「#青銅器かわいい」で新たな魅力発見! 泉屋博古館の見どころガイド

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鴟鴞卣(しきょうゆう)

京都のミュージアム探訪 1


京都にはたくさんのミュージアムがありますが、そのなかでも近頃SNSを中心に密かな人気を集めているのが、住友コレクション 泉屋博古館(せんおくはくこかん)。紅葉名所の永観堂哲学の道のほど近くに位置し、今年(2020年)開館60周年を迎えました。

中国美術や日本美術などの優れた作品とともに、世界的に有名なのが、青銅器コレクション。青銅器というと少し難しく感じられるかもしれませんが、学芸員さんいわく「かわいいポイントが多いんですよ」とのこと。知られざる青銅器の魅力を伺いました♪

泉屋博古館とは?
キーワード1:「第15代 住友春翠・寛一親子」



泉屋博古館は、住友家が蒐集(しゅうしゅう)した美術品を保存、公開するための美術館。昭和45年(1970)、京都・鹿ヶ谷(ししがたに)にオープンし、昭和61年(1986)には新展示室を増築。平成14年(2002)に東京・六本木に分館も開設されました。現在、3,500点以上もの美術品を収蔵しています。

西園寺公望筆 「泉屋博古」 左:銅扁額、右:一行書
※「開館60周年記念名品展Ⅱ 泉屋博古 #住友コレクションの原点」期間中展示


「泉屋」とは、江戸時代の住友家の屋号。「博古」は、北宋時代の中国で皇帝の命により編纂された青銅器図録『博古図録』から名を取られています。

「開館60周年記念名品展Ⅱ 泉屋博古 #住友コレクションの原点」


コレクションの核となるのが、住友家第15代当主・住友友純(ともいと、号は春翠)と、その長男である寛一が蒐集した美術品。現在開催中の「開館60周年記念名品展Ⅱ 泉屋博古 #住友コレクションの原点」(~12月6日まで)では、企画展展示室の最初に2人のコレクションを象徴するような美術品が展示されています。

《虎卣(こゆう)》 商(殷)時代 前11世紀
※「開館60周年記念名品展Ⅱ 泉屋博古 #住友コレクションの原点」期間中は企画展展示室に展示。


春翠は茶や能楽に傾倒し、日本美術の一大コレクターとして知られていますが、中国文人の生活に憧れ、中国美術品への造詣も深く、なかでも特に力を入れて蒐集したのが「青銅器」。“銅の住友”として、産銅・銅工業を家業としてきたこともあり、膨大な数の青銅器を蒐集されました。

こちらの「虎卣」は、紀元前11世紀、中国・商(殷)時代に作られた青銅器で、同じ形状のものはパリのチェルヌスキ美術館にしかないという、世界に2つだけの貴重な遺物。虎の前足で人間を抱える不思議な造形で、愛嬌がある顔立ちから人気を集め、同館を代表する青銅器となっています。

《安晩帖(あんばんじょう)》 八大山人 清・康煕33年(1694)


美術に傾倒した寛一が主に蒐集したのは、絵画。特に中国・明末清初の「遺民画家」コレクションで知られ、こちらは画家・八大山人の描いた《安晩帖》の第6図「鱖魚図(けつぎょず)」

ふたりの偉大なコレクターが集めた珠玉の美術品や、歴代住友家に伝わってきた名品に出会えるのが、泉屋博古館なのです。

中国・殷(いん)周(しゅう)時代の遺物にして美術品
キーワード2:「青銅器」


青銅器館エントランス


館内は、オープン当初に建てられた「青銅器館」と、増築された「企画展展示室」の2つに分かれ、青銅器館では企画展に合わせて、蒐集品200点以上の中から100点ほどを展示。2020年は「中国青銅器の時代」展が行われています。

「青銅器」とは、今から3000年以上前、中国の殷周時代(前17世紀~3世紀)に盛んに作られた、青銅器の容器・楽器・武器などのこと。実用品としてだけでなく、祀りや儀式に用いられた神聖なもので、複雑な造形や緻密な文様に飾られ、後の時代の金属工芸にも大きな影響を与えました。

第1展示室「青銅器名品選」


展示室は4つに分かれ、第1展示室は「青銅器名品選」、第2展示室は「青銅器の種類・用途」、第3展示室は「テーマ展示」が行われ、現在のテーマは「神秘のデザイン」。第1から第3展示室までは、主に殷周時代の青銅器が展示されますが、第4展示室は「青銅文化の展開」として殷周時代以後の青銅器が展示されます。

・・・とはいえ、きっと多くの皆さまが「殷? 周?」、そもそも「青銅器??」となるかもしれません。秦(しん)の始皇帝よりも前・・・ 近頃人気のマンガ『キング○ム』よりも前の時代のこと。なんとなく取っつきにくい雰囲気があるかもしれませんが、そんなとき道しるべとなるのが、泉屋博古館公式Twitterです。
 

泉屋博古館公式Twitterより


「#青銅器かわいい」というハッシュタグで投稿されたこちらは、紛れもなく青銅器の展示品です。なんとも愛らしい顔で、急に親しみが湧いてきませんか?

「泉屋博古館では、2018年10月より公式Twitterをはじめました。青銅器の造形的な面白さというのは美術大学の学生さんがスケッチに来られたり、以前より注目される方はいらっしゃったのですが、どちらかというと学術的でマニアックなイメージが強かったかもしれません。でも、Twitterでこれらの“かわいい”画像を取り上げたところ、フォロワーさんがとても増えまして・・・」

と、広報の坂井さん。また、公式Twitterを担当されている“中の方”・尾関さんに伺うと、

尾関さん 「この4月に『#おうちミュージアム』の企画に参加して、“皆さまのおうち時間の癒やしになるものを”と、可愛く心和むものをピックアップして取り上げました。青銅器は、知れば知るほど面白いポイントが多いかと思います」

心が和むツイートの数々・・・ これらは、“中の方”独自の視点で発信していることもあれば、青銅器担当学芸員・山本さんからの「推し」の場合もあるそう。「かわいいものが好き」という山本さんと尾関さんに、おすすめの青銅器を教えていただきました!

見るポイントがわかれば、こんなにキュートに♪
キーワード3:「#青銅器かわいい」


青銅器を見るときにぜひ注目してほしいのは「たくさんの動物の造形」と、学芸員の山本さんはおっしゃいます。なかでも特に注目は、「鳥」なのだとか。

★鳥


山本さん 「春翠はとても鳥好きだったらしく、自宅に鶴を飼うための小屋を持っていたほどでした。そのためなのか、鳥がデザインされた青銅器がたくさんあるんです」

《虁神鼓(きじんこ)》 商時代 前12-11世紀


第1展示室に展示されるこちらの太鼓型の青銅器は、なんと重さ約70キロ!

山本さん 「重すぎて、あまりこの場所から動かせないんです(笑) 中は空洞になっていて、厚さは1ミリから5ミリほど。非常に薄いんですが、とても重い。青銅太鼓は作るのに技術が必要なため、世界にも2つしかない珍しいものなんですよ。・・・でも、上にちょこんと載っている鳥が可愛くないですか? 目がくりっとしていて・・・」

《鳳柱斝(ほうちゅうか)》 商時代 前11世紀


山本さん 「こちらは、お酒を温める器。前回の『瑞獣伝来展』にも展示していたのですが、2本の柱の上に載るのは、冠の発達した鳳凰。・・・でも、まるでお風呂に浮かべる玩具のようにも見える造形です」
尾関さん 「鳳凰なんですが、アヒルのようにも見えてきて、かわいいんです」

《鳥蓋瓠壺(ちょうがいここ)》 戦国時代 前5世紀


山本さん 「こちらは鳥の姿を象ったフタのつく壺ですが、器を傾けると鳥のくちばしの上部が開閉します。非常に精巧な作りです」
尾関さん 「青銅器は、フタが驚くほどぴったりと閉まるようになっています。“そのように作られているから”なんだそうですが、吸い付くようにぴたっと閉まるので、びっくりしてしまいます」

《鴟鴞卣(しきょうゆう)》 商時代 前12~11世紀


山本さん 「こちらは、ミミズクが背中合わせになっているお酒の器。ミミズクは、この時代に流行したモチーフです。この卣はフタがミミズクの顔になり、くちばしが両側に突き出ているんですが、ぎょろりとした目に愛嬌があります。首のところに小さな蛇の文様が描かれていたり、細部にわたってかわいらしいモチーフがいっぱいです」
尾関さん 「Twitterでも何度か登場しているのですが、目がぱっちりしていて非常に愛らしい造形です」

《鎮墓獣(ちんぼじゅう)》 戦国前期 前5~4世紀


山本さん 「この4体は翼の生えた虎のような獣の像なんですが、おそらく台座のようなものに飾られていたのではないかと思われます。獣の後頭部に鳥が付随していて、獣をつついてるようにも見えます」
尾関さん 「大きな獣が鳥にせっつかれているようで、ユーモラスですよね」

じっくり見るほどに“かわいいポイント”が見つかる青銅器。おふたりの説明にも、青銅器への愛情が感じられます。

★饕餮文(とうてつもん)


青銅器を見る上で、注目したい第2のポイントが「饕餮文」(以下、トウテツ文)。トウテツは中国神話に登場し、古代には最高神として考えられていた想像上の生き物。青銅器の文様として、至る所に登場するそうです。

《饕餮文瓿(とうてつもんほう)》 商時代 前13~12世紀


山本さん 「ぷっくり丸い形状の、お酒を貯める器ですが、トウテツがわかりやすく、精巧に描かれています。2つの目と通った鼻筋、口角が上がり鋭い歯が生えているんですが、わかりますか?」
尾関さん 「トウテツは、器によって顔が様々で、こちらは笑顔のようにも見えます」

山本さんトウテツを見分けるコツは、鼻筋が通っていて、その両側に大きな目があること。角が生え、手や胴体が曲線で表現され、口もあります。よく見ていると段々見分けがついてきます」

《方彝(ほうい)》 西周時代 前11~10世紀


山本さん 「こちらは、ボクのお気に入り。お酒を入れる器で、方形の胴体の上に屋根型のフタがついています。これは全体的に丸みを帯び、文様も丁寧。胴部分の正面中央に大きなトウテツがいて、角や体が細かい羽根飾りで彩られています。

第3展示室の『神秘のデザイン』で展示していますが、後ろのパネルにトウテツがどこにいるのか示していますので、ぜひじっくり見て、見分けられるようになっていただきたいですね」

★アイドル的人気!? “推し”青銅器は?



山本さん 「こちらも第3展示室に展示していますが、この3体は当館のアイドル的な存在です」
尾関さん 「一番左が《虎鴞兕觥(こきょうじこう)》、真ん中が《戈卣(かゆう)》、右が《鴟鴞尊(しきょうそん)》で、Twitterにもよく登場します。とにかく可愛らしい方たちです」
 

泉屋博古館公式Twitterより


《金銀錯獣形尊(きんぎんさくじゅうけいそん)》 北宋時代 9~11世紀


山本さん 「最後の第4展示室にいるのが、こちら。まるで、おもちゃのロディのようではないですか? 背中に開閉式のフタが付き、全面に金銀象嵌で雲形文様がめぐらされています。戦国時代の生け贄の牛を象った青銅器を、北宋の時代に模倣したもののようです。ミニチュアと、親子のように2体いるのがほほえましい姿です」

お話をお伺いした、青銅器担当の山本さん。
ありがとうございました!


*****
駆け足で、泉屋博古館の青銅器についてお伝えしました。「#青銅器かわいい」という、不思議なハッシュタグ。でも、確かにかわいいと、実際に館を訪れ実物を見ると、じわじわと感情が湧いてきます。・・・まさか、青銅器を見て心和む日がやってくるとは、思いませんでした。ちなみに、青銅器館は撮影OK、というのも嬉しいポイントです♪

泉屋博古館では、企画展期間中にギャラリートークを実施されたり、ワークショップも行われています。公式Twitterは随時更新されていますので、知られざる青銅器の世界に、ぜひ触れてみてくださいね!

■住友コレクション 泉屋博古館
【開館時間】10:00~17:00(入館16:30)
【休館日】月曜日(祝日の場合は翌平日)、7月下旬~9月上旬、12月中旬~3月上旬
【料金】800円、学生600円、中学生以下無料
【電話】075-771-6411
【アクセス】市バス「東天王町」バス停から徒歩約3分、「宮ノ前町」バス停から徒歩すぐ Google map
【公式ホームページ】https://www.sen-oku.or.jp/kyoto/
【公式Twitter】https://twitter.com/SenOkuKyoto
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◆企画展「泉屋博古 #住友コレクションの原点」
 青銅器館「中国青銅器の時代」とあわせてお楽しみください。
【日程】2020年10月30日(金)~12月6日(日)
【休館日】月曜日、11月24日(23日は開館)
【入館料】800円、学生600円、中学生以下無料

Written by. みさご

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