「横山華山(かざん)」と聞いて、ピンとくる方はいらっしゃるでしょうか? 「渡辺崋山・・・? 横山大観・・・?」と、私自身もひとことでいうとさっぱり知らず。いうまでもなく「横山華山は、横山華山」ということで、やはり未知なる人物でした。
いったいどのような絵師であったのかと気になり、7月2日(火)より京都文化博物館で開催中の『横山華山展』へ出かけたところ、次の予定に影響を与えるほどに見入ってしまいました! 私“カツオ”が気になった作品を中心に、知られざる絵師“横山華山”をご紹介します。
※期間中、一部の作品は展示替えが行われますのでご注意ください
前期:7月2日(火)~21日(日) 後期:7月23日(火)~8月17日(土)
まずは簡単に、横山華山のことをご紹介
≪寒山拾得図≫ ボストン美術館(ウィリアム・ビゲローコレクション)Photograph ©2019 Museum of Fine Arts, Boston
横山華山は江戸時代の京都に生きた絵師。西陣織業を営む横山家の分家に養子として入り、北野天満宮の近くで育ったと言います。この分家の横山家が、「奇想の絵師」として知られる曾我蕭白(そがしょうはく)の、いわゆる“パトロン”であり、華山は幼少の頃から蕭白の絵に触れ多大な影響を受けたそう。
その後も、京都御所の障壁画制作に携わった岸駒(がんく)に師事、また、円山応挙や呉春など在京の絵師にも私淑(ししゅく)したというので、京都好きの方にとっては見逃せない人物と言えそうです。
随所に見られる曾我蕭白の影響
左)横山華山 ≪蝦蟇仙人図≫ 個人蔵 / 右)曾我蕭白≪蝦蟇仙人図≫ ボストン美術館(ウィリアム・ビゲローコレクション)Photograph ©2019 Museum of Fine Arts, Boston
京都文化博物館で開催中の『横山華山展』は、華山の画業にスポットをあてた、一大回顧展。展覧会は、曾我蕭白の影響が色濃く見られる初期の作品群からスタートします。まずは蕭白と華山が描いたそれぞれの≪蝦蟇(がま)仙人図≫が横並びに展示。パッと見は「同じ」に見えますが、よ~く見てみると、「似て非なる絵」であることに気づかされますよね。
どのような絵に影響を受け、その中でも他の絵師にはない個性をどのように描き出していったのか。解説を交えながら“華山のイロハ”を知ることができる、初心者にも嬉しい構成の展覧会となっていました。
伝統的な山水図や花鳥図もたっぷりと
≪松竹梅・鶴龍虎図≫ 個人蔵
伝統的な技法で描かれた“日本画らしい”山水図や花鳥図も多数展示。こちらは≪松竹梅・鶴龍虎図≫ですが、描かれた動物たちが今にも動き出しそうな、まるで魂が宿ったかのようなリアルな表情をしていますね。そして私がもっとも気になった花鳥図が・・・
見ザル、言わザル、聞かザル。
う~ん、なんとも愛らしい(笑) “みザル”と“いわザル”の表情が何とも言えません。リアルな表情をした猿を描いた作品もあるのですが、こちらはデフォルメが可愛らしい作品です。同じ動物であってもタッチを変える、変幻自在な華山の才能を感じられました。
ちなみにこちらの≪三猿図≫は、かの大英博物館所蔵のもの。今回の展覧会では、大英博物館やボストン美術館など、海外に収められている優品9点(うち1点は曾我蕭白の作品)の“里帰り”も大きなポイントのひとつ。“華山の絵が海外で評価されている”ことの証と言えそうです!
ほっこりした表情の七福神
人物画も得意としたという華山。いたずらをする子どもたちの表情がかわいい≪唐子(からこ)遊戯図屏風≫(後期)や≪琴棋(きんき)書画図≫(後期)など、他の絵師もこぞって描いた作品も多く残していますが、“七福神”の絵もまたたくさん展示されていました。その中でも、印象的だったのがこちらの≪七福神酒宴図≫(前期)。毘沙門天はもはやダウン、寿老人はギリギリの表情、そしてそれをも気にせず(?)お酒を注ごうとする弁財天などなど・・・ 何やら和やかな雰囲気で楽しそうですね。
ここで、どうにも気になったのが華山と“お酒”の関係です。≪七福神酒宴図≫もそうですが、“呑めや唄えや”な≪花見図≫など、「お酒が登場する作品が目に付くなぁ・・・」と思っていたら、カエルを描いた≪蝦蟇図≫に“席上写”の文字が。意味は、「お酒の席で描きました」とのこと。う~ん、華山はお酒が好きだったんでしょうかね。
かつて天才絵師として認知されていた?
花洛一覧図(拡大複製) ※展示作品は撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただきました。
図録や展示会場にもはっきりと書かれているのですが、今や華山のことを詳しく知る人は多くないことでしょう。しかし、実は江戸時代には、人気の絵師として京都のみならず江戸にまでその名声が伝わっていたと言います。
こちらは京都の街並みを俯瞰するように描いた≪花洛一覧図≫の拡大複製。清水寺や北野天満宮、嵐山などの名所にくわえ、この当時は焼失していた方広寺の大仏殿なども描かれています。拡大複製でも細かいのに、お隣に展示されている“実物”(前期・後期で異なる二舗ずつを展示)を見ると、更に驚くことでしょう! とにかく細かい・・・ 華山の“出世作”であると同時に、「鳥瞰図の祖」とも言うべき作品で、葛飾北斎など江戸の絵師にも多大な影響を与えたそう。また明治・大正期に至っても、夏目漱石の『坊ちゃん』に華山の名前が登場するなど、かつては人気絵師として名声を馳せていたようです。
綿密な取材に基づく風俗画
≪紅花屏風≫ 右隻 部分 文政6(1823)年 山形美術館・(山) 長谷川コレクション 展示期間:8/3~8/17
≪紅花屏風≫は、紅花の産地であった今の宮城県や埼玉県に通い詰めて描かれた作品。紅花の種まきから加工生産されるまでを収めたもので、京都の紅花問屋に依頼され製作したものと言います。特筆すべきはそこに描かれた200人を超える人物一人一人が、感情を持っているかのようにリアルに描かれている・・・ そう。というのも、こちらは後期展の中でも、限られた期間(8月3日~17日)のみお披露目される注目作品ということで、私が訪れた際は目にすることは叶わなかったのです。
「風俗画の評価の高さも、きっと嘘ではない!」そう思わずにはいられなくなる作品を、最後にご紹介しましょう。
描かれた祇園祭
祇園祭礼図巻 ※展示作品は撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただきました。
今回の展覧会の目玉作品とも言えるのが上下巻合わせて30メートル(!)にも及ぶという≪祇園祭礼図巻≫。山鉾巡行を中心に祇園祭の諸行事が描かれた作品です。縦に長い鉾や山が、横に長い絵巻に描かれているため、相当に大胆な“切り取り”がなされているのが特徴。カメラ好きの私の感想は、「ありえない。だって一見してどの鉾かも分からないし・・・ でも斬新で新しい!」というもの。しかし、つい鉾や山に目が奪われてしまうこの作品の中で、私が最も気になったのが祭りに参加している人々です。
鑑賞用の単眼鏡や双眼鏡の持参をオススメします
疲れ切ったり、楽しんだりと、様々な表情、そして鉾を引っ張る人の腕や脚の筋肉が、とってもリアルに描かれているのです! 是非皆さんにも、実際の作品をじ~っくりとご覧いただきたいのですが、大変な集中力が必要となります。というのも、約30メートルの作品に描かれる人の数が、4,000人を超えるから!! 細々した人を、一人一人生き生きと描いた華山も凄いと言わざるを得ませんが、これはもう数えた人にも敬意を払いたい。
一度見たら、きっと忘れられない
合わせて展示されている下絵を見ても一目瞭然ですが、山や鉾の装飾も緻密な取材に基づいて描かれたことが分かり、2022年からの山鉾巡行への完全復活を目指す鷹山も、この絵を参考にして、山(山車)の再建を行われているそう。驚くべきは、これほどまでに精緻な作品を、華山は最晩年に描いているということ。生涯を通してひたむきに絵に向かい続けた絵師であったことは、きっと間違い無いでしょう。
忘れられた天才絵師・横山華山。展覧会をご覧になった方の記憶に、この名前はきっと強く刻まれるのはないかと思います。8月17日(土)までの会期となりますので、是非、華山の世界に触れてみてくださいね。
■横山華山展
【日程】2019年7月2日(火)~8月17日(土)
前期:7月2日(火)~21日(日) 後期:7月23日(火)~8月17日(土)
10:00~18:00(受付終了17:30) ※金曜日は~19:30(受付終了19:00)
【休館日】7月8日(月)、22日(月)、29日(月)
【場所】京都文化博物館 詳細情報はこちら
【料金】1,400円
【問合せ】075ー222ー0888
【横山華山展・公式ホームページ】http://kazan.exhn.jp/
【京都文化博物館・ホームページ】http://www.bunpaku.or.jp/