初夏の花咲く「月輪寺」 -空也上人ゆかりの地へ-

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京都のお寺探訪 21

平安時代中期、諸国を巡り、「南無阿弥陀仏」の名号を唱え、庶民に阿弥陀信仰を広めた僧がいました。その名は、空也(903-972)。「市聖(いちのひじり)」「阿弥陀聖」等とも称され、時宗の開祖・一遍上人に「我が祖」と敬われた高僧です。2022年、空也上人没後1050年を迎え、いま改めてその存在に注目が集まっています。

京都には空也上人が開いたお寺を起源とする六波羅蜜寺をはじめ、観音のお告げに出会った清水寺、お墓が遺る西光寺など、上人ゆかりの地が点在しています。そのなかでも、右京区・愛宕山(あたごやま)の山中にある月輪寺(つきのわでら)は、上人が修行したと伝わるお寺。アクセス困難な場所にあり知る人ぞ知るスポットですが、実は初夏の花名所であり、空也上人自作と伝わる「空也上人立像」(国の重要文化財)をはじめとしたすばらしい仏像の宝庫です。

山中にある古寺・月輪寺とは、いったいどんなお寺なのか。2022年4月20日(水)、初夏の花彩る素晴らしい季節を迎えた境内を訪ねました。

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「月輪寺」へのアクセス方法はひとつ。
ただひたすら“歩く”のみ!!

月輪寺境内から京都市内を眺める

月輪寺境内から京都市内を眺める

観光名所・嵐山からさらに奥。京都市の西北にそびえる愛宕山は、火伏で有名な愛宕神社を山頂に祀る聖なる山です。月輪寺は愛宕山の山中にあり、お寺に行くための手段は、「徒歩」のみ。最寄りのバス停・駐車場から歩きでしかアクセスできない場所にあります。

新緑の清滝川

新緑の清滝川

京都市内側からのルートは、まずは麓の「清滝(きよたき)」を目指し、そこから山路を行きます(Google map)。月輪寺と愛宕神社にお参りするルートとしては、

①愛宕神社にお参りしてから月輪寺に向かう。
②月輪寺にお参りしてから愛宕神社に向かう。

2つのルートが想定されます。体力的に楽なのは、①の愛宕神社→月輪寺コース。月輪寺→愛宕神社へ向かう場合は厳しい上り坂が続いてしまうため、いったん山頂を目指して、下りながら月輪寺へお参りするのが体力的にも心理的にも楽なものに感じます。でも今回は、清滝から「空也の滝」を経由して月輪寺へ、そこから愛宕神社へと向かうルートを取りました。

★愛宕神社登拝記録ブログはこちらから
⇒“火伏の神さん”の山・愛宕山(2017年掲載)

★「清滝」までのおすすめアクセス方法
・「京都駅」から京都バスにて約50分
・京福電鉄「嵐山駅」から京都バスにて約15分

※体力・装備など自己管理の下、十分準備してご参詣ください。厳しい山道となりますので、軽装軽備での登山は厳禁です。11時までには登山を開始し、午後からの入山はお控えください。
※清滝周辺は路上駐車禁止であり駐車場も少ないため、なるべく公共交通機関をご利用ください。

美しい滝筋に感動! 神秘の「空也の滝」

10時頃、清滝を出発。橋を渡るとすぐに右へ。清滝川沿いの道(愛宕神社参道の手前の道)を行きます。平坦な道が続き、新緑を楽しみながら進んでいくと、30分ほどで「月輪寺のぼり口」の目印に行き当たります。ここから左へ向かうと「空也の滝」。空也上人が訪れたという伝説のある滝で、まずはそちらを目指します。

川沿いに細い山道を進み、途中、行者様用と思われる休憩施設を通り抜けながら歩いていくと、赤い鳥居が現れ、その奥に「空也の滝」がありました。

約15メートルの高さから流れ落ちてくる水は、岩にぶつかりながら幾筋もの流れを作り、圧倒的な自然の力と美しさに、ただただ感動・・・
滝の右には不動明王が、左には役行者と前鬼・後鬼の像が祀られ、修験の聖地として大切にされていることがわかります。上人もこの地で霊威を感じられたのだろうかと思いながら手を合わせました。

月輪寺への道は、険しい上り坂・・・

先ほどの三叉路に戻り、いよいよ月輪寺への山道に入ります。

山道の途中にある看板

山道の途中にある看板

ここまでは平坦ラクラクな道のりでしたが、今からは山道の険しい上り坂。白洲正子さんもおっしゃったように「愛宕山は砥石が出るところで、それがこまかく砕けているので、歩きにくいことおびただしい」(『十一面観音巡礼』)。でも正子さんはヒールで登ったのだとか・・・ 体力に自信がある方でも途中にはきっと疲れてしまうのではと思うほどに、延々とのぼり道が続きます。適度な休憩と水分補給をしながら、頑張って登ります。

“涙を流す”しぐれ桜と鹿に誘われ、月輪寺に到着!

1時間ほど登った時、ようやく白い建物と白い山桜が見えてきました。「桜が咲いている!」と疲れも吹き飛ぶ嬉しさ。月輪寺に到着し、そこでお迎えしてくれたのは・・・

まずは、鹿さんでした。悠々と草を食んでいます。よく現れるそうで、公式ホームページには「鹿さん」のコーナーも設けられています。

そして、散り際を迎えた山桜と、満開のシャクナゲ、青もみじ。風が吹くたびにはらはらと桜の花びらが散り、風に舞う様子は、幻想的で美しい光景です。先ほどまでの疲れが、一気に癒えていきます。

「ようこそ」 と迎えてくださったのは、ご住職の横田智照さま。御年75歳の尼さんです。

「ちょうどシャクナゲが満開となりました。きれいでしょう? 天然記念物に指定されているんですよ」

例年であればゴールデンウィークに満開を迎えるシャクナゲが、今年は早くも見頃を迎えていました。明智光秀お手植えとも伝わる古木で、「明智シャクナゲ」と呼ばれているそう。

「こちらのしぐれ桜は散り始めてしまいましたが、この桜は毎年4月16日から5月中旬頃まで、葉先より雫の“涙”を流すんですよ」

“涙を流す”しぐれ桜がもの語る、月輪寺の歴史

ご住職が示してくれた先には、桜の葉に滴る雫。

「このしぐれ桜は、このお寺に隠棲された九条兼実公と、法然さま、親鸞さまにゆかりのある桜です。兼実公は法然さまと親鸞さまに深く帰依されていました。この地に隠棲していた兼実公をお二人が訪ねたときに刻んだと伝わる像が、今に伝わっています。

この桜は、親鸞さまが植えたとされています。法然さまが高知へ、親鸞さまが越後へと流刑になるとき、法然さまとの別れを惜しんだ親鸞さまが桜を手植え、離別の悲しみから桜が涙を流すようになった、と伝わっているんですよ」

桜の花や葉に滴る雫は、別れの悲しみを憂い、流す涙に見立てられました。しぐれ桜は現在3代目となるそうですが、これから5月半ばまで、清らかな涙(雫)を見ることができます。

鎌倉山 月輪寺の創建は、大宝4年(704)とも、天応元年(781)とも伝わり、地中から掘り出された宝鏡の背面にあった「人天満月輪」の言葉からその名があるといいます。

兼実公や法然さま、親鸞さまが訪れるよりも以前に、空也上人がこの地を訪ね修行に明け暮れたとされ、お寺には空也上人の像が遺されています。現在はコロナ禍によりあまり開けていないという宝物殿を、拝観させていただきました。

「南無阿弥陀仏」2筋の名号を唱える空也像

※通常、撮影禁止。特別な許可を得て、撮影しています。

※通常、撮影禁止。特別な許可を得て、撮影しています。

山を登ってきて最初に目に入った白い建物が、宝物殿です。殿内に入ると、ご住職が透き通った美しいお声で、月輪寺のご詠歌(浄土宗 法然上人25霊場 第18番札所)を歌ってくださいました。そして、白洲正子さんもお参りされたという伝坂上田村麻呂作・十一面千手観音立像や聖観音立像など平安期の尊像を拝し、いよいよ「空也上人立像」の御前へ。

引き込まれる、かっと見開かれた鋭い眼。鹿皮をまとい、鹿杖を持ち、鉦を叩き念仏を唱える。腰を屈めて、今にも歩き出しそうな生き生きとしたお姿で、薄く開いた口からは2筋の仏さまが現れています。

「この像は、空也上人の自作と伝わっています。小さなお像は“南無阿弥陀仏”の名号を表し、六波羅蜜寺では一筋に6尊が刻まれていますが、月輪寺では2筋の道となっています」

見る人の心を映す、2筋の名号です。

⇒六波羅蜜寺の空也像はこちらから

お寺を守り、仏さまを守る。慈悲の心にあふれたお寺

宝物殿だけでなく、月輪寺にはたくさんの仏さまがおられます。
  • 本堂

    本堂

  • 三祖師堂

    三祖師堂

本堂の阿弥陀如来立像や、本堂奥の五大明王、本堂脇の四天王像、三祖師堂の三像など多くの仏さまがお祀りされ、お厨子などにも手の込んだ彫刻が施されています。

これらの宝物を一人、山深い山中で守るのは並大抵の苦労ではありません。水や食料を運ぶのも一苦労。重要文化財の像を守るため、お風呂を炊く薪も禁止され、困難な生活を強いられる中、ご住職は柔和な笑顔で参詣者を出迎えてくださいます。お寺を守り抜く慈悲の心にもまた、ぜひ触れていただきたいと願います。

しぐれ桜の根元を彩る、山スミレ

しぐれ桜の根元を彩る、山スミレ

愛宕神社にお参りし、無事下山。

横田ご住職にお見送りいただきながら月輪寺を後にし、山道を登って愛宕神社へお参りをし、麓に下りた時には17時間近となっていました。山での時間は思いのほか早く過ぎます。皆さまもお参りに行くときには時間に余裕をもって訪ねてくださいね♪
■月輪寺
【拝観時間】10:00~14:00 ※雨天・強風時・冬季(12~3月中旬積雪のため)参拝不可
【拝観料】500円、宝物館拝観は要電話確認
【電話】075-871-1376
【アクセス】京都バス「清滝」バス停から徒歩約1時間半 Google map
【公式ホームページ】https://tukinowatera76.jimdofree.com/
【公式twitter】https://twitter.com/tukinowatera76
※掲載内容は2022年4月27日時点の情報です。最新情報は掲載先へご確認ください。

Written by. みさご

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