
京都のミュージアム探訪 2
2021年1月8日(金)、祇園に新しいミュージアムがオープンしました。「ZENBI−鍵善良房− KAGIZEN ART MUSEUM」(以下、ZENBI)。祇園の老舗和菓子店・鍵善良房(以下、鍵善)が、“歴代当主によって紡がれた文化継承の思いを形にすべく”、設立された美術館です。
外観、内装、そして展示品に至るまで、老舗の美意識と“おもてなし”の心が詰まった、これから注目のアートスポット。見どころや、オリジナルグッズなどをご紹介します!
“祇園の文化”を担ってきた「鍵善」だからこそできた、ミュージアム。

鍵善が本店を構える四条通から南へ。石畳の花見小路通と、飲食店の並ぶ大和大路通(縄手通)のちょうど真ん中ほどに、ZENBIは位置します。すぐ目の前には、平成24年(2012)にオープンした「ZEN CAFE」。鍵善の和菓子と、和菓子に合うコーヒーが楽しめる、人気のお店です。
※ZEN CAFEは、現在時短営業中です。
11:00〜17:30(ラストオーダー17:00)[2021年2月19日現在]

左が美術館、右側はミュージアムショップ。元々この場所には、先代当主が建てたギャラリー「空・鍵屋」があったそう。15代当主でありZENBI館長を務める、今西善也さんにお話を伺いました。
今西さん 「元々は先代の住居と若い作家さんや学生さんの作品を発表するギャラリーがあったのですが、しばらく使われていなくて。それならばと、5年ほど前から美術館をしたいと考え始め、3年ほどの準備期間を経て、ようやくこの1月にオープンを迎えました」
オープンを飾る記念特別展は、「黒田辰秋と鍵善良房 −結ばれた美への約束」。黒田辰秋は、八坂神社・南側の清井町に生まれ、生涯を京都で活動した漆芸家・木工家。木工芸の分野で初めて「重要無形文化財保持者(人間国宝)」となった方です。黒田さんの作品で思い出されるのは、鍵善本店・店頭にある「大飾棚」。そして京都の喫茶店文化を語る際には外せない「進々堂 京大北門前」の長テーブル!

《書「くづきり」(書(複製)/原本:河井寛次郎 額/黒田辰秋)》 昭和31年(1956)頃
店舗に掲げられていた額も展示されています。
今西さん 「黒田辰秋さんは、12代当主の今西善造と非常に付き合いが深かったんです。“鍵善の内装をすべて黒田さんに任せる”という話もあったほど。善造が30代で夭逝したため、実現はしなかったのですが・・・」
展覧会のサブタイトル、“結ばれた美への約束”を思わせるエピソード。今回の展覧会では、鍵善が所蔵する黒田辰秋作品を展示されているとのこと。いったいどんな作品に出会えるのか、期待に胸を膨らませながら、中へと進みます。
“日本随一”を誇る、黒田コレクション。
−暮らし・菓子・茶席を彩った、作品の数々−
2階建ての館内には、3つの展示室と2つの休憩室があります。来館者がゆっくり展示を眺められるよう、館内の壁は落ち着いた色合いに統一されています。

左上:1階 展示室1、右上:2階 展示室2
左下:2階 展示室3、右下:1階休憩室
窓が多く、明るい雰囲気。色々なところに緑が取り入れられていて、今の時季には椿や山茶花が花を咲かせていました。
嬉しいことに、展示品はスマートフォンでの撮影OK! SNSなどにも、どんどんあげてください、とのこと。どの展示品もうっとりするほど美しく、どれもこれも紹介したいのですが、その中から特に気になった作品を4点ご紹介します。

《螺鈿くずきり容器「鍵」「善」「良」「房」》 昭和7年(1932)
螺鈿(らでん)の美しい作品が多く展示されているのですが、こちらは、鍵善名物「くずきり」を入れるための容器。「鍵善良房」の4文字と「鍵紋」の5客セットで、12代が黒田さんに「螺鈿製で」と依頼したものだそう。本店の喫茶室で現在使われている輪島塗の緑の容器も美しいですが、この螺鈿でいただけば・・・ なんともゴージャスな気分を味わえそう! 祇園のお茶屋さんで、文人と舞妓さんがこの容器でくずきりをいただいている姿を思い描くだけで、「ほうっ・・・」とため息が出ます・・・

《乾漆八稜水指裡耀貝螺鈿》 昭和35年(1960)頃
こちらは、内側に螺鈿を総貼りにした、水指。漆黒の器は、金属のようにも見えますが、実は和紙を漆で貼り重ねた「乾漆(かんしつ)」なのだそう。
今西さん 「重そうに見えるでしょう? でも、乾漆だから、すごく軽いんです。黒田さんの作品は民藝、“用の美”の作品。こちらの水指も、実際の茶席で使われていたんですよ」
光によって表情を変える螺鈿の作品。写真では実物の質感が伝わりづらいので、ぜひ本物を目にしていただきたいです。

《朱四稜茶器》 昭和30年代(1955−64)
こちらも茶席で用いられた、赤漆の茶器。黒田辰秋独特の捻りが素晴らしい作品。美しく、滑らかな削りは、きっと、手に持ったらすっと馴染むのだろうなぁ・・・ 触ってみたい・・・ と思ってしまいます。

《赤漆流稜文飾手筺》 昭和30年代前半(1955−59)
そして、捻りといえば、こちら。1階展示室奥に飾られるのは、この展覧会のポスターにもなっている手筺(てばこ)です。真上から見た姿をポスターにデザインされているのですが、生命力を感じさせる渦巻文様が美しい作品です。

ミュージアムショップに並ぶ図録
鍵善で、実際に用いられてきた黒田辰秋作品。鍵善というお店と、黒田辰秋が出会わなければ生まれなかった美の世界は、実はしばらくの間、蔵のなかで眠っていたそう・・・
今西さん 「展覧会に貸し出すことはありましたが、長いこと蔵の中にしまわれていて。せっかくの作品を見ていただく場が欲しい、という思いが、美術館設立のきっかけのひとつとなりました」
ZENBIがオープンしたことで、時を越えて私たちも黒田さんの作品に出会うことができ、本当に嬉しいことです。「黒田辰秋」展は2021年6月27日(日)までの開催。期間が長めに設定されていますので、情勢が落ち着き、自由な往来が出来る頃に、ぜひ訪れてみてください。
オリジナルグッズがいっぱい!
ミュージアムショップ「Z plus(ジー プラス)」

ZENBIのお隣には、ミュージアムショップの「Z plus」が併設され、オリジナルグッズが多数揃います。

展示作品のポストカードや図録、マスキングテープ、クリップなどのオリジナルグッズとともに、気になったのは「京都のお店とのコラボ商品」。一澤信三郎帆布の「おさんぽバッグ」や、かみ添の便せん、染司よしおかの「いろはりふくろ」など、どれも実用的で美しい商品ばかり。

染司よしおかの「いろはりふくろ」各 9,000円
中にはお裁縫セットが入っています♪

ミュージアムショップオリジナルの鍵善の和菓子も! 江戸時代からの製法を守る看板商品の「菊寿糖」は、小ぶりなサイズの「小菊」(1,500円)として登場。州浜(すはま)の「季の実」は季節によって色が変わり、現在は「白梅・紅梅」を表しているそう。落雁の「うつろひ」と「飴雲」は、パステルカラーがとても可愛らしい♪ おみやげとしても喜ばれそうですね!
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祇園のニュースポット、「ZENBI−鍵善良房− KAGIZEN ART MUSEUM」。今後は、鍵善コレクションだけでなく、作家展など、様々な展示をされていく予定だそう。文化の継承、そして新たな文化に出会う場として、ご注目ください♪
【日程】開催中〜2021年6月27日(日)
【開館時間】10:00〜18:00(入館17:30)
【休館日】月曜日 ※祝祭日の場合は開館。翌日休み
【料金】1,000円、学生700円、小学生以下無料
【電話】075-561-2875
【アクセス】京阪本線「祇園四条駅」・市バス「四条京阪前」バス停から徒歩約5分 Google map
【公式ホームページ】https://zenbi.kagizen.com/

お待ちしております