人気の観光地も訪ねつつ、一方でゆっくりと落ち着いた時間も過ごしたいという方にぜひおすすめしたいのが禅寺の鹿王院です。JR山陰本線(嵯峨野線)「嵯峨嵐山駅」から歩いて5分ほどの好立地にありながら、大勢が訪れる嵐山エリアとは別方向にあるため、境内は静かな雰囲気に包まれています。
2024年4月27日(土)から5月12日(日)に「春期京都非公開文化財特別公開」(以下、「特別公開」)も開催。「特別公開」時の見どころとあわせて、お寺の魅力をたっぷりとご紹介します♪
※記事内の、堂内や文化財の写真は特別な許可を得て撮影しています。
山門から参道へ
鹿王院はもともと、宝幢寺(ほうどうじ)というお寺の塔頭として、康暦元年(1379)に足利義満によって創建されました。宝幢寺は隆盛を極めるも応仁の乱によって焼失し、鹿王院だけが再建を果たして今日に至ります。
正式名称は「覚雄山大福田宝幢禅寺」といい、お寺の入口にあたる山門には義満筆による「覺雄山」の扁額が掲げられています。じつは、山門は応仁の乱による焼失を免れた、創建当時からの貴重な遺構。かつて、この地で幼い一休さんも学んだという由緒があり、一休さんが通ったかもしれない門を現代の私たちも同じように通れると思うと、入口から感動してしまいます。
山門からまっすぐに石畳の参道が続きます。青もみじが大変美しく、ちょうど今の時季は若々しいエネルギーでいっぱい。歩みを進めるにしたがって心も癒されます。
参道のそばには以前より竹林があったのですが、昨年(2023)10月より散策用の小径が整備されました。サラサラと葉擦れの音をそばに感じられるくらい竹に囲まれた空間は、新たな“映えスポット”として人気を博しそうです。
お庭
庫裡を抜けて堂内を進むと、客殿からご覧の景色を眺められます。嵐山を借景に取り込んだ雄大なお庭は平庭式の枯山水。中心にある舎利殿は昨年(2023)10月に、約2年半におよぶ大規模修理を終えたばかり。雄大に軒を広げた姿と嵐山の共演は絵になる光景です。
お庭には、樹齢300年を超えるモッコクや、樹齢約100年の赤松など植栽も豊か。客殿の縁側に腰かけて、ゆったりと眺めるのもおすすめです。
客殿
「特別公開」期間中は、客殿内に明兆筆の「釈迦三尊像・三十祖像」が飾られます。「釈迦三尊像」を中心に、左右に祖師像が並んだ計7幅の構成です。明兆といえば、現在、京都国立博物館で採り上げられている雪舟も影響を受けたといいます。
国の重要文化財に指定されている明兆の作品を、展示ケースなしに間近に鑑賞できる貴重な機会です。
茶室
客殿の北側にある茶室「芥室(かいしつ)」も「特別公開」で拝観できます。
昭和の名俳優・大河内傳次郎による寄進で、大河内傳次郎が築いた大河内山荘庭園と同じ数寄屋師が建築に携わったそうです。床柱など用材の選定にも高い美意識が垣間見えます。
茶室には、お茶に欠かせない花の嗜みについてまとめられた「文阿弥花伝書」も展示されます。室町時代の作ながら彩色図は色鮮やかで、いけばなの心得がなくとも見ごたえはたっぷり。
個人的に心を惹かれたのは、可愛らしい勝軍地蔵様。馬に乗り、鎧を付けたスタイルの珍しいお地蔵様です。先代住職が子供の日にあわせてお祀りしていたそうで、「特別公開」の期間中に子供の日があるため、お披露目されることに。「特別公開」時はお厨子から出した状態で展示されますので、お姿をじっくりと拝見できます。
昭堂
客殿から回廊を進むと、延宝4年(1676)に再建された昭堂があります。
堂内中央には、ご本尊の「釈迦如来像」と「十大弟子像」が祀られています。いずれも創建当初から大切に守り伝えられてきました。裏側に祀られているのは、お寺を創建した義満の木像や開山の普明国師の木像です。じつは、普明国師のお像の下が国師のお墓になっているため、昭堂はご本尊を祀る本堂であり、開山を祀る開山堂の役割も兼ねています。
また、堂内入って右手に展示されている、嵯峨一帯の古地図「応永鈞命絵図」の写しにも注目を。室町時代に足利義持の命によって作られた地図を、江戸前期の鹿王院住職が書き写したもので、地図内には宝幢寺と鹿王院の文字が見てとれます。鹿王院をはじめ、室町時代から変わらずに現代も同じ場所にあるお寺の名前を探してみるのも楽しいですよ。
舎利殿
最後にご紹介するのは、舎利殿。舎利とはお釈迦様の骨を指しますが、鹿王院に祀られているのは日本へ伝来した数少ない“歯”の骨で、佛牙舎利(ぶつげしゃり)と呼ばれます。
佛牙舎利は鎌倉幕府三代将軍の源実朝が中国の宋より招来し、もともとは鎌倉の円覚寺に祀られていました。後光厳天皇が貴重な佛牙舎利の一部を献上するように円覚寺に求め、縁あって普明国師のもとへ下賜されます。以来、鹿王院では舎利殿を建立し、大切に安置しています。
鎌倉と京都のご縁の深さに驚いていると、お寺の方から耳より情報をお聞きしました。鎌倉市内を走る「江ノ電」と鹿王院の最寄り「鹿王院駅」を有する「嵐電」では、姉妹提携15周年を記念して、鎌倉と京都の魅力を発信する共同PR事業を開始されたそうです。円覚寺と鹿王院の知られざる物語を第1回目として、今後も名所をピックアップするとのこと。現代にも脈々とご縁は続いているのですね。
お厨子の扉が御開帳されるのは年に一度、10月15日のみ。しかし、なんと「特別公開」では、舎利殿の修復落慶を記念して、期間中ずっと扉が開かれます。
10cmほどの水晶に納められているという佛牙舎利には、長寿延命のご利益があるともいわれます。この機会を利用して、逃さずお参りしたいところです。
佛牙舎利を守るべく、お厨子の四方を固めるのは四天王像。勇ましい立ち姿はもちろんのこと、彩色の鮮やかさやポージングに見入ってしまいます。舎利殿の落慶を記念した御朱印に四天王像バージョンもありますので、四天王像に見とれてしまった方は、どうぞお求めを。
舎利殿にお参りする際に、忘れずにご覧いただきたいのが天蓋に描かれた龍です。四天王像と同じくらい彩色が見事。
舎利殿の龍はポップなイラストに姿を変えて御朱印帳のモチーフになっています。昨年(2023)10月から授与を開始したところ、可愛らしい見た目が反響を呼び、現在は品切れ中。「特別公開」が始まるまでに納品されるそうですから、絶対にゲットしたいという方はお早めに。
ほかにもクリアファイルやポストカード、土鈴ストラップなど魅力的な授与品が勢揃いしていますので、お帰りの際に庫裡玄関でチェックしてみてください。
常日頃の鹿王院の佇まいも素敵ですが、「特別公開」の期間中は見どころが盛りだくさん。また、初日の4月27日(土)には文化財保護技師の今江秀史さんを講師に招いた講演会も開催されます。ぜひ、この機会に拝観を♪
※掲載内容は2024年4月24日時点の情報です。