麩まんじゅう
生麩でこしあんを包んだ「麩まんじゅう」。冷やすといっそう美味しく、笹の爽やかな見た目も相まって、暑い時季に食べたくなる銘菓です。初めて世に出したのは、京都御所の西に店を構える生麩の専門店「麩嘉(ふうか)」。今回、7代目の小堀周一郎さんに麩まんじゅうから連なる、さまざまなエピソードをお話しいただきました。新しい試みに満ちた老舗の歩みをご紹介します。
京都御所への出入りを許されたお店
京都御所の椹木口から西に延びる椹木町(さわらぎちょう)通には、かつて江戸幕府公認の市場「上之棚」がありました。初代「大和屋嘉七」は現在と同じ椹木町通のそばに店を構え、御所に生麩を献上する役目を古くから担っていたそうです。しかし、元治元年(1864)に起きた「禁門の変」で家財のほとんどを焼失。正確な由緒は分からなくなってしまいましたが、お店に遺る慶応年間の御所通行手形から、少なくとも200年の歴史はあると考えられています。本店の京町家には文化文政(1804~1830)期の部材も見つかっているそう。
暖簾をくぐると石畳の先はすぐ調理場です。玄関横に小さな座敷があるものの本店は受注生産が主体のため、店先に商品を置くことはありません。麩嘉では「必要な分だけを、その日の朝に作る」といるスタイルを今も大切に守り続けています。
明治天皇も愛した麩まんじゅう
生麩に青のりが練りこまれています
麩まんじゅうを考案したのは、小堀さんの曽祖父にあたる4代目。当時から生麩は京料理の素材として重宝されていましたが、こしあんを包んでデザート仕立てにしたのは、ほかならぬ明治天皇のためだったそうです。じつは明治天皇はあんこ好きとしても知られ、カフェオレと一緒に麩まんじゅうを召し上がったというエピソードも伝わっています。
7代目 小堀周一郎さん
つやつや、プルンとした見た目からも分かるように、生麩には水が欠かせません。「生麩の主原料であるグルテンを小麦粉から抽出するには大量の水を使います。その水はいまも敷地内に掘った約70メートルの深井戸から汲み上げています」と小堀さん。
麩嘉のあたりには、かつて平安時代から知られた名水「滋野井(しげのい)」がありました。まろやかな軟水で、一年を通して水温が一定の地下水は生麩づくりに適しているといいます。本来の滋野井の場所は今となっては定かではありませんが、先代が昭和55年(1980)に約60メートルの井戸を掘削し「新・滋野井」と命名。以来、地域の人にも開放しています。
先代にまつわる興味深いエピソードをもうひとつ。
麩嘉では普段から屋号が入った木綿の暖簾を掛けていますが、夏の訪れとともに涼し気なおたふくさんの暖簾に掛け替えられます。よく見ると、目、鼻、口が「ふ」の字になっているかわいらしいデザインに魅力を感じませんか。なんと原画は昭和63年(1988)に先代がニューヨーク・タイムズに出した一面広告。「京都の食文化を支えるのは企業ではなく家業である」という想いのもと、海外に向けて生麩のPRを行ったそうです。ニューヨーク・タイムズに広告を出すというアイデア自体、なかなか思いつくものではありませんよね。
小堀さんによると4代目の麩まんじゅうしかり、麩嘉では一世一代といえるようなチャレンジが代々気風として受け継がれているといいます。小堀さん自身も先代からの縁を繋ぎ、期間限定でニューヨークに出店を果たしました。
さらに、小堀さんの大きな取り組みとして挙げられるのが笹の育成です。麩まんじゅうを包む笹は京都市北部の花脊(はなせ)別所地域で育てられています。高所にあり、霧の深い花脊で育った笹は、葉が大きくて香り高く、京料理に欠かせない存在です。しかし、約50年周期で訪れる笹枯れが平成16年(2004)から発生し、流通量が激減。1週間ほどかけて行う天日干しなど、担い手不足の問題も深刻化したため、地域の自治体、京都市、京都大学農学部と協力して課題解決に取り組まれています。
注目のスイーツは他にも♪
麩まんじゅう以外にも笹を使ったスイーツがあります。
笹は9月から10月にかけて一年分を収穫し、必要に応じて乾燥させた葉を水で戻します。その際に使用した水には笹の爽やかな香りが移り、古くから「笹水」として愛飲されてきたそうです。
小堀さんは「笹水」をオリジナルの笹蜜に仕立て、かき氷にかけていただく「笹の露」を考案。錦市場にある錦店で夏にだけ提供されています。毎年7月1日頃より登場しますので、気になる方は公式Instagramで最新情報をチェックしてみてください。
錦店に行くなら「鯛焼き麩」もおすすめです。こしあんの麩まんじゅうに対して、鯛焼き麩はつぶあん。「どちらも丹波の大納言小豆を使用していますが、大納言小豆は皮が美味しい。素材に向き合って生まれたのが鯛焼き麩です」と小堀さん。生麩ならではのモチモチっとした生地が上品な甘さのつぶあんに良く合います。
レモン麩まんじゅう(1個280円)。生麩と餡に国産レモンの果汁と果皮が練りこまれ、さっぱりとした味わいです
笹の露、鯛焼き麩と、新商品を生み出し続ける小堀さんの次なる一手は食通たちの関心の的。季節限定の味として夏に販売されている「レモン麩まんじゅう」も小堀さんの代でできた商品だと教えていただきました。
「時代によって美味しさの基準は変化します。そのなかで次の100年に向けた名物を作りたいと常々考えています」と小堀さんは言います。これからの歩みにも目が離せません。
■麩嘉 本店
【営業時間】9:00~17:00 ※商品の購入には事前予約が必要です
【定休日】月曜日
【電話】075-231-1584
【アクセス】市バス「文化庁・府庁前」バス停から徒歩約5分、地下鉄烏丸線「丸太町駅」から徒歩約7分 Google map
【公式ホームページ】https://fuka-kyoto.com/
■麩嘉 錦店
【営業時間】10:00~17:30
【定休日】月曜日
【電話】075-221-4533
【アクセス】地下鉄烏丸線「四条駅」から徒歩約5分 Google map
【公式Instagram】https://www.instagram.com/fuka_nishikimise/
※掲載内容は2025年6月25日時点の情報です。最新情報は掲載先へご確認ください。