四条大橋の東にある南座。威風堂々とした和の佇まいは誰もが知るところですが、じつは中に入るとモダンでおしゃれ。今まで訪れる機会がなかった方にも、ぜひ知っていただきたい南座の魅力を、たっぷりとレポートします♪
歌舞伎発祥の地で約400年
まずはルーツを紐解きましょう。南座を知るうえで欠かせないキーパーソンといえば、歌舞伎の祖といわれる出雲の阿国(いずものおくに)です。徳川家康の孫が編纂したと伝わる『当代記』には、慶長8年(1603)、彼女が披露した「かぶき踊り」が京都で人気を博したと記されています。ほどなくすると四条河原には多くの芝居小屋が並ぶようになり、元和年間(1615~1623)には7つの櫓が幕府の公認になりました。そのひとつが南座で、明治26年(1893)に北座が廃座となって以降は唯一の存在として歴史を今に伝えています。
外観
現在の建物は昭和4年(1929)11月に竣工し、平成8年(1996)に国の登録有形文化財に指定されています。地上4階、地下1階の構造で、約2年9ヵ月の耐震補強を経て平成30年(2018)にリニューアルしました。
外観の見どころ1「大提灯」
外観で特徴的なものといえば、左右に取り付けられた大提灯です。直径約120センチ、高さ約200センチあり、京提灯の老舗「小嶋商店」が制作しています。じつは、12月の風物詩としてお馴染みの「吉例顔見世興行」にあわせて毎年新調されているそうです。
外観の見どころ2「櫓」
最上部にある櫓
屋根にも見逃せない特徴があります。それは最上部に取り付けられた櫓。興行主の紋を染めた幕を張り、櫓を建てるのは幕府公認の芝居小屋だけに許された特権。現在は南座を経営する松竹株式会社の社紋が紅白で染められています。左右に突き出た部分は梵天と呼ばれ、神様が降り立つための依り代だそう。
少し離れた位置から外観を見上げると裸眼でも確認できますので、ぜひ江戸時代からの伝統をご覧になってください。
ちなみに、南座には大提灯と櫓をモチーフにした「みなみーな」というマスコットキャラクターがいます。宣伝部長として活躍中で、公式Xを担当。動くと頭の櫓がぼよよんと揺れて、ゆるかわいさに癒されてしまいます。
外観の見どころ3「飾金物」
正面入口の扉
中へ入る前にご覧いただきたいのが、正面入口の扉の華やかさ。社寺の建物や仏壇などに用いられる装飾、飾金物がふんだんに採り入れられています。松竹株式会社にちなんで、松と竹があしらわれているのもポイントです。
内部の見どころ1「モダンな装飾」
純和風の外観から一変、館内はモダンな佇まいが印象的です。桃山風の日本的な意匠を用いながらも全体はアール・デコ調にまとめられ、洗練された美しい空間が広がります。特に照明のデザインの完成度には目を見張るものがあります。
内部の見どころ2「深紅の装い」
南座の美しさは赤色によって引き立てられています。絨毯、カーテン、椅子、扉にいたるまで、すべてが赤色。さらに、ロビーに飾られている絵にも赤や補色の緑が使われ、トータルコーディネートされています。華やかな空間に身を置くと、これから始まる舞台への期待が自然と高まりますね。
劇場の見どころ1「唐破風」
さて、いよいよ客席へ! まず、ご覧いただきたいのが舞台上部の唐破風です。江戸初期、芝居といえば屋外での公演がほとんどで、舞台にのみ屋根が取り付けられていました。客席を含めて全体を屋根で覆うようになってからも舞台に屋根を付けるスタイルはしばらく維持されますが、江戸中期には無用のものとして取り外されてしまいます。現在、歌舞伎を上演する劇場のうち、南座だけがその名残を留めているという点からも必見ポイントです。
劇場の見どころ2「豪華な天井」
唐破風からさらに上を見上げると、天井は折り上げ格天井になっています。格式の高い部屋に用いられる装飾で、よく見ると金箔が貼られ、飾金物で彩られています。中央のシャンデリアも豪華絢爛!
劇場の見どころ3「バリエーション豊かな座席」
館内と同じように劇場内も赤色で統一されています。客席は1階から3階まで1,000席以上あり、多くはビロード張りの椅子です。1階の左右にある桟敷席は靴を脱いであがるスタイルで、掘り炬燵仕様のテーブル付き。「吉例顔見世興行」の折に芸妓さん舞妓さんが座る席としても知られ、憧れている方も多いのではないでしょうか。
劇場の見どころ4「緞帳と花道」
舞台を飾る緞帳「赤地草花連紋(あかじそうかれんもん)」は日本画家の上村淳之さんが監修し、杜若や菊の花々が彩られています。天保14年(1843)創業の川島織物セルコンによる制作で、重量はなんと約600キロ!
客席の間に設けられた花道は約17メートルあり、舞台後方には役者さんが待機する鳥屋(とや)があります。出入口に掲げられているのは揚幕。幕を引く音をもって役者さんが花道に出てくる合図になり、舞台の状況を把握するための切れ込みが入っているのも特徴です。
劇場の見どころ5「廻り舞台とセリ」
ここからは舞台装置についてご紹介しましょう。写真をよくご覧いただくと、ところどころに線が入っているのが分かるでしょうか。円形の部分は内側が回転する仕組みで廻り舞台と呼ばれ、場面転換時に使われます。
一方、四角の部分は上下するセリ。花道に2個、舞台に大小9個のセリがあり、上昇すると2階席と同じ目線になるといいます。逆に地下へと下がったところは「奈落」と呼ばれます。お芝居の構成を豊かにするために、いまや欠かせない存在ですね。
奥に東華菜館が見えます
セリには大道具が乗ることもあるのですが、大きな資材をどこから運び入れているか気になりませんか。じつは、舞台上手奥に川端通に直結する高さ約2メートルの搬入口があります。川端通と舞台の高さが同じで、トラックを横付けすれば、すぐに運び入れが可能です。
花道を歩いて、セリにも乗れる! 舞台体験ツアー
「南座の見どころを知っても、いきなりお芝居を見るのは敷居が高いかも…」と感じた方に朗報です! なんと、ここまでご紹介した見どころをご自身で体感できる舞台体験ツアーがあるのです。今年(2025)は7月26日(土)から8月11日(月・祝)に「南座 夏の舞台体験ツアー」が開催されます。公演がないときにしか行われないため、機会が巡ってくるのは不定期。花道を歩いたり、上下に動くセリを体感したり、役者さんの気分を味わえておすすめです。
■南座 夏の舞台体験ツアー
【日程】2025年7月26日(土)~8月11日(月・祝)
11:00~、12:00~、14:00~、15:00~、16:00~の1日5回
※各回定員制。所要時間約30分(予定)
【休館日】火曜日
【料金】2,000円
館内グルメ・おみやげ情報
最後に館内にある3つの施設をご紹介しましょう。
2018年に南座にオープンした「とらや 京都四條南座店」ではおみやげの購入や喫茶を楽しめます。1階東ロビーの奥にあり、南座のモダンな雰囲気に寄り添う、柔らかい印象の内観です。京都限定メニューの「きな粉あんみつ」など、観劇の前後の糖分補給にいかがでしょう。おみやげに代表商品「夜の梅」の小形羊羹、南座限定のオリジナルパッケージをどうぞ。
■とらや 京都四條南座店
【営業時間】物販10:00~18:00、喫茶10:00~18:00(ラストオーダー17:30)
【定休日】不定休
【電話】075-561-5878
お食事なら2階西側にある「京都南座 なだ万 とんかつ」へ。日本料理なだ万が手掛ける初のとんかつ専門店で、2025年3月にリニューアルオープンしたばかり。国産銘柄豚 相盛り膳「二重奏」は宝石箱のような華やかな盛り付けが食欲をそそります。国産のロースかつとヒレかつをさまざまなソースにつけて食べ比べができ、ボリュームも満点です。
■京都南座 なだ万 とんかつ
【営業時間】11:30~20:30(ラストオーダー20:00)
【定休日】不定休
【電話】075-525-8000
観劇の際は記念におみやげも購入したいですよね。1階と2階の東ロビーにある「井筒八ッ橋本舗」では歌舞伎にちなんだお菓子やグッズが並びます。
おすすめは南座限定の三笠。小倉と抹茶の2種類あり、つぶあんに生八ッ橋が入っているのが特徴です。ほかにも、歌舞伎の演目に因んだ生八つ橋の「夕霧」や米粉とバターを使った「さぶれ夕霧」など、多彩なラインアップに、あれもこれもと欲しくなってしまいます。
■井筒八ッ橋本舗
【営業時間】南座公演時のみ営業
【電話】075-531-2121(祇園本店)
【公式ホームページ】https://www.yatsuhashi.co.jp/
いかがでしたでしょうか。日本最古の歴史を持つ劇場はさすが見どころがいっぱいです。ぜひ、皆さんも南座に足を運んでみてくださいね。
■南座
※掲載内容は2025年5月26日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。