和食のイメージが強い京都ですが、昔ながらの洋食の老舗も残り、伝統の味が受け継がれています。高級店から庶民派のお店、喫茶店の洋食まで、多彩なタイプの名店が続いているのも京都ならでは。この町で愛され続ける洋食を堪能してみませんか。
花街に育まれた“老舗洋食”
京都の花街では、古くからの洋食店があり、独自の洋食文化が花開きました。京都ならではの洋食を味わってみましょう。
グリル富久屋「フクヤライス」
〜 芸妓の要望で生まれた花街の味 〜
明治40年(1907年)創業。鴨川のほとりに位置する花街・宮川町の入り口に立ち、店内の壁には芸舞妓のうちわがずらりと並びます。名物「フクヤライス」は、70〜80年前に芸妓の「柔らかいオムライスが食べたい」というリクエストから誕生。ふわふわの半熟卵で、ハム・マッシュルーム・グリーンピース・トマトが入ったケチャップライスを包んでいます。シンプルながら、トマトや塩味が利いたハムが味のアクセントに。かつては芸舞妓のリクエストに応えて、カニなどの高級食材を入れたこともあったとか。以来、「フクヤライス」は、今に至るまで宮川町で愛され続けています。
欧風料理 開陽亭「元祖・京の洋食弁当」
〜 テリヤキソース発祥の洋食店 〜
大正時代に祇園・八坂神社門前の石段下で創業し、かの有名映画監督も訪れたとされる洋食の名店。戦後は先斗町へ移転し、2022年より宮川町へ。芸舞妓が暮らす花街で、箸で食べられ出前もできるメニューとして、創業後程なくして、輪島塗の重箱に洋食のおかずを詰めた弁当を考案。その弁当こそが“日本初の洋食弁当”ともいわれる定番「元祖・京の洋食弁当」です。品数や大きさ、容器などは時代によって変える一方で、変わらぬ味を受け継ぐのが「牛ヘレ照り焼き」。柔らかな牛ヘレ肉のソテーにかけられたとろみのあるしょう油ベースの甘辛ソースは、冷めてもおいしく食べてもらえるよう、初代がみたらし団子のタレをヒントに生み出したもの。何とテリヤキソースの元祖ともいわれます。
洋食の店 みしな「ビーフシチュー」
〜 祇園の名店の味を継ぐ、路地奥の一軒 〜
石畳の二年坂から一筋入った細い路地奥にある洋食店。格子戸の玄関やカウンター10席のみの店内が、割烹のような佇まいです。そのルーツは、昭和23年(1948年)に祇園・花見小路で創業し、芸舞妓や歌舞伎役者、文豪らに愛された名洋食店「つぼさか」。その厨房で腕をふるったシェフ・三品さんと創業者の娘夫妻が受け継いだレシピと味が、今もこの地で続いています。名物「ビーフシチュー」の2週間煮込んだ濃厚なソースや、きめ細かく上品な薄衣のフライは、さすがの味わい。お茶漬けでサラリと締めるのも、つぼさか以来のスタイルです。場所と屋号を変えた今も変わらず芸舞妓が訪れる光景が、花街との縁の深さを感じさせます。
庶民に愛される洋食
毎日でも食べたくなる庶民的な洋食も、京都の洋食文化に欠かせない存在です。長年愛される町の洋食を楽しんでみませんか。
ますや「ランチB」
〜 通いたくなる昭和レトロな味と佇まい 〜
50年地元で愛される洋食店。店頭のガラスケースには懐かしいメニューのサンプルが並びます。カウンター6席の小さな店ですが、テイクアウト客も多く、お昼時にはご近所さんや会社員がひっきりなしに訪れる盛況ぶり。店主・関さんが作る洋食メニューが、どれもリーズナブルな値段でサーブされます。人気の「ランチB」は、ノスタルジックな銀皿にハンバーグやエビフライ、豚肉のピカタ、スパゲティなどが多彩に盛られ、気分が上がること間違いなし! Aランチはエビフライとピカタの2品が、魚フライに変わります。これぞ町の洋食店と言えるホッとする味わいと、カウンター越しに聞こえてくる仲良し店主夫妻の会話に心和みます。
新京極スタンド「ビフカツ・自家製コロッケ」
〜 ノスタルジックな空間で、洋食をアテに一杯 〜
昭和2年(1927年)創業の大衆食堂で、昼飲みOKの名酒場としても知られる一軒。明治築の店内に、貴重な泰山タイルの壁や大理石のテーブル、アメリカ製の電動レジなど創業時からの調度が、レトロモダンな趣をかもし出しています。大ぶりの「自家製コロッケ」は、アテとしてもおかずとしても大人気の一品。ジャガイモのホクホク感が生きたコロッケに、ウスターソース・ケチャップ・みりんなどを合わせた特製ソースが相性抜群で、どこか懐かしい味わいです。ステーキ肉を使った「ビフカツ」も、サクサク食感と柔らかい牛肉の旨みがたまりません。タイムスリップしたような空間で、懐かしい大衆食堂の味を楽しんでみて。
キッチンゴン 六角本店「ピネライス」
〜 三位一体の贅沢な一皿を自分好みに 〜
昭和45年(1970年)創業の洋食店。当時は高級料理のイメージが強かった洋食を手軽に食べて欲しいという思いから初代が考案した、チャーハン・ポークカツ・カレーソースが三位一体となった「ピネライス」が看板メニュー。「ピネ」とはフランス語で「薄い」という意味で、薄く伸ばしたポークカツのことを指しているそう。見た目によらずあっさり味で、子供からお年寄りまで愛される京都の定番B級グルメとしても有名。ソースをデミソースに変えたり、チャーハンをケチャップ味やガーリック醤油味に変更も可能。チーズや半熟卵などトッピングも豊富なので、好みの味を探してみては。
専門店だけじゃない! 愛すべき“喫茶店の洋食”
昭和初期に黎明期を迎えた京都の喫茶店。実は専門店顔負けの洋食も人気です。食後のデザートまで大満足させてくれるのが喫茶店の魅力。
イノダコーヒ本店「ボルセナ」
京都の老舗喫茶店の代表格「イノダコーヒ」。ミルクと砂糖入りがお決まりのブレンドコーヒー「アラビアの真珠」が看板ですが、実は軽食メニューも充実。ボリュームたっぷりのサンドイッチやふた付きの銀皿で供されるスパゲッティなどが朝7時の開店時から味わえます。なかでもイノダコーヒならではの知る人ぞ知るメニューが「ボルセナ」。約50年前に登場したこと以外、店にも詳細は伝わっていないという不思議なメニューで、その正体はハム・玉ねぎなどの具材と太めの麺をホワイトソースで絡めたパスタです。マイルドな味わいとボリューム感を備えた魅惑の一品です。