能楽師の先生とぶらり京都あるき

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東向観音寺 『土蜘蛛』編


以前、京都のマチナカに遺る能や狂言の演目に登場するスポットをご案内いただいた金剛流能楽師の宇髙竜成(うだか たつしげ)先生。今回も演目ゆかりの地を案内していただくべく、「夏越の祓(なごしのはらえ)」が近づく北野天満宮で合流し、“あるお寺”へと行ってきました。

北野天満宮の一の鳥居からのびる参道の途中に、ひっそりと佇む東向観音寺(ひがしむきかんのんじ)Google map)。“天神さん”こと菅原道真とのゆかりも非常に濃く、ご本尊である秘仏・十一面観音菩薩は道真自らが刻んだものであると伝わるそう。境内にある土蜘蛛(つちぐも)塚が今回の目的地です。

特別に祠を開けていただきました!


特別な許可を得て、間近で撮影させていただきました


通常は立入禁止の区画にある土蜘蛛塚ですが、今回はお寺の方の許可を得て、特別に間近まで近づけることに。しかも祠の正面を開けていただきました!

(竜:宇髙竜成先生、カ:カツオ)
「『土蜘蛛』という人気の演目がありまして… そうですね、蜘蛛の糸を、ぱあっと投げる演目といえば分かって貰えますでしょうか」
「あ、壬生狂言とかでも演じられる?」
「そうです、それです。平安時代に、源頼光(みなもとのよりみつ・らいこう)という武将がいまして、病に伏せてしまいます。薬を服しても一向に回復する気配がない… そんな時、頼光の前に見知らぬ法師がやってきます。不審に思っていると、蜘蛛の化け物であることに気づき、刀を抜き戦います。抵抗する蜘蛛は、それこそスパイダーマンのように蜘蛛の糸を放ち頼光に立ち向かう… それが、あのワンシーンなんです」
「分かりやすい(笑)」

もともとは違う場所にあった土蜘蛛塚


特別な許可を得て、間近で撮影させていただきました

今でこそ東向観音寺の境内地にある土蜘蛛塚ですが、もとは別の場所にあったといいます。副住職の上村法玄(うえむら ほうげん)さんによると、もともとは東向観音寺から歩いて10分ほどの清和院(Google map)というお寺の門前にあったそう。明治時代になって、土地の開拓が進むうちに塚が崩され、そこから石塔(灯籠)が発見されます。その後、灯籠の持ち主は転々と変わるも、そろって家業が倒産してしまったのだとか・・・ 最終的に、土蜘蛛塚として東向観音寺に祀られることになりました。
ちょっと不気味な話にも聞こえますが、今ではこの塚の見学が目的で拝観に来られる方もいらっしゃるそう。災い転じて福となす・・・ といったところでしょうか。

土蜘蛛の“舞台裏”


左:面「顰(しかみ)」 右:蜘蛛の糸

「これは土蜘蛛を演じる時に使う面(おもて)で、顰(しかみ)と呼ばれるものです。『しかめっつら』と思ってもらえれば良いです」
「なるほど、おどろおどろしいですね…」
「今度、私が主催する公演『谷行(たにこう)』でもこれを使うんですよ」
「同じ面を別の演目に使い回すこともあるんですね~」
「そうそう、あとコレ。例の、ぱあっと投げる蜘蛛の糸です。いまでは『土蜘蛛』の上演には欠かせない小道具であり演出のひとつですが、実は我々の金剛流が作り出したものなんですよ! このテープのような白いストッパーをはずして投げれば、放射状に糸が広がる仕組みなんです」
「へえ~、この中に糸がまとめられているんですね。舞台裏を覗いてる感じ(笑) 」

街角の小さなお寺にも、興味深いお話がたくさん。今回も『能』を通して、奥深い京都の魅力に触れることができました。宇髙先生、ありがとうございました!!

そして、宣伝です(笑)


宇髙先生が主催する公演『谷行』が、6月30日(土)に金剛能楽堂で行われます。

「京都の今熊野(いまくまの)に住む山伏が、まだ幼い歳の弟子と修験道の聖地である葛城山へと修行に向かうのですが、その弟子は風邪にかかってしまい、修行の掟によって谷に投げ捨てられ・・・ という内容です。でも、結果的には“ハッピーエンド”で落ち着きます」
「なかなか凄い展開ですね・・・」
「今回は 、修験道の祖である役行者(えんのぎょうじゃ)に仕えた『鬼』の子孫の方と対談を行ったり、私の弟が蜘蛛役をする“土蜘蛛”を上演したり、盛りだくさんの内容です。是非この機会に能の世界に触れてみてください♪」



■第四回竜成の会 谷行
【開催日時】2018年6月30日(土)14:00~17:00頃(開場13:00)
【開催場所】金剛能楽堂 Google map
【上演番組】仕舞「土蜘蛛」、狂言「蟹山伏」、能「谷行」
【詳細情報】チケットの購入方法やチケット料金等は、「第四回竜成の会 谷行」特設ページよりご確認ください

⇒能のイロハからうんちく、“谷行”のあらすじなどを動画でご紹介。宇髙竜成先生(竜成の会)のYouTubeチャンネルはこちら

Written by. カツオ

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