京都で味わう「美しい食」

京都には、舌はもちろん目も存分に楽しませてくれる「美しい食」があふれています。
伝統の技に斬新なアイデアが盛り込まれ、季節の彩りも鮮やかな美食を堪能する旅に出かけませんか?


なぜ京料理は美しい?
—— 季節の彩りが五感で楽しめる仕掛けとは

伝統的な和のしつらいの座敷で味わう京料理には、凜とした美が感じられます。ため息が出るようなその美しさはどこから生まれるのでしょう?
国の登録無形文化財「京料理」の保持団体である京料理技術保存会の会員で、文化庁の文化交流使としても国内外で活躍する、京都・西陣の料亭「萬重」三代目の田村圭吾さんにうかがいました。

お話を聞いたのは

「萬重」三代目 田村圭吾さん

1970年、西陣の料亭「萬重」(1937年創業)の長男として生まれる。岡崎の料亭「まる多」などで5年間の修業を積み、1998年より家業に従事。「和食」のユネスコ無形文化遺産登録記念のフランス外務省晩餐会をはじめ、文化庁の文化交流使として海外でもたびたび腕を振るうほか、NPO日本料理アカデミーの地域食育委員長として京都市内の小学校などで食育活動に取り組むなど、国内外で京料理の魅力を伝えている。登録無形文化財「京料理」の保持団体で、老舗の主人など熟練した技術をもつメンバーで構成する京料理技術保存会会員。


料理と器はどう決める?
ー 「顔」を確かめ考案

京都の料理屋では主人が、その日仕入れた素材の「顔」、すなわち姿・形・鮮度を見て献立を決めるところが多いと思います。また私の修業時代、師匠は空の器を並べて献立を考えていました。時に「この器嫌いやけどな」とつぶやきながらも選ぶ。「なぜ?」と聞くと「お客さんはいろいろのほうが楽しいやろ」と。塗り・陶・磁・ガラスと様々な器を使うのも、季節ごとの素材の見栄えはもちろんお客さまの目を飽きさせないようにという思いがあります。ちなみに料理人は、単体で美しい器より、料理を盛ったとき映える器を使いたがります。そういう意味で、今日のお造りを盛った乾山写し*や魯山人写し*の器などが、よく好まれますね。
*尾形光琳の弟の陶芸家・尾形乾山や、食通としても知られた芸術家・北大路魯山人がつくった器を模したもの

美しい盛り付けの心とは?
ー 五感と自然にルーツあり

京料理は「上品に少しずつ盛りますね」と言われます。日本人の「ひと口」が13~16グラム程度で、ほぼそのポーションになっているようです。ちょうど良い量を口に含むと素材ごとの香りや旨味、歯応えがよく感じられますよね。お造りのイカの細かい切り目や、小芋の六方剥きなども飾りとしての役割と食べやすさ、味の染みやすさなど、いろいろな側面があります。また「季節を感じさせる」と言われる料理の下の「敷き葉」は、古くは植物の葉を折り敷いて食した名残です。ハ寸の器に料理を盛る際は、空間を三つか四つに等分して配したあと、少しだけずらす。すると動きが出て、自然界に近い遊び心が出ます。

食卓に留まらない京料理の美とは?
ー 四季の庭としつらい

日本には古来、八百万の神を崇拝し、自然へ感謝の念を抱くという文化があります。ことに京都は古建築と自然が調和する神社仏閣も数多く、庭を備える料理屋が珍しくないのはその流れの一つ。緑を目にするとほっとする方も多いと思いますが、庭を眺めるときはぜひ畳に座っていただきたいですね。庭石や植栽など全てが、座した時の視点を基準にととのえられていますので。正座が辛い方に配慮してテーブルと椅子を設けるところも多くなっていますが、掘りごたつなどで視線の高さに留意する店も。床の間や玄関・廊下などに折々の花をいけてお迎えするのも、そうした自然の息吹を感じていただくためのしつらいです。

京都人の「料理屋」の楽しみ方は?
ー 折々の祭事や日々の節目に集って

京料理が雅やかなのは、宮中からの伝播と言われます。かつて料理人は天皇家や公家、武家といったごく一部の階級が抱えるものでしたが、江戸時代に入り社会が安定すると力を持った豪商などの町衆も宴席を楽しむようになりました。そこで楽しまれた料理が、現在の「会席料理」の流れの一つです。京都に今もこれほど料理屋が多いのは、人々の生活に密着してきたから。お宮参りから入学式に婚礼、法要といった人生の節目に加え、PTAの会合など日々のお集まりにもお使いいただいています。だから、おいでになるたび楽しみがあるよう、上巳(じょうし)の節句や祇園祭など季節・祭事に応じた献立やしつらいで、各店が工夫を凝らしているのだと思います。


京料理の美をギュッと詰め込んだ、名店のお弁当

「料亭」と聞くと少し身構えてしまう人にもお薦めなのが、名店の昼の献立「お弁当」。
伝統の技の粋が集う品々を、素敵なしつらいのなかで比較的気軽に味わえます。

六盛の「手をけ弁当®」

〜 人間国宝の桶に盛る繊細な品々 〜

琵琶湖疏水が穏やかに流れる岡崎で1899(明治32)年に創業。名物「手をけ弁当®」は、「ランチにぴったりな器を」と探していた二代目が、老舗「たる源」の店頭で冷や奴が入っていた桶を目にしたことから着想し、1966(昭和41)年に誕生。現在は木工芸家・中川清司さん(人間国宝)による、木曽サワラの白木(しらき)を用いた手桶で供します。円い桶の内側に白漆を施した木肌の無垢な美と、焼き魚や出汁巻き、春なら細竹やわらびの含ませ煮など旬の素材をふんだんに使った色とりどりの品々の調和にうっとり。赤出汁と季節替わりの炊き込み御飯付き。



無碍山房 (むげさんぼう)Salon de Mugeの「時雨弁当」

〜 名亭の名物を季節に応じた器で 〜

豊臣秀吉の正室・北政所が茶の湯に使った井戸を代々守ってきた家が、1912(大正元)年に創業した料亭「菊乃井」。かつてその名料亭の名物だった「時雨弁当」が今では、傍らに開かれた和モダンな茶房で気軽に堪能できます。だし巻玉子や多彩な旨煮などがぎっしり詰まった弁当箱の「口取り」と「先付け」に続き、鯛をのせた白飯にとろろをかけて味わう「しぐれ飯」や「煮物椀」などが登場。冷めてもカリッとした食感を保つ霰(あられ)粉揚げ、ほくほくと軟らかな幽庵焼きなど名店の技巧が光る品々に舌鼓。苔むす庭の眺めや、季節に応じて変わる器もここならではの楽しみ。



京都の宿で楽しむ、魅惑の「仕出し」

京都の宿で楽しむ、魅惑の「仕出し」


京都の美食の一角を担うのが、仕出し料理。茶事をはじめとした会食、あるいは家にお客を迎える際などに京都人に重宝される存在です。
旅人も宿泊施設で手配してもらえば、京都に暮らす気分でゆったり味わえます。

ゲストハウス みかさ

歴史ある茶釜商や呉服商が点在する釜座通近くに佇む、築100年を超える町家。京染呉服問屋「丸昭」が営む一棟貸しのゲストハウスは、かつて丸昭の丁稚が寝起きした建物をリノベーションしたもの。骨組みは残し、栗の木になぐり加工を施した手すりや、左官職人による土壁など隅々まで丁寧な手仕事が施された宿は1~4名まで滞在可能。ミニキッチンでの自炊のほか、仕出し料理のオーダーもできます。坪庭のある心安らぐ町家で、名店のごはんを味わうのは何とも贅沢なひととき。

(左)1階に土間キッチンとリビング、洗面・浴室、2階にベッドルームと和室を備えた「ゲストハウス みかさ」。坪庭には丸みを帯びた灯ろうや苔むす手水鉢が佇みます。(右上)1868(明治元)年創業の精進料理仕出し専門店「矢尾治」には昼・夕食のオーダー可。(右下)1659(万治2)年創業の京料理老舗「はり清」には朝・昼・夕食のオーダー可。



小さな「美しさ」と「愛らしさ」を集めた、珠玉のランチ

「いろいろなものを少しずつたくさん食べたい!」ー京都には、そんな旅人の欲求を満たしてくれるランチがあります。
美しい器の小宇宙に古都の愛らしさが集い、口福に満たされる時間を。

和菓子のように可愛い姿に歓声

花梓侘(かしわい)の「つまみ寿し」

和の器店に併設のお店で20年来人気の品。特製塗箱の蓋を開ければ、ひと口大の愛らしい手まり寿司がずらり。 〆鯖、生湯葉、鯛の昆布〆などの定番に旬の山海の旨みを加えた15貫が端正に納められています。赤酢を利かせた軽やかなシャリに多彩なネタが調和する、上品な味わい。赤出汁と4種から選べるデザート付き。

色とりどりの朝採れ野菜にときめく

漬け野菜isoismの「isoismのおひるごはん」

オリジナリティあふれる漬け野菜メニューが揃うレストラン。人気のランチは、白ワインや味噌など和洋の調味料に浅く漬け、素材の食感と味を生かした「漬け野菜」12種に土鍋ごはんと野菜スープ。トマトやごぼうなどの定番から旬菜まで、畑でその朝採れた彩り豊かな姿とそれぞれユニークな味付けに心が躍ります。

祇園で柚子香る雑炊とおばんざい

柚子屋旅館 一心居の「柚子雑炊膳」

八坂神社隣の旅館の食事処。名物・柚子雑炊は舞鶴産卵黄やネギが乗った色目が美しく、丸1個使われた柚子の酸味でさっぱり。さらに美山の湯葉や蓬麩の柚子味噌田楽など16種のおばんざいが朱盃でずらりと並びます。祭礼や節句などに合わせて毎月変わり、この日は桃の節句にちなんで桃の花のあしらいが。


京の「美」食を贈る

味はもちろん、その姿やパッケージにも魅了される食を京都のお土産に。贈る相手もきっと喜んでくれる、美しい品々があります。

いづ重の「上箱寿司」

鯖寿司の名店・いづう出身の初代が明治末に創業し、ハレの日を彩る京寿司を届けてきた老舗。名物「上箱寿司」は、今もおくどさん(かまど)で炊き上げた白飯をシャリに使い、木の芽を敷いた小鯛やトリ貝など旬の魚介と玉子焼きをのせた押し寿司。見目麗しい市松模様のレイアウトに、祇園の華やかさが漂うよう。

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いづ萬の「東山魚餅」

江戸時代末の1844(弘化元)年創業、京都最古のかまぼこ店といわれる老舗の名品。活ハモやグチをすり身にし香ばしく焼き上げた「東山魚餅」は程よい弾力があり、噛むほどに旨味が広がります。竹を割いた串に挿すデザインは、祇園の芸舞妓のかんざしをイメージしたものとか。15本、竹皮製の箱入り。

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白 hakuの「日向夏羹」

京都の料亭が営む手土産専門店。季節替わりで登場する3種類のゼリーのうち、「日向夏羹」は2月半ばからの春限定メニュー。日向夏の果汁と果肉、白皮の甘煮が寒天で固められた、爽やかで優しい甘みはぷるりとした食感。野趣あふれる竹籠にユズリハの葉を添えた、自然を届けるような姿も魅力です。

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SOU・SOUおくりものの「茶缶/松は松らしく・ほほえみ・すずしろ草」

京都のテキスタイルブランド『SOU・SOU』によるギフト専門店で人気の品。宇治茶メーカー・宇治田原製茶場とコラボした茶缶で、『SOU・SOU』オリジナルのポップなデザインを施した和紙貼りが。柄は3種あり、それぞれ抹茶入り深蒸し煎茶、てん茶棒ほうじ茶、抹茶入り玄米茶のティーバッグ各10包入り。

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御所 雲月の「小松こんぶ」

もとは、本店の料亭・雲月の懐石料理で箸休めとして供されていたという佳味。道南産の真昆布を極細に刻んで煮含めたもので、やわらかな口当たりに豊かな旨みと深い香りが広がる逸品。京都御所近くの店で求められる桐箱入りは、真田紐がかけられた見栄えもキリッと美しく、大切な人への贈り物にもぴったり。

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八百三の「柚味噌」

1727(享保12)年創業の老舗で、精進料理の修業を積んだ初代が考案し、以来その製法を一子相伝で受け継いできたという元祖・柚味噌。京都・水尾の柚子とやはり京都の白味噌をあわせた柚味噌はなんとも爽やかで上品な味わい。柚子をかたどった陶器入りはコロンと愛らしく心ときめく姿でも人気を集めています。

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小さくも気品漂う、老舗旅館の粋の詰め合わせ

ギャラリー遊形の「京調べ(お茶入)」

宝永年間(1704-1711)創業の京都最古の宿の一つ、俵屋旅館。その俵屋のアイテムを届ける「ギャラリー遊形」で2024年春リリースされた「京調べ(お茶入)」は、俵屋で夕食後に提供している和三盆糖の干菓子「福俵」と、餅米を細かな粒に焼き上げ天然塩を絡めた「細(ささめ)ぶぶあられ」、そして渋み少なくまろやかな伊勢かぶせ茶のティーバッグ「銘茶俵屋」の詰め合わせ。箱の掛け紙には、俵屋オリジナルのリネン生地と水引きもあしらわれています。全体を包む揉み和紙もやさしい趣で、極上の京のお茶時間を贈り物に。ギャラリー遊形ではInstagramで情報発信も。



京都で味わう「美しい食」マップ

※写真はイメージです。
※掲載内容は2024年3月26日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。