年の瀬になると話題になるのが、来年の干支のこと。「そう京」編集部内でも、かりーさんが「ワンダフルグッズ」を探しに行ったりと、なにかと“犬”の話題が多くなっています。
干支関連でよく取り上げられるのが「狛○○」。京都では、大豊神社に狛ネズミがいたり、岡崎神社に狛ウサギがいたりと、いわゆる年の瀬の“テッパンネタ”のひとつです。来年は戌(いぬ)年だけに、満を持しての「狛犬(イヌ)」特集だっ!!! と、意気込んだところ、よくよく探してみると京都市内には、犬らしい狛イヌがあまり見当たらず・・・ 「そもそも犬じゃないのになんで狛犬って呼ぶんだろう?」という疑問が浮かぶと、「狛犬って、いったいなんだろう・・・?」という素朴な疑問が湧き上がり、どこに行っても狛犬ばかり気になるようになってしまいました。
そこで今回は、一冊の本を手がかりにしながら「狛犬のフシギ」に迫ってみようと思います! めくるめく狛犬の世界、どうぞお付き合いください♪
『京都狛犬めぐり』を持って、旅に出発!
右の地図は、本書(247)頁より
京都の狛犬を調べてみよう! と思いたったのはいいのですが、さて、どうやって調べよう・・・ そんなときに出会ったのが、小寺慶昭先生が著された『京都狛犬巡り』という一冊の本。京都のナカニシヤ出版から1999年に出された、狛犬の研究書です。
【ナカニシヤ出版ホームページ】 ⇒ http://www.nakanishiya.co.jp/book/b134006.html
小寺先生は京都府下から大阪など近畿圏全体を調査され、その結果を数冊の本にまとめられています。『京都狛犬巡り』は、そのなかから京都に限定して研究成果をまとめたものです。
この本のありがたいところは、付録として巻末に「狛犬巡り」のモデルコースが提案されていること! ただ狛犬の歴史を追いかけるのではなく、まずは実際に狛犬に出合ってみよう! ということで、ナカニシヤ出版さんにご許可をいただき、本を片手に出かけてきました。1999年に出版された本ということは、それからおよそ20年が経ちます。風景も変わっているのかな? と、楽しみな旅のはじまりです♪
伊部狛犬、浪花狛犬・・・ 狛犬の種類分けにびっくり!
「1 東山周辺コース」で紹介されるモデルコースは、清水寺から粟田神社までを散策するコース。
「清水寺から粟田神社までの東山山麓の道は、古い狛犬や名品の狛犬等、いろいろな狛犬と出合える道である。多くの観光客が訪れるこの道を、狛犬巡りに歩いてみよう。
出発は市バスの東山五条のバスストップ。五条坂の入口、薬局と大谷本廟の間の細道を東へ向かう。やがては墓地に面するが、しばらく登ると妙見堂の小さな山門に出る。境内に、京都最古の伊部狛犬がいる。もう一対の狛犬は、天保時代の浪花狛犬である」
いわゆる観光のメッカを巡る“王道コース”。この道を、狛犬を求めて歩きます。
さすがに約20年もの歳月が経っているだけに、「薬局と大谷本廟の間の細道」と紹介されている薬局はすでに無く、今は“ねり天”屋さんになっていました。
墓地の間を進み、妙見堂に辿り着きます。舞台造りの展望台からの景色が素晴らしく、こんなお堂があったんだ! と驚きの発見でした。鳥居前と本堂前に、二対の狛犬がいます。鳥居前が、“京都最古の伊部(いんべ)狛犬”。なんと、陶器製です! ・・・狛犬というと「石造り」、と思っていたのですが、最初に出合うのが「陶器製」とは思いもよりませんでした。
上:伊部狛犬、下:浪花狛犬
「伊部狛犬」というのは、備前焼の狛犬のこと。備前焼の主な産地が伊部であったことから、その名があるそうです。岡山県周辺で多く見られる狛犬で、軽くて運搬に便利なため、各地にもたらされたのだとか。この狛犬は、安政2年(1855)初冬に造られ、岡山の方が寄進されたそう。
本堂前にいるのが、“天保時代の浪花(なにわ)狛犬”。その名の通り、大阪で造られたもの。実はこの「浪花狛犬」こそ、関西で主流を成す狛犬です! ・・・ここで、ふと疑問が。「京都にいるのに、他所で造られているの?」 “?”マークを抱えつつ、次のスポットへと向かいます。
■妙見堂(鳥邉山妙見大菩薩妙見宮)
【参拝時間】6:00~17:00
【参拝料】境内無料
【電話】075-561-6675
【アクセス】市バス「五条坂」バス停から徒歩約5分 Google map
京都の狛犬は、京都生まれじゃない!?
「同じ道を戻り五条坂のみやげ物店を楽しみながら行くか、そのまま鳥辺野の道を登って行くかして、清水寺仁王門に出る」
墓地の間を行く鳥辺野の道を進んで、清水寺の門前までは約3分。冬といえど、今日も変わらぬ賑わいを見せる門前で、私は仁王門前の狛犬だけを見つめます。
この狛犬といえば、清水寺の七不思議のひとつです。通常の狛犬は、口を開けたものと、口を閉じたものがいて「阿吽(あうん)の狛犬」と呼ばれます。そして、一般的な知識で言えば、口を開けている方が「獅子」、口を閉じている方が「狛犬」で、狛犬には角があります(どこかの妖怪もそんなだったかと思います)。
しかし清水寺仁王門前の狛犬は、両方とも口を大きく開けているため「阿阿の狛犬」と呼ばれ、七不思議のひとつとして数えられているのです。・・・実はこの狛犬にはモデルがあり、それが「東大寺南大門の狛犬」です。鎌倉時代、南都炎上から東大寺が復興する際に、宋からたくさんの工人が招かれました。その工人の手によって造られたのが、「南大門狛犬」です。中国式の獅子像は、両方口を開けている場合が多いということで、中国式のスタイルなんだそうです。
■清水寺
【拝観時間】6:00~18:00(季節により変動あり)
【拝観料】400円
【電話】075-551-1234
【アクセス】市バス「五条坂」バス停から徒歩約10分 Google map
【ホームページ】http://www.kiyomizudera.or.jp/
狛犬にも歴史あり!
さて、ここで中国式の狛犬が出てきたので、カンタンに狛犬の歴史をまとめてみましょう。
狛犬の起源はというと、古代オリエントまでさかのぼることができるそうで、そもそもは百獣の王「ライオン」がモデルであったとか。インドから中国へと伝わると、皇帝の守護獣としての獅子像が定着。君主を守るものとして、日本の宮中に持ち込まれたそうです。この獅子像が日本独自の発展を遂げて、平安時代後期に「獅子・狛犬」一対で“狛犬”とする形になったのだとか。
「狛犬」というのは、「高麗(こま)犬」のこと。高麗は“中国の領域外のエリア”であり、犬は“犬に似た霊獣”を指すそうで、つまり“見知らぬ土地の犬っぽい霊獣”、というざっくりとした定義なんだそうです。形が決められていなかったため、日本の人々は想像の羽根を広げてさまざまな狛犬を作り上げてきたのです。
京都国立博物館「いぬづくし」展にて展示中の獅子(右)・狛犬(左)(峰定寺伝来)平安~鎌倉時代(12世紀)<京都国立博物館>
宮中で大事にされた狛犬が、民間へと流布したのが、江戸時代のこと。徳川家康を祀る日光東照宮の参道に狛犬が寄進され、それを元に各地に狛犬奉納ブームが起こったのだとか。宮中の狛犬は、当然京都がその舞台となるわけですが、民間に広まった狛犬は、日光から江戸、江戸から大阪へと入り、大阪の影響を受けた狛犬が、京都の各地に奉納されていきました。実は京都の(一般の人が見られるところにいる)狛犬は、大阪文化の影響を受けているんですね。
⇒京都国立博物館で開催中の「いぬづくし」でも、狛犬が展示されています!
会期:2017年12月19日(火)~2018年1月21日(日)
休館日:2017年12月25日(月)~2018年1月1日(月・祝)、9日(火)、15日(月)
京都生まれの狛犬は?
「ここから、あまりにも有名な三年坂(産寧坂)を下り、二年坂を抜けると、霊山護国神社の鳥居に出る。ここにいる白川狛犬は巨大で、京都で二番目に大きい」
お次は、「白川狛犬」の登場です。清水寺から門前町を抜け、三年坂(産寧坂)、二年坂と歩いて行くと、道すがらにはたくさんのおみやげもの屋さんや食べもの屋さんが並び、きょろきょろ、目移りしてしまいます♪
気になるスポットをのぞきながら、“維新の道”へ出ると、どどーんとそびえ立つのが、京都霊山護國神社の鳥居です。この大きい狛犬が、京都市で2番目の大きさを誇るという「白川狛犬」です!
立派ですね~。坂道をのぼり、本殿へと向かいます。
明治元年(1868)に建立された霊山護國神社といえば、幕末の志士の霊を祀り、志士像なども多くありますが、ここでも狛犬だけに注目。本殿前の白川狛犬は、京都市で6番目の大きさとのこと。昭和14年(1939)に本殿と拝殿が造営された際に寄進されています。ところで、この「白川狛犬」こそ、京都生まれの狛犬です。
浪花狛犬が京都を席巻すると、京都の石工たちも、遅まきながら狛犬作りをはじめます。・・・というのも、京都の石工の仕事は灯籠などが主であったため、狛犬に取りかかるのが遅かったのだそうです。
その石工たちが拠点としていたのが、京都の「白川」地域。小寺先生によると、「尻尾に浪花狛犬の影響を強く残しながらも、白川石工の高い技術水準によって、今までにない洗練された狛犬が作り出された」そうなのですが、「すぐに明治維新を迎えたので、他の地方に多くの影響を及ぼすまでにはいたらなかった」と残念そう・・・
たしかに、筋骨隆々とした美しい狛犬です! 特に本殿前の狛犬の美しさに惹かれ、いろいろな角度から眺めていました。
■京都霊山護國神社
【参拝時間】8:00~17:00、受付は9:00~
【参拝料】境内無料、旧霊山官修墳墓300円
【電話】075-561-7124
【アクセス】市バス「東山安井」バス停から徒歩約10分 Google map
【ホームページ】http://www.gokoku.or.jp
京都市最古の狛犬は、安井金比羅宮に!
「・・・東大路通りに出ると、そこが京都市最古の狛犬のいる安井金比羅宮だ」
すっかり狛犬の虜になってきたところで、いよいよ京都市最古の狛犬登場です!
安井金比羅宮といえば縁切り・縁結びの神さまとして知られ、かりーさんもブログで紹介している良縁スポット。参拝に訪れる方は皆“縁切り縁結び碑”に夢中ですが、ここでも私は狛犬だけを見つめます。
特徴的な狛犬が多く、「いろんな種類がいるな~♪」と眺めつつ、目指すは北門。9月の櫛まつりで知られる久志塚(櫛塚)のそばに佇む、安井天満宮が目的地です!
塗り直されたばかりの、目にも眩ゆい朱色の社殿の前に、京都市最古の狛犬がいました!
明和4年(1767)寄進。この本では“参道にいる狛犬”だけを対象としているため、京都最古といっても意外に新しい年代です。ちなみに、東京都内の参道狛犬で最古のものが承応3年(1654、目黒不動尊)、大阪では元文元年(1736、住吉大社)。上述したように、京都が一番歴史が浅いのです。
狛犬を見るときにはいくつかポイントがあるそうで、そのひとつが「尻尾」。
「江戸狛犬は、初期が太い筍形の尻尾(「筆円尾」と呼ぶ)であり、途中から、付け根から身体の左右に分かれて流れていく尻尾(「二分尾」と呼ぶ)に変化したのに対して、浪花狛犬は扇尾となっている」
上:安井天満宮の狛犬、下:右は安井天満宮の狛犬の尾、左は妙見堂の狛犬の尾
扇尾が浪花狛犬の特徴ということで、この狛犬の尻尾も見てみると、風化してきてはいますが、なるほど扇形です。最初に訪れた妙見堂の狛犬も、扇形でした。これから狛犬は尻尾に注目! ですね。
■安井金比羅宮
【参拝時間】境内自由、授与所9:00~17:30
【参拝料】境内無料
【電話】075-561-5127
【アクセス】市バス「東山安井」バス停から徒歩約1分 Google map
【ホームページ】http://www.yasui-konpiragu.or.jp/
八坂神社から知恩院への道で、狛犬の知識チェック!
この後、モデルコースは八坂神社や円山公園を抜けて、知恩院門前へと至ります。八坂神社にもたくさんの狛犬があり、「あ、これは浪花だな」とか、「あ、これは伊部だ!」、「これは青銅製だ!」など、とにもかくにも狛犬に目が行ってしまいます。いつのまにか少しずつ種類もわかるようになっています(笑)
知恩院の七不思議のひとつである「瓜生石」のそばに佇む「松風天満宮」は、「ここに恐ろしさナンバーワンの狛犬がいる」と紹介されるスポット。外からのぞき込むと、陶器の狛犬が見えます。こちらは、先ほどの伊部狛犬と違い、黄色の塗料が塗られていて、確かに迫力があります。が、入り口が閉まっているため、遠くから眺めるのみ・・・
刀剣ブームの粟田神社が、狛犬わんダーロードの最終地点
本殿前の浪花狛犬、それぞれ前と後ろから
そして狛犬巡り、最終目的地の粟田神社へと向かいます。
「粟田神社には五対の狛犬がいる」ということで、その五対を探します。鍛冶神社に一対、参道に二対。本殿前の狛犬は慶応元年寄進の浪花狛犬。尻尾がクルクル巻で可愛らしい、バックシャンな狛犬です♪
上:出雲狛犬、下:岡崎狛犬
大神宮社前には「出雲狛犬」。出雲狛犬は、出雲の来待(きまち)石で造られ、お尻をあげた独特のポーズをしていることが多いそう。残念ながら、右側の狛犬は風化して、形がわからなくなっていました。でも、このポーズの狛犬は、コース内で唯一なので、貴重です!
出世恵美須神社前には、昭和8年(1933)寄進の「岡崎狛犬」。岡崎狛犬は、いわゆる現代型の狛犬で、愛知県岡崎市が主産地。昭和初期から量産され、全国に画一的な狛犬の姿をもたらした、もっともスタンダードな狛犬だそう。
・・・なんていっぱい種類があるんでしょう! 刀剣ブームで人気のある粟田神社ですが、狛犬にもぜひご注目いただきたいですね。
そして、能舞台でもワンちゃんズを発見♪ 2017年10月の粟田祭「粟田大燈呂」に登場したコたちだそうです。可愛らしいですね♡
■粟田神社
【参拝時間】境内自由、授与所8:30~17:00
【参拝料】境内無料
【電話】075-551-3154
【アクセス】市バス「神宮道」バス停から徒歩約5分、地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約7分 Google map
【ホームページ】http://www.awatajinja.jp/
狛犬巡りを終えて
ページ数にしてたった3ページのモデルコースを巡るだけで、伊部狛犬、南大門狛犬、浪花狛犬、白川狛犬、出雲狛犬、岡崎狛犬、と様々な種類の狛犬に出合えてしまいました! まさに、「狛犬わんダーロード」!(狛犬は“わん”とは鳴きませんが) 定番の観光コースであり、何度も通った道ですが、「狛犬を探す」という目的で巡ると、また違う発見ができました。まだまだ知らないことがいっぱいあるなぁと、あらためて京都のおもしろさに気づくことができたのが、何よりの発見です!
けして犬ではない「狛犬」ですが、巡ってみると奥深い魅力に惹きつけられてしまいました。門前でただ佇むだけではない狛犬たち。戌年の2018年、参道の狛犬にも温かいまなざしを向けてみてくださいね♪
参考文献:小寺慶昭(1999) 『京都狛犬巡り』 ナカニシヤ出版