
千本ゑんま堂[引接寺]
伝説や怪談など不思議な話が数多く伝わる、京都。この世ならざる世界「異界・魔界」への入り口も、町のそこかしこに口を開けています・・・!?
今回はそんな“京都の異界スポット”の中から、お盆の時季らしい、“あの世”とのつながりが深い場所をピックアップしてみました。京の風習に触れながら、ご先祖様や亡き方に想いをはせてみてくださいね。
“あの世とこの世をつなぐ”、最も有名なスポット
六道珍皇寺

平安京の時代、京の都のはずれには、死者を葬るための葬送地がありました。大方の遺体は埋葬も火葬もされず、野ざらしのまま風化を待っていたという無常所。その最も有名な場所が、「鳥辺野(とりべの)」。鴨川の東方、北は五条から南は今熊野まで、かなり広大な地域を占めていたといいます。
その死者の世界としてあった鳥辺野のあの世と、生者の世界である現世の境目とされたのが「六道の辻」。その辻に位置するお寺が、六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)です。

京都のお盆行事として知られる「六道まいり」は、お盆が始まる前の8月7日から10日に、ご先祖様の霊「お精霊(しょらい)さん」を六道珍皇寺にお迎えに詣でる、というもの。平安の昔、死者が旅立った「六道の辻」は、甦りの場でもあり、必ずこの辻を通りご先祖様は帰ってくると考えられていました。また、“十萬億土の冥土まで響く”と古来より伝わる「迎え鐘」は、先祖の霊をこの世に呼び戻す梵鐘と伝わっています。
“あの世”と“この世”をつなぐ場所。平安時代の高官で神通力の持ち主とされる異能の人・小野篁(おののたかむら)は、本堂裏庭にある「冥途通いの井戸」から夜な夜な冥界の閻魔府に通っていたと伝えられます。
■六道まいり
【日程】2019年8月7日(水)~10日(土)
6:00~22:00 ※10日は21:00まで
【料金】境内無料 ※期間中は堂内・庭園などの拝観不可
【場所】六道珍皇寺 詳細情報はこちら
【問合せ】075-561-4129
【公式ホームページ】http://www.rokudou.jp/
「六道まいり」の期間中には、特別御朱印の授与も。詳細情報はこちら。
⇒【京さんぽ】妖怪に閻魔大王!? 京都・夏の限定御朱印 2019
六道珍皇寺の住職・坂井田興道さんにお話を聞いています。
⇒「六道まいりとお盆の心」
人々の代わりに地獄の責め苦を受けるお地蔵様
矢田寺(矢田地蔵尊)

お盆が終わり、あの世へと帰られるご先祖様の霊。8月16日には、寺町三条にある矢田寺で、死者の霊を迷わず冥途へと送る「送り鐘」の音が響き渡ります。
ご本尊の地蔵菩薩は、開山の満慶上人が冥途へ行き、そこで出会った地蔵尊の姿を彫らせたものといわれます。上人を冥途へと誘ったのは、小野篁。不安や悩みに苦しむ閻魔大王に「菩薩戒(ぼさつかい)」を授けてほしいと、上人にお願いしたといいます。その際に、上人が地獄で出会ったのが、人々の代わりに地獄の業火を浴びていた地蔵菩薩であり、その姿を映しとったご本尊は「代受苦地蔵(だいじゅくじぞう)」として信仰を集めています。

『矢田寺縁起』を元にした絵馬、ぬいぐるみ地蔵さん(右上)、期間限定御朱印(右下 ※写真は2018年の御朱印です)
あの怖い閻魔様が不安や悩みを抱えていたということに、ほほえましくなってしまうようなエピソード。ご住職夫妻が手作りされるぬいぐるみ地蔵さん(800円)は、お地蔵様の慈悲深い心を表すように、柔和な笑顔をされています。8月14日(水)から17日(土)までは期間限定の御朱印(4種類)も授与されるとのこと。にっこり笑顔のお地蔵様が、ほほえんでいらっしゃいますよ♪
■矢田寺(矢田地蔵尊)
【拝観時間】8:00~19:00
【拝観料】境内無料
【電話】075-241-3608
【アクセス】地下鉄東西線「京都市役所前駅」から徒歩約3分、市バス「河原町三条」バス停から徒歩約3分 Google map
人々に寄り添う閻魔大王を身近に感じられる場所
千本ゑんま堂[引接寺]

塔婆流しの池
古の京の葬送地のひとつ「蓮台野(れんだいの)」は、平安京の北を守る船岡山の北西あたり。その入り口に位置する千本ゑんま堂[引接寺(いんじょうじ)]は、“死者に引導を渡すお寺”として知られています。
このお寺を建立したと伝わるのが、またも、小野篁。京都の異界のあらゆるところに姿を現す異才の超人は、閻魔大王より授かった「精霊迎えの法」の根本道場としてこの地を定め、自ら刻んだ閻魔像を祀り祠を建てたといわれています。像は応仁の乱の兵火により焼失、現在の像は長享2年(1488)に再現・安置されました。

本尊閻魔法王、司命尊(右)、司録尊(左)
閻魔様は、“怖い顔で人々を地獄に落とす”と思われがちですが、本当は、人々が地獄に行かないように、怖い顔で戒めてくださっているのだとか。8月7日から15日までの「お精霊迎え」、16日の「お精霊送り」は地域に根ざした行事。亡き人の戒名を書いた「水塔婆」を、本堂裏の池に流すことで、先祖の霊を供養します。宗派は問われないとのこと。閻魔さまの慈悲に触れながらお参りをされてみてはいかがでしょうか。
■千本ゑんま堂 お精霊迎え・送り
【日程】2019年8月7日(水)~16日(金)
9:00~20:00(16日は18:00まで)
【料金】境内無料、塔婆料300円
【場所】千本ゑんま堂[引接寺] 詳細情報はこちら
【問合せ】075-462-3332
【公式ホームページ】http://yenmado.blogspot.jp/
都の境に祀られた、六体の地蔵尊
京の六地蔵めぐり

上善寺
京の都にとって、その外に広がる世界は、いわば、“異界”。京へ出入りする、かつての街道口には6体の地蔵が祀られ、毎年8月22日・23日に「六地蔵めぐり」が行われています。これは、地蔵菩薩の縁日に6つの寺院で6つのお幡(はた)を授かり家の玄関先につるすと、家内安全・無病息災・家運繁栄のご利益が授かれるとされる行事。京の夏の終わりを告げる風物詩としても知られています。
この6体のお地蔵様を刻んだのも、小野篁と伝わります。篁がひとりの僧と地獄で出会い、「私は地蔵菩薩であり、より多くの人々を救うため自らの姿を刻んでほしい」と頼まれ、この世に帰った後その約束をかなえるため、1本の桜の木から6体の地蔵像を刻んだのだとか。

大善寺
平安後期、この像が疫病退散のため街道の入り口6か所に祀られ、室町時代になると、6体の地蔵を巡拝し無病息災を祈願する「六地蔵まいり」の風習がはじまったといわれています。“異界”との出入り口を守る、“異界”のお地蔵様。今もたくさんの方が巡拝に訪れています。
■京の六地蔵めぐり
【日程】2019年8月22日(木)・23日(金)
【料金】お幡代各300円
【場所】大善寺・浄禅寺・地蔵寺・源光寺・上善寺・徳林庵
【問合せ】075-583-0353(徳林庵)
名も無き霊のため、響き渡る念仏の声
あだし野念仏寺

鳥辺野、蓮台野と並ぶ平安京の“三大風葬地”が、嵐山のさらに奥、奥嵯峨の地にある「化野(あだしの)」です。この地に最初にお寺を建立したのは弘法大師。無数の野ざらしにされた遺体を不憫に思い、「五智山如来寺」を開創。その後、法然上人により浄土宗の念仏道場となり、現在の「あだし野念仏寺」の元となりました。

化野の山野に散乱、埋没していた無数の無縁仏を掘り出し、「西院(さい)の河原」として祀ったのは、明治時代中期のこと。毎年8月23日・24日には「千灯供養」が行われ、数千体の無縁仏にろうそくの灯りが捧げられます。また、23日から25日までは「愛宕古道街道灯し(あたごふるみちかいどうとぼし)」も行われ、奥嵯峨一帯が幽玄な雰囲気に包み込まれます。
■あだし野念仏寺千灯供養
【日程】2019年8月23日(金)・24日(土)
17:30~20:30(灯明は18:00~、閉門21:00)
【料金】1,000円(行事協力維持料、ろうそく・パンフレット込み)
【場所】あだし野念仏寺 詳細情報はこちら
【問合せ】075-861-2221
【公式ホームページ】http://www.nenbutsuji.jp/
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“この世”に故人が帰ってくるとされるお盆は、生者と亡者の世界が近くなるとき。ご先祖様の霊とはいえ、子どもの頃にはとても怖かったことを思い出します・・・ 最近では、各家でお盆のお祀りをされる方も少なくなっているでしょうか。京に残る風習を通じて、先人たちを偲ぶひとときを過ごしてみてくださいね。