「本のまち・京都」で本の世界にひたる

平安時代には日本最古の長編小説が生まれ、江戸時代には出版文化の中心として数多くの本屋さんが立ち並んだ京都。
今も、本の世界にひたれる場所はあちこちにあり、「本がよく似合うまち」と言えます。
本をじっくり選んだり、本に囲まれてくつろぎの時が過ごせたり……そんな京都のすてきなスポットをご案内。


本と向き合う豊かな時間[ライブラリー&ミュージアム]

ずらりと並ぶ本と向き合う、静謐な時間。
日常から離れて、お気に入りの作品世界にひたる——幸福なひとときが待つ、図書室&図書館へ。

【鈍考 donkou /喫茶 芳 Kissa Fang】

  • 苔に囲まれた石段を上って入り口へ

  • 伸びやかな空間を光がやわらかく照らす図書室

  • 眼前に緑が広がる特等席。椅子はオーレ・ヴァンシャー

  • 書棚の本の並びを整える、幅允孝さん

  • 軒の深い庇の下、縁側での読書も。前には小川が流れる

  • 小上がりの奥にはカウンター。天井は樹齢200年の吉野杉

  • コーヒーは一杯ずつネルドリップで丁寧に淹れる

  • いろんな本といろんな場所で向きあえる

  • ステップの踏み板は伝統の技・なぐり仕上げ

  • スマートフォンが預けられる引き出し

〜 本に読みふける幸せを再発見する。私設図書室&喫茶 〜

叡山電車・三宅八幡駅から徒歩10分ほど。伝統の手刻みの木材で端正に造られた家屋に入れば、壁一面を古今東西の約3000冊が埋めています。ここは、数々の図書館をはじめホテルや病院、店舗など様々な施設のライブラリーを手掛けてきたブックディレクター・幅允孝さんが率いる会社、BACHの京都分室。2023年、予約制の私設図書室&喫茶としてオープンし、以来国内外から本好きが訪れている場所です。「様々なテクノロジーが時間の余白を奪う時代にあって、紙の本を集中して読む時間を自分も欲しかったし、皆さんにも思い出してほしくて」と開設の経緯を話す幅さん。「家族のはなし」「日本という国」「数学的な」といったテーマごとに本が並び、大きな窓の向こうは緑。隣のお寺の桧林が見事な借景となり、まさに日常から切り離され、本に没入できる空間です。90分の滞在は、妻のファンさんが淹れてくれる深煎りコーヒー付き。程よい苦みとコクに癒やされながら、ページをめくる至福のひとときが過ごせます。予約スケジュールはInstagramでチェックを。



【京都国際マンガミュージアム】

〜芝生でのんびりマンガを読む時間〜

明治時代開校の元龍池小学校をリノベーションしたマンガの博物館&図書館。蔵書はおよそ5万冊、1970年代~2005年刊行の単行本が中心で、開架本のほとんどが貸本屋さんからの寄贈だといいます。旧校舎のレトロな雰囲気を残す館内で、床から天井までを埋め尽くす「マンガの壁」は圧巻。天気が良い日にはかつて校庭だった外の芝生に寝転がり、光や風を感じながらマンガを読む、のんびりしたひとときが過ごせます。他にも企画展や紙芝居を見たり、似顔絵を描いてもらったりと、楽しみ方はいろいろ。カフェの壁に描かれたマンガ家たちの直筆イラスト&サインも必見です。

【京都市動物園 図書館カフェ】

〜動物愛にあふれた本がずらり〜

1903(明治36)年開園。上野動物園に次いで、日本で2番目に歴史のある京都市動物園は、平安神宮などが佇む岡崎エリアにあります。そのエントランス横に図鑑や写真集、専門書、絵本や児童文学など、動物にまつわる多彩なジャンルの本を集めた図書館が。蔵書は約6500冊。鳥類、哺乳類、恐竜、動物園といったテーマごとに棚が分かれていて、館内のソファやテーブル席で読むことができます。その名の通り一角にカフェがあり、自家焙煎コーヒーや京つけものを使ったパニーニなどがオーダーできるので、本を眺めながらひと息つくのにもオススメです。動物園に入らなくても利用OK。


季節ごとに楽しい古本まつり

京都の古本市

実は、京都は古本天国。京都大学が近い丸太町通から古書街が発展し、今も市内には100軒超の古書店が健在です。古本市もあちこちで開催され、なかでも三大古本まつりと言われるのが、みやこめっせ(京都市勧業館)で行われる「春の古書 大即売会」、下鴨神社 糺の森で開かれる「下鴨納涼古本まつり」、そして百萬遍知恩寺の「秋の古本まつり」です。和綴じ本から浮世絵、美術書、小説、レトロな画集や映画のパンフレット・ポスター、京都にまつわる本などのラインナップは目移り必至。他に小さな古本市も度々あるので、次の旅程に組み込んでみては?



本に囲まれた空間でくつろぐ[ブックカフェ]

本棚にその店の時が刻みこまれているようなカフェ。
気になる一冊を手に取ってページをめくりながら、お茶の時間を過ごせば、心も満ちてくるようです。

【カフェ コチ】

〜 焼きたてパンと読書をゆるり楽しむ 〜

パン職人のオーナーが丁寧に焼き上げた、自家製パンが味わえるカフェ。白い鳥が描かれた空色の壁が印象的で、窓が大きく開放的な雰囲気が漂う店内には大小の本棚があり、小説を中心にアートや建築、児童文学など多彩な本が並びます。オーナー夫妻が家から持ってきたものから知人が持ってきてくれたという本まで、様々な人の本が混ざっている棚を眺めていると、宝探しのようなワクワク気分に。元の持ち主の姿を想像しながら、本を選ぶのも一興です。定番メニューの「フレンチトースト」は厚切りのパンの上に、特製のバニラアイスと蜂蜜がたっぷり。





【MAX1921 BOOK CAFE】

〜京都で読んで、味わうポーランド〜

ポーランドで暮らしていた店主夫妻が営む、本場仕込みの家庭料理とこだわりの蔵書が楽しめるお店。食事ができる1階のほか、半地下の秘密基地のような書庫でも読書に没頭することができます。ヨーロッパ史を研究していた店主が集めた歴史書のほか、プロレス関連本なども並ぶマニアックな本棚に、海外から足を運ぶファンも多数。店名の由来でもあるマックス・ヘルツなど革命家にまつわる本も揃います。気さくな夫妻から聞くポーランドの逸話も楽しく、思わず長居してしまいそう。紅玉りんごをふんだんに使用した「アップルケーキ」は、リピーターも多い人気メニュー。

【Books×Coffee Sol.】

〜京都の多様なつながりを体感する〜

本に囲まれながら、韓国料理が楽しめるお店。古民家を改修した店内は、友だちの家に遊びに来たかのような雰囲気です。壁にはオーナーのヤン・ソルさんが携わる地元のお祭り「東九条マダン」のチラシが貼られ、壁2面を埋める大きな本棚に置かれた本の多くは国語教諭だった初代オーナーの蔵書で、教育や社会科学などのジャンルが充実。2階には近くの京都市立芸術大学の学生が改装したというギャラリーもあり、多様な文化がゆるやかにクロスする京都が感じられます。名物「キンパ」はほうれん草・人参・卵焼きなどが入った、ごま油が香る韓国風巻き寿司(土日限定)。


じゃない店のオモシロ本棚

京都には、本屋さん「じゃない」のに、充実した本棚のあるお店がいくつもあります。そのお店独自の選書にそそられて思わず見入ってしまうこともしばしば。そんな一つをご紹介。

kotobatofuku

【コトバトフク】

ファッションを読み解く、意外な選書

京都市役所近くのビル2階にある、隠れ家のようなお店。京都精華大でファッション論を教える蘆田裕史さんら3人が運営し、日本の若手デザイナーの服とともにファッション関連の古書が並びます。「店員の圧が苦手な人も入りやすい『怖くない服屋さん』を目指している」そうで、『TOKYO 0円生活 0円ハウス』など一見ファッションと関係なさそうな本があるのが面白いところ。「たとえば安部公房の『箱男』も、ファッション論として読めるんですよ」と店頭に立つ藤井美代子さん。「この本はファッションとどう関係するのか?」と手に取りながら、考えてみるのも楽しそうです。


じゃない店のオモシロ本棚

京都には、本屋さん「じゃない」のに、充実した本棚のあるお店がいくつもあります。そのお店独自の選書にそそられて思わず見入ってしまうこともしばしば。そんな一つをご紹介。

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【コトバトフク】

ファッションを読み解く、意外な選書

京都市役所近くのビル2階にある、隠れ家のようなお店。京都精華大でファッション論を教える蘆田裕史さんら3人が運営し、日本の若手デザイナーの服とともにファッション関連の古書が並びます。「店員の圧が苦手な人も入りやすい『怖くない服屋さん』を目指している」そうで、『TOKYO 0円生活 0円ハウス』など一見ファッションと関係なさそうな本があるのが面白いところ。「たとえば安部公房の『箱男』も、ファッション論として読めるんですよ」と店頭に立つ藤井美代子さん。「この本はファッションとどう関係するのか?」と手に取りながら、考えてみるのも楽しそうです。



京都で、本のお買いもの[個性派書店]

京都には取り扱う本のテーマやセレクト・並べ方などに特色のある、ユニークな本屋さんがたくさんあります。
そんな魅力的な書店を訪ねて、旅の思い出に一冊選んでみませんか。

【恵文社 一乗寺店】

〜 訪れるたび、新しい世界が広がる 〜

左京区一乗寺に佇む、個性派書店の先駆け的存在。2025年に創業50周年を迎える本屋さんには、新刊本から古本、個人出版の本まで多彩に揃います。出版部数や刊行期に捉われない棚づくりが特徴で、本棚を眺めているだけでワクワク。例えば児童文学書『はじめてのキャンプ』の隣にクラフト本『作ろう草玩具』が、続いて親子で楽しめる絵本『ぼくはアーティスト』が並ぶなど、一冊の本から多様にリンクする陳列で思いもよらぬ一冊と出会えます。「本との出会いによって世界を少しだけ広げるお手伝いをしたい」と広報の岡本沙織さん。絶えず変化する時代に沿って本棚は日々変化するので、訪れるたび新しい出会いが待っています。ギャラリーやイベントスペースも併設。





【レティシア書房】〜全国のミニプレスが集う一軒家〜

烏丸御池駅近くにある愛らしい一軒家の本屋さん。新刊書・古書に加え、北海道から沖縄まで全国200種類以上のミニプレス(自費出版本)が集います。「作者の生き方が表れるのが面白い」と店主の小西徹さん。近頃の人気書籍はイラストレーターが京都を中心に喫茶店モーニングを食べ歩く『よあけのたび』だそう。

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【シスターフッド書店 Kanin】〜女性の心に寄り添う憩いの場所〜

北白川のマンション1階に、公認心理師の井元綾さんと編集者の京極祥江さんが「女性が安心して、本とお酒が楽しめる場所を作りたい」という思いから、カフェ併設で開店。フェミニズムやジェンダー、女性の生き方に関する本を中心に揃え、今の状況に寄り添う本を紹介してもらうこともできます。

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【マチマチ書店】〜絶版稀少本との邂逅にワクワク〜

二条駅近くの雑居ビルにあるアート専門古書店。美術書の名店・山崎書店で経験を積んだ中嶋直亮さんが2017年に独立して開いた店で、国内外の展覧会図録や作品集、海外の写真集、古い美術雑誌などの稀少本、浮世絵の復刻木版画などがズラリ。京都駅の地下街・京都ポルタで年3~4回主宰する古本市も人気です。

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読めば旅がもっと楽しくなる

京都を舞台にした本

小説やマンガなど、様々な作品の舞台になっている京都の街。作中に登場する場所を訪れたり、思い出を作品で追体験すれば、旅がいっそう楽しくなりそうです。ここでは近年、話題を集める3冊をご紹介。

万城目学『八月の御所グラウンド』

京都ならありそうな真夏の朝の夢

教授から草野球大会の勝利を命じられた大学生たち。人が足りず留学生や通りがかりの青年まで引き込みますが、実はその青年の正体は……。アルバイト事情や界隈の店など、京都で学生生活を送った著者ならではの描写がリアル。実際に京都御苑のグラウンドや送り火を見に、真夏の京都を訪れたくなる、ちょっと不思議で切ない青春小説です。文藝春秋刊。第170回(2024年)直木賞受賞作。

藤岡陽子『メイド・イン京都』

生々しい京都人像で移住を想像!?

老舗の生家を継ぐ婚約者に同行し京都に移り住んだ、東京出身の主人公・美咲が西陣織にインスパイアされ、ものづくりに挑むなかでの成長を描きます。京都生まれ・育ちの著者らしく、京都人のよそ者への接し方の描写が辛らつだったり懐が深かったりと生々しさ満点。哲学の道や北白川、北大路などの土地も描かれ、読めば京都に移住した気分に。朝日新聞出版刊。第9回(2021年)京都本大賞受賞作。

小山愛子『舞妓さんちのまかないさん』

美味しいごはんと、舞妓さんの生活

舞妓さんにあこがれて青森から京都に来た主人公の少女キヨは、芸舞妓が暮らす屋形(家)でごはんを作る「まかないさん」に。優しさが詰まった心安らぐごはんとともに、気を張るお座敷から気取らない休日まで、舞妓さんの様々な日常が描かれます。喫茶店や鴨川など実在のスポットも多数登場し、読めばきっと訪れたくなるはず。小学館刊。第65回(2019年度)小学館漫画賞受賞作。



「本のまち・京都」で、本の世界に浸る マップ



※写真はイメージです。
※掲載内容は2024年8月7日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。