京都で味わいたいお蕎麦

京都の麺類といえば、うどんやラーメンのイメージが強いかもしれませんが、蕎麦もじつは名店ぞろいです。
京都の歴史をひもとけば、蕎麦と京都の関係も見えてきます。江戸とはまた違った魅力がある、京都の蕎麦。
大晦日には営業時間を延長している蕎麦店もあるため、縁起物の年越し蕎麦を食べるのもおすすめ。京都で、歴史や素材に育まれた京のお蕎麦を味わってみませんか。


京都の歴史と蕎麦

日本における蕎麦の歴史は古く、縄文時代にはすでにソバの実が伝来して栽培され、かゆや雑炊として食べられていたことが分かっています。鎌倉時代には製粉の技術が伝わって蕎麦がきや団子にして食べられるようになり、細く切った「蕎麦切り」が誕生したのは室町時代といわれています(諸説あります)。文献をひもとくと、蕎麦と寺院は関係が深く、京都においても例外ではありません。ここで注目したいのが、菓子店の存在。菓子をこねる技術が蕎麦をこねる技術に通じることから、菓子店が寺院に蕎麦を納品していたそうです。江戸時代の京都の地誌『雍州府志』や、職業ガイド『人倫訓蒙図彙』に、菓子店が蕎麦も扱っていたことが記されています。


【本家田毎(ほんけたごと)】

  • 名物「田毎そば」は棚田に映る田毎の月をイメージ

  • 蔵や庭の一部は創業当時のまま残っているそう

  • しっとりと落ち着いた和の風情が漂う店内

  • 熟練の技で手早く伸ばした生地は、1mm以下の薄さになる

  • 三条通からガラス越しに蕎麦打ちの様子が見られる

  • 駒板と蕎麦切り包丁でリズミカルに切っていく

  • 創業時から変わらず地下水で蕎麦を打っている

  • 多くの人で賑わう三条名店街にお店がある

  • 老舗の風格を感じさせる趣深い看板

〜 明治の始まりとともに産声を上げた、香り高い蕎麦の店 〜

明治元年(1868)に、現在地で創業した本家田毎。店名の由来は、謡曲や浮世絵の題材にもなった、信州の棚田の一つ一つに映る月「田毎の月」です。その店名を冠した「名物田毎そば」は、海苔を田、酒蒸しした帆立を月に見立てています。蕎麦粉は北海道産を使用。出汁に使う利尻産の昆布は、3年以上寝かせることで、香りや旨み成分がしっかり出てくるそう。江戸風の蕎麦に京風の出汁が香る一杯が楽しめます。



親鸞の代わりの、蕎麦を食べた木像

東山区・法住寺の「親鸞聖人そば喰いの御像」。これは、親鸞が比叡山で修行し、範宴(はんねん)と名乗っていた頃のお話です。範宴は迷いや苦しみが晴れなかったため、夜な夜なそっと比叡山を下り、六角堂での百日参籠(さんろう)を続けていました。そのことに気づかれないよう、自らに似せて彫った像を身代わりに残していました。
弟子の範宴が夜にいなくなると噂に聞いた慈鎮和尚(じちんかしょう)は、事実を確かめるため夜中に突然弟子たちを集め、蕎麦を振る舞います。そこで範宴もいることが確認できました。ところが範宴本人は翌朝に戻ってきたではありませんか。じつは蕎麦を食べていたのは身代わりを務めていた像で、その口元には蕎麦が付いていたそうです。親鸞の修行時代の逸話を伝える木像に、会いに行ってみませんか。



素材にこだわる京都の奥深い味

山に囲まれ、新鮮な魚介類が手に入りにくかった京都では、北前船(江戸から明治にかけて北海道と大阪を行き来した船)が運ぶ昆布や干し魚などの海産物が大切に扱われていました。その中の一つ・身欠きニシンを甘辛く煮付けて載せた蕎麦は、海が遠い京都ならではの味とも言えます。また、出汁や蕎麦の味を支える名水も、京都の蕎麦を語る上では欠かせません。京野菜をはじめとする食材にも恵まれた、京都らしさに満ちた蕎麦をお楽しみください。

【総本家にしんそば松葉】

  • 150年近く変わらない味を守り続けている「にしんそば」

  • 四条大橋を行き交う人や鴨川の流れを眺めつつ味わえる

  • 甘辛く煮付けたにしんは骨まで柔らかい

  • 店内はノスタルジックな雰囲気が漂っている

  • 地下の客席はビルが建った当時のしつらえが残っている

  • 昭和63年から続く落語会の内容が記された帳面

  • 昭和49年から往来を見守り続けている鳥のオブジェ

  • おいしい蕎麦を食べた後、店頭でお土産を買うこともできる

〜 四条大橋のたもとに構える、にしんそばの名店 〜

創業は文久元年(1861)。明治15年(1882)に、二代目松野与三吉が「にしんそば」を発案し、その名を轟かせるようになりました。現在も伝承される製法、味付けを守り続けています。「三味一体」を心がけ、ニシンと蕎麦、出汁のバランスにこだわった組み合わせは、滋味にあふれた癒やしの味。店内には明治時代の丼鉢や大正末期ごろの値段表、昭和末期から続く落語会の記録帳などが飾られ、お店の歴史を感じることができます。



【手打ちそば処みな川】~手打ちの細麺を京出汁で味わう~

アカデミックな雰囲気が漂う北白川に店を構える手打ちそば処みな川。手打ちの細麺を、香り高い京出汁が引き立てます。お揚げさんに大根おろしを添えた温かい蕎麦「京あげと九条葱のみぞれ蕎麦」は、京都の味覚が堪能できる一杯です。「丹波鶏」は、鶏の旨みたっぷりの出汁がたまりません。

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【蕎麦屋にこら】~モダンな京町家で蕎麦前と酒を嗜む~

西陣の京町家をモダンに再生した蕎麦屋にこらでは、料理とお酒を嗜みながら蕎麦を待つ、蕎麦前の文化が楽しめます。基本は要予約で、予約なしの場合は「そば前料理三品盛り合わせ」と「ざるそばorかけそば」のセットがいただけます。追加料金で「京鴨と九条葱の南ばんそば」などに変更可能。京鴨をはじめとする京都を感じる食材を使った一品料理も揃っています。

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【招福亭】~宇治の抹茶を練り込んだ茶そばが名物~

市営地下鉄「五条」駅から歩いて5分、閑静な住宅街にあり、地域の人々から愛されている招福亭。名物は自家製の「茶そば」です。宇治の抹茶を練り込んで作る「茶そば」は、つるつると喉ごしなめらか。ふわりと広がるお茶の香りがたまりません。「あまきつね」や「きざみきつね」、「衣笠」や「けいらん」といった京都ならではのメニューもあります。

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京都で楽しみたい年越し蕎麦

大晦日に一年を振り返りながら食べる年越し蕎麦。「細く長い形状にあやかって長寿を願う」「金細工師が散らばった金粉を集めるのに蕎麦粉の団子を使ったことから、金運アップを願う」「切れやすいことから災いを断って新年を迎える」など、年越し蕎麦を食べる理由にはさまざまな説があります。京都でも、大晦日には蕎麦店が営業時間を延長し、年越し蕎麦を食べる人が列をなします。醍醐寺では除夜の鐘を撞いたあと、年越し蕎麦の接待が。除夜の鐘で煩悩を払い、縁起物の年越し蕎麦を食べる、特別感のある大晦日を過ごせます。
※除夜の鐘撞きは事前申込が必要です。年越し蕎麦の接待は除夜の鐘撞き申込者が対象です。



風情ある京都の景色と蕎麦を楽しむ

山紫水明の都と評される京都。しっとり落ち着いた和の風情が漂う町並みや、清らかな水の流れ、四季折々に美しい自然を愛でながら蕎麦を味わうのは、京都で蕎麦を楽しむ醍醐味の一つです。京町家といった伝統的な建造物が当たり前のように使われているのも、京都ならでは。京都だからこそ楽しめるロケーションや、店内のしつらえ。蕎麦×京都の風景を満喫しましょう。

【三味洪庵】

  • しっとり柔らかな鴨肉が味わい深い「鴨南蛮蕎麦」

  • 九条ネギと鴨肉、香り豊かな出汁のハーモニーを堪能できる

  • 鴨の旨みが溶け込んだ出汁で〆の蕎麦を味わう「蕎麦屋の鴨鍋」

  • お店は京都市の歴史的風致形成建造物に指定されている京町家

  • 初夏には蛍が飛び交うという、白川の移ろう四季が美しい

  • 築100年を超す京町家は、当時の面影を色濃く残している

  • 多様なデザインのアンティークランプは見ていて飽きない

  • 店頭には石臼が飾られ、香り高い蕎麦への期待をかき立てる

〜 白川のせせらぎを眺めつつ蕎麦を楽しむ、贅沢なひととき 〜

白川が流れる閑静な住宅地に佇む、築100年を超す元乾物問屋の京町家。三味洪庵は、この歴史を感じる建物で、自家製の臼挽き十割蕎麦と鴨鍋が味わえるお店です。アンティークランプが優しく照らす趣深い店内もいいですが、テラス席から間近に眺める白川のせせらぎは風情抜群。四季折々の花や鳥を愛でつつ、国産食材で作る「京鴨と九条ネギの鴨南蛮蕎麦」や「蕎麦屋の鴨鍋」を食す、贅沢なひととき。行列ができる人気店なのも納得です。



【嵐山よしむら】

~眼前に広がる渡月橋と大堰川の流れ~

明治の日本画家・川村曼舟の旧邸宅に店を構える嵐山よしむらは、大きな窓から渡月橋や大堰川の眺めが一望のもと。春夏秋冬で異なる美しさを見せる、風光明媚な嵐山の眺望を楽しめます。こだわりの蕎麦は、国産の蕎麦を毎日石臼で挽き、職人が手打ちしています。蕎麦を使った創作料理や、「SONOQA〈そのか〉そば茶スイーツ」なども見逃せません。


【蕎麦たつ市】

~築100年の京町家で楽しむ蕎麦前文化~

二条城の東に店を構える蕎麦たつ市は、築100年以上の元呉服問屋の京町家で蕎麦がいただけるお店。高い天井や太い梁、坪庭など、町家建築の趣に浸れます。配合にこだわり抜いた二・八蕎麦は、ほんのり甘い蕎麦つゆと塩の二つの味で楽しめます。和の風情に包まれながら、お酒と肴を楽しみ、〆に蕎麦を食べる蕎麦前文化に触れてみませんか。



今味わいたい!京都の新しい蕎麦スタイル

京都で蕎麦がいただけるお店は数多くありますが、近頃は、今までとは一風異なるスタイルの蕎麦店が登場しています。伝統的な面と新しい面が同居する、京都のニューウェーブの蕎麦を見てみましょう。

【すば】

~京都では珍しい立ち食いスタイル~

2021年の大晦日にオープンしたすばは、京都ではあまり見かけない立ち食いスタイルの蕎麦店。提供される蕎麦は、素材も見た目も一ひねりした逸品ぞろいです。蕎麦麺はオリジナル開発されたもので、出来たてが毎朝届きます。昆布と鰹の上質な出汁を合わせ、立ち食いとあなどれない本格派。陶芸作家が手がけたカウンターで蕎麦をすする、ひと味違う京都の蕎麦体験が楽しめます。

【蕎麦と料理の店 五(いつつ)】

~老舗料亭が手がける蕎麦と料理の店~

大徳寺門前の蕎麦と料理の店 五(いつつ)は、料亭和久傳が手がける蕎麦と一品料理のお店。日本各地から取り寄せた蕎麦を石臼で挽き、ほんの少しのつなぎで職人が手打ち。使う水は大徳寺塔頭・真珠庵の井戸水だそうです。料亭ならではの季節の料理も楽しみの一つ。肩肘張らない雰囲気ながら特別感のある、ちょっとおめかしして訪れたい蕎麦店です。

\お土産にもおすすめ/

京アレンジ蕎麦スイーツ【そば菓子処 澤正】

麺状に切った蕎麦切りだけではなく、蕎麦はさまざまな形で楽しまれています。スイーツもその一つ。京都においては、蕎麦を用いた和菓子は、日常的に楽しむようなメジャーな存在です。泉涌寺や東福寺にほど近い澤正では、登録商標を持つ「そばぼうろ」をはじめ、「そばまんじゅう」や「そば餅団子」などの焼き菓子、生菓子を扱っています。これらのお菓子に合わせて、香ばしい「そば茶」も一緒にどうぞ。


京都で味わいたいお蕎麦マップ



※写真はイメージです。
※掲載内容は2024年12月23日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。