祝・国宝! 琵琶湖疏水を活用したお庭めぐり

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平安神宮

平安神宮

琵琶湖の水を京都に運ぶ人工運河「琵琶湖疏水」が今年(2025)8月に国宝と重要文化財に指定されました(※)。明治の京都を発展させる一大プロジェクトとして進められた琵琶湖疏水は、水力発電や舟運など多分野に役立てられましたが、現代の私たちがその恩恵をリアルに感じられるのは東山に点在する近代庭園です。琵琶湖の豊かな水が織り成す、美しいお庭をご紹介しましょう。
 
※対象施設24ヵ所が重要文化財に、うち5ヵ所が国宝に指定されました

平安神宮

琵琶湖疏水の水を用いた庭づくりを語るうえで欠かすことのできない人物といえば、明治に活躍した作庭家の七代目小川治兵衛です。明治28年(1895)に創建された平安神宮も、本殿を中心とした東・中・西・南の4つの神苑が小川治兵衛によって作られました。
  • 臥龍橋

    臥龍橋

  • 天気が良ければ、水面に空が映ります

    天気が良ければ、水面に空が映ります

いずれの神苑も水を巧みに利用していますが、小川治兵衛の遊び心を感じるなら中神苑へ。蒼龍池には三条大橋や五条大橋の橋桁を飛石にした「臥龍橋」が架けられ、自由に渡ることが可能です。リズム良く飛び越えていくだけでも楽しいのですが、水面に青空が映れば、大空を舞う龍の背を歩いている気分になるように工夫されています。
  • 泰平閣

    泰平閣

  • 泰平閣からの眺め

    泰平閣からの眺め

ほかにも、東神苑に架けられた橋殿「泰平閣」の縁から眺める水景もおすすめ。約1万坪にも及ぶ広々とした神苑には、水を使ったお庭のお手本のような景色があちこちに散りばめられています。
 
【参拝時間】3月~9月 6:00~18:00、授与所7:30~18:00、神苑8:30~18:00(受付終了17:30)
10月 6:00~17:30、授与所7:30~17:30、神苑8:30~17:30(受付終了17:00)
11月~2月 6:00~17:00、授与所7:30~17:00、神苑8:30~17:00(受付終了16:30)
【参拝料】境内無料、神苑600円
【アクセス】市バス「岡崎公園 美術館・平安神宮前」バス停から徒歩約5分、地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】https://www.heianjingu.or.jp/

並河靖之七宝記念館

  • 展示室

    展示室

並河靖之七宝記念館は明治から大正にかけて活躍した七宝家・並河靖之の自宅兼工房で作品を鑑賞できるミュージアムです。主屋の南東に広がるお庭は、並河家の隣人であった七代目小川治兵衛による作庭。なんと琵琶湖疏水の水を個人邸宅に引き入れた初めてのケースで、七宝の研磨作業に水を使っていたといいます。

ポイントは縁側の下まで水を引き入れた特徴的な造り。座敷からお庭を眺めると、水のせせらぎが近くに感じられるように工夫されています。

2階からの眺め ※特別公開で見られる景色は多少角度が異なります

2階からの眺め ※特別公開で見られる景色は多少角度が異なります

お庭好きにおすすめしたいのが、不定期で行われる「主屋二階特別公開(要予約)」です。15名限定、学芸員さんの解説付きで見学できるという特別感のある催しで、2階からはお庭を見下ろせます。池の形や立派な松の枝ぶり、木々の間からぴょこんと顔をのぞかせる灯籠など、普段とは異なる景色は新しい発見の連続です。
 
※「主屋二階特別公開」のスケジュールは公式ホームページよりご確認ください

並河靖之生誕180年を記念した秋季特別展「並河七宝—永遠なる黒の耀き—」(~12月14日)もお見逃しなく。明治期の万博を機に世界に名を馳せた「並河七宝」の美しさの根源ともいうべき黒色釉薬にスポットをあてた展示で、黒の背景色に繊細な図案を描いた優美な作品が並びます。ぜひ、この機会にゆっくりと鑑賞してくださいね。
 
■並河靖之七宝記念館
【開館時間】10:00~16:30(受付終了16:00)
【入館料】1,000円 ※主屋二階特別公開は別途600円
【休館日】月曜日、木曜日(祝日の場合は翌日)※夏季・冬季長期休館あり
【アクセス】地下鉄東西線「東山駅」から徒歩約3分 Google map
【公式ホームページ】https://namikawa-kyoto.jp/ 

無鄰菴

無鄰菴は明治から大正にかけて活躍した政治家の山縣有朋が構えた別荘で、七代目小川治兵衛による開放的な庭園が魅力です。
  • 東山を借景に取り込んだ奥行きのあるお庭

    東山を借景に取り込んだ奥行きのあるお庭

  • 浅い池は解放感を生む効果があるそうです

    浅い池は解放感を生む効果があるそうです

琵琶湖疏水が完成した折に内閣総理大臣を務めていた山縣有朋は、お庭に水を引き入れることを熱望していたといいます。他にも、広々とした芝生の周りにモミ、ヒノキ、杉をたくさん植えるように注文するなど、庭づくりにかける想いはひとしお。
 
七代目小川治兵衛はその希望を汲み取りながら、水の流れや高低差を利用してさまざまな視覚効果を施し、代表作とまでいわれるほどの名庭を作り上げました。
  • 喫茶セット 1,200円(飲み物とお菓子は数種類から好きなものを選べます)🄫植彌加藤造園

    喫茶セット 1,200円(飲み物とお菓子は数種類から好きなものを選べます)🄫植彌加藤造園

  • 母屋からの眺め 🄫植彌加藤造園

    母屋からの眺め 🄫植彌加藤造園

現在、母屋ではカフェを楽しめるようになっています。座敷に座ると目線が低くなり、お庭の味わい方も変わります。心地よい風を感じながら、山縣有朋と同じように自然に癒されてみませんか。
 
【入場時間】4~9月 9:00~18:00(最終入場17:30)、10~3月 9:00~17:00(最終入場16:30)
※事前予約優先制。詳しくは公式ホームページをご覧ください
【入場料】600円(10/11~19・11/1~14は1,000円、11/15~12/7は1,500円、それ以降も価格変動あり)、庭園カフェ1,200円
【休場日】12/29~31
【アクセス】地下鉄東西線「蹴上駅」から徒歩約7分、市バス「神宮道」バス停から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】https://murin-an.jp/

對龍山荘

  • 表門

    表門

琵琶湖疏水の水を庭園に利用できるようになると、岡崎や南禅寺界隈に数多くの別荘が建てられました。對龍山荘(たいりゅうさんそう)もそのひとつ。明治29年(1896)、元薩摩藩士で実業家の伊集院兼常が別荘として造営しました。長らく非公開でしたが、現在別荘を保有する株式会社ニトリホールディングス会長の似鳥昭雄さんが多くの人に楽しんでもらえるようにと公開を決断。2024年秋より一般観覧をスタートしています。

約1,800坪におよぶ敷地には、もともと伊集院兼常が作庭したお庭があったそうです。呉服商の市田弥一郎が所有していた折に、七代目小川治兵衛が琵琶湖疏水の水を用いて改修。滝や池など水の恩恵を存分にいかした造りは名庭と呼び声高く、昭和63年(1988)に国の名勝に指定されました。
  • 對龍台からの眺め

    對龍台からの眺め

主屋は国の重要文化財に指定されていますが、その一室である「對龍台」からの眺めも格別です。東山を借景に緑が連なる光景は雄大で、滝の音や鳥の声に耳を澄ませながら眺めていると、時間が経つのも忘れてしまいます。
 
■對龍山荘
【入場時間】10:00~12:00(最終入場11:30)、13:30~16:00(最終入場15:30)
※季節によって入場時間が異なります。詳しくは公式ホームページよりご確認ください
※入場には靴下の着用が必要です(ストッキング不可)
【入場料】3,000円(季節により変動)
【アクセス】地下鉄東西線「蹴上駅」から徒歩約8分 Google map
【公式ホームページ】https://tairyu-sanso.jp/

南禅寺

琵琶湖疏水を利用したお庭づくりに欠かすことのできない施設として、南禅寺の境内にある水路閣をご紹介しましょう。
  • 水路閣

    水路閣

  • レンガの連なるアーチは、フォトスポットとしても人気

    レンガの連なるアーチは、フォトスポットとしても人気

じつは、橋の上を通る水は哲学の道を越えて北白川まで北上し、ゆるやかに西へ進んで京都府立植物園の南側あたりを通って、賀茂川へ注ぎます。疏水分線のおかげで、さまざまなお庭に水がいきわたっているのですね。
 
ちなみに、南禅寺の本坊にある「滝の間」では、疏水分線の水を利用した滝を眺めながら抹茶をいただけますので、気になる方はあわせてどうぞ。
 
【拝観時間】3月~11月 8:40~17:00(受付終了16:40)、12月~2月 8:40~16:30(受付終了16:10)
お茶席 9:30~15:30(12:00~13:00は休止)※都合によりご利用いただけない場合もあります
【拝観料】境内無料、方丈庭園600円 ※お茶席は別途500円
【アクセス】地下鉄東西線「蹴上駅」から徒歩約10分 Google map
【公式ホームページ】https://nanzenji.or.jp/

永観堂[禅林寺]

紅葉名所として知られる永観堂[禅林寺]といえば、多宝塔を望む風景がお馴染みです。モミジが大きく枝を広げているため写真で見ると分かりづらいですが、手前には豊かな水をたたえた放生池があります。
  • 放生池

    放生池

  • 池の中央に弁天社が祀られています

    池の中央に弁天社が祀られています

元治元年(1864)に刊行されたガイドブック『花洛名勝図会』にはすでに放生池が描かれ、山から湧き出た水を利用していたことが分かります。琵琶湖疏水が完成すると、各所にあった明治以前のお庭にも水が引き入れられるようになり、永観堂では先ほどご紹介した疏水分線の水が使われているそうです。
  • 右奥の滝から放生池へ水が流れていきます

    右奥の滝から放生池へ水が流れていきます

  • 龍吐水

    龍吐水

水がどこから流れているのか辿ってみると、阿弥陀堂の階段下に滝を発見。さらに、近くにある手水舎「龍吐水」にも琵琶湖疏水の水が使われています。永観堂のご本尊「みかえり阿弥陀」のように、時には振り返って境内をじっくりと拝観すれば、知識欲を刺激する新しい出合いが待っているかもしれません。
 
【拝観時間】9:00~17:00(受付終了16:00)
【拝観料】600円(秋の寺宝展期間中は1,000円)
【アクセス】市バス「南禅寺・永観堂道」バス停から徒歩約3分 Google map
【公式ホームページ】https://www.eikando.or.jp/

琵琶湖疏水をたっぷり楽しむなら「びわ湖疏水船」へ!

国宝や重要文化財に指定された琵琶湖疏水の魅力を体感したいという方は「びわ湖疏水船」がおすすめです。大津(三井寺)から蹴上まで約7.8キロの航路には、トンネルや日本最初期の鉄筋コンクリート橋など見どころがいっぱい。ガイドさんの解説を聞きながら景色を堪能していると、約1時間の船旅はあっという間です。
 
さらに、今ならではの楽しみ方も。三井寺乗下船場から乗船して第1、第2、第3トンネルを順に通り、下船後に足をのばしてインクラインと水路閣を見て回れば、このたび国宝に指定された5ヵ所すべてを制覇できます。今年(2025)の秋シーズンの予約はすでに始まっていますので、気になる方は早めにお申込みを♪
 
■びわ湖疏水船 秋シーズン運航 ※完全予約制
【運航期間】2025年10月3日(金)~12月7日(日)の内の52日間(運休日あり)
【乗船料金】ひとり6,000円~11,000円
※料金は乗船便により変動します
※下り便(三井寺~蹴上)、もしくは上り便(蹴上~三井寺)一回あたりの乗船料金です
※上記のほか、期間限定で蹴上~大津港間を運航する便もあります
【公式ホームページ】https://biwakososui.kyoto.travel/
※料金や予約方法など詳細は公式ホームページでご確認ください
※掲載内容は2025年9月17日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。

Written by. 「そう京」編集部

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