京都のお風呂探訪 2
京都市内から比叡山や滋賀県へと抜ける、「山中越(やまなかごえ)」。その途中に、天然温泉が湧出していることをご存知でしょうか? 「北白川天然ラジウム温泉」といえば、「昔からあるところだね」という方や、「あ、あの小説に出てきた!」と思い当たる方もいらっしゃるかもしれません。
かくいう私も、“昔ながらの湯治場”というイメージがあり、「京都のお風呂探訪」シリーズで取材してみたいなぁと思いつつ、1年半ほど前から休館されていたため願いが叶わずにいました。ところが2018年を迎え、ついにリニューアルオープンされるとの情報が! そこでご主人の藤田さんにお願いし、新しくなった館内をいち早く取材させていただきました! 私たちも驚きの連続だった取材の模様を、ご覧ください♪
生まれ変わった、「北白川天然ラジウム温泉 えいせん京」
今回取材に伺ったのは、私“みさご”と、スタッフの“きのこ”くん。京都駅からは、京都バスや京阪バスの「比叡山」行に乗車して約40分、「地蔵谷」バス停を下車。バス停の前には2軒の施設が並び立っていて、西側(下手側)が、目指す「北白川天然ラジウム温泉」です。
リニューアルにあたり、「北白川天然ラジウム温泉 えいせん京」と名称も新しくなりました。比叡山から湧く泉という意味だそう。
正式なオープンは3月28日(水)を予定されていて、訪れたこの日(12日)はようやくすべての家具を揃え、ボイラーの試運転が終わったところ、というタイミングでした。
玄関から館内に入った途端に、「わああ!」と思わず漏れた驚きの声。目の前には暖炉があり、炎が赤々と燃えています。じんわりと暖かさが伝わってきて、アウトドア派のきのこくんは一気に虜になってしまったようでした。
出迎えてくださったのは、三代目の社長である藤田さんと、支配人をつとめる息子さん。「暖炉、いいでしょう? 実際の炎のぬくもりを感じていただきたくて」と、にこやかな笑顔。暖炉の隣には「源泉の湧く岩」が見られるようになっていました。
藤田さん 「このあたりの山の中にはラジウムを含んだ花崗岩(かこうがん)の岩盤があって、それがここに露出しています。山の中腹に“天然ラジウム鉱泉”が湧出していて、長い年月をかけて染みこんだミネラル分たっぷりの天然水が、この温泉の源泉となっています」
ラジウム温泉の湯気の中やお湯の中にはラドン(ラジウムが安定化した元素)が溶け込んでいて、「体内の免疫力を高める」効能があるそう。美容や美肌に加え、神経痛・動脈硬化症・痛風や貧血などにも効果があるとされています。飲用も可能ということで、お料理など館内のすべてにこのお水を使われているとのこと。
藤田さん 「お風呂は、大浴場のほか、各室内にも露天風呂を設置したんですよ」
露天風呂!! 以前の“湯治場=昭和なイメージ”とは、だいぶ様変わりをされているようですね。さっそく、リニューアルしたばかりのお部屋を見せていただきました♪
数寄屋のエッセンスを取り入れた、天然温泉露天風呂付きスイートルームを拝見!
客室は1階と2階にあり、まずは2階から拝見。廊下のすっきりとした美しさに、ほれぼれしていると・・・
藤田さん 「リニューアルにあたり、白川の清流や木々のざわめき、岩の迫力を感じられる宿を目指して、数寄屋建築の専門家・才門俊文一級建築士に設計をお願いしました」
才門さんは、数寄屋・茶室建築などの伝統建築に詳しく、京都の数々の社寺にも関わりを持つ建築士さんです。新しい日本建築にも意欲的に取り組まれているということで、館内も随所にこだわりを感じられる造りとなっています。
ロビーを飾る、堂々とした桜の屏風。
藤田さん 「明治から昭和にかけて活躍した日本画家・川合玉堂(かわい ぎょくどう)の桜の絵を模写した、油彩画です。外の川の音が、この屏風から聞こえてくるように思っていただけたらいいなぁと思い、ここに飾りました」
日帰り入浴の際には、このロビーでゆったりすることができるそうですよ♪ ※日帰り入浴の詳細は文末をご確認ください。
いざ、露天風呂体験♪
「比叡」の間のリビング
2階の客室は、道路に面した「比叡」と、裏山に面した「萌え木」の二間。なんと、露天風呂体験までさせていただいた私たち。「比叡」の間の露天風呂はいかがでしたか、きのこくん。
「比叡」の間の露天風呂
きのこ 「ひとりで入っていっぱいになるくらいの小さなお風呂なのですが、部屋付きのお風呂ならではのプライベート感と、露天風呂を独り占めしている優越感がたまりません。ふと見上げると、突き抜けるように空が見えて、開放感が格別でした!
お湯は無臭で、さらりとした感触。身体の内側からじんわりと温まる感覚が心地よかったです♪」
「萌え木」の間のリビング
「萌え木」の間の露天風呂は、僭越ながら私がお試し。
「萌え木」の間の露天風呂
みさご 「お風呂のすぐ横に岩肌が迫っていて、ごつごつと木の根が張り出しているのが野性的でステキな景観でした。時折、鳥が頭上を飛んでいき、俗世を離れている感を満喫できました♪
温度設定を自分で変更できるのもポイント。朝や夜など、タイミングに合わせて選びたいですよね。お湯も柔らかくて、いつまでも入っていたかったです」
両室ともにベッドやソファーなど北欧風のファニチャー(家具)で揃えられ、壁に竹笹堂さんの版画が何気なく飾られているのが、京都ファンにはたまりません♡ こんな部屋に住んでみたいですよね・・・ きのこくんも「備品ひとつとっても細部までこだわられていて、でも遊び心も垣間見えるバランスがお見事! ご主人のお人柄が感じられます」と大喜びでした。
1階にも露天風呂付きの客室が2間あり、館全体で一夜に宿泊できるのは8名ほど。それだけにとてもゆっくりと、贅沢な時間を過ごすことができそうです。そして、宿泊する際のもうひとつの楽しみが、お食事です!
ご主人が腕を奮う、美しき料理の数々!
宿泊の場合は、1泊2食付きが基本。ディナーは、藤田さんが腕を奮うコース料理をいただけます。この日は特別に、春のコースメニューをお作りいただきました。※お料理は日によって変更となります。
まずは、季節の八寸。“ごまどうふ”や“黒豆の赤ワイン煮”、“エゾジカのしぐれ煮”、“ゆばの信田巻”などが美しく盛りつけられています。藤田さんのお母さまのご実家が、五条で清水焼の窯元をされていたとのこと。繊細で美しく、かつ使い勝手がいいという「清水焼」の理念を体現したような器に、ただただほれぼれしてしまいます・・・
きのこ 「じ~・・・(視線)」
え? お酒が見えますか? ワインや日本酒など、色々ご用意されているということで、少しいただいてみましたよ♡(きのこくんは車の運転があるため、私だけ・・・)
このあと、えびのしんじょうを桜餅に見立て桜花を添えた“椀もの”と、“サーモンのわさび漬け”をいただき、次に登場したのが“お造り”です。
なんと、階段型の盛台で登場! 食事の雰囲気が盛り上がる演出です♪ 一番上の段にのるのは、春を代表する食材“ホタルイカの酢みそエスプーマ添え”! エスプーマとは「液状の食材を泡状にする」という、今話題の料理法のこと。
きのこ 「酢みそとは思えない味・食感ですね! クリーミーでふわふわで、でもホタルイカの味を引き締めるお酢と白みその味わいも残っていて・・・ これ、至福です・・・♡」
そして、雲丹、マグロ、ゆば、鯛。どれももちろん美味しいのですが、お魚好きの私。とにかく「鯛」に感動してしまいました。春の鯛といえば、「桜鯛」と呼ばれ、脂がのって最も美味しくなる頃です。身じまりもすばらしく、いつものお刺身とは全く違う味わいに、外でお料理をいただくことの感動を改めて感じてしまいました。美味しいものをいただくことは、生きている喜びにつながるんだなぁと実感・・・
その後も、“穴子の茶碗蒸し・菜の花の餡添え”(左上)や、“えびしんじょうのミジンコ揚げ”(右上)、“石焼きステーキ”(左下)などが続き、そして最後のご飯は“ゆば丼”(右下)です! 美しさと味わいの競演に、至福の時間を過ごさせていただきました♪
と、思う間もなくデザートが2品。これらすべてを、藤田さんおひとりで料理されていることに驚いてしまいます!
きのこ 「見た目、演出にもこだわられていて、食事の間、飽きることがありませんでした。次はどんなお料理なんだろう? と待っている間も楽しく、コース全体がまるでひとつの芸術作品のようにも感じられ・・・ いったい、藤田さんって何者なんですか?」
藤田さん 「何者(笑) ・・・私でこの宿は3代目になるのですが、この施設を継承するにあたり、経営と料理と両方できないといけないな、と思いまして。まずはサラリーマンとして働き、そして29歳の時に料理人の道に入りました。京料理の世界では、お茶と生花が必須ということで、それらも習って。盛りつけをキレイにするには、生花を習うのがいい、と先輩たちから教わったんです」
館内には、客室をはじめ、いたるところにお花が生けられています。
藤田さん 「旅をするとき、旅先で一番会話をし、顔を合わせるのは、私たち宿泊施設のスタッフなんです。京都に来られて、その思い出のひとつとなるのですから、責任は重大です。家族だけの経営なのでできることは限られていますが、お客様に気持ちよくこの館を利用していただけるよう、考えていきたいですね」
どこまでもお客様のことを思う気持ちに、これこそ“おもてなし”の精神なんだなぁと感動してしまいました。
大浴場は男女日替わりになります
当初は「レトロな湯治場」と思っていた、北白川天然ラジウム温泉の驚きのリニューアル。来たる3月28日(水)にオープンし、これから桜、新緑と巡っていく四季の中で、この小さな宿がどんな風に季節を迎えていくのか、とても楽しみになりました。大切な人との時間に、また自分へのご褒美にも、そっと訪れてみてくださいね。
【電話】075-781-4525
【アクセス】京阪バス・京都バス「地蔵谷」バス停から徒歩すぐ Google map
【公式ホームページ】http://www.radium-onsen.com/
【利用時間、料金】
・日帰り入浴(一般)/11:00~17:45(受付終了17:00)、1,450円(入湯税100円別途) ※タオルはご持参ください。食事の提供、送迎サービスはありません。
・宿泊/1泊2食付きおひとり様1階25,000円~、2階35,000円~(入湯税150円別途)
※詳細はお電話にてお問合せください。