「宇治茶」の歴史を知る。京都「福寿園茶問屋ストリート」

  • お買い物
  • 知る・学ぶ

京都のミュージアム探訪 4

京都には大小さまざまなミュージアムがあり、まだまだ知られざるスポットもあります。今回訪ねたのは、京都府の南部、奈良県との県境に位置する木津川市。ここに、ペットボトルの茶飲料『伊右衛門』シリーズでおなじみ、「福寿園」の資料館があります。その名も、「福寿園茶問屋ストリート」。どんな資料館なのか、訪ねてみました。
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、京都旅行の際は、政府およびお住まいの都道府県と京都府の要請をご確認ください。京都にお越しの際は、マスクの着用・手指のアルコール消毒など、感染拡大防止の徹底にご協力をお願いいたします。日々、状況は変化しておりますので、事前に最新情報をご確認ください。

日本茶ブランドとして名高い「福寿園」とは?

2021年4月6日に登場した「伊右衛門 京都ブレンド」。 ほうじ茶や番茶、和紅茶をベースとした優しい味わい。

2021年4月6日に登場した「伊右衛門 京都ブレンド」。 ほうじ茶や番茶、和紅茶をベースとした優しい味わい。

「福寿園」といえば、まず思い浮かぶのはサントリーとのコラボレーション商品『伊右衛門』シリーズ。“急須で淹れたようなお茶”をコンセプトに2004年に登場すると、旨味甘味のある味わいで人気を博し、2020年4月には“茶葉本来の透き通った緑色とお茶らしい味わい”に完全リニューアル。現在までペットボトル茶飲料の大人気シリーズとなっています。

「伊右衛門」の名の由来となったのが、福寿園創業者の福井伊右衛門。寛政2年(1790)に「茶商」として商売をはじめ、その創業の地が、山城国上狛(かみこま)。現在の京都府木津川市山城町上狛で、今も本社・工場が置かれています。

爾来、茶商・製茶問屋として商いを続け、「一人でも多くの人においしい宇治茶を飲んでもらいたい」という精神で、現在では様々な店舗・施設も運営。宇治茶文化の発展に寄与されています。
  • 「茶寮FUKUCHA」の新メニュー「トラディショナルティーペアリングセット」1,650円

    「茶寮FUKUCHA」の新メニュー「トラディショナルティーペアリングセット」1,650円

  • 京都本店2階の「茶寮FUKUCHA四条店」は2021年4月20日(火)にオープン。

    京都本店2階の「茶寮FUKUCHA四条店」は2021年4月20日(火)にオープン。

■京都市内
四条通に面した「京都本店」は、地下1階地上9階のビルの中に、“京の王朝文化と宇治茶文化を結合”することを目的としたショップなどを展開。3階はお茶を使ったフレンチレストラン。2階には、2021年4月20日(火)に、宇治茶とスイーツのペアリングが楽しめる「茶寮FUKUCHA四条店」が2号店としてオープン。1号店は京都駅構内にあります。
⇒京都本店の公式ホームページはこちら
⇒FUKUCHAの公式ホームページはこちら

■宇治市内
お茶づくり体験などができる「宇治茶工房」、テイクアウトもできるカップティーやソフトクリームのほか店内飲食もできる「宇治喫茶館」、宇治茶のお菓子などを製造販売する「宇治茶菓子工房」の3軒が宇治川沿いで営業中。
⇒公式ホームページはこちら

■木津川市内
茶園に囲まれた施設「CHA遊学パーク」では、石臼で抹茶を挽いたり、茶摘み(季節限定)、世界の茶文化など、様々な体験ができます。
⇒公式ホームページはこちら

福寿園本社・工場のある「上狛」は、「宇治茶」の集積地

京都各地に展開されている福寿園ですが、今回訪ねたのは“創業の地”。京都駅からJR奈良線に乗って南へ1時間弱。「上狛駅」から徒歩10分ほどのところに、福寿園の本社・工場があります。2017年に「茶問屋ストリート」として整備され、資料館も拡充。不定休にはなりますが、一般に公開されています。

このエリアには、茶問屋や製茶場が軒を連ね、30軒ほどが現存。歩いているだけでもお茶のいい香りが漂ってきます。風情ある街並みを眺めながら少し歩けば、すぐに木津川の堤防に出ます。

でも・・・ 宇治茶といえば宇治市で生産されているように思いますが、どうして宇治から遠く離れたこの場所に、たくさんの茶問屋や製茶場があるのでしょうか?
  • 2004年に建立された「山城茶業之碑」。

    2004年に建立された「山城茶業之碑」。

  • 裏側には、茶業関連の会社が名前を連ねます。

    裏側には、茶業関連の会社が名前を連ねます。

それは、この地が“宇治茶の集積地”であったから。

“「宇治茶」は宇治で栽培したお茶”と思われがちですが、実は少し違います。宇治エリアを中心に、奈良や滋賀・三重県など歴史上関りが深い周辺地域でも栽培され、京都府内で宇治茶として仕上・加工した茶葉が、「宇治茶」と呼ばれます。

八十八夜を前にした茶の木。新芽がいっぱい。

八十八夜を前にした茶の木。新芽がいっぱい。

なかでも、宇治茶の主力産地となっているのが、京都府南部、和束(わづか)町をはじめとした南山城エリア。温暖な気候と豊かな土壌、適度な湿気が良質な茶葉を育て、高級茶葉として宇治茶ブランドを支えています。

上狛は、大和街道と伊賀街道が交差する交通の要地に位置し、大阪・神戸へ至る木津川の水運の拠点として重要な場所でした。昭和初期までは、このエリアの茶葉が上狛に集まり、一度ここで選別・加工精製された後、大阪や神戸へと運ばれていきました。明治期には生糸とともに海外輸出の花形産業となり、大正から昭和にかけては国内消費用として茶葉の需要が高まったことで、福寿園をはじめ多くの茶商・茶問屋がこの地に集まったのだそう。

木津川にかかる泉大橋から西を眺める。右手が茶問屋ストリート付近。

木津川にかかる泉大橋から西を眺める。右手が茶問屋ストリート付近。

宇治市内にもたくさんの茶問屋が並びますが、ここ上狛には明治から昭和にかけての近代宇治茶の歴史を映す「もうひとつの宇治茶ストーリー」が秘められています。「茶問屋ストリート」は、そんな上狛エリアの歴史を体感できる資料館です。

いざ、資料館へ。

1号館

1号館

資料館は1号館、2号館、3号館に分かれていて、それぞれ「茶の間」「茶問屋」「栽培・加工・製茶」とテーマが設けられています。

1号館の茶の間

1号館の茶の間

1号館に入ると、まずはお茶のおもてなし。玉露セットが用意されていて、福寿園の玉露「天雲」を自分で淹れていただくことができます。館内には福寿園のスタッフさんがいらっしゃるので、淹れ方を伺ったり、まるで“茶の間”のようにくつろげます。

2号館

2号館

2号館は、茶葉を販売する「茶問屋」がテーマ。茶問屋の帳場が再現され、茶商の仕事道具などが展示されています。

ところで、「茶農家」「茶商」「茶問屋」の違い、ご存知でしょうか? いったいどんな仕事なのか、私たちの元にお茶が届くまでの流れをざっと追ってみると・・・
「茶農家」は、もちろん茶を育てられている農家さん。春から秋に茶を摘み、産地で製造加工・揉み上げられて「荒茶」を作ります。でもまだこのままでは商品にはほど遠い状態。
⇒そこから茶葉の形を揃え、味と香りを消費地の好みに仕上げていくのが、「茶師」「茶商」の仕事。
⇒そして価格を決め茶葉を販売するのが、「産地の茶問屋」(茶商と茶問屋を兼ねることが多いようです)。
⇒さらに全国のお店(「消費地の茶問屋」)へ運ばれて、ようやく私たちの元にお茶が届きます。
  • 茶葉の色を見る「拝見場」。北向き窓の自然光で見ていたとか。

    茶葉の色を見る「拝見場」。北向き窓の自然光で見ていたとか。

  • 左の少し手前に傾いている壁の上が、採光窓になっています。

    左の少し手前に傾いている壁の上が、採光窓になっています。

3号館

3号館

3号館は、昭和初期までの茶生産の流れを展示されています。

ご案内いただいたのは、福寿園の元工場長。

ご案内いただいたのは、福寿園の元工場長。

入ってすぐのエリアでは、茶農家の仕事や産地で使われていた民具を展示。大きな器具がいくつも置かれ、茶産地で荒茶を作る過程を知ることができます。
  • こちらは蒸し機。蒸すことで発酵を止め、緑茶のきれいな緑色になるそう。

    こちらは蒸し機。蒸すことで発酵を止め、緑茶のきれいな緑色になるそう。

  • 水分を飛ばす粗揉(そじゅう)機。

    水分を飛ばす粗揉(そじゅう)機。

  • 揉んで柔らかくする、揉捻(じゅうねん)機。揉む過程は、手揉み製法では何時間もかかる重労働でした。

    揉んで柔らかくする、揉捻(じゅうねん)機。揉む過程は、手揉み製法では何時間もかかる重労働でした。

館内には、手揉み製茶を行う「ほいろ小屋」も再現されています。

館内には、手揉み製茶を行う「ほいろ小屋」も再現されています。

中2階の資料展示室は、茶商エリア。精選仕上加工をする「茶製造所」と、合組(ブレンド)や価格を決めて茶葉を保管貯蔵する「茶産地問屋」の道具を展示。

茶葉を蒸し、乾燥させ、揉んで仕上げる行程は、現在の機械化された工場でも同じ流れで行われています。

*****

「宇治茶と言えば、宇治」・・・ だけでなく、様々な歴史が折り重なって、いろいろな地域が関わって、“宇治茶”が出来上がっています。新茶のシーズン、ぜひ産地や生産者の方にも思いを馳せながら、美味しいお茶を味わってみてくださいね♪
■福寿園茶問屋ストリート
【開館時間】10:00~12:00、13:00~16:00
【入館料】500円
【休館日】土曜日・日曜日、臨時休館あり
【電話】0774-66-6280
【アクセス】JR奈良線「上狛駅」から徒歩約10分 Google map
【福寿園公式ホームページ】https://www.fukujuen.com/
 ※掲載内容は2021年5月12日時点の情報です。最新情報は掲載先へご確認ください。

Written by. みさご

おすすめコンテンツ