京都の気になる宿泊事情 3
京都ではここ数年宿泊施設が増え続けていて、ホテルだけでなく民家型の簡易宿泊所も続々オープン。たくさんの宿泊施設が誕生することにより選択肢が広がり、自分の好みや目的に合わせてその日の宿を選ぶ楽しさが生まれています。
今回ご紹介するのは、京都らしい「町家」の宿。ロケーションや内装にこだわる宿や、伝統的な町家でありながら現代的な暮らしやすさを実現している宿に注目しました。ひとつは、上質な町家ステイを提案する「葵 KYOTO STAY」。もうひとつは、“町家の維持や保存”にも意識の高い「藏や」です。次の京都旅は、憧れの京町家に泊まってみませんか♪
※料金は時季・宿泊人数によって変動します。詳細は各公式ホームページにてご確認ください。
■お宿紹介■
【葵 KYOTO STAY】暮らすように“上質な”京都を感じる
「葵 KYOTO STAY」は、公認会計士を務めるオーナーが京都の文化に魅了され、「京都や日本をより深く感じられる一棟貸しの町家ステイを実現したい」と、2011年から宿泊事業を展開されています。現在では京都市内で7棟の町家宿を運営。また「葵 HOTEL KYOTO」として2棟のホテルも営業中です。
その特長は、「上質さ」。各町家には、アンティーク好きのオーナーが各地から集めた骨董品や美術品が設えられ、ラグジュアリーな空間を体験できます。京都のみならず、日本、そしてアジア的な雰囲気もあり、グローバルな空気を感じることができますよ。
[葵 鴨川邸]鴨川を望む開放的な京町家
「葵 KYOTO STAY」の第一号宿にして、一番人気の宿。鴨川沿いに位置し、“川床”のように張り出したテラスから東山の山なみが望めます。お部屋のなかでは「祇園祭礼図」がお出迎え。テラスに続く居間には、李朝の箪笥など骨董品が並びます。
テラス
2階寝室
2階の寝室からも鴨川や東山が一望でき、昼も夜も、のんびりと京都を満喫できますよ。
■葵 鴨川邸
【利用人数】2~5名
【料金】1泊1棟あたり61,200円~ ※時季によって変動します。
【電話】075-354-7770
【アクセス】市バス「河原町松原」バス停から徒歩約3分、阪急京都線「河原町駅」から徒歩約15分 Google map
【公式ホームページ】https://www.kyoto-stay.jp/list/kamogawa/
[葵 仏光寺橋]木屋町通と高瀬川がすぐ目の前に!
2017年にオープンした、高瀬川沿いに位置する風情のある宿。川沿いの窓は大きく開放的で、目の前には桜並木。春の桜、秋の紅葉はもちろん、夏にはせせらぎが清々しく、四季折々の京都らしい風景を楽しめます。
2階寝室
こちらの良さは、なんといっても「利便性」。祇園や四条河原町など繁華街に近いロケーションで使い勝手がよく、室内もモダンで清潔・快適な空間。長期ステイしやすい、滞在性の高い宿となっています。
■葵 仏光寺橋
【利用人数】2~5名
【料金】1泊1棟あたり56,400円~ ※時季によって変動します。
【電話】075-354-7770
【アクセス】市バス「四条河原町」バス停・阪急京都線「河原町駅」から徒歩約8分 Google map
【公式ホームページ】https://www.kyoto-stay.jp/list/bukkojibashi/
【藏や】“古き良き町家”で快適な滞在を実現!
「藏や」は、2015年から京都で町家宿泊事業をスタートし、2019年現在、京都市内に8棟の町家旅館を運営されています。その特長は、「築100年前後の伝統的な町家をフルリノベーションした、一棟貸し・一日一組限定の宿」であること。空き家や老朽化した町家を、古い柱や扉、梁などをそのままに、現代的な暮らしに合うようにリノベーションされています。
[藏や 聚楽第]泊まりながら町家について学べる“ミュージアム宿”
一棟貸しの町家旅館「聚楽第」は、明治42年(1909)に建てられた110年の歴史を持つ町家を改装した宿。2017年にオープンし、北棟と南棟の2棟からなります。宿のある千本丸太町付近は、かつて平安京の大極殿があったとされ、安土桃山時代には豊臣秀吉が「聚楽第(じゅらくてい・じゅらくだい)」を建てたという、京都の重層的な歴史を感じられる場所です。
玄関を入ると三和土(たたき)の土間。キッチンは、昔ながらの吹き抜けの火袋(ひぶくろ、台所の上部空間のこと)を遺しています。
(左上)風呂(右上)居間(左下)2階の土壁(右下)2階寝室
キッチンの奥にあるお風呂は、大理石のタイルに檜の木枠。なんと、窓からは坪庭が眺められます! 1階の居間には京漆器の作家・田中浩史さんが手がけた大机があり、坪庭へと続く縁側もどこか懐かしい雰囲気が。
特筆すべきは、2階の土壁。土壁を構成する「竹子舞(細く割いた竹で組んだ下地)」「荒土壁(下塗り)」「中塗壁(仕上げの上塗のひとつ前の段階)」が見られるデザインとなっています。町家の構造を知りながら宿泊できる、まるで“町家ミュージアム”のような宿です♪
■藏や 聚楽第
【利用人数】北棟2~8名、南棟2~8名
【料金】1泊1棟あたり29,600円~ ※時季によって変動します。
【電話】075-353-4440(9:00~18:00、京都駅前サテライトオフィス i-Satellite)
【アクセス】市バス「千本丸太町」バス停から徒歩約3分、JR山陰本線(嵯峨野線)「二条駅」から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】http://www.machiya-stay.co.jp/accommodations/jyurakudai/
そもそもですが、「町家に泊まる」とは?
「藏や 聚楽第」外観
ところで、皆さまは「町家に泊まる」ことにどんなイメージがあるでしょうか? 一時期の雨後の筍のような“簡易宿泊所オープンラッシュ”により、「町家宿泊所」と聞くと「どうもいいイメージがない・・・」という方も多いかもしれません。もちろん多くの宿泊施設は、旅館業の営業許可を受けて営業されているのですが、違法な「民泊」による近隣トラブルが社会問題にもなり、“観光公害”というワードも生まれてしまいました。
※京都市では民泊通報・相談窓口を設けています。詳しくはこちら。
けれど、今回取材をした「藏や」の代表取締役社長・秦強(はた つよし)さんと女将の中村さんにお話を伺ってみると、「“町家宿泊所”と一括りのイメージを持つことで、見えなくなっているものがあるのでは?」と感じました。
「町家」を守るために、町家を宿にする。
「藏や」は、空き家や老朽化した町家を、古い柱や扉、梁などをそのままにリノベーションし、本来の京町家の構造は維持しながら、伝統的な暮らしを体感できるような宿に仕上げています。
なるべく古いものをそのままに活かすことにこだわるのは、「京町家を遺したい」という思いから。「京都の町には、やっぱり京町家が必要なんです」と秦さん。
藏や 大宮島原
古くなった町家は維持することも管理することも難しくなり、オーナーさんには手に負えなくなってしまうことがあります。空き家であればなおさら・・・ そのために手放したり壊すことによって、段々と古い町家はその姿を消していきます。でも、それは苦渋の選択であり、本当は「遺したい・守りたい」と誰しも思っています。でも、現実には個人の力では難しい・・・ 「そのためにできることを」と考えたとき、「藏や」に関わる人々は、町家を宿屋として生まれ変わらせることに活路を見いだしたそうです。
「藏や」の女将を務める中村さん
たとえば、「藏や」が最初に手がけた「清水五条」は、清水焼の陶芸家・小川家が、明治後期から使用していた店舗を改装し、2014年12月に宿泊施設として再生しました。「大宮島原」の宿は、元々は西本願寺に銘菓「松風」を納めていた菓子店・音羽屋であり、2012年に廃業した後、2015年に町家旅館となることにより、300年以上にわたるお店の歴史を今に遺すことになりました。
各家が持つ歴史を、歴史ごと遺す。そのために以前の建築構造を踏襲し、柱や梁も利用できるものはそのままに利用する。だからこそ、宿泊する人は“その家が持つ歴史”を泊まることにより追体験できる・・・ 「藏や」の目指す町家旅館は、歴史を伝える“宿泊できるミュージアム”なのだそうです。
空き家や古家問題は京都に限った問題ではありませんが、京都の中ではじまっている「町家が宿に生まれ変わり、宿泊客が宿に泊まることで町家がある景観が守られる」という流れが軌道に乗るのであれば・・・ 旅行者にとっては、より旅が有意義なものとなるのではないでしょうか。
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実際に町家宿泊施設を取材してみると、「なんて素敵!」と、京都に住んでいても泊まりに行きたくなるところばかりでした。特色ある町家宿が増えていますので、ぜひ皆さまも利用してみてくださいね♪