【“蘭”に出会う寺・西来院】プラントハンター西畠清順トークショー 体験レポート

  • サステナブル
  • 伝統

長らく門を閉ざしていた西来院が、2024年春から特別公開をスタートしました。公開に向けて境内は、様々な人たちの力添えによって「令和の大改修」が行われたといいます。そのひとりが“プラントハンター”として世界的に活躍する西畠清順さん。公開から約一年を迎える2025年4月26日(土)、西来院のサステナブルな歩みを学べる西畠さんのトークショーが行われました。

日程
2025年4月26日(土)
場所
建仁寺塔頭 西来院

「令和の大改修」で、お寺の再生へ

  • プラントハンター 西畠清順さん

参加にあたり、まず気になったのはプラントハンターという肩書き。じつは17世紀頃には存在したという、貴族のために植物を探し求め届けた伝統的な職業です。西畠さんは世界各地を巡り、ありのままの植物を収集する“現代のプラントハンター”として知られ、政府機関や王族、そして企業からの依頼やプロジェクトに応じて植物を届けています。

  • 西畠さんと雲林院住職

  • 「そら植物園」で雲林院住職はドウダンツツジにひとめ惚れされたそう

  • お庭に根付いたドウダンツツジ

  • シンボルツリーとして植えられた枝垂れもみじ

西来院の境内は長年手つかずで、境内は荒廃していたといいます。そこで新しく住職となった雲林院さん(以下、雲林院住職)が立ち上がり、お寺の開祖 蘭渓道隆の750年遠忌に向けて「令和の大改修」に着手。なかでもお庭の植栽に携わられたのが、西畠さんでした。

改修にあたり雲林院住職は、西畠さんが営む「そら植物園」に何度も足を運び、お庭の植栽を選ばれたそう。さらに蘭渓道隆の故郷、中国の「峨眉山(がびさん)」に赴くなど、西来院復興に並々ならぬ熱い想いをお持ちです。西畠さんは雲林院住職の行動力に感銘を受け、お寺の再生に共に力を尽くされています。

植栽豊かな3つの庭園解説

改修を経て完成したのが、玄関前庭園「九華青蓮(きゅうかしょうれん)」、中庭、そして本堂前庭「峨眉乗雲(がびじょううん)」という3つのお庭。イベントでは、植栽に携わった西畠さんならではの解説も行われました。

  • 玄関前庭園「九華青蓮」では紫蘭の花が咲き始めていました

  • 解説いただくなか、お庭では雲林院住職が水をまく姿も

「日本庭園は、推理小説のよう。作庭者によって様々な仕掛けが隠され、過去と対話できる楽しさもあります」と西畠さんは話します。なぜここに石を置いたのか、なぜこの花が植えられたのか… 西来院の仕掛けとなるのは蘭の花。雲林院住職の『開祖にちなみ“蘭の寺”にしたい』との願いから、お庭全体でなんと1,200株以上の様々な蘭を植えられました。「推理小説」と聞くと、次からの庭園鑑賞がさらに楽しくなりそうです。

  • 亀甲竹(きっこうちく)が植わる中庭

  • “蘭の寺”にちなみ、石器「円宗」には美しい胡蝶蘭が

続いて、室内に光や風を取り入れるための「中庭」へ。涼やかな竹は、風が吹くと風の動きを視覚化してくれる効果もあるのだとか。エアコンのない時代、人々は視覚からも涼を取り入れていたのですね。

  • 本堂前庭「峨眉乗雲」

  • 本堂には蘭渓道隆坐像が祀られています

最後は、本堂前庭です。「基本的に禅の庭(枯山水庭園)は、めぐる季節のなかでも変わることのない不易性を重視しますが、ここは四季折々の美しさを楽しめる庭になりました」と西畠さん。雲林院住職お気に入りのドウダンツツジやモミジのほか、蘭の花、さらに「峨眉山(がびさん)」の巨石を据え、蘭渓道隆に喜ばれそうなお庭です。青々とした初夏も良いですが、真紅に染まる秋も期待が膨らみます。

植物を未来へ活かすために

本堂ではモニターを使って、世界各地で携わった様々なプロジェクトのご紹介がありました。なかでも印象的だったのが、西来院の未来にもつながるような「オリーブの木」のエピソード。

西畠さんは「『植物を移動させるのは、かわいそう』という声もありますが、植物はいかに遠くへ行き子孫を残せるかを考えています。自然に逆らっているのではなく、植物をいかに活かすかが大切」と話します。

2011年、スペインから香川県の小豆島へ、樹齢約1000年のオリーブの木を移植するプロジェクトに携わった西畠さん。当初は高齢の木が本当に根付くの? と心配されましたが、見事に実をつけ、今では小豆島の人気スポットになったそう。その過程がモニターに映ると、会場からは拍手が沸き起こりました。

  • 玄関前庭園(写真)には、楠2本しかなかったといいますから驚きです

いま、西来院では、お寺の再生を目指し、新しい植栽が根付いています。 「改修前は寂しい印象でしたが、ドウダンツツジや枝垂れもみじ、蘭の花たちがこの地で活かされ、美しい庭へと生まれ変わりました。お寺は、広く様々な人が集う場所。四季折々に足を運んでいただくことでお寺が賑わい、未来へつながっていくことを願います」と想いを込めて、西畠さんは締めくくりました。

トークショー終了後は、庭園ライトアップが行われました。堂内の電気が消灯すると、新緑や枯山水の砂紋が浮かび上がり幻想的な雰囲気に。夕刻と夜、西来院の歩みを聞いてから見るお庭は、いちだんと美しく感じられました。

【“蘭”に出会う寺・西来院】プラントハンター西畠清順トークショーを終えて

1200年の歴史を誇る古都・京都。美しい神社仏閣を当たり前のように感じていましたが、西来院の荒廃から復興へのストーリーは興味深いものでした。お庭は新しく生まれ変わったばかり。これから5年、10年と歴史を紡いでいく未来が楽しみです

京都サステナツーリズム

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※掲載内容は2025年6月18日時点の情報です。