“百万遍”の由来とは? 念珠繰り発祥の「知恩寺」を訪ねる

  • 散策
  • 知る・学ぶ
知恩寺
 

京都のお寺探訪 1


3月のとある日。「そう京」Facebookの取材で、雨の京都を早咲きの桜を求めて歩いているとき、ふと立ち寄ったお寺があります。「よかったら、お寺の中を見ていきませんか?」と、若いお坊様。

そのお寺というのが、「百萬遍 知恩寺(ひゃくまんべん ちおんじ)」。京都に住む方ならば、「京都大学のある“百万遍”ね!」と、“とある交差点”が思い浮かぶのではないでしょうか。京都以外にお住まいの方は「知恩院?」と思われるかも・・・(同じ浄土宗ですが、別のお寺です)。

「ひゃくまんべんさん」と地域の方に親しまれ、「百万遍」交差点の名前の由来ともなった知恩寺。でも、いったいどんなお寺なのでしょうか? お寺のお坊様・萱原(かやはら)さんにご案内をいただきながら、お寺の魅力に迫ってみましょう♪


“百万遍”に込められた、ふか~い意味


2

京都大学の北西、東大路通と今出川通が交わる「百万遍」交差点(Google map)。その交差点のすぐ東側にたたずむのが、知恩寺。正式名称を、「浄土宗大本山 百萬遍 知恩寺」といいいます。浄土宗の開祖・法然上人(ほうねん しょうにん)によって開かれた、浄土宗七大本山のひとつです。

最近では、毎月15日に行われる「百万遍さんの手づくり市」や、毎年11月1日から5日に行われている「秋の古本まつり—古本供養と青空古本市—」の会場として賑わっているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

萱原さん「実は、手づくり市の日は、お寺で写経会(しゃきょうえ)をしています。写経と法話、念珠繰りをして、お昼ごはんもお出ししているんですよ」

念珠繰り! ・・・そうなんです。知恩寺は、「念珠繰り(数珠繰り)」発祥の地。“念珠繰り”というのは、老若男女が集い、大きな念珠(数珠)を膝の上にのせて、ひと玉ひと玉を順に隣に送りながらお念仏を称(とな)えるというもので、特に知恩寺の念珠繰りは「百萬遍念珠繰り」と呼ばれる由緒あるもの。「百萬遍」の号は後醍醐天皇から賜ったもので、それが現在の交差点名の由来となっています。

しかも、この写経会に参加すると、普段の拝観では見ることのできない大書院や御影堂(みえいどう)の内陣も見られるとのこと。いったいどんな雰囲気なのか、実際に参加してみることに!


毎月15日は、手づくり市の日! ・・・の裏で行われる写経会とは?


3

午後になって雨が上がり、さらにすごい人出に。


訪れたのは、2018年4月15日(日)。この日は朝からあいにくの雨でしたが、それでも境内にはすごい数の人! あらゆるところに人や物があふれ、美味しそうなものからかわいい小物まで、所狭しと商品が並んでいます。いまや出店するのも抽選制という京都を代表する人気市であることも納得ですね。


4

「楽しいな~♪」ときょろきょろしてしまいますが、目的は「写経会」。手づくり市で賑わう境内を抜けて、寺務所前の大玄関から入場します。


5

大玄関


受付を済ませ(写経1,000円・小筆付き、昼食500円)、写経会の会場である書院へ向かうと、美しい苔のお庭が出迎えてくれました。雨が降って、ちょうどいい潤い加減です♪


6

7

書院前の枯山水庭園。門の向こうは手づくり市で賑わっていますが、こちらはとても静かな空間です。


写経・法要・法話 ・・・そして、お昼ごはん!


8

写経をするのは、『一枚起請文(いちまいきしょうもん)』。建暦2年(1212)、法然上人が亡くなる直前に書かれた御遺訓(ごゆいくん、遺された教え)で、浄土宗の教えの要となるお念仏(称名念仏)の意味や心構え、生活の態度について簡明に書かれた文章です。

~私の説いてきたお念仏は、観念や理解の上で称(とな)える念仏ではなく、ただひたすらに“南無阿弥陀仏”と称えるものです。一点の疑いもなく“必ず極楽浄土に往生するのだ”と思って、ただひたすらにお念仏を称えなさい~(意訳)

漢字が並ぶ経文の写経と違い、ひらがな交じりのお手本をなぞらえていると、なんとなく意味も身体に入ってきます。そして、この写経会、出席のスタンプカードがあります。2018年は戌(いぬ)年なので、スタンプカードにも様々な「戌」の文字が並ぶのですが・・・ おや? 5月は違うものが混じっているような・・・? 毎年1月に皆勤賞の発表もされるそうなので、これは毎月通ってみたくなりますね♪


9

写経会は、9時半から受付がはじまり、10時50分から法要、11時半からは法話がはじまります。当日の参加者の数にもよりますが、10時半頃に訪れれば、写経をする時間も十分あります。途中参加・退出も可能ですので、時間に合わせて気軽に参加できますよ♪

個人的には、法話をしっかり聴いていただきたいな~と思いました。毎月お話しになるお坊様は代わるのですが、仏教の教えを間近に聴ける機会です。この日は洛北・市原のお坊様が来られて、「成幸(幸せになること)」というお話をしてくださいました。“どうしたら幸せになれるのか”。この誰もが気になるテーマについて、浄土宗の教えを交えつつお話しくださいました。

*****
浄土宗は、名を称えさえすれば阿弥陀様が迎えに来てくださる、という教え。往生は決定していると思って、自分を卑下することなく、阿弥陀様が来ることを信じて念仏をする。念仏の「念」は、今の心であり、今の心が仏様を信じて往生できると信じる。幸せになるにも同じことで、今の自分が幸せであると信じることからはじまる。不平不満を言えば文句が返ってくるように、今の自分が上機嫌でいれば、上機嫌が返ってくる。“喜べば喜び事が喜んで、喜び集めて喜びになる”(意訳)
*****


身近な話題も多く、「なるほど~」と思わずうなずくことも。一緒に参加されていた方も「旦那に優しゅうせなあかんな~」と、ぽつり(笑)


10

法話が終われば、お昼ごはん♪ お念仏を称えながら食堂へ行き、法話をしてくださったお坊様と一緒にごはんをいただきます。大きなお釜で炊かれたかやくごはんが、素朴な味わいで美味しいのです♡


みんながひとつになれる “念珠繰り”の魅力


11

そして、午後からはいよいよ“念珠繰り”が行われます! お坊様に連れられ、ここでもお念仏を称えながら、法然上人を祀る御影堂へと移動します。賑わう境内を見ながらお念仏を称えて歩く、というのは、なかなか独特の雰囲気があります。左下の写真は法然上人像の真裏に描かれた土佐派による壁画で、通常拝観では見ることができません。そして、写経を納めて・・・


12

一般拝観者も交えて、念珠繰りのはじまりです! 年齢も国籍もさまざまな人々が、一緒にひとつの念珠を持ち、「南無阿弥陀仏」と称えながら数珠を繰る姿は、感動的でもあります。でも、私は家が浄土宗ではないのですが、参加してもいいものなんでしょうか・・・

萱原さん 「宗派もなにも関係ないんです。誰でも参加して、一緒に数珠を回していただければいいんですよ」

平安末期から鎌倉時代にかけての“末法の世”に、お念仏を称えれば誰でも救われる、と教えを説いた法然上人。まだ仏教が貴族など一部の階層のものであった時代に、民衆を救おうと奮励された方です。その懐の深さを感じさせるような、念珠繰りでした。

萱原さん 「4月23日から25日にかけて行われる“御忌(ぎょき)大会”では、ここにかかっている大念珠を繰りますよ」

・・・なんですって!?


13

この御影堂には、堂内を囲むように大きな念珠が張り巡らされていて、本来の「百萬遍念珠繰り」は、この大きな念珠を使って行われるもの。

この大念珠が降ろされるのを見られるチャンスは、そうそうありません! “念珠繰り”のことをさらに知るために、御忌大会にも伺ってみました♪


写経会プチ情報☆ “デイタイム念仏”にもご注目♪


14

ところで、写経会の際の特別情報をもうひとつ。境内に建つお堂「阿弥陀堂」は、普段は扉が閉ざされているのですが、手づくり市の日だけは開扉され、本尊・阿弥陀仏を拝むことができます。

堂内にぽつぽつと置かれているのは、木魚! 誰でも自由に叩きお念仏を唱えることができるのです。毎年4月に知恩院で行われている「ミッドナイト念仏 in 御忌」が最近話題を呼んでいますが、知恩寺は、いわば「デイタイム念仏」!? 手づくり市の賑わいに木魚の音が響き渡るのも、知恩寺ならではの、のどかな雰囲気です♪ こちらもぜひ参加してみてくださいね。


大念珠繰りは、圧巻の迫力でした!


御忌大会は、知恩院や金戒光明寺など、浄土宗の様々なお寺で行われています。元々は法然上人の命日である1月25日に行われていたのですが、明治10年(1877)から、人々がお参りしやすいよう4月に実施されるようになったのだとか。

知恩寺にもこの期間、全国から檀信徒さんが訪れます。私が伺った24日(火)は、長野県の2つのお寺からたくさんの方がお越しになっていました。


15

堂内には雅楽が響き渡り、法衣姿のお坊様がずらり。荘厳そのものの光景です。粛々と法要が進められ・・・


16

ついに大念珠が降ろされます! この大念珠は、平成23年(2011)に行われた「宗祖法然上人800年大遠忌」の際に奉納されたものだそう。堂内をぐるりと囲む大きな念珠は、あまりの大きさにワンショットでは収めきれません! 吊されていたときよりも、大きさが実感できますねぇ・・・


17

お坊様と檀信徒さん、一般拝観者の方も混じって、大きな数珠が繰られていきます。お坊様の称える「南無阿弥陀仏」の名号、それに重なる音域も様々な人々の声、カンカンと響く鐘の音や、数珠が回るジャラジャラとした音など、堂内にはいろいろな音が立ちこめていきます。大きな“親玉”が回ってくるたびに、それを撫でたり、頭に掲げたりしながら、称名はどんどんテンポアップしていきます。


18

陶酔感を生むグルーブが最高潮に達したところで、念珠繰りが終わります。終わった後の、不思議な静けさ。そして大念珠は元の位置に戻されます。


知恩寺23

福原隆善師。右手前は今回ご案内いただいた萱原さんです。


そして、再び法要の後、第75世法主・福原隆善(ふくはら りゅうぜん)師が法話をされて、この日の御忌大会は終了となりました。


20

法然上人の祀られる須弥壇の横には、「南無阿弥陀仏」の軸が掲げられています。これこそ、後醍醐天皇から「百萬遍」の号を賜ったときに拝受した、宮中秘蔵の「弘法大師御筆 利劔名號軸(りけんみょうごうじく)」です! 普段はここに、快慶作の阿弥陀如来立像が祀られているのですが、御忌大会のときのみ、この軸が飾られます。

~後醍醐天皇の御代、京都で大地震や疫病が相次ぎ、知恩寺第8世空圓(くうえん)上人が悪疫退散の祈願をし、この軸を掲げて七日七夜「阿弥陀仏」の名を称えること、百萬遍(百万回)。見事、悪疫が止み、天皇より「百萬遍」号とこの軸、そして540珠を持つ大念珠が下賜されました~

それが、“百萬遍”の由来であり、“大念珠繰り”の発祥となったのです。


この夏は知恩寺が熱い! 京博の特集展示や「そう京」イベントも♪


21

圧倒的な大念珠繰り。そしてなんとも深い、知恩寺の歴史。このほかにも境内にはまだまだ見どころがあり、たとえばこの鳥居。法然上人の御廟の鳥居なのですが、ある漢字を象っているのだとか。さて、なんでしょう?(ヒントは、“今の心”です。) ・・・実は、お墓にあの“アフロ仏像”がいるというウワサも。気になりますね・・・

そして今年要チェックの情報といえば、2018年の8月から開催される、京都国立博物館「百萬遍知恩寺の名宝」展! 浄土宗ゆかりの名品が一挙公開されるので、見逃せませんよ♪

また、それに合わせ、「そう京」イベントも実施することに! お寺の見どころをお坊様にご案内していただき、さらには参加者の皆さんで実際に大念珠を繰ることもできます♪

***
法然上人の想いが生きる、百萬遍 知恩寺。素朴な信仰心を感じられるお寺で、とっても親しみやすい雰囲気なので、ぜひ皆さまも足を運んでみてくださいね♪ ご案内いただいた萱原さま、ありがとうございました!


■百萬遍 知恩寺
【拝観時間】境内自由(堂内は9:00~17:00)
【拝観料】無料
【電話番号】075-781-9171
【アクセス】市バス「百万遍」バス停から徒歩すぐ、京阪鴨東線「出町柳駅」から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】http://hyakusan.jp/

★百萬遍さんのお写経会
【日時】毎月15日(8月のみ25日) 9:30~14:15頃(出入り自由)
写経1,000円、昼食500円

★百万遍さんの手づくり市
【日時】毎月15日 9:00~16:00
【問合せ】075-771-1631(手づくり市事務局) ※お問合せ先は、知恩寺ではありませんのでご注意ください
【公式ホームページ】http://www.tedukuri-ichi.com/

--------------------------------------------------------------------------------
★「そう京」イベント <6月24日(日)から受付開始!!>
百萬遍知恩寺 特別拝観と数珠繰り体験
【日時】2018年8月18日(土) 13:30 ~ 15:30
【募集人数】30名 【参加料】1,300円(お土産付、イヤホンガイド代込)

 

Written by. みさご

おすすめコンテンツ