知って彫る、彫って知る「お地蔵さま」の世界。

  • 体験

京都の町を歩くと、さまざまな場所でお地蔵さまに出会います。お寺はもちろん、町家が並ぶ路地、マンションやビルの一角、飲食店の軒先など。日常の風景に溶け込みながら当たり前にそこにいらっしゃいます。 子どもたちを守ってくれる“お地蔵さん”として親しまれ、特に8月は、盂蘭盆(うらぼん)会や、20日前後に行われる「地蔵盆」、22日・23日の「京の六地蔵めぐり」といった行事もあり、いつもより身近にお地蔵さまを感じられます。

でも、そもそも“お地蔵さま”ってどんな方なのでしょうか。京都のお地蔵さまについて調べるとともに、さらにお地蔵さまのことを知るべく、お寺での1日彫刻教室にも参加してみました。晩夏のひととき、お地蔵さまに思いをめぐらしてみましょう♪

※2019年8月掲載の記事を改訂しました。
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、京都旅行の際は、政府およびお住まいの都道府県と京都府の要請をご確認ください。京都にお越しの際は、マスクの着用・手指のアルコール消毒など、感染拡大防止の徹底にご協力をお願いいたします。日々、状況は変化しておりますので、事前に最新情報をご確認ください。

【“知る”お地蔵さん】
あの世でもこの世でも人々に寄り添う、スーパーヒーロー

お地蔵さまの正式なお名前は、「地蔵菩薩」。仏のいない時代に人々を救うために現れた、まるで物語に出てくる“正義の味方”。“衆生を救うスーパーヒーロー”であるのが、お地蔵さまです。

壬生寺 延命地蔵菩薩立像(重要文化財)※通常非公開

壬生寺 延命地蔵菩薩立像(重要文化財)※通常非公開

苦行の末に悟りを開き“如来”となったお釈迦様。そのお釈迦様が入滅され、次に如来となられるのは、後継者である弥勒(みろく)菩薩。でも、弥勒が如来となるのは56億7000万年後のこと・・・ それまでの期間は“無仏”の時代、仏教語で“五濁悪世(ごじょくあくせ)”と呼ばれる、苦しみの多い世の中で、まさに“今”がその時代とされています。

釈迦も弥勒もいない、この世の中を救うために現れたのが、「地蔵菩薩」です。

矢田寺の絵馬

矢田寺の絵馬

剃髪した僧侶の姿をし、苦しむ人々を救うためなら、地獄であろうとどこにでも足を運んでくれるお地蔵さまへの信仰は、平安末期に流行した「末法思想」とともに広がり、権力や財力に限らず衆生を救う存在として、日本中で信仰されるようになりました。
賽の河原で石を積む子どもたちに寄り添い、餓鬼道に落ちて苦しむ人々に救いの水を与え、現世でも、子どもたちの成長を見守ったり、苦しみの身代わりとなったり。救いを求める心のそばには、いつもお地蔵さまがいらっしゃいます。

京都の主なお地蔵さまスポット

■壬生寺 延命地蔵菩薩を本尊とする地蔵信仰のお寺。毎年節分と春秋に行われる壬生狂言にもお地蔵さまが登場します。
■矢田寺 地蔵菩薩立像を本尊とし、人々の苦しみを代わりに受けてくださる「代受苦地蔵」として信仰されています。
■釘抜地蔵[石像寺] 弘法大師が刻んだという石造地蔵菩薩像が安置されます。
■地蔵院[竹の寺] 伝教大師作と伝わる、延命安産の地蔵菩薩を本尊とします。
■三千院 往生極楽院前の「わらべ地蔵の庭」をはじめ、境内の至る所にかわいいお地蔵さまがいらっしゃいます♪

【“彫る”お地蔵さん】
阿弥陀如来の前でお地蔵さんを彫る、超レア体験!

龍岸寺本堂

龍岸寺本堂

“知るお地蔵さま”の次は、“彫るお地蔵さま”。いま、自分の手でお地蔵さまを彫る体験が人気を集めています!

その体験ができるのが、京都駅からほど近い場所にある龍岸寺(りゅうがんじ)。奇数月の第2火曜日に「1日仏像彫刻教室」(要予約)を実施されていて、1日で「木のわらべ地蔵」を彫ることができます。

実際に体験すべくお寺に伺うと、本堂には机が用意され彫刻刀がずらり。彫刻教室の定員は各回10名。今回はスタッフ2名で受講しました。教えてくださるのは、いま話題の仏師・三浦耀山(ようざん)さんです。

Twitterや、ポップに仏具界隈を盛り上げる「佛佛部」の活動で大人気♪

三浦さんは、京都御苑の西側にある工房「土御門仏所」にて、仏像彫刻や修復などに勤しんでおられます。従来の枠にとらわれない自由な発想のアイデアマンで、2018年に龍岸寺で開催された『超十夜祭』では、阿弥陀様の「来迎(らいごう)」を体感できる“ドローン仏さま”を手がけられました。

ドローン仏さま(2021年7月19日開催『祈りを形にする秘技~仏具職人の仏ッ飛んだ世界を大公開~』での一場面)

ドローン仏さま(2021年7月19日開催『祈りを形にする秘技~仏具職人の仏ッ飛んだ世界を大公開~』での一場面)

最近では、ご自身のTwitterでの配信が爆発的な人気に。また、仏具職人による部活動「佛佛部」のライブ配信が話題となるなど、新しいファン層を獲得。今後の動向も気になる、人気の仏師さんです。

彫刻スタート! 基本は「丸く」。

「一から削るのでは時間がかかるので」ということで、三浦さんがあらかじめ粗削りをし、下絵を入れた状態から体験スタート。素材は、木曽ヒノキ。持っているだけでも良い香りが漂ってきて、ヒーリング効果も抜群です♪

「彫刻刀なんて、小学校以来触っていない・・・」
という方もご安心を。三浦さんが持ち方から丁寧に教えてくださるので、ぎこちない手つきでもなんとか彫り進められます。

削ります。

削ります。

まずは、基本となる小刀型の印刀を持ち、頭の部分から削り始めます。

三浦さん 「仏像の基本は“丸”。丸が重なって像の形が作られているので、常に丸を意識してください」

削ることによりどうしても角が出ます。この角を丹念に削り取り、頭を丸めていきます。

左右を見比べると、角のある・なしがわかります。触り心地もずいぶん違います。

左右を見比べると、角のある・なしがわかります。触り心地もずいぶん違います。

ショリショリ・・・

ショリショリ・・・

身体部分は凹凸が難しい!

頭をある程度丸めたら、次は目や鼻を彫り、開始から2時間ほどで合掌した手を削るところまで進みました。深く彫りながら立体的なくぼみを作るのが難しく、四苦八苦・・・ でも一心不乱に彫る作業が楽しくもなってきます。彫刻刀も、印刀から平刀、丸刀と持ち替えて、少しずつ削り方も慣れてきました。

さらに難所の、足の指。小さい丸刀で指の筋を入れますが、力加減が難しい・・・ でも、「彫れない!」「彫りすぎた!」というときには、すぐに三浦さんが手を差し伸べてくださいます。

常にサポートしてくださるおかげで、安心して作業を進められます。

常にサポートしてくださるおかげで、安心して作業を進められます。

必死に彫り進めて、ようやく工程を完了!

10時から、お昼休憩をはさみ16時頃まで。約5時間でかわいらしいわらべ地蔵さんが彫りあがりました♪ 左側が私が彫ったお地蔵さま。右側は一緒に体験をしたスタッフが彫ったお地蔵さま。同時に進めていても、やはり個性がでるようで、顔やたたずまいが違うお地蔵さまに仕上がりました。

右から左へ、お地蔵さまの制作工程。(この体験では2番目→3番目の工程を彫りました)

右から左へ、お地蔵さまの制作工程。(この体験では2番目→3番目の工程を彫りました)

「できあがり」とはいえ、完成ではありません。体験はこれにて終了ですが、家に帰っても彫刻刀さえあれば、土台を蓮にしたり、さらになめらかな仕上がりを目指したり、まだまだできることはあります。写真左端のお地蔵さまはつややかに光っていらっしゃいますが、やすりなどは使わず、彫りだけでこの“なめらかさ”を出しているのだそう。すごい!

仏像を彫ってみると、仏さまの見方が変わります。

三浦さん制作の「ガチャ仏さま」原型

三浦さん制作の「ガチャ仏さま」原型

三浦さんに教えていただきながら、お顔が丸くなるように、なめらかになるように、お地蔵さまらしく柔和な表情になるように・・・ と彫っていると、「そうか、お地蔵さまは優しい表情をされているんだな」と改めて気づきました。お地蔵さまの目を少し深く彫りすぎたら陰影ができ、ちょっと怖いお顔になってしまったのですが、これではお地蔵さまらしくないと感じられます。

三浦さん 「優しい表情には影が入りません。不動明王は険しいお顔なので、彫りもはっきりとしていますよね。仏師が彫るときも、表情には一番気を使っています」

仏さまを彫るときには仏さまの性格にあわせて表情も変える。不動明王であれば怒りの怖い形相になり、阿弥陀如来であれば穏やかな表情に、そしてお地蔵さまは優しいお顔に。
「仏師はどのような思いでこの仏さまを彫ったのか」。
仏さまをお参りする際にも、仏さまのお顔を見ながらそう考えてみると、新たな発見ができそうですね!

*****
この教室では1日でできる「わらべ地蔵」のほか、今後は仏具職人さんの技を結集した「念持仏造立教室」も予定されているそう。どうぞご注目ください♪
■仏師・三浦耀山 1日仏像彫刻教室
【日程】奇数月・第2火曜日 10:00~16:00
※要予約。公式ホームページからご予約ください。
※満席の場合には、次回開催をお待ちください。
【場所】龍岸寺 Google map
【料金】おとな1名12,000円
【定員】10名
【仏像彫刻教室公式ホームページ】https://ryuganji.jp/events/categories/sculpture-class/
【土御門仏所公式ホームページ】https://miurabutsuzo.com/about/
※掲載内容は2021年8月20日時点の情報です。最新情報は掲載先へご確認ください。

Written by. みさご

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