ぐい呑み、七味入れ・・・ 形を変えて身近になった現代の桶を「桶屋近藤」で

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桶屋近藤が手がけるぐい呑みや茶道具、七味入れなど

桶屋近藤が手がけるぐい呑みや茶道具、七味入れなど

京都ではさまざまな伝統工芸が発展してきました。金釘を使わず家具や道具をつくる「指物」、薄い板を曲げて弁当箱などをつくる「曲げ物」と並んで、桶をつくる「箍物(たがもの)」も代表的な日本の木工の一つです。今回は伝統的な桶に加えて、新たな形の桶をつくる「桶屋近藤(おけやこんどう)」を取材。桶の魅力や製作工程を伺いました。
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精巧な技術が生み出す京都の桶

かつて桶はごく身近な生活の道具でした。ところが、昭和30年頃からブリキやプラスチックなど新しい素材の容器に押され始め、今では目にする機会が少なくなりました。
昔はどこの町にもあった桶屋も、時代とともに軒数が激減しています。

美しい京都の桶

美しい京都の桶

京都市北区にある「桶屋近藤」は、手仕事で桶をつくる数少ない桶屋のひとつです。全国から依頼を受けて、昔ながらの寿司桶や湯桶などのほか、桶の技法でぐい呑みや七味入れなど身近な道具もつくっています。

手のひらに収まるほど小さな品物をつくるには、一分の狂いもない精密さが求められます。桶職人の近藤 太一さんによれば、「精巧な京都の桶だからこそ、できること」なのだそう。板と板の境目がわからないほど精密で、一滴の水漏れもない京都の桶は、どのように生まれるのでしょうか。工房でくわしいお話を聞きました。

桶職人の近藤 太一さん。後ろにある引き出し類も、別の桶職人から引き継いだもの

桶職人の近藤 太一さん。後ろにある引き出し類も、別の桶職人から引き継いだもの

こちらが桶屋近藤の工房。近藤さんがすべての製作工程を手掛けています。桶職人になったきっかけは、先輩のお父様が京都で桶職人をしていた縁で、繁忙期に手伝いに行ったこと。その後弟子入りし、7年間の修行ののち独立して桶屋近藤を開きました。

近藤さん 「師匠の工房を訪れた時、使い込まれた真っ黒な道具に囲まれた仕事場と真っ白な桶がきれいだったことを覚えています」

古道具を手直しして使われています

古道具を手直しして使われています

近藤さんの工房も、師匠の工房を参考に作られました。足を踏み入れてまず驚いたのは、壁一面を埋めるように並ぶたくさんの鉋(かんな)。桶づくりに使う鉋が新品で手に入ることはほぼないため、京都の骨董市に足繁く通い、10年ほどかけて集めたものです。

大工仕事でよく使われるのは平たい鉋ですが、桶の丸みを出すには面のカーブした鉋を使います。つくる桶の直径によって曲がり具合が違う上、外側と内側でも鉋を使い分けるので、これほどたくさんの鉋を必要とするのです。

幅、曲がり具合などさまざまな鉋

幅、曲がり具合などさまざまな鉋

木がほのかに香る椹(さわら)の寿司桶

「家庭におすすめの桶はなんでしょうか?」と尋ねると、「やっぱり寿司桶ですね」と近藤さん。寿司桶は酢飯をつくる際、木肌で適度にすし酢を吸い込んでサラリとした食感を保ちます。金属やシリコンの調理道具が普及した今も、木にしかできない芸当です。

1升(10合)用から3合用までさまざまなサイズがあります

1升(10合)用から3合用までさまざまなサイズがあります

使っている木は椹。ヒノキの仲間ですが香りが優しく、おひつなどご飯にまつわる桶と相性が良いのだそうです。ご飯がまとうほんのりとした椹の香りは、きっと毎日の食事を少し特別なものにしてくれるはず。

通常の木材は水に触れると膨らんで変形してしまいますが、桶は水回りで使う道具。そのため、桶用の木材は半年から1年の間雨と日光にさらし、近藤さん曰く「暴れさせる」のだそう。変形を繰り返し、樹脂が抜けた状態から製作に入ります。長く使える道具だからこそ、下処理にも長い時間がかけられているのです。

木目のつながりの美しさも考えられています

木目のつながりの美しさも考えられています

桶づくりは、ひたすら正直に

製作工程の一部を見せていただきました。浴槽のような大きな桶も手の中に収まるぐい呑みも、大まかな工程は同じ。削り出した10枚前後の側板を合わせて丸い形をつくり、底板をはめて、タガ(箍)と呼ばれる輪をはめ込みます。
  • リズムよく割っていきます

    リズムよく割っていきます

  • まだ凸凹が多い状態

    まだ凸凹が多い状態

  • 割り鎌のサイズも色々

    割り鎌のサイズも色々

  • 手早く切りそろえます

    手早く切りそろえます

こちらは側板を切り出す光景。ゆるやかにカーブした割り鎌(わりがま)を当ててハンマーで叩くと、カンッといい音が響いて木片が取れました。まっすぐな木目に沿ってきれいに割れていますが、表面はまだ荒い状態。ナタで左右を切りそろえ、節やひび割れなども取り除きます。
  • 鉋の種類は側板の上・下・中程でも変えます

    鉋の種類は側板の上・下・中程でも変えます

  • 鉋がけ前と後の比較

    鉋がけ前と後の比較

次に近藤さんは、精度を高める工程に取り掛かりました。膝の上に置いた大きな工具は「正直台」。木の土台に鉋を裏返して取り付けたものです。さらに正直型という手製の木型を取り出し、側板を押し当ててズレがないか確認。電灯に透かしても光が漏れなくなるまで正直台で調整を重ねます。
  • 正直台は正直鉋とも

    正直台は正直鉋とも

  • 正直型も桶の直径ごとに用意されています

    正直型も桶の直径ごとに用意されています

  • 光漏れがないか確認

    光漏れがないか確認

  • 調整を重ねると2枚の側板がぴたりと合います

    調整を重ねると2枚の側板がぴたりと合います

近藤さん 「紙一枚ほどの誤差があるだけでも、きれいな円にならない。この作業が一番の肝です」

桶をつくるには側板ひとつもおろそかにせず、ひたすら正直に手を動かすしかありません。道具の名前にも、その職人精神が表われていました。

お酒好きにはたまらない、吉野杉のぐい呑み

ぐい呑みも桶屋近藤で人気のオリジナル商品です。持ってみると驚くほど軽く、飲み口は薄手でなめらか。底はわずかに丸みを帯びていて厚みがあり、絶妙なデザインです。

口当たりの滑らかさも工夫されています

口当たりの滑らかさも工夫されています

使われている木は吉野杉。吉野杉といえば酒樽の素材として有名です。このぐい呑みにお酒を注ぐと、樽酒を思わせる杉の香りが楽しめます。

近藤さん愛用のぐい呑み

近藤さん愛用のぐい呑み

お出かけ先に“マイぐい呑み”を持っていくのが近藤さんお気に入りの使い方。たとえば新幹線で遠くへ行く際、お土産店でお酒を買い、ぐい呑みを取り出して車内でちょっと一杯。軽い上に割れる心配もないので持ち運びに便利です。

京都の桶が精巧な理由

側板を糊付けして乾燥させます

側板を糊付けして乾燥させます

京都の桶は昔から、御所や旅館、茶道、神社など、特別な行事やもてなしの場で使われています。使う道具ひとつとっても、機能的なだけでなく美しいものが求められました。場に磨かれるようにして、伝統工芸の技術が培われていったのです。

底板をはめる前の状態

底板をはめる前の状態

底板は口から入れて叩き込みます。「ぴったりに作るので、手元が狂うと側板がバラバラになってしまいます」と近藤さん。手がかりとなるのは感触と音で、木の音に耳を澄ませながら慎重にはめます。

桶に欠かせないのが、側板を締め付ける上下2本のタガ。素材には撚(よ)った針金や竹を使います。特に下側のタガは、「桶屋がウーン、ウーンと泣いてはめる」ことから「泣き輪」と呼ばれるほど、はめるのが難しいと言います。
  • タガは桶を締めておく大切な部分

    タガは桶を締めておく大切な部分

  • 天井にはタガに使う針金がかかっています

    天井にはタガに使う針金がかかっています

  • 「タガははまらないものをはめる」のだそう

    「タガははまらないものをはめる」のだそう

近藤さん 「きちっとはめなければならないけれど、軽々はまるようではすぐに壊れるので、泣くほど力を入れてなんとかはまるギリギリを狙います」

腕の力だけでは足りないので、大きめの桶は足も使って押さえ込むのだそうです。そのため、桶職人は年中はだしで作業をします。全身を使って桶をつくる桶職人、近藤 太一さんの工房でした。

店舗情報

  • 日常使いしやすい調味料入れなども

    日常使いしやすい調味料入れなども

  • 桶屋近藤 外観

    桶屋近藤 外観

こうして作られた桶は、桶屋近藤の工房や百貨店の催事で購入できます。ぜひ手に取ってみてください。

■桶屋近藤
【営業時間】9:00~17:00
【定休日】土曜日・日曜日・祝日
【電話】075-411-8941
【アクセス】地下鉄烏丸線「北大路駅」から徒歩約15分 Google map
※店舗ではなく工房となります。工房にて商品ご購入の際は事前にお問合せください。
【公式ホームページ】https://oke-kondo.jimdofree.com/
【公式Facebook】https://www.facebook.com/okeya.kondo/
※展示会情報は公式Facebookをチェック!
※掲載内容は2022年10月1日時点の情報です。最新情報は掲載先へご確認ください。

Written by. 「そう京」編集部

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