お坊様も驚いた! 国内初の大発見?!

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2017年は、「国宝」という言葉が誕生して120年を迎える節目の年。また、京都国立博物館の開館120周年の年にもあたるそう。それを記念し、美術工芸品の国宝指定件数のおよそ4分の1もの作品群が大集結する展覧会『国宝』が開催されるということですから、期待せずにはいられません。そんな中、同館に寄託されている「ある国宝」で、過去に類を見ない貴重な発見があり、記者発表が行なわれました。その作品の所蔵元であるお寺のお坊様も「これは気づかないよ」と驚いた内容とは。

「ある国宝」とは・・・

黄不動修復後

曼殊院蔵・国宝「黄不動像」一幅 絹本著色

紅葉の美しさでも知られる曼殊院門跡に伝わる「不動明王像(黄不動)」。「像」といっても、彫刻の仏像ではなく、掛け軸の形態をとる「仏画」です。平安時代後期以降、滋賀県にある三井寺に伝わる黄不動をお手本として多く描かれたうちのひとつですが、絵画表現上の秀逸さや、12世紀という古い時代に描かれた現存唯一のものであるということから国宝に指定されています。


新発見のきっかけは・・・

黄不動本番

曼殊院蔵・国宝「黄不動像」一幅 絹本著色 (左:修復前 右:修復後)

平成25年から2年の歳月をかけて行なわれた修復作業。ぱっと見で修復の成果をご確認いただけるとしたら、全体の色でしょうか。修復後(右)の方がやや明るく、そして赤い衣の部分がより鮮やかになっていますね。色彩の劣化の他にも、折れや亀裂にくわえ、剥落なども目立つことから、結果的に「解体修理」がなされることになったそう。絵を解体修理・・・ と言われても、何やらピンときませんが、この黄不動、絹の上に描かれており、その下には絹の劣化を防ぐための「肌裏紙」「増し裏紙」といった紙が重ねられているといいます。決して厚くはないそれらの紙を、手作業で慎重に「本紙」である絹を傷つけることなく除去するということですから、途方もない作業になることは容易に想像がつきますね。新発見は困難を極めるこの剥離作業から生まれました。


万が一にでも発見できたら、あなたは天才かもしれません

腹部

曼殊院蔵・国宝「黄不動像」裏面部分 透過光撮影写真(岡墨光堂提供)

新発見があったのがコチラ。黄不動のお腹の部分なのですが、実はこれ、線などもはっきり見てとれますが、「本紙」の裏面にあたります。「本紙」と直接接する「肌裏紙」を剥がしたところ、この面に10センチほどの大きさで「あるもの」が描かれていることが確認されたというのです。さて、写真をじーーっくりとご覧ください。黒い「人」のような部分は口でしょうか。そう思いだしたら、何かが笑っているようにも見えてきませんか。何となく「猫」のような動物にも見える気が・・・ 。
本当に、じーーっくりとご覧いただいた皆様、ごめんなさい。そのあるものの発見は、文化財修復のプロであっても非常に困難で偶発的なことであったそう。おそらくこの写真からは確認することができません・・・ 。では、特殊な方法で撮影された写真をどうぞ。


描かれていたのはちょっと意外なもの

腹部赤外線

曼殊院蔵・国宝「黄不動像」裏面部分 赤外線透過光撮影写真(岡墨光堂提供)

コチラの写真は、ぜひともじーーっくりとご覧ください。「人」の上の方に、黒い輪郭のようなものが浮かび上がっているのがご確認いただけますよね。詳しく調査すると、なんと、「本紙」に大きく描かれている黄不動を、そっくりそのまま小さくしたもののようであるそう。
なんでも、絵師が仏画を描き始める前に、僧籍を持つ絵仏師や導師が清められた水で仏様を描く「御衣絹加持(みそぎぬかじ)」という儀式が文献上で確認されており、まさにその痕跡ではないかというもの。ここまで目に見える形で残り、ほぼほぼ「確証」と言ってよさそうな例はおそらく「本邦初」ということですが、この黄不動に関しては、「水」ではなく「薄墨」で描かれていたことが、今回の発見につながる要因のひとつであったようです。


過去に例を見ないとされる発見に・・・

松景さん

黄不動の所蔵元である曼殊院門跡の門主(住職)様は、「『尊いことです』と、ひと言だけ話されていました」とは、同門跡の松景崇誓執事長。たったひと言・・・ ではありますが、仏画を描く前に、清めるという行為がなされていたということは、当時の人々の黄不動への想いや信仰心の強さを垣間見ることができます。そして、長い年月を経て今も変わらずこの黄不動は信仰の対象として現代に伝わっているわけですから、”尊い”というひと言は、非常に端的なひと言なのかもしれませんね。


黄不動も含め国宝が大集結!

京博

今回ご紹介した黄不動は、10月から京都国立博物館で開催される『国宝』展でも展示予定。御衣絹加持の痕跡は確認していただくことはできないと思いますが、「作品の劣化の問題や、信仰の対象としてご覧いただきたい」という門主様の意向から、今後は曼殊院以外での展覧会等への出陳を控える予定であるそうです。先のことを見据えると、今回の『国宝』展は貴重な機会となりそうですね。思えば今年の干支、酉の守り本尊はお不動さん! これも何かのご縁かもしれません。ぜひそのお姿を拝みにお越しください。


■開館120周年記念 特別展覧会 国宝
【会期】2017年10月3日(火)~11月26日(日)
I期 10月3日(火)~15日(日)/II期 10月17日(火)~29日(日)/III期 10月31日(火)~11月12日(日)/IV期11月14日(火)~26日(日) ※I~IV期は主な展示替です。一部の作品は上記以外に展示替が行われます。

【開館時間】9:30~18:00(入館は17:30まで)、金曜日・土曜日は~20:00(入館は19:30まで)
【休館日】月曜日 ※10月9日(月・祝)は開館、10日(火)は休館
【料金】1,500円
【場所】京都国立博物館(平成知新館) 詳細情報はこちら
【公式ホームページ】 特別展覧会 国宝 http://kyoto-kokuhou2017.jp/
★「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード会員の皆さまへ
京都国立博物館が休館日となる11月6日(月)・20日(月)に、「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード会員様などを対象とした参加者限定の『国宝』展ナイトミュージアムを開催します。詳しくはこちらよりご確認ください。

 

Written by. カツオ

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