・ と不安な気持ちでしたが、想像以上に皆さまからの反響があって。みなみ会館のファンが全国にいることを知り、泣いてしまいました」

と、吉田館長。若くして館長に就任し、現在6年目になるそうです。

「閉館までに色々決めないといけないことが多いんですけれど、それを決めきってしまうと、本当に終わっちゃうんだな~と感傷に浸ってしまいます。けど、容赦なくときは過ぎていってしまうので“早くやらなきゃ!”と・・・ 複雑な心境ですね」


「京都みなみ会館」とは・・・


「京都みなみ会館」は、1963年に映画の封切館として開館しました。一般映画とピンク(成人)映画の上映を手がけた混沌とした時代を経て、90年代前半に映画上映企画会社RCSが運営を始めます。この頃に、現在のいわゆる“アート系”の作品上映に切り替わりました。ちょうどミニシアターの全盛期です。今も人気を誇る「オールナイト上映」や往年の巨匠監督などの「特集上映」は、この時代に生まれたもの。
「特にオールナイト上映は、“文化的な夜遊び”みたいになっていて、学生に人気がでました」と吉田館長。見知らぬ人と同じ空間で、共に朝を迎えるという不思議な感覚が癖になるイベントです。当時は、オールナイト上映をする映画館がたくさんあったそうなのですが、シネコンが増加したことにより少しずつ消失していき、現在、京都では「京都みなみ会館」だけのイベントになってしまいました。

映写室 創業初期とほぼ変わらず残っているそう


2010年にRCSが撤退。「京都みなみ会館」のスタッフだけでの企画・運営がはじまります。「まずは日中の映画上映をしっかりしたい」ということで、人気企画を一時停止。そのため、一部のファンは遠ざかってしまったのだとか。その2年後に、吉田さんが館長に就任。「これからは色々やってみよう。昔のようなイベントも復活させたい!」という思いから、オールナイト上映や特集上映などのイベントも再開されました。現在は映写係と受付係合わせて10名の若いスタッフさんたちで、新たな面白い企画を打ち出すなどしたことから、往年のファンも少しずつ戻ってきてくれているそうです。


「さよなら特別興行」の見どころをチェック♪


3月中旬からはじまるのが「さよなら特別興行」。そこで開催されるイベント上映のみどころをご紹介します!
◆上映作品並びに上映日・上映時間・チケットの購入方法など、詳細は公式ホームページでご確認ください。


【その1】Match-up Theater(マッチアップ劇場)
開催日:2018年3月10日(土)、11日(日)、15日(木)、17日(土)、18日(日)の計5回


映画と音楽の2つの“ライブ”を一度に体感できる特別イベント。1本の“映画”と、1組のアーティストの“生演奏”が映画館で楽しめるスペシャルな二本立てです。音楽好きのスタッフさんが、上映作品とアーティストの組み合わせから出演オファーまで、かなりこだわって設定されたイベントなのだとか。サニーデイ・サービスの曽我部恵一さん(11日)や向井秀徳アコースティック&エレクトリック(15日)など5名のアーティストがそれぞれの日程に出演します。映画ファンも音楽ファンも、見逃せないイベントになりそうですね♪

⇒Match-up Theater(マッチアップ劇場)の詳細はこちら
http://kyoto-minamikaikan.jp/archives/36506


【その2】カナザワ映画祭 2018「ギミック・シアター」in 京都みなみ会館
開催日:2018年3月20日(火)~22日(木)


全国各地で開催されている「カナザワ映画祭」が昨年に引き続き、京都みなみ会館で開催されます。「昨年、初めてみなみ会館で開催していただいたのですが、個人的にもとても面白かったので、もう一度お願いしました」と吉田館長も太鼓判のイベントです♪

期間中は4つのプログラムで構成されていて、中でも注目は、21日(水・祝)・22日(木)の“ギミックの帝王 ウィリアム・キャッスル特集”。ウィリアム・キャッスルは、1950~60年代に、数々の奇抜なギミック上映方式で活躍したアメリカの映画プロデューサー。今回は5本の作品が上映されます。さて、ギミック上映とは・・・?

吉田館長 「劇場が4DXになります」
※4DXとは・・・ 映画のシーンに合わせて座席が上下に動いたり、劇場内に熱風が吹いたりなど、特殊効果をもちいて映画を体感できる“超ハイテク”な上映システム。

・・・あれ、わたしの思っている4DXとあっているのかな・・・? 詳しく伺ってみると・・・
「映画上映中にいすが震え出すかもしれません。ガイコツが劇場を這い回るかも・・・ 這い回れるかなぁ・・・」とのこと(笑) もちろん「京都みなみ会館」にそんな設備はありません。

吉田館長 「すべてスタッフが手作業で仕掛けますので、“手作り4DX”です(笑)」

なんと、手作業! 上映中、どんな仕掛けが施されるのか、ご期待ください♪

⇒カナザワ映画祭 2018「ギミック・シアター」in 京都みなみ会館の詳細はこちら
http://www.eiganokai.com/event/filmfes2018/gimmic/


【その3】京都みなみ会館 さよなら爆音上映 3DAYS produced by boid
開催日:2018年3月23日(金)~25日(日)


私が1番楽しみにしているのがこのイベントです。「ただ大音量で映画を観るだけではない」というのが大きなポイント。普段映画を観ているときには気付かない“小さな音”を聞くことができるのが爆音上映の醍醐味なのです! このイベントでは、爆音上映のプロ「boid(ボイド)」による音響の細かい調整で不思議な音を際立たせて上映されるので、“こんな音が隠されていたのか!”ときっと新しい発見があるはず。
ラインアップも充実していて、「不思議な音が立ち上がってきそうなものを選びました♪」と吉田館長。2017年の夏に公開された「パターソン」や、今敏監督の名作「パプリカ」、ファンタジー映画の代表格「ネバーエンディング・ストーリー」など、3日間で19本の作品が上映されます。

たくさんの映画の繊細な音を調整する・・・ 考えるだけでも大変そうです。

吉田館長 「恐らく20日~22日の“カナザワ映画祭”で皆さまへの仕掛けをしたあと、夜通しで音の調整という・・・ 忙しい日々になりそうです。閉館前に、皆さまに楽しんでいただきたいという一心でがんばります。最後は花火のように大きく打ち上がって終わりたいです」

ちなみに吉田館長の爆音上映のおすすめは・・・?
「個人的には、2013年のロシア映画“神々のたそがれ”ですが、ちょっと好みがわかれるかもしれません・・・(汗) 皆さまにおすすめするなら2012年にアメリカで製作されたモノクロ映画“フランシス・ハ”。新生活のはじまる春にぴったりですよ♪」

⇒京都みなみ会館 さよなら爆音上映 3DAYS produced by boidの詳細はこちら
http://kyoto-minamikaikan.jp/archives/36691


最後の6日間はとっておきの“上映”特集!

上映フィルムの数々


最後の6日間(2018年3月26日~31日)は、何のてらいもなく、まさに映画に集中した上映の特集になるのだとか。いわゆる名作と呼ばれる作品を上映されるそうで、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」、「青い春」など、全部で36本ほどを公開予定。

吉田館長 「1日6枠で、毎日違う映画を上映します。お気に入りの作品があってもその時間に来ないと観られないので、苦情があるかもしれないですね(苦笑) けど、もう“終わり”なので色んな作品を観に足を運んでいただきたいです。建物が壊されてしまう前にぜひ来て~! という感じです(笑)」

ちなみに館長おすすめの座席は“前から4列目”なのだそう。

吉田館長 「劇場の床がすり鉢型になっているので前方はスクリーンに向かって緩やかに上がっています。ちょうど4列目ぐらいのシートの角度が、体を重力に預けられて、ゆっくり映画が観られるんですよ」

なるほど、どうりで座り心地がいいわけですね! ※前席にお客さんが座っている場合は、頭で字幕が隠れてしまうこともあるそう。ご注意ください!

「京都みなみ会館」の“これから”について

「京都みなみ会館」の屋上から見える東寺の五重塔 ※通常は屋上には上れません


最後に閉館後はどうなるのか・・・ もう移転先などは決まっているのでしょうか。1番気になっていたことをお伺いしてみたところ、「目途をつけている場所はあって、現在調整中なんです」ということでした。

吉田館長 「できれば、閉館前にはお知らせすることができればいいのですが。ただ、年内に営業を再開できるといいなと思っていたのですけれど、再開までにはあと一年くらいかかってしまいそうです」

移転先には座席や映写機など、できる限り今の劇場にあるものを持って行ければと考えられているそうです。ちなみに、スクリーンの数は増えるかもしれないとのこと。

吉田館長 「京都は古い街というイメージがありますが、実際は最先端のものがたくさんあります。文化施設は、ほかの都市に比べると断然多くて、“文化”としてもがんばることのできる土壌がある街です。京都にある映画館として、京都発信のものをもっと広めることができるように、“京都に居続けたい”と思ってもらえるような面白い作品の上映や新しい企画がこれからもできればいいなと思います」

55年の歴史に幕を閉じるまで、残りわずか。長年、「京都みなみ会館」から遠ざかってしまっている方々。きっと、あの頃の劇場の匂いや独特な空気感は変わっていないと思います。だからもう一度、閉館してしまう前に訪れてみませんか? そして、気になってはいたけれど・・・ という方も、もうこれが最後。ぜひ足を運んで、歴史を感じてみてください。


■京都みなみ会館
【電話】075-661-3993
【アクセス】近鉄京都線「東寺駅」から徒歩約3分 Google map
【公式ホームページ】http://kyoto-minamikaikan.jp/
※上映スケジュールは公式ホームページをご確認ください。

 

Written by. オパン

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