創建から120余年 平安神宮の変化に迫る!

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絵はがきで知る古都のうつろい 3

 

 

昔の絵はがきから現代との違いを読み解くシリーズ、第3弾は平安神宮をピックアップ。明治28年(1895)に平安遷都1100年を記念して創建された、京都のなかでは比較的新しい神社です。

歴史が古い神社やお寺は老朽化に伴う修復工事で変化があったりしますが、平安神宮は社殿ができて120年あまりしか経っていません。果たして、絵はがきと違う景色を見つけられるのでしょうか。

⇒第1弾「100年でココが変わった! 清水寺の風景」

⇒第2弾「世界遺産の桜名所、100年でココが変わった!」

 

 

絵はがきを入れる袋。モダンなデザインが目をひきます

 

 

前回前々回に引き続き、絵はがきは京都産業大学現代社会学部教授の鈴木康久(すずき みちひさ)先生にお借りしました。鈴木先生は京都や滋賀の名所を中心に2,000枚にのぼる膨大なコレクションをお持ちですが、そのなかで多いのが平安神宮です。

絵はがきが認可されたのは明治33年(1900)。5年前に創建されたばかりの平安神宮は格好の被写体だったようです。

 

 

~大鳥居前の風景~

 

 

 

 

皆さん、平安神宮と聞いてイメージする建物は何でしょうか。平安京大内裏の朝堂院(ちょうどういん)を模して造られた大極殿(だいごくでん)や応天門も華やかですが、神宮道にドドンと建つ大鳥居を思い出す方も多いはず。

高さ24.4メートルの大鳥居は、いまや文化ゾーンとして賑わう岡崎のランドマーク的存在。平安神宮に向かって左手に京都国立近代美術館、右手には現在工事中の京都市美術館があります。

 

 

 

 

同じ角度で撮影された絵はがきを見てみましょう。大鳥居は創建時の建物ではなく、昭和天皇の御大典を記念して昭和4年(1929)に完成しました。「昭和」と聞くだけで、一気に親近感が沸くのは私だけでしょうか。

ここで注目していただきたいのが、じつは大鳥居ではなく手前の「慶流橋(けいりゅうばし)」。かつて岡崎一帯で開かれた「第四回内国勧業博覧会」の正門の橋として、平安神宮の創建と時を同じくして架けられました。

絵はがきと現在の写真を見比べると姿形はほぼ同じですが、当時は木造。よ~く見比べると、左側のふたつの擬宝珠(ぎぼし)の間の造りが異なります。昭和38年(1963)にコンクリート橋となり、大鳥居にあわせて朱塗りが施されたそうです。

時代の流れとともに景色も変わっていきますが、唯一、明治から変わらぬものがあります。

 

 

 

 

それは、擬宝珠。橋の両端の擬宝珠を見てみると、「明治廿八(28)年二月」の文字を発見しました! 擬宝珠の側面には銘文がぐるりと刻まれています。

内容は平安神宮が完成したことへの喜びなど。「市民歓呼」の文字からも、当時の雰囲気が伝わってきます。大鳥居の前に、まずは歴史の古い擬宝珠に注目してくださいね。

 

 

~本殿~

 

 

 

 

平安神宮の絵はがきのなかで、一番興味をかき立てられた一枚がこちら。「官幣大社平安神宮 本社」と注釈があり、本社とは本殿、つまり神様が祀られているところです。平安神宮のご祭神は桓武天皇と孝明天皇。

私も何度かお参りしたことがありますが、どうしても思い出の中の本殿と一致しません。「現地に行けば、なにか分かるかも」希望をもって、平安神宮に行ってみました。

 

 

 

 

応天門を抜けた先にある大極殿です。明治28年(1895)に造られ、国の重要文化財に指定されています。本殿があるのは大極殿、内拝殿、ふたつの建物の先です。

本殿はもちろん、大極殿と内拝殿は写真撮影禁止。本殿の様子を写真でお見せすることはできませんが、大極殿から本殿まではほとんどが屋根で覆われていて、絵はがきのような屋外の空間は確認できませんでした。

「見えていないだけ? それとも違う建物?」ひとりでの調査に限界を感じ、神職さんに真相を尋ねてみたところ、「絵はがきは初代の本殿ですね」という驚きの回答が!

「創建時、平安神宮のご祭神は桓武天皇だけでした。その後、昭和15年(1940)に孝明天皇がご祭神に加わることになり、本殿が改修されます。それが2代目の本殿。しかし、昭和51年(1976)に過激派の放火によって焼失してしまいました。現在の本殿は昭和54年(1979)の再建です」

120年の間に本殿が2回も変わっていたなんて! さらに、神職さんがひとこと。「初代の本殿は長岡天満宮に移築されていますよ」

「えーっ!!!」

 

 

 

 

驚きの事実を確認すべく、梅やキリシマツツジの名所として知られる長岡天満宮へ。こちらは、本殿の前にある拝殿。平成10年(1998)に増改築したばかりとあって、美しい佇まいですね。本殿はこの拝殿の奥ですが、拝殿の少し脇から屋根を確認することができます。

檜皮葺の風格ある佇まいは「確かに絵はがきに似ている!」と思いつつも、遠目なのでハッキリとは分かりません。

 

 

 

 

またもや、ひとりでの調査に行き詰まり、今度は長岡天満宮の神職さんにお話をお聴きしたところ、「本殿移築時の写真がありますよ」という助け船が! ありがたく、貴重な資料をお借りしました。

左上から順にご覧いただくと…
1/長岡天満宮の旧本殿と旧拝殿。移築前の様子です
2/本殿の移築工事。足場が組まれています
3/工事終了。続いて、拝殿の工事へ
4/完成 ※拝殿は平成10年(1998)に増改築される前の様子です

「3」の写真と平安神宮の絵はがきを見比べると、屋根の勾配や唐破風が同じですね! 手前の拝殿がない時の貴重な写真で、造りがよく分かります。

 

 

透塀

 

 

本殿と一緒に「祝詞舎(のりとしゃ)」と「透塀(すかしべい)15間」も移築されています。こちらも絵はがきと同じ菱形の透かし彫りを確認できました!

長岡京市教育委員会発行の『長岡天満宮資料調査報告書 古文書編』によると、平安神宮のご祭神である桓武天皇がかつて長岡の地に長岡京を築いたという浅からぬ縁をたよりに、昭和13年(1938)に長岡天満宮より本殿の譲渡を依頼したそうです。

平安神宮から社殿は無償で払い下げられたものの、移築には相当なお金がかかったのだとか。平安神宮で解体作業に着手してから約3年の歳月を経て無事に完成。大変な苦労の連続であったと推察されますが、おかげで貴重な建築を現代の私たちも見ることができると思うと、ありがたいかぎりです。

 

 

 

 

ちなみに、長岡天満宮の拝殿手前にある手水舎(てみずしゃ)にも注目を。平安神宮の祝詞舎が移築される前に使われていた元の祝詞舎が、いまは手水舎として活躍しています。本殿に付随する建築だけあって、彫刻のなんと美しいこと!

壊すのではなく、姿・形を変えて大切に受け継ぐ。素晴らしい日本の文化を感じることができました。

 

 

 

 

さて、初代の本殿は長岡天満宮へお引越ししましたが、一部は現在も平安神宮で確認することができます。それが絵はがきに写る灯籠です。

一番手前にある灯籠が境内のどこにいったのかというと・・・

 

 

 

 

応天門前の左右に2基、確認できました! 裏側に回ってみると、「明治廿八年四月建」と刻まれています。

先ほどご紹介した昭和15年(1940)の孝明天皇合祀の際に、応天門前に移されたそうです。場所を移動したことで火災にあわず、今日まで良好な保存状態を保っています。

絵はがきの中ほどに写っている青銅灯籠は戦争時に供出されて今は見ることができませんが、本殿そばにあった灯籠は境内のどこかに遺っていますので、ぜひ探してみてください。裏面に明治28年の文字を見つけられたら正解です♪

 

 

~神苑~

 

 

 

 

平安神宮の見どころといえば、神苑を忘れてはいけません。造園家・七代目小川治兵衛によって作られた、総面積約33,000平方メートルという巨大な庭園です。

南神苑、西神苑、中神苑、東神苑という4つのエリアに分けられていて、四季折々の花を愛でることができます。特に春は桜、初夏は花菖蒲の名所として昔から知られた存在だったようです。

お庭は常々手入れされているため、変化が当たり前。ほかの絵はがきのように、「ここが変わった!」ということをご紹介しづらいのですが、年に1度だけ、現代の私たちも変化を実感できる瞬間があります。

 

 

花菖蒲、満開時の様子(2014年6月9日撮影)

 

 

西神苑の花菖蒲が咲く時季にあわせて、なんと池の中に「八ツ橋」が出現するのです! 200種2,000株に及ぶという花々が咲き乱れる様子を、少しでも近くで見てほしいという平安神宮の厚意で生まれた産物は、絵はがきの頃にはなかった風景です。

今年は例年より開花が早く、すでに八ツ橋が架けられています。6月1日(金)・2日(土)には「京都薪能(たきぎのう)」、8日(金)には「神苑の無料公開」、30日(土)には「夏越祓(なごしのはらえ)」と、6月の平安神宮は歳時が盛りだくさん。ぜひ、お参りに行ってくださいね♪

⇒古都を彩る初夏の花々の咲き具合は、「旬の花情報」でチェックしてください♪

最後に、1枚目の写真の奥の奥をじっくり見てみると、初代本殿が写っています。気付いていた方に拍手!

第3弾まで続けてきた「絵はがきで知る古都のうつろい」シリーズは、ひとまず終了します。ご覧いただいた皆さま、ありがとうございました! また、おもしろい絵はがきが見つかれば、復活したいと思います♪

 

Written by. シュガー

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