「染司よしおか」六代目 吉岡更紗さん(細見美術館 茶室 古香庵にて)
岡崎にある細見美術館では、現在、特別展『日本の色—吉岡幸雄の仕事と蒐集—』(~4月11日)が開催されています。吉岡幸雄さんは「染司よしおか」の五代目として、日本古来の植物染の美しさを国内外に広く伝えてこられましたが、2019年秋に惜しくも急逝なさいました。特別展では三女でご当代の更紗さんの協力のもと、吉岡幸雄さんの功績が一堂に紹介され、日本の工芸の素晴らしさを感じられる内容になっています。
今回は特別展によせて、細見美術館にほど近い祇園・岡崎エリアより「工芸ゆかりのスポット」をご紹介します。
【ZENBI】祇園に新しいミュージアムが誕生
もともと鍵善良房 本店に掲げられていた額
“くずきり”といえば、祇園の老舗和菓子店・鍵善良房を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。2012年、祇園町南側にZEN CAFEをオープンされるなど、老舗の新しい試みに注目が集まっていますが、さらに、2021年1月8日(金)には「ZENBI—鍵善良房—」というミュージアムを開館されました。
場所はZEN CAFEの向かい。もともと住まいだったところを、約5年の構想を経て美術館に改築したそうです。記念すべき第1回目の特別展は『黒田辰秋と鍵善良房-結ばれた美への約束』(~6月27日)。
螺鈿八角菓子重箱。螺鈿のきらめきが美しい
木工芸の分野で初めて人間国宝に認定された黒田辰秋は、生涯京都を拠点に活動しました。鍵善良房 十二代の今西善造さんが懇意であったため、お店には菓子器に茶器、調度品など多数の作品が大切に伝えられています。
本展ではその貴重なコレクションを一挙公開。黒田辰秋の華やかで、どこかぬくもりを感じさせる手仕事を、洗練された空間でゆっくりと楽しめます。
見どころが多く、ここでは全容をお伝えできません。そこで、後日1月29日(金)のブログであらためてご紹介させていただくことにしました! どうぞ、楽しみにお待ちください♪
■ZENBI—鍵善良房— 特別展『黒田辰秋と鍵善良房-結ばれた美への約束』
【日程】開催中~2021年6月27日(日)
【開館時間】10:00~18:00(入館17:30)
【休館日】月曜日 ※祝祭日の場合は開館。翌日休み
【料金】1,000円、学生700円、小学生以下無料
【電話】075-561-2875
【アクセス】京阪本線「祇園四条駅」・市バス「四条京阪前」バス停から徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】https://zenbi.kagizen.com/
【いづう】いわずと知れた鯖寿司の名店
お座敷用に古伊万里の器に盛り付けられた鯖姿寿司
工芸と聞くと手仕事によって作られた“もの”を連想しますが、少し視点を変えて、“食”の分野で工芸品のごとき美しさを放つ、「いづう」の鯖姿寿司をご紹介します。
そもそも鯖姿寿司は祇園という土地柄、「花街に来る旦那衆に認めてもらえるような名物を」という想いから誕生したそうです。お座敷では味はもちろんのこと、姿・形にも美しさが求められます。洗練された佇まいは、まさに代々のこだわりと修練の結晶です。
はなやかな掛け紙
工芸の観点から、もうひとつご紹介したいのが持ち帰り用の鯖姿寿司(1本4,860円)に添えられている“掛け紙”。3月から4月は「都をどり」、5月から6月は「青葉」、7月は「祇園祭」、8月は「大文字」、9月から11月は「紅葉」、12月から2月は「雪」と、時季に応じて6種類あります。
ご当代の佐々木勝悟さんにお話を伺ったところ、掛け紙のデザインは創業当時から使っているそうです。それだけ古いものにも関わらず、今に通じるおしゃれな装いはファンも多いとお聞きしました。じつは、佐々木さんの代になられてから、掛け紙をコレクションするお客様のために紙を厚くしたそうです。いつの時代もお客様のことを第一に考える老舗の姿勢は素敵ですね。
試作段階の掛け紙を見せていただきました
持ち帰り用の鯖姿寿司が人気を博す一方で、本店で出来立ての味を楽しむのもツウ。魚の風味をいっそう感じられ、美味しくいただけます。
しかしながら、昨今のコロナウイルスの影響でお店に足を運びづらいという方もいらっしゃいますよね。そんな方々のために、なんと鯖姿寿司のオンライン注文限定の掛け紙を新規で製作されているという嬉しいニュースを聞きました。
「今年で創業してちょうど240年になり、記念の一環として取り組みました。絵柄はいづうを愛してくださっている方なら一目見てわかる本店の風景です。また、落ち着いたら本店に足を運んでください、というメッセージを込めています」と佐々木さん。
コレクションしている方なら、いっそう手に入れたいですよね。開始の時期は、今後、いづうの公式ホームページで続報をお待ちください。
■いづう
【営業時間】11:00~22:00 ※日曜日・祝日は21時まで
【定休日】火曜日 ※祝日や祭事などの際は営業
【電話】075-561-0751
【アクセス】京阪本線「祇園四条駅」・市バス「四条京阪前」バス停から徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】http://izuu.jp/
【染司よしおか 京都店】植物染の美しい色彩に彩られた品々
外観
祇園白川から少し北へ上がったところに「染司よしおか」のショップがあります。街の風情にあわせて、べんがら色の装いとなり、2020年6月11日(木)にリニューアルオープンしました。
内観
扉を開けると、カラフルな色がいっせいに目に飛び込んできます。袱紗(ふくさ)、眼鏡ケース、ペンケース、名刺入れ、コースターなど、和の色に染められた小物がたくさん。
最近はマスクも登場し、人気を集めているそうです。抗菌作用のある天然の染料で染色されていて、MサイズとLサイズの2パターンあります。私も購入したのですが、なんといっても色を選ぶのが楽しい! お店の方がどのような植物で染められた色か教えてくださいますので、相談しながら買い物するのも良いですよ。
光をあびて、透き通るような美しさ
特別展開催中は、細見美術館のミュージアムショップでも染司よしおかの商品を購入できますが、ストールや座布団を選びたい方は京都店がおすすめ。種類が多く、ゆっくりとお買い物を楽しめます。
染司よしおかでは、染色にあたって透明感に気を付けているそうです。材料も手間もかかる作業ですが、美へのこだわりに妥協はありません。とくにストールは、その透明感がよく分かります。これから春先にふわりとまとえば、足取りも軽くなりそうです♪
■染司よしおか 京都店
【営業時間】10:00~18:00
【定休日】水曜日 ※夏期・年末年始休業あり
【電話】075-525-2580
【アクセス】京阪本線「祇園四条駅」・市バス「四条京阪前」バス停から徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】https://www.textiles-yoshioka.com/
【紙嘉】老舗の紙文具店。豊富な和紙の品揃え
外観
東山三条の交差点から少し東へ。三条通に面した「紙嘉」は今から約300年前の元禄年間に創業した老舗の紙文具店です。創業当時から変わらず同じ場所にあるそうで、代々「嘉右衞門(かえもん)」を名乗り、現在のご当主で十一代目。
古くより社寺の御用達を務め、近隣の知恩院、八坂神社、永観堂、金戒光明寺などは長年のお付き合いに。知恩院にいたっては200年前から取引があるのだとか!
華やかな和紙
和の雑貨や現代の文房具も多数取り扱っていらっしゃるのですが、和紙を購入する際はお店の方に相談するのがおすすめ。用途に応じたものや見本帳から適切な和紙を見繕ってくださいます。また、好みの大きさにカットするサービスや全国発送もされています(有料)。
有名な社寺が使っている和紙と同じものを購入できるなんて、それだけで旅の思い出になりそうですね。
■紙嘉
【営業時間】9:30~18:00
【定休日】日曜日・祝日・第2、第4土曜日
【電話】075-751-1154
【アクセス】地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約2分 Google map
【公式Facebook】https://ja-jp.facebook.com/kyoto.kamika/
【京都伝統産業ミュージアム】京都のものづくりが一目瞭然!
右側が「74CRAFTS WALL」
岡崎にある展示場「京都市勧業館みやこめっせ」の地下1階で、1996年より京都の伝統工芸を紹介してきた「京都伝統産業ふれあい館」が、2020年春に「京都伝統産業ミュージアム」としてリニューアルオープンしました。
目を引くのは、京都の伝統産業74品目を一堂に壁面展示した「74CRAFTS WALL」。古くから守り伝えられてきた伝統工芸品のほかに、匠の技術で現代風にアレンジした工芸品などがずらりと並ぶ様子は圧巻です。
よく見てみると値札が付いたものもあり、その場で購入できるというのも面白い仕組みです。
竹かごが出来上がる様子を目で見て瞬時に理解できます
それぞれの伝統工芸の組合の協力を得て展示内容を決めたそうで、職人の手仕事の細かさが見られる製造工程の展示や動画など、創意工夫にあふれた内容になっています。
常設展示エリアだけでなく、企画展のスペースやミュージアムショップも充実しています。逸品の数々を無料で見られるというだけでも、来訪の価値ありです♪
■京都伝統産業ミュージアム
【開館時間】9:00~17:00(入館16:30)
【休館日】不定休(公式ホームページにてご確認ください)
【料金】無料 ※一部の企画展は有料の場合あり
【電話】075-762-2670
【アクセス】市バス「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」バス停から徒歩約2分
地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】https://kmtc.jp/
【細見美術館】特別展『日本の色—吉岡幸雄の仕事と蒐集—』のご紹介
第2展示室「王朝文学の色」
最後に特別展『日本の色—吉岡幸雄の仕事と蒐集—』の見どころをご紹介します。
吉岡幸雄さんは染色工房「染司よしおか」の五代目当主である一方で、日本や世界の文献を調べ、時にはその土地を訪ねて染織文化を追及することをライフワークにされていました。研究成果は、お寺や神社で使用する装束の復元や、古典文学に登場する衣裳の再現などに役立てられ、今なお現代の私たちに日本古来の色の美しさを伝えてくれています。
第1展示室では、奈良県の薬師寺、東大寺、法隆寺の祭祀に関する装束などを展示。第2展示室では「王朝文学の色」と題し、平安装束の美しい「襲(かさね)の色目」の数々を堪能できます。さらに、第3展示室では研究にあたって蒐集されたコレクションが並びます。
植物染に使用する染料
第1展示室、第2展示室を見て驚いたのは色のあざやかさ。扉を開けると、色のパレードのように華やかな世界が広がり、日本古来の色の美しさに息をのみます。
第2展示室と第3展示室の間には、染めに使用する紅花、紫草、刈安(かりやす)などの染料が展示されているのですが、これらの染料からあの鮮やかさが生まれるとは想像できません。しかし、「延喜式」にも染色についての記述があり、「もしかしたら、現代よりもっと当時の人は色を楽しんでいたのかも」と思わずにはいられませんでした。
石清水八幡宮 供花神饌
展示のなかで、私のお気に入りは石清水八幡宮の例祭(石清水祭)で本殿に供えられる「供花神饌(きょうかしんせん)」です。12基の花々が和紙によって表現されていて、現在は「染司よしおか」六代目の吉岡更紗さんが仕事を引き継いでいらっしゃいます。
石清水八幡宮 供花神饌「梅」
ぱっと見た時の美しさはもちろんですが、注目ポイントはかわいらしい動物たち。「梅」にはうぐいす、「紅葉」には鹿というように、時折、鳥や動物が登場します。ぜひ、じっくりご覧になって探してみてください。
本ブログのトップ写真は細見美術館の3階にある茶室 古香庵です。こちらでは、なんと吉岡幸雄さん愛用の箪笥や更紗を運び入れ、書斎を再現しています。期間中、不定期公開となりますが、あわせてお楽しみいただきたい素敵な室礼です。公開のタイミングは細見美術館の公式ツイッターをご確認ください。
■細見美術館 特別展『日本の色—吉岡幸雄の仕事と蒐集—』
【日程】開催中~2021年4月11日(日)
前期/開催中~2月21日(日)、後期/2月23日(火・祝)~4月11日(日)
【開館時間】10:00~17:00(入館16:30)
【休館日】月曜日 ※祝祭日の場合は開館。翌日休み
【料金】1,400円、学生1,100円
【電話】075-752-5555
【アクセス】市バス「岡崎公園 ロームシアター京都・みやこめっせ前」バス停から徒歩約2分 Google map
【公式ホームページ】https://www.emuseum.or.jp
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細見美術館、ZENBIの特別展はともに会期を長く設定されています。ぜひ、落ち着いた折にお越しくださいませ。なお、今回、ご紹介させていただいた施設は掲載順に散策が可能です。京阪本線「祇園四条駅」・市バス「四条京阪前」バス停から出発して、スポットをめぐり、細見美術館の展覧会を目指してくださいね♪(定休日には気を付けて!)
2021年3月6日(土)に「染司よしおか」六代目の吉岡更紗さんを講師にお招きして植物染の魅力について学び、細見美術館の特別展を鑑賞できるオリジナルイベントを実施します。1月24日(日)より受付を開始しますので、ぜひお申込みください♪
⇒2021年3月6日実施「染司よしおかに学ぶ 古都の染め色」詳しくはこちら