京の職人とクラフト 1
さまざまな伝統工芸が息づく京都。職人の手による繊細な逸品は世界にひとつだけの宝物となり、旅の思い出になるおみやげにもピッタリですよね。でも、「もったいなくて使えない・・・」や「伝統工芸品は大人向け」、なかには「本当に職人さんが作ってるの?」という意見を聞くことも。
そこで、京都の伝統工芸の技に裏付けられながらも「普段使いにもってこい」で、「若い方にもおすすめ」をコンセプトとした“新しい時代のアイテム”をピックアップ! 工房を訪ね、どんな職人さんが、どんな場所で作っているのかをシリーズでお伝えしていきます。
型友禅の技術から生まれたNEWブランド「ケイコロール」!
今回ご紹介するのは、型友禅の技術から生まれたテキスタイルの新たなブランド「ケイコロール」。
“テキスタイル”とは、服飾やインテリアに使われる布地のこと。“型友禅”と聞くと古風な色柄を想像しそうですが、「ケイコロール」で作られるそれは、鮮やかかつポップなデザインが目を引きます。ステレオタイプな「伝統工芸」という印象を一新する作品は使う人を選ばず、今、注目のブランドです。
新ブランドは全国でも珍しい、“舞台衣裳”専門の工場で誕生!
山元染工場の工房内
この新ブランドを立ち上げたのは、新選組でおなじみの壬生寺の近くに工房を構える山元染工場。創業89年を迎えた歴史ある染工場で、全国でも珍しい、舞台やドラマ、映画の服飾といった舞台衣裳を専門に手がけています。
その衣裳は、京都南座や国民的テレビドラマ(名前を公表できないのが残念!)など、「え、あの作品にも!?」と驚くほど有名どころの作品で使われています。皆さまも、きっと知らず知らずのうちに、山元染工場で作られた衣裳を見ているはずです。
“舞台衣裳専門”だからこそ培われたスゴイ技術力
左上:着物の色柄見本、右上:膨大な数の染料、左下:古い型紙、右下:着物以外の製品
舞台衣裳は、作品に登場する人物がどの時代のどんな地位の人なのか、使用するのは舞台なのか映像なのかなど、さまざまな条件に合わせて制作しなければなりません。クライアントのニーズに合わせるには、必然的にたくさんの技術や手法が必要になってきます。
通常は、それぞれの専門職が分業して制作するのが一般的ですが、驚いたことに、山元染工場ではデザインから染め加工、仕立てまで一貫して行っているそう。
この、"あらゆる注文に対応できる力”こそが山元染工場という会社の凄さです。
「もったいない!」から“ケイコロール”が始まった
作業中の桂子さん
この、山元染工場の技術力の高さに真っ先に気づいたのが、「ケイコロール」の生みの親である山元桂子さんです。
桂子さん 「他社にはない独創的で高い技術力を持っているのに、それが当たり前すぎて本人たちがその凄さをわかっていなかったんです」
山元染工場に嫁いだ桂子さんが感じたのは、その“技術力”が外部に知られていないことに対する「もったいない!」という気持ちだったそう。「山元染工場の魅力を伝えたい」その想いがきっかけとなり、より多くの方に知ってもらう窓口として2016年春に誕生したのが、テキスタイルブランド「ケイコロール」です。
桂子さんは独特の色彩感覚をもつ職人さん
桂子さんの手がけるテキスタイルの特長は、なんと言ってもそのデザイン。色彩豊かな柄が絶妙なバランスで重なり合い、柄を見ただけで「あっ、ケイコロール」と分かるほど独創的なデザインです。この色柄はどうやって生まれるのでしょうか。
桂子さん 「ほとんどが即興です。布地に染めていく際に、色と柄のバランスを見ながら、その場の感覚で染めていきます。特に下絵を起こしたりはしていないですね」
計算され尽くした図面があるのではなく、すべては頭の中のイメージ次第。手に取る人を魅了してやまないのは、工業生産のプリントではなしえない、クラフトマンシップによる絶妙な色柄のバランスに心地よさを感じるからかもしれません。
10万もの型紙の中から生み出される模様の妙
天正柄の型紙
模様にも注目してみましょう。丸や三角、四角といった基本的なものから、ウニや魚などユニークなものまで、見ているだけでも楽しげです。これらの柄は桂子さんが作ったものなのでしょうか?
桂子さん 「ほとんどの柄は、工場内に残っていた古い型紙を利用しています。作品ごとに組み合わせを考えて選んでいるんですよ」
山元染工場には歴代の衣裳制作で使ってきた膨大な数の型紙が残っているそう。その数なんと10万枚以上。それらの型紙から柄をチョイスし組み合わせることで、このオリジナリティあふれるテキスタイルを作りあげているのです。
宏泰さん 「戦国時代に流行した天正柄(てんしょうがら)と呼ばれる和柄が多いのですが、今見てもまったく古さを感じないでしょ? 三角形は龍や蛇の鱗を表していて、ウニに見えるのは唐松葉ですね」
と、さまざまな柄の名前や意味を教えてくれたのは、桂子さんの旦那様である山元宏泰さん。なんと戦国時代とは! 時代を経ても色あせないデザインに昔の職人さんのセンスを感じます。そして、ウニじゃなくて“松”だったんですね・・・
ケイコロールのロゴ
宏泰さん 「私たちも“ウニ”と呼んでいますが、松です(笑) 彼女もお気に入りの柄で、ケイコロールのロゴにも使われていますよ」
確かに、ケイコロールのロゴをよく見ると、山元家に伝わる橘(たちばな)の紋に寄り添うように、唐松葉が染められていますね。ちなみに、ケイコロールの名前は桂子さんの「ケイコ」と反物の「ロール」を組み合わせた造語で、宏泰さんのアイデアだそう。ご夫婦の仲の良さを感じさせます♪
桂子さんの世界がカタチになる瞬間
特別に、型染の作業風景も見学させていただきました。動かないように板に固定した長さ約10メートルの生地へ、幅約50センチほどの型紙を置き、その上に色糊(いろのり)を駒ベラ(こまべら)を使って塗りつけていく。これを端から端まで順番に、1種類の柄が終わると別の型紙で別の柄を重ね、徐々に完成を目指します。
サッ、サッとリズミカルに染めていかれるので簡単そうですが、よく見ると1回1回、位置や角度を調整されています。きっと桂子さんの頭の中にある完成形に沿って、色と柄のバランスをとっているのでしょう。型紙を動かすたびに徐々に顔を出すテキスタイルは、布の上で模様が踊っているかのような軽やかなデザイン。今から完成が楽しみですね♪
個性を生む手染めの“味”を楽しむ
“かすれ”や“にじみ”も作品の個性
制作中の作品を見ていると、色が薄かったり、かすれた箇所に気がつきました。でも、“それが良い”。「あって当たり前」と感じるような、作品の味になっているのはなぜでしょう?
宏泰さん 「色のかすれは、手染めだからどうしても起こってしまいます。それが作品の個性を作り、手作りの面白いところでもあります。彼女の場合は、デザインとして、わざとそうしている場合もあるそうですが」
と、桂子さんの作業を見学しながら宏泰さんが教えてくれました。手染めのむらを失敗とするのではなく、唯一無二の個性としてデザインに昇華する手法に感動です。
気分を盛り上げる、ケイコロールのアイテムたち
あずまトートと、大小さまざまなポーチ
最後に気になるケイコロール作品を見せていただきました。「テキスタイルブランドなんだから、反物だけ?」と思った皆さま、ご安心ください! そのまま肩に掛けて出かけたくなるようなあずまトートバック(5,940円)や、旅の小物入れにも最適なポーチ(1,728円~)など普段使いできるアイテムがいっぱいです。軽やかなデザインは、持っているだけで気分を盛り上げてくれそうですね♪
トートバッグと手ぬぐい
「男が持つにはちょっと可愛すぎる・・・」とお考えの方には手ぬぐい(1,836円)はいかがでしょう。かく言う私もスポーツや野外活動の際に頭に巻くことが多く、マイ手ぬぐいとして使っています。ハンドメイドだからこそ確実に他人とかぶらない、かつ、おしゃれなのでおすすめです!
ワークショップも開催予定!
左:山元宏泰さん、右:山元桂子さん
これまでは、大手セレクトショップだけで期間限定でしか手に入りませんでしたが、ファンも多くなり販売箇所が続々と増えてきています。なんと東京のビームス ジャパンにも出品されているそうです。
そして耳より情報が。山元染工場ではこれからワークショップをされる予定だそう。現在8月と9月に開催予定ですので、京都へ旅行をお考えの皆さまは、ぜひ参加してみてください!
オンラインショップや工房でのショップ開設も予定され、ますます注目のブランド。ワークショップの詳細と合わせて、気になる方は最新情報を公開しているケイコロールのインスタグラムをチェックしてくださいね。
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話題の新ブランド「ケイコロール」、いかがだったでしょうか。京都には素敵な職人さんが手がける魅惑のクラフトがまだまだいっぱいあります。今後もスタッフいち押しの工房を訪ね、紹介していきますので、どうぞお楽しみに♪
■ケイコロール(山元染工場)
【公式ホームページ】https://www.keikoroll.com/
※ワークショップや販売状況については、ケイコロールのホームページからお問い合わせください。
【公式インスタグラム】https://www.instagram.com/keikoroll_kyoto