茶人に愛された花・椿を愛でに ~松花堂庭園・美術館~

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霊鑑寺早咲赤藪椿(れいがんじ はやざき あかやぶつばき)

ちらほらと、桜の開花がニュースになりはじめましたね。今年(2018年)は冬の寒さが長く続き、梅の開花が非常に遅れ、ようやく咲いたと思ったら、一気に気温が上昇し、早くも桜が咲きそうで・・・ と、早春の花々にとっては不遇の年だったのかもしれません。

そんななか、私“みさご”がずっと気になっていたのは、「椿」。2月下旬から今か今かと待ち構えていたのですが、ようやく先週末になって「侘助(ワビスケ、小ぶりでやや早咲きの椿)が花開きましたよ!」との情報が!

待ちに待った椿を愛でに、八幡市(やわたし)にある「八幡市立 松花堂庭園・美術館」に伺いました♪

★椿や桃など、今見頃の花情報は、こちらでもご紹介しています♪⇒【観光ガイド】季節の花情報


椿の名所は、実は今、“あること”で話題です



京都市の南側、木津川・宇治川・桂川の三川が合流する地にあるのが、「八幡市」。京阪本線「八幡市」駅のすぐ目の前には、国宝・石清水八幡宮が鎮座する男山がそびえ、その南約3kmの場所に位置するのが、椿の名所・「八幡市立 松花堂庭園・美術館」です。

今回ご案内いただいたのは、副館長の井上さん。・・・ピンとくる方は、いらっしゃるでしょうか? 実は、井上さん、“とある小説”のなかに登場しています。それが、『京都寺町三条のホームズ』(双葉文庫)シリーズ。その8巻目では、石清水八幡宮とともに松花堂庭園・美術館が舞台となり、井上さんも少しお名前を変えて登場されています。実際に作者の方が取材をして書かれているということで、小説の内容も非常に参考になります。

では、作中で「甲子園球場の1.5倍」と紹介される庭園へと向かいましょう。


【外園】「まさに穴場」、3つの名茶室が並び立つ



庭園は、3つの茶室がある「外園」と、松花堂昭乗(しょうかどう しょうじょう)ゆかりの建物が並ぶ「内園」の2エリアに分かれています。松花堂昭乗は江戸時代初期の僧侶。石清水八幡宮の社僧として男山に住まいし、明治時代になってゆかりの建物がこの地に移築され、昭和52年(1977)から八幡市の所有となり公開されています。

庭園には今回の目的である「椿」とともに、竹の種類も多く、日本的な風情を求めて海外から訪れる方も多いのだとか。



写真左は、茶人・千宗旦(せん そうたん)好みの「梅隠(ばいいん)」。昨年、屋根を葺き替えたばかりで、ちょうど梅の花も見頃となっていました。
写真右上が、小堀遠州が松花堂昭乗の自坊に造ったといわれる“閑雲軒(かんうんけん)”を模した「松隠(しょういん)」。高床式の珍しい造りとなっています。
そして写真右下は、現代的な四畳半茶室「竹隠(ちくいん)」
どの茶室もいつでも見学できるようになっている(天候により閉める場合もあります)のですが、そういえば何年か前に伺ったときには見学が出来なかったような気がしますが・・・?

井上さん 「そうですね、いつでも見学できるようになったのは、ここ数年のことです。これら外園の茶室は、数寄屋建築の第一人者であり、松花堂美術館名誉館長の中村昌生(なかむら まさお)先生により再現されたもの。せっかくの名茶室なので、ぜひ中も見ていただきたいと思って」

なるほど! 嬉しいご配慮ですね。春と秋には気軽にお茶に親しめる「日曜茶席」も開催されているので、利用してみるのもいいかもしれません。

■日曜茶席
【日時】3~5月、10~11月の各日曜日、10:00~15:00 ※10月第2日曜日は休。他、催しとの兼ね合いにより休止の場合もあります。
【本席】茶室庭園「竹隠」
【席料】600円(季節のお菓子付き、入園料別途)
 

【内園】椿の花と、松花堂昭乗ゆかりの遺構


内園エリアには、松花堂昭乗にゆかりのある建物が移築されています。ところで、先ほどからよく登場する“松花堂昭乗”とは、何者でしょうか。

井上さん 「小説の中でも、同じような問いが出てきますね(笑) 昭乗は石清水八幡宮の僧で、男山の中腹にあった瀧本坊(たきのもとぼう)の住職を務められた方です。茶道や書画に秀で、その時代随一の文化人として様々な方と交流がありました。“寛永の三筆”と称される能書家で、この扁額も彼の字になります」



と指さされたのは、草庵「松花堂」に掲げられたこちらの扁額。石清水八幡宮の一ノ鳥居と同じく昭乗の筆とされ、字の中に“鳩”が隠れています。・・・わかりますか?
※一ノ鳥居の扁額は、元は平安時代の書家・藤原行成の筆。現在の額は、行成の書を昭乗が写したもの。



松花堂と「昭乗椿」。椿は茶の湯と縁が深く、豊臣秀吉も茶室に椿を飾ることを好んだのだそう。昭乗が生きた江戸時代中期には、椿の改良が盛んとなり、様々な品種が生まれました。昭乗は椿を愛し、そして八幡市の花木も椿。そのため、この松花堂庭園にもたくさんの種類の椿が植えられているのです。



「雪月花」(左上)、「泉の書院」(右上)、「常照皇寺藪椿(じょうしょうこうじ やぶつばき)」(左下)、「岩根絞(いわねしぼり)」(右下)・・・ 多くの椿が、これから4月上旬にかけて咲きそろっていきます。茶の湯の世界ではつぼみが愛される花なのですが、私はこの艶やかに開く椿の花がとても好きです。名前も様々なので、どの花にどんな名前がつけられているのか、見て歩くのも楽しくなります。



庭園のある場所は、元は古墳だった!?


それにしても不思議なのは、どうしてこの場所に、この「松花堂庭園・美術館」があるのかということ。というのも、石清水八幡宮から微妙に離れた距離にあって、どうしてもっと近い場所につくらなかったのかなぁと、以前から疑問に思っていたのです。思い切って井上さんに尋ねてみると、驚きの答えが返ってきました。

井上さん 「実はこの場所は、元々“前方後円墳”で、3~4世紀頃の豪族のお墓なんです。そこに、草庵『松花堂』と『泉坊 書院』を移築した。・・・というのも、このあたりは“三川合流の地”で、昔から川の氾濫に苦しめられてきました。ここは高台になっているため、安全だったということなんです。今も後円の部分はそのまま遺されているんですよ」


右側の斜面が円墳


なんと!! 確かに、「泉坊 書院」の隣に、こんもりとした円墳が今も確認できます。そして、前方部は均され、昭乗ゆかりの遺構が移築されています。現在では川の流れも変わり堤防も出来ているため気づかなかったのですが、川の合流地点ならではの事情があったのですね!

井上さん 「明治維新までは、石清水八幡宮の境内にたくさんの坊(寺)があったのですが、明治時代の初めに廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)が起こります。そのため、男山にあった昭乗ゆかりの遺構をこの地に移築することになり、それによって文化財を後世に伝承することができました」

古代から近世、近代と、なんとも歴史の詰まった庭園です! 季節の花々を愛でるだけでなく、ぜひこの地に流れる歴史も感じ取ってみてくださいね。
 

特別展、おみやげ、松花堂弁当! みどころいっぱいです



庭園の横には、昭乗ゆかりの作品等を展示する美術館があり、現在は陶芸家・藤平伸(ふじひら しん)さんの作品展を開催中です。辰砂(しんしゃ)を使った柔らかい色の焼き物は、どこか物語を見ているかのようなかわいらしさがあります。

■平成30年春季展 藤平伸 —やきものの詩人、茶陶に遊ぶ—
【日程】2018年3月10日(土)~5月6日(日)
⇒詳しくはこちらから。



おみやげもの売場も、品揃え豊富! ショップの女性店員さんたちがアイデアを出しあっているということで、椿や鳩のグッズがいっぱい揃って、見た目にもかわいらしいアイテムが並んでいました♡ 八幡の銘菓・走井餅(はしりいもち)も販売中。注文してから近くにある本店で作られ、ショップに届けてくださるという親切なサービスがあります! (所要時間は30分ほどということで、見学前に注文しておくのがおすすめです) そして、館内の「京都 吉兆 松花堂店」では、昭乗が考案したと伝わる松花堂弁当をいただくこともできます。

椿の見頃は4月上旬まで。3月30日(金)~4月1日(日)には、第30回目となる「松花堂つばき展」も予定されています。
椿の後は、桜のシーズン。例年ではソメイヨシノが4月上旬に、そして美術館別館前のしだれ桜は、例年4月15日前後に見頃を迎えるそう。八幡といえば三川合流の地にある「背割堤(せわりてい)」の桜景色も有名で、最近では海外からの観光客も多く賑わっています。また、石清水八幡宮も桜の名所

ぜひ、椿の時季、桜の時季と訪れてみてくださいね。
 

■八幡市立 松花堂庭園・美術館
【入園時間】9:00~17:00(入園は16:30まで)
【休園日】月曜日(祝日の場合は翌平日)、12月27日~1月4日 ※4月2日(月)・9日(月)は開園。
【入園料】庭園400円、美術館400円~、「松花堂つばき展」600円、「藤平伸」展500円
※庭園・美術館との共通券あり。
【電話】075-981-0010
【アクセス】京阪本線「八幡市駅」または「樟葉(くずは)駅」から京阪バス乗車、「大芝・松花堂前」バス停からすぐ Google map
【公式ホームページ】http://www.yawata-bunka.jp/syokado/
◇庭園案内ボランティア「おみなえし」◇
事前のご予約で無料の庭園案内を受けることができます。ご予約は075-981-0010

★「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード特典協力先です。特典内容はこちら。


 

Written by. みさご

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