あの名所にこの銘菓あり 門前菓子めぐり

由緒ある社寺が数多く存在する京都。その門前で長く続き、名物として愛されるお菓子も少なくありません。長年にわたり多くの参拝者に支持されてきただけに、その味わいはお墨付き! 社寺の歴史やご利益と関わりのあるお菓子も多く、味わってみれば社寺参拝の思い出が一層深まります。とっておきの門前菓子めぐりを楽しんでみませんか。


ご利益をいただく門前菓子

社寺の歴史やご利益と深い縁があり、お菓子そのものが縁起物と親しまれていることも。そのいわれとともにいただいてみましょう。

一文字屋和輔(一和)「阿ぶり餅」

〜 門前に漂う香りも今宮神社名物 〜

創業は長保2年(1000)、以来今宮神社の参道で千年以上続く名物。初代が神前に奉納したのが始まりと伝わり、悪疫退散の神様に参詣した人が求めるお土産になりました。小さくちぎった餅に深煎りのきな粉をまぶし、竹串に刺して備長炭であぶった素朴な姿。口にすると広がるのは、トロリと甘い白味噌たれの風味とこんがり芳ばしい香り、そして餅の自然な甘み。この滋養が無病息災の縁起物の評判を生んだのかもしれません。

今宮神社とやすらい祭

今宮神社が鎮座するのは平安建都以前から疫神を祀る社があったと伝わる地。紫野御霊会もその疫神を鎮め都の災疫鎮静を祈ったものです。民衆の強い疫神詣を今に伝えるのが4月のやすらい祭。春の精にあおられて飛散すると信じられた疫病の根源を集めて社に封じるため、華やかな花傘が町内を練り歩きます。

今宮神社

一条天皇の御代に紫野御霊会を営んだことが起源。徳川五代将軍綱吉の生母・桂昌院が深く帰依したことから西陣の産土神としても信仰を集め、玉の輿のご利益でも知られます。


休憩処 さるや「申餅」

〜 葵祭に端を発する下鴨の縁起菓子 〜

元は葵祭の申の日に五穀豊穣を祈って供えられた神饌で、やがて無事息災の縁起物「葵祭の申餅」として庶民に広まった下鴨神社の名物。江戸時代初期にはガイド本「出来斎京土産」にも描かれました。明治時代に一度途絶え、宮司の口伝を元に再現されたのが現在の申餅です。小豆の煮汁を加えてついた餅は、生命の始まる夜明けの色とも言われる「はねず色」。粒のままふっくら炊いた小豆を包む、素朴で純粋な味わいに心も清められます。


下鴨神社と葵祭

葵祭は約1500年前に始まったとされる下鴨神社と上賀茂神社の例祭で、正式名は「賀茂祭」。平安時代には天皇の使者・勅使が派遣される国の祭祀となり、平安貴族が「祭」と言えば葵祭を指したとか。平安装束の行列が続く5月15日の「路頭の儀」は今も多くの人が見学に訪れます。
※2020年〜2022年は中止

下鴨神社[賀茂御祖神社]

紀元前の記録も残る京都最古の社の一つ。平安時代には皇室の氏神・国家鎮護の神として信仰を集めました。縁結びの相生社など、多彩なご利益の摂社末社でも知られます。



あの有名人がルーツ!? な門前菓子

その歴史を紐解くと、意外な有名人が登場する門前菓子も。おいしく味わいながら、歴史ロマンに想いを馳せてみませんか。

加茂みたらし茶屋「加茂みたらし団子」

下鴨神社の西にある、大正11年(1922)創業の和菓子店・亀屋粟義が営む茶店の名物。後醍醐天皇が下鴨神社境内の御手洗池で水をすくうと5つの水泡が浮かんだとされ、その泡をかたどったのが“みたらし団子”の発祥と伝わります。また、5個の団子は人間の五体を表し、1個だけ離れているのが頭だとも言われています。串に刺して香ばしく焼いた団子に、トロリとしたまろやかな甘さのたれをかけて味わいます。

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下鴨神社の御手洗池

下鴨神社境内の御手洗池は、普段は浅いのに土用の頃になると清水が湧き出ることから、鴨の七不思議に数えられるパワースポット。土用の丑の日に池に足を浸すと罪や汚れが払われるとされ、例年7月の「御手洗祭(足つけ神事)」は多くの人で賑わいます。葵祭の斎王代が手を清める「禊の儀」の場としても有名。


長五郎餅本舗「長五郎餅」

「長五郎餅」の由来は、約400年前に遡ります。豊臣秀吉が北野天満宮で北野大茶湯を開いた際、茶屋を出店していた同店の先祖が作った餅を献上したところ、大層気に入った秀吉が「長五郎餅」の名を授けたと伝わります。創業時から現在まで店を構えるのは、かつて北野天満宮の境内として下の森と呼ばれた場所。受け継がれ続けるその味は、程よい弾力の餅の食感とさらりとした口溶けのこし餡の甘みで今も愛されています。


北野天満宮と北野大茶湯

天正15年(1587)、豊臣秀吉が北野天満宮境内で催した大茶会・北野大茶湯。秀吉自ら茶をたて、名物茶道具を披露しました。千利休ら著名な茶人だけでなく、身分を問わず参加が許され、何百軒もの茶屋が並んだ一大文化行事でした。例年御祭神・菅原道真公の薨去の日にあたる2月25日には、北野大茶湯の故事にちなみ、梅花祭野点大茶湯が催されます。

北野天満宮

天暦元年(947)に創建され、国宝の御本殿には御祭神の菅原道真が祀られます。境内には、豊臣秀吉が茶をたてるためにその水を用いたという「太閤井戸」も残ります。



かわいい動物モチーフの門前菓子

神様のお使いとされる動物をモチーフにした門前菓子を厳選。食べておいしく、かわいらしいフォルムでお土産にもぴったりです。

双鳩堂「鳩餅」

三宅八幡宮にゆかりの深い鳩の姿をかたどった愛らしい姿。米粉を蒸したしんこ餅はニッキ・抹茶・白の3種類。もっちりとした食感で、昔ながらの優しい味わいと香りが楽しめます。店はかつての若狭街道沿いで明治13年(1880)に創業。三宅八幡宮とは2kmほど離れていますが、当時はこの街道が八幡宮へ至る道筋だったそう。大正時代末までは神社界隈に茶店を出しており、現在も境内で営まれる茶店で双鳩堂の「鳩餅」を扱っています。

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三宅八幡宮と鳩

ご祭神の八幡大神(応神天皇)の使いが鳩であることから、鳥居の両脇には狛鳩が鎮座。絵馬やお守り、提灯にも鳩があしらわれ、鳩の形のおみくじなどが参拝者によって境内のあちこちに並べられています。お宮参りの際に神鳩(土製の鳩のつがい)を授かり、子どもが成長したら返す習わしも。

三宅八幡宮

推古天皇の時代に小野妹子により創建されたと伝わる洛北の古社。かん虫封じや病気平癒のご利益で知られ、子どもの守り神として信仰を集めています。通称「虫八幡さん」。


総本家 宝玉堂「稲荷煎餅(きつね煎餅)」

稲荷煎餅の発祥は、90年ほど前。初代が故郷・岐阜の名物みそ煎餅にきつねと鳥居をあしらったデザインを考案し、門前で売り出したことからです。参拝を終えた人々がお土産として買い求め門前菓子として愛されるようになりました。艶々としたきつねは愛嬌たっぷり。創業時から変わらず手作業で焼き上げた煎餅は、軽快な歯ごたえで、白みその香ばしさとゴマの風味が人気です。現在は様々な形の稲荷煎餅が店頭に並びます。

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伏見稲荷大社ときつね

“お稲荷さん”といえば思い浮かぶのがきつね。きつねは伏見稲荷大社の祭神である稲荷大神の眷属(お使い)で、野山にいるきつねとは異なる人の目に見えない存在です。境内を巡ると様々なきつねの像に出会えます。なかには稲穂・鍵・宝珠などを咥えたものも。

伏見稲荷大社

全国約3万社の稲荷神社の総本宮。和銅4年(711)の稲荷大神の鎮座以来、五穀豊穣や商売繁昌の信仰を集めます。朱塗りの鳥居がずらりと並ぶ「千本鳥居」は圧巻。



まだまだあります。おすすめの門前菓子

あまたの社寺が点在する京都だけに、門前で愛されるお菓子は他にもいっぱい。定番から不思議な伝承が残るものまで、おすすめの3品をご紹介します。

みなとや幽霊子育飴本舗「幽霊子育飴」

この世とあの世の境と伝わる六道の辻近く。400年以上前、女の霊が埋葬後に生まれた子の命を繋ぐため毎晩飴を買いに来たという伝承が店に残ることから「幽霊子育飴」と呼ばれるように。後に赤子は高僧となったため出世の縁起物としても人気。麦芽糖水飴と砂糖で作る昔ながらの飴で素朴な甘さとともに母の愛が染み渡ります。

■ここを参拝して訪れたい: 六道珍皇寺

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亀屋陸奥「松風」

室町時代、本願寺が山科に建立された頃からお抱えの御供物司として仕えたのが亀屋陸奥の起源。石山本願寺と織田信長の戦の際、兵糧代わりに考案されたのが「松風」の始まりと伝わります。小麦粉・砂糖・麦芽糖と白みそを混ぜて発酵させた生地はもっちりとした食感でコク深い味わいに。門徒さんには本山に詣った証として親しまれているそう。

■ここを参拝して訪れたい:本願寺(西本願寺)

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東寺餅「東寺餅」

東寺の門前で大正元年(1912)に創業。名物「東寺餅」は、屋号を見て「東寺餅ちょうだい」と訪れるお客さんが多いことから、3代目になって生まれたものだそう。なめらかなこし餡をふんわり包む求肥はメレンゲを混ぜ込んだ半雪平という餅生地。ほわほわ柔らかい食感が数日持つので、東寺参拝のお土産にもぴったりです。

■ここを参拝して訪れたい:東寺[教王護国寺]

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※写真はイメージです。
※掲載内容は2022年7月13日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。