京の和菓子の玉手箱 9
今年の「梅雨入り」はいつかな? と、気になる季節になりました。ジメジメする雨の日が苦手という方もいらっしゃるかと思いますが、“京都好き”の方々は「雨の日が好き!」という方が多いよう。毎月季節の和菓子を紹介していただいている小倉夢桜(おぐら ゆめ)さんも、そのひとり。今月は、雨に似合う和菓子と、6月の代表名菓ともいえる“あの和菓子”をご紹介いただきます♪
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新緑の5月が終わり、いよいよ雨の6月となりました。“京都好き”にとっては、雨の情緒ある風景をあちらこちらで見ることができる、たまらない季節です。傘で弾けるやさしい雨音をBGMに京都観光をしてみてはいかがでしょうか。きっと、雨が今まで以上に好きになることと思います。
“七変化”の花、紫陽花(あじさい)
セイヨウアジサイ(江戸時代に日本原産のガクアジサイが西洋に伝わり、海外で改良されて日本に再渡来しました)
6月の花で真っ先に思い出すのが、紫陽花。社寺のみならず、ご家庭のお庭やお店の玄関先で可憐に咲いている、身近な存在です。華やかな見た目から西洋の花のように思われがちですが、実は万葉集にも登場する日本古来の花です。
その魅力は、丸く可愛らしい“手まり咲き”と呼ばれる姿。そして、別名「七変化」と呼ばれるように、時間の経過とともに花弁の色が変化していくことです。
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この時季になると京都の和菓子店には、紫陽花にちなんだお菓子が店頭に並びます。
“なつかしの味”を守り伝える和菓子店 中村軒
京都駅から八条通をずっと西へ。桂川を越えると、旧山陰街道沿いに、趣ある店構えが印象的な和菓子店「中村軒」があります。創業約130年。今でも昔ながらの「おくどさん(かまど)」を使用し、薪を燃やしてじっくりと小豆を炊き、「なつかしい昔の味、あっさりした美味しさ」を守り続けていらっしゃいます。その味を求めて、京都はもとより他府県からも多くの方が訪れます。
古い茶店の雰囲気を残したお部屋では、中庭を眺めつつ季節に合わせたお菓子などをいただくことができます。
透明感ある錦玉の和菓子 あじさい
あじさい260円(6/1~29販売予定。色彩は時季によって変わります)
この時季を代表するお菓子が「あじさい」です。
錦玉(きんぎょく、糸寒天を溶かして固めたもの)で、“七変化”の花の色鮮やかさを表現されています。・・・こちらのお菓子と出会ったのは、6年ほど前。あまりの素晴らしさに見惚れてしまったことを、昨日のことのように鮮明に覚えています。それ以来、和菓子屋さんに通いつめる日々が始まりました。私にとって欠かすことができない、思い出深いお菓子です。
6月を代表する小豆菓子 水無月(みなづき)
6月の最終日である「6月30日」は、京都で暮らす人々にとっては元旦の次に欠かせない“特別な一日”。半年の罪のケガレを祓い、残り半年の無病息災を祈願する神事「夏越の祓(なごしのはらえ)」が各神社で行われます。
上賀茂神社
各神社の境内には、茅(ちがや)を束ねて作られた大きな輪が置かれ、「水無月の夏越の祓する人は ちとせの命のぶというなり」と唱えながらくぐる「茅の輪くぐり」が行われます。茅の輪をくぐり抜けると、“夏の疫病や災厄から免れる”といわれ、その「夏越の祓」の日にいただくのが「水無月」です。
水無月(白)220円(5月中旬~7月上旬販売予定)
外郎(ういろう)製のお菓子。小豆には悪魔払いの意味があり、三角の形は暑気を払う「氷」を表しているといわれています。
その昔、旧暦の6月1日は「氷の節句」とされ、宮中の年中行事とされていました。氷室(ひむろ、現在の北区西賀茂地区など)で冬に製造して貯蔵させていた「氷」を、この日に御所に取り寄せ、口にして暑気を払ったそうです。
しかし、庶民にとって夏場の水はとても貴重なもの。氷はそれ以上に貴重で簡単に手にいれることはできませんでした。そこで、江戸時代の中頃、氷をかたどったお菓子が作られるようになり、宮中の風習をなぞらえるようになりました。それが水無月の始まりといわれています。その当時の人々の「夏の氷」に対する憧れが水無月には詰まっている、と言っても過言ではないのかもしれません。
今では、京都以外の地域でも販売される「水無月」。昔ながらの京都の味を、一度は召し上がっていただきたいものです。
中村軒のほど近くには、“宮内庁管轄の庭園の中で最も美しい”と評される、「桂離宮」があります。桂離宮へ訪れた際にも立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
■中村軒
【営業時間】7:30~18:00、茶店9:30~18:00(ラストオーダー17:45)
【定休日】水曜日(祝日は営業)
【電話】075-381-2650
【アクセス】市バス「桂離宮前」バス停から徒歩すぐ Google map
【公式ホームページ】http://www.nakamuraken.co.jp/
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文・写真:小倉夢桜 —Yume—
和菓子ライフデザイナー/ライター/フォトグラファー。京都五感処・京都Loversフォーラム代表。2012年よりホームページ『きょうの「和菓子の玉手箱」』を運営し、毎日京都の和菓子を紹介し続けている。現在は『月刊京都』(白川書院)で「月刊京都版・きょうの『和菓子の玉手箱』」を連載中。
【きょうの『和菓子の玉手箱』】http://kyoto-lovers-forum.com
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~みさごレポ~
ついに登場の「中村軒」さん! 「夏場の“かき氷”は必ず食べに行く!」というほど、「そう京」スタッフにもファンの多い和菓子店です♪
6月の和菓子としてご紹介いただいた「あじさい」。ひと目見た瞬間の感動といったら! きらきら光る錦玉が美しく、「これぞ京都の和菓子ですね♡」と、みんなでうっとりしてしまいました!
「水無月」は、京都の様々な和菓子店で作られていますが、さすが「小豆」の美味しさに定評のある中村軒製だけに、外郎生地に負けない存在感の小豆をいただくことができました! この夏を無事に乗り越える力が湧いてくるような、力強い味わいでしたよ♪
皆さまも、6月30日には京都の水無月をいただいてみてくださいね♪