皆さんにとって京都観光の目的はさまざまだと思いますが、「お坊さんに会いに行く」という方は少ないのではないでしょうか。実際、お寺でお坊さんの姿を見かけることはあっても、ゆっくりお話しするチャンスはなかなか訪れません。
そこに目を付けたのが京都に本社を構えるIT企業「株式会社ブイ・クルーズ」。一般の方とお坊さんを繋ぐWEBサービス「Hey! Bouz(ヘイ ボウズ)」を、2019年6月にスタートさせました。ネーミングからして、なにやら面白そうな予感。いったいどんなサービスなのでしょうか。
「Hey! Bouz」WEBサイト画面
サイトを立ち上げた代表の阿久津さんにお話を伺うと、「Hey! Bouz」ではサイトを通じてユーザーがお坊さんに“お願い”=リクエストできる仕組みになっているとのこと。ユーザー登録は誰でも無料で行えます。
現在、臨済宗、曹洞宗、浄土真宗など、さまざまな宗派のお坊さんが20名(2019年7月時点)ほど在籍しているそうです。その方々に向けて、ユーザーはまずリクエストとお支払い料金を提示します。それに対して、条件の合うお坊さんが応募。リクエストに応えたお坊さんが複数いる場合は、ユーザーがお坊さんをひとり選んで成立となり、実際にお会いできるというわけです。
ただ、リクエストといっても、何でも良いわけではありません。お坊さんと一緒に希望の場所へおでかけする「Bouz散歩」、お坊さん自身のお寺をご案内いただく「お寺見学」、葬儀や法事で「お経を読んでもらう」という3つのカテゴリが用意されています。カテゴリに即していれば、リクエスト内容はアレンジ可能です。
たとえば、お寺ではなく「お坊さんと一緒に喫茶店に行く」というのも「Bouz散歩」のひとつ。アイデア次第で、他では体験できないお坊さんとのひとときを過ごせそうですね。
「お寺見学」を実際に体験してみました
長楽寺
サービス内容を聞いても、実際のイメージをなかなか掴みづらいのが本音。そこで、「お寺見学」を体験してみることにしました。
リクエスト内容にもよりますが、お支払い料金は1時間5,000円から10,000円が多いそうです。参加人数はひとりでも複数人でも、リクエスト次第。仮に引き受けてくださるお坊さんがいなければ、内容やお支払い料金を変更して何度でもトライできます。落としどころを見つけるのも、サイト利用の楽しみのひとつかもしれません。
私のリクエストは、東山にある長楽寺のご住職が引き受けてくださいました。
長楽寺 住職の牧野純山さん
長楽寺は祇園から八坂神社、円山公園を抜けて、京都市街を見渡せる坂の上にあるお寺です。一般拝観も可能ですが、ご住職みずからご案内くださるなんて贅沢の極み。
拝観受付を訪ねると、ご住職の牧野純山さんが笑顔で迎えてくださいました。
本堂
祇園から歩いて約10分の距離というのが信じられないくらい、境内は静けさに満ちています。なんと、平安時代に桓武天皇によって創建された古刹で、もとは円山公園のあたりまで広大な境内地を有していたそうです。
「最近のお寺のニュースといえば、天皇陛下ご即位を記念したご開帳でしょうか」とご住職。ご本尊の准胝観世音菩薩は秘仏で、歴代天皇の即位の折にご開帳されてきました。今回のご開帳も、階段にずらっと列ができるほど、たくさんの方がお参りになったそうです。
ご案内の間にお寺のエピソードを聞けるのも、京都好きにはたまりません。
※本堂内は撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただきました。
そして、なんと嬉しいことに通常非公開の本堂の中でお参りさせていただきました! 荘厳な雰囲気に身が引き締まります。
秘仏のご本尊は厨子内に納められているのですが、じつは厨子も2代将軍・徳川秀忠の娘である東福門院和子(とうふくもんいんまさこ)によって寄進された由緒あるもの。お寺の創建1200年にあたる2005年に塗り直されたばかりとあって、まるで新調したてのよう。厨子には龍の絵や彫刻が施され、その細やかさにうっとりしてしまいます。
さらに、ご本尊の脇に祀られている布袋さんもご紹介いただきました。東福寺を創建した聖一国師が三国(中国・インド・日本)の土で作ったという像で、日本全国にある布袋像のもとになった貴重なものだそう。
「毎日見ているうちに、住職の顔も布袋さんに似てくると言われているんですよ」とご住職。確かに、笑い声が聞こえてきそうな布袋さんにつられて、見ている私も自然と笑顔になりました。
特別に中に入れていただき、説明付きで貴重な文化財を拝見。う~ん、贅沢なひとときです。
平安の滝
本堂向かって左手には、山からの水が湧き出る「平安の滝」があります。極楽浄土に流れる八つの徳を含んだ「八功徳水(はっくどくすい)」という名水で、その神聖さから、かつては修行の場として使われていたそうです。
ご住職が指さす方を見てみると・・・
岩場に仏さまを発見! 「言われなかったら気付かなかったかも」皆さんもお参りの際は、探してみてください。
宝物館
※宝物館は撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただきました。
続いて、平安の滝のすぐそばにある宝物館へ。こちらの見どころは、国の重要文化財に指定されている7躯のお坊さんの像です。長楽寺は天台宗として創建されましたが、室町時代に一遍上人を開祖とする時宗にあらためられました。
7躯のうち立ち姿の像が一遍上人。こけた頬からは、踊り念仏を広める道中の苦労が感じられますが、一方で眼光の鋭さに揺るがぬ決心が見て取れます。「他の像も個性豊かですね」と話していると、じつは存命中に彫られたものだと教えていただきました。名工と伝わる慶派の仏師が手掛けたそうですから、きっと本人そっくりなはず。昔の名僧と思わぬ形でご対面できる宝物館です。
お茶室
たっぷりとご案内いただき「じゅうぶんに満足です!」と思っていたのですが、最後に非公開のお茶室へご案内いただきました。
一般拝観のルートからはずれて、私たちだけ特別な場所にご案内いただけるVIP待遇に、ますます浮き足だってしまいます。
中に入ると・・・ ご覧ください、この美しい景色を! 相阿弥が室町時代に作ったお庭で、一般拝観とは違う角度から鑑賞できます。
「相阿弥は銀閣寺のお庭の作庭で有名ですが、じつは長楽寺で試しに作ってから銀閣寺のお庭に取り組んだそうです」
ご住職のお話のおかげで短い時間でどれほどの知識を得たことか。京都には、知られざる物語がたくさん秘められているのですね。
使用するお水は八功徳水。ご利益がありそうです♪
そして、ご住職みずからお点前を披露してくださいました!
「袈裟を着たお坊さんにお茶を点てていただくなんて初めてかも」それだけで気分が高揚します。
美しい所作に見とれつつ、時折聞こえる「ししおどし」の音。
ご住職のお話によって見聞を広められたのはもちろんですが、ゆっくりと過ぎていく時間を楽しめたことが、何よりの思い出になった気がします。
お茶席でいただいたお干菓子。季節に応じてモミジの色が変わるそう。
いかがでしたでしょうか。きっと、「Hey! Bouz」の魅力が皆さんにも伝わったはず。
そもそも、ブイ・クルーズ代表の阿久津さんは、誰もが気軽に相談できるようなプラットフォームを構築したいという想いがあったそうです。一方で、知り合いのお坊さんからは寺離れの現状を相談されていたといいます。本来、お寺こそ人々の悩みに寄り添う場所。地域をこえて両者を結びつけられないか、その想いが形となったのが「Hey! Bouz(ヘイ ボウズ)」でした。
お坊さんに会いに行くことで、生まれる何か。
今回は「お寺見学」がメインでしたが、ご住職にご案内いただく内に打ち解けて、話しやすくなったのも確かです。「ふとした時に心に浮かぶ小さな悩みも、誰かに話せば楽になるかもしれません。お坊さんに気軽に会いに来ていただければ」とご住職。
皆さんのリクエスト次第で、京都観光がもっと奥深いものになりそうですね。
※ご案内の内容は一例です。リクエストにより異なりますので、ご了承ください。
※お寺への直接のお問合せはご遠慮ください。
------------------------------------------------------------------------------
【「Hey! Bouz」公式ホームページ】https://heybouz.com/
※利用にはユーザー登録が必要です(無料)。※詳細は公式ホームページでご確認ください。