“曜変天目茶碗”の再現に挑む! 京都の窯元「陶あん」を訪ねて

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皆さん、「曜変天目(ようへんてんもく)茶碗」(以下、曜変天目)って、ご存じですか? 漆黒のなかに、星を思わせる斑紋が瑠璃色の光彩をまといながら浮かぶ、独特の文様。その美しさはまるで“宇宙”と例えられ、これまで徳川家康をはじめ、多くの歴史人物や、陶芸家を魅了してきた最上級の茶碗です。完存するものは世界に3碗とされていて、いずれも国宝に認定されています。

来歴や製法など、未だに解明されない謎多き茶碗としても知られ、これまで再現は不可能と考えられてきました。多くの陶芸家が曜変天目を作ろうとチャレンジするなか、京都にも再現に挑む窯元があるとの情報が・・・! お話を伺いに、さっそく訪ねてきました。


曜変天目への挑戦! その道のりは・・・


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訪れたのは、東福寺のほど近くにある「陶あん」。大正11年(1922)の創業以来、京焼・清水焼の伝統を受け継ぎ、現在4代目の当主・土渕善亜貴(どぶち よしあき)さんが窯を守っています。新しい技術も取り入れながら、さまざまな作品を作り続けてきた土渕さん。これまで積み重ねてきた技術力をもとに、曜変天目の再現を実現させたのは昨年(2018年)12月のことです。

土渕さん「曜変天目はおよそ800年前、中国の南宋時代に福建省の建窯(けんよう)で焼かれていた茶碗です。しかし、なぜそれが日本にあるのか、誰がどのように作っていたのかなど、現代の科学技術をもってしても、わからないことが多い茶碗です。もちろん、“製作の教科書”などもありませんから、どう再現していいのかとても苦労しましたね」

手探りの状態から、土渕さんの挑戦がスタートしました。


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天目茶碗の一種・禾目天目茶碗


土渕さん「まず、器にかける釉薬(ゆうやく)から取りかかり、『“建盞(けんさん)”に使われる釉薬をベースに曜変天目を作ったのではないか』という仮説をもとに製作することに。釉薬の調合を少しずつ変えながら、何度もテストを行いました」

“建盞”とは、中国・宋時代に建窯で作られていた天目茶碗の総称。一口に「天目茶碗」といっても、斑紋が稲穂の“禾”に見える「禾目(のぎめ)天目」や油の滴のような丸い斑紋が表れる「油滴(ゆてき)天目」など、種類はさまざま。土渕さんは、曜変天目の釉薬は、建盞で使っていたものから派生したと考えて製作することにしたのです。


たった1年で10年分の窯焼きにチャレンジ!


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新たに作った窯のひとつ


焼き方にも研究を重ねた土渕さん。既存の電気窯やガス窯ではうまく焼くことが出来ないと判断し、ある行動にでます。

土渕さん「既存の窯では、曜変天目を作り上げるのに温度が足りなかったんです。そこで、曜変天目を焼くためだけに、ガス窯と電気窯を組み合わせた、いわばハイブリッドの窯を新しく3台開発しました! ・・・とはいえ、開発したところでその窯で成功するかどうか確証はないので、不安ももちろんありました」

新しく窯を開発するなんて、大胆な発想ですね!
とくに苦労したというのが、曜変天目の最大の特徴ともいえる。なかなかうまく色味が出ず、実現までに焼いた茶碗は数千個にも及んだそうです。

土渕さん「新しい窯を駆使して、どのように焼けばどのような色が出るのか、細かな実験を繰り返し行いました。通常、窯焼きは月に数回しか行いませんが、昨年1年間で行った回数は500~600回ほど。1年で10年分くらいの作業をしたことになりますね(笑)」


ついに曜変天目の再現に成功! その出来映えは!?


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土渕さんが再現させた曜変天目の一部


土渕さんが苦労を重ねた結果、ようやく再現した曜変天目がこちらです。
内面に散らばる斑点模様といい、幻想的に輝く光彩といい、すばらしい完成度です! 茶碗の内面は深い青色に見えますが、光に当てると虹色にキラキラ瞬いて、まるで宇宙空間のよう。見た瞬間に鳥肌が立ち、自然と持つ手が震えてしまいました・・・


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土渕さんが再現させた曜変天目の一部


再現に成功したとはいえ、どのような条件が揃えばこの文様になるのか、正確なことはまだ分かっていないそう。先月(2019年2月)も焼いてみたそうですが、そのなかで再現できたのはたった2碗だけだったのだとか。

“再現は困難”と言われ続けてきた曜変天目に、なぜ挑戦をし続けてこられたのでしょうか。

土渕さん「曜変天目の再現は、陶芸家なら誰もが憧れるものです。私は、“この素材で曜変天目がきっと再現できる!”という考えがなんとなくあって、実験を繰り返すごとに確信に変わりました。その自信をただ信じ続けました」

憧れを実現した土渕さん。この挑戦は、曜変天目の謎の解明、そして陶芸の歴史に大きな一歩となるのではないでしょうか。

■陶あん 本店 
【営業時間】9:00~17:00
【定休日】無休
【電話】075-541-1987
【アクセス】市バス「泉涌寺道」バス停から徒歩約4分、JR奈良線「東福寺駅」から徒歩約7分 Google map
【公式ホームページ】http://www.touan.co.jp/ 


この春大注目の展覧会! 国宝・曜変天目を見に行こう!


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国宝 曜変天目(大徳寺龍光院所蔵・MIHO MUSEUMにて3/21~5/19展示)


この春、国宝の曜変天目3碗が、MIHO MUSEUM(滋賀、3/21~5/19)静嘉堂文庫美術館(東京、4/13~6/2)奈良国立博物館(奈良、4/13~6/9)の3館で公開されます。3碗が同時期に公開されることを記念し、MIHO MUSEUMと奈良国立博物館で公開される2碗を鑑賞する特別プランが登場しました! 京都駅から美術館まで貸切バスで移動し、アクセスもスムーズ♪ ツアー参加者限定の美術館の貸切鑑賞プランもありますので、ぜひお好みのツアーを選んでくださいね。

⇒「国宝『曜変天目』奇跡の三碗同時期公開 記念ツアー」プランの詳細はこちら

さらに、MIHO MUSEUMと奈良国立博物館の貸切鑑賞に加え、今回ご紹介した「陶あん」の工房見学付きの1泊2日のスペシャルプランも。土渕さんが再現した曜変天目を鑑賞したり、その魅力や製作秘話など、貴重なお話を伺います。日数に限りがありますので、どうぞお見逃しなく!

⇒「国宝2つの『曜変天目』貸切鑑賞と曜変天目の再現に挑む京焼窯元を訪ねる」プランの詳細はこちら

 

Written by. ち〜たら

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