
京の和菓子の玉手箱 3
今年も残り僅かとなりました。2018年も京の和菓子を楽しんでいただきたいという願いを込めて、“新年を寿(ことほ)ぐ”祝いの和菓子をご紹介します。ナビゲーターは、京都の和菓子を愛する“和菓子ライフデザイナー”小倉夢桜(おぐらゆめ)さん。上質な和菓子の世界を、どうぞお楽しみください♪
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クリスマスが終われば、もう新年。なにかと忙しいこの時期です。
新年は、京都の和菓子が一年で最も華やぐとき。しきたりを重んじる京都の人々に満足していただくために、和菓子職人さんは毎年趣向を凝らし、新年のお菓子を作ります。事始め(12月13日)を迎えると、それぞれの和菓子屋は、菓子の見本を立派なお重に入れてご贔屓のご家庭に赴き、注文を受けて回ります。その習わしを「御用聞き」といいます。京都に長く暮らしている方が和菓子についての思い出話をする際には、必ずといっていいほど話題に出てきますが、今では時代の流れによって少なくなり、一部の和菓子屋にだけ残る風習となりました。
「毎年、お菓子屋さんが持ってきてくれはる、立派な箱に入った沢山の綺麗なお菓子を見るのんが、楽しみやったわぁ」
「家族みんなで集まってどのお菓子にしようか、よう悩んだもんやねぇ」
「お菓子屋さんのお菓子の説明も楽しみやったなぁ」
等々、話が尽きません。
それでは今回は、新春の寿ぎに彩りを添える、1月の和菓子をご紹介します。
游月(ゆうづき)【賀正菓子・つくばね】
寺社仏閣が多い京都での初詣は、観光の方にとっては「どこにお詣りしようか」非常に迷ってしまうところだと思います。京都の人々の多くは、大晦日や元日は、験を担いで毎年同じ過ごし方をします。たとえば、大晦日には八坂神社へお詣りし、年が明ければ伏見稲荷大社へお詣りするなど。両社は、例年多くの参拝者が押し寄せて賑わいます。
特に八坂神社の「をけら詣り」は、京都を代表する年越しの風物詩。「吉兆縄」に移した御神火を消さないように縄をくるくると回しながら家路につき、その火で神棚を灯したり、お雑煮を炊く火種に用いたりして新年を祝います。
和菓子屋の店頭にも、新年にふさわしいおめでたいお菓子として、京都の伝統的な祝菓子である「花びら餅」や、松竹梅や鶴などの縁起物をモチーフにした「賀正菓子」が並びます。

叡山電鉄「修学院駅」より東へ2分ほど歩いたところに、平成になってから創業した新しいお店「游月」があります。昔ながらのものから現代風にアレンジしたものまで幅広い種類の和菓子を販売されています。

そのなかでも、やはり和菓子の華である上生菓子の意匠からは、職人さんの感性と心意気が伝わってきます。毎月、季節を彩る上生菓子が数種類店頭に並ぶのですが、翌年に同じものが販売されることはほとんどなく、「一期一会」のお菓子たちです。
「何を見ていても、どのようにお菓子で表現できるかを自然と考えてしまいます」
と、照れながら話される、職人さん。意匠を考える際には、並んでいるお菓子の色目が重ならないように気をつけているそうです。2018年の賀正菓子も、異なる色目の素晴らしいお菓子が店頭に並びます。そのなかでご紹介したいお菓子が、こちら。

つくばね(360円)
外郎(ういろう)製の色鮮やかなお菓子は、羽根つきの羽根「つくばね」をモチーフにしたもの。羽根の先端に付く黒い玉「無患子(ムクロジ)」に見立てた小豆には、新年らしく金箔があしらわれ、華やかな色目に仕上げられています。
「羽根つき」は、近年では見かけることが少なくなりましたが、古来伝わる、縁起の良い正月遊びです。「無患子」は植物の実で、その漢字から“子が患わない”という願いが込められ、羽子板には“邪気を跳ね返す”という意味があります。
縁起物の賀正菓子で、皆さんも幸せな一年を願ってみてはいかがでしょうか。
■京菓匠 游月 本店
【営業時間】9:00~19:00
【定休日】無休
【電話】075-711-1110
【アクセス】叡山電鉄叡山本線「修学院駅」から徒歩約2分 Google map
【公式ホームページ】http://kyoukasyou-yuuduki.com/
☆「つくばね」は2017年12月26日(火)から2018年1月10日(水)頃までの販売を予定。お求めの際は事前にお問合せください。
船屋秋月(ふなやしゅうげつ)【干支菓子・いぬ】
2018年の干支は「戌(いぬ)年」。街には、干支にちなんだ犬をモチーフにした様々な商品が溢れています。どの商品も愛らしい犬の姿が印象的です。
2018年の戌年に京都の寺社仏閣で注目を集めそうなところが右京区鳴滝にある、三寳寺(さんぽうじ)です。洛陽十二支妙見のひとつでもあり、戌年の守護神であることから“戌の妙見様”や“鳴滝の妙見様”と呼ばれ、地元住民から親しまれています。寛永5年(1628)に建立された由緒ある寺院で、毎年7月に行われる「ほうろく灸祈祷」や、12月の「厄落としの大根焚き」が行われる日には多くの方で賑わいます。
境内には、安産祈願の「子宝犬」と名付けられた、親犬に戯れている可愛らしい子犬の石像があります。その子宝犬の案内板に書かれている結びの言葉。
『犬は太古から人間の忠実な伴侶として、番犬として、又、安産のシンボルとして愛されてまいりました。この「子宝犬」も参詣の皆様の魔を払い、ここ掘れワンワンと福を招いてくれるものです』
皆さんも2018年の戌年に参拝に訪れてみてはいかがでしょうか。
※大晦日には、23時30分から0時30分まで除夜の鐘を撞くことができます。
(除夜の鐘に行かれる場合は、周辺地域の方々のご迷惑になりますので、必ずこの時間内でご参詣ください。また、元日は12時より14時まで新年祝祷会が行われるため、駐車場の利用ができません)

こちらのお寺より徒歩10分ほど。福王子交差点を西に下ると、気さくな二代目のご主人が営む和菓子屋「船屋秋月」が見えてきます。

店内には、先代のご主人の願いが菓銘として名付けられている銘菓「わらしべ長者」をはじめとする、数々のお菓子が並びます。

いぬ(270円)
こちらのお店の戌年にちなんだお菓子は、外郎製の京菓子らしい意匠。関東の菓子は写実的であるのに対して、京都の菓子は抽象的。見る方の教養や感性に委ねられるところが多いのが特徴です。
「干支菓子を作るのに、十二支の中で巳(み)年と戌年が、一番難しいんですわ」
と少し控えめに言いながら渡されたのが、こちら。皆さんには、どのように見えますか?
じっと、見続けてくださいね。
まだ、見えてこない方は、一粒の小豆を“鼻”と思い、見続けてくださいね。
・・・どうですか、スヌーピーのようなビーグル犬に見えてきませんか?
見えてきた瞬間に「わっ!」と声をあげて、一気に親しみが湧いてきます。召し上がる前に、皆さんで存分に楽しんでいただきたいお菓子です。
■京菓子処 船屋秋月 福王子店(本店)
【営業時間】9:00~18:00
【定休日】無休
【電話】075-463-2624
【アクセス】市バス「福王子」バス停から徒歩約1分 Google map
【公式ホームページ】http://www.funaya.jp/
☆「いぬ」は2018年1月上旬から中旬までの販売を予定。お求めの際は、事前にお問合せください。
老松(おいまつ)【勅題菓・夢物語】
初詣はもちろんのこと、受験シーズンを迎えるこれからの時期、多くの参拝者で賑わうのが学問の神様・菅原道真を祀る「北野天満宮」です。道真公がこよなく愛したと言われる梅の花が、例年1月の中旬あたりから見頃を迎えはじめます。北野天満宮の東側に広がる京都で一番古い花街が、「上七軒(かみしちけん)」。その上七軒で店を営むのが、創業から100余年の「老松」です。

格子戸にかかる真っ白な暖簾が映える店構えです。初めて訪れる方は、中の様子が見えないことに不安を覚えるかもしれません。しかし、これが本来の京都の姿。勇気を出して暖簾をくぐってみてください。
—その瞬間に感じる身の引き締まるような、不思議な感覚。

手入れの行き届いた店内には、お菓子とともに、干菓子の木型や芸舞妓さんの団扇が目に入ります。

こちらのお店でご紹介したい新年のお菓子が、「勅題菓(ちょくだいか)」です。
毎年、1月の中旬に皇居・宮殿で「歌会始(うたかいはじめ)の儀」が開かれます。ひとつの共通のお題で歌を詠み、披講する会のことを「歌会」といい、天皇陛下が年の始めの歌会として執り行われる歌御会(うたごかい)が「歌会始」です。
京都の和菓子屋では、毎年、「歌会始」のお題に合わせてお菓子を作るのが、明治以降の慣例とされてきました。勅題菓は、新年の祝い菓子であるとともに、この時期ならではのお菓子なのです。様々なお題に合わせて意匠と菓銘を考えなくてはならないため、職人さんの豊富な教養と感性が問われる上、勅題菓を見てお店の良し悪しを決めるお客さんもいるほど。お店にとって、重要なお菓子のひとつです。
しかしながら、近年では、多くの和菓子屋が勅題菓を作らなくなってきました。勅題菓はもとより「歌会始」そのものを知らない方が増えたためです。そんな時代の流れに流されることなく、こちらのお店では新年のお菓子として勅題菓を作り続けています。
平成30年歌会始のお題は、「語(ご)」。

夢物語(360円)
「夢物語(ゆめものがたり)」と名付けられた、羽二重(はぶたえ)製のお菓子。素敵な夢を見ているイメージをお菓子に表現したそうです。新年らしい紅白の色使いは、自身で召し上がられるのはもちろんのこと、菓銘とともに大切な方へ送るのもいいかもしれません。
皆さんも、お菓子のような素敵な夢を見てくださいね。
■老松 北野店
【営業時間】8:30~18:00
【定休日】不定休
【電話】075-463-3050
【アクセス】市バス「上七軒」・「北野天満宮前」バス停から、それぞれ徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】http://oimatu.co.jp/
★「そうだ 京都、行こう。」エクスプレス・カード特典協力先です。特典内容はこちら。
☆「夢物語」は2017年12月26日(火)から2018年1月中旬までの販売を予定。お求めの際は、事前にお問合せください。
今回は新年の縁起物、干支にちなんだお菓子、そして新春恒例の「歌会始の儀」にちなんだお菓子をご紹介させていただきました。
2018年が皆さんにとって佳き一年となりますように、心より祈っております。
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文・写真:小倉夢桜 —Yume—
和菓子ライフデザイナー/ライター/フォトグラファー。京都五感処・京都Loversフォーラム代表。2012年よりホームページ『きょうの「和菓子の玉手箱」』を運営し、毎日京都の和菓子を紹介し続けている。現在は『月刊京都』(白川書院)で「月刊京都版・きょうの『和菓子の玉手箱』」を連載中。
【きょうの『和菓子の玉手箱』】http://kyoto-lovers-forum.com
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~みさごレポ~
今回の和菓子をご紹介いただくにあたって、小倉さんにお願いしていたのは「新年らしい華やかな和菓子を」ということ。小倉さんからお店を伺い、実際に訪ねてみて、そして箱を開けたときの、「わぁ♡」という感動。どの和菓子も、とても華やかで品のある、上品な意匠でした! そして、すべてが「意味」を持つ和菓子です。そこに込められた背景を読み解く、知的な京菓子の世界。またひとつ、奥深い京都を知ることができました。
いただいてしまうのがもったいなく思える美しい和菓子ですが、実食してみると・・・ 外郎製の和菓子は、もっちりとした食感。羽二重製はやわらかな食感。それぞれにやはり甘さは異なります。見て楽しみ、考えて楽しみ、味わって楽しむ。幸せなひとときでした♡
ぜひ、皆さまも京都の初旅を、和菓子とともにお楽しみくださいね♪