今年(2025)、美術好きなら見逃せない催しといえば、大阪・関西万博を記念した展覧会です。京都でも、万博や日本にちなんだ展示が各所で行われているのですが、なかでも注目は京都国立博物館の大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ—異文化交流の軌跡—」でしょう。4月19日(土)の開幕に先駆けて行われた内覧会より、見どころをレポートします!
※写真は特別な許可を得て撮影しています。
「日本、美のるつぼ」はどんな展覧会?
古くから日本には渡来した文化を受け入れ、独自のものへと昇華する土壌がありました。特別展では、日本という大きな“るつぼ”に海外のエッセンスが加わって生まれた奇跡ともいうべき至宝200件(前期後期あわせて)を展示。絵画、彫刻、書籍、工芸品など、総勢13人の研究員さんがそれぞれの研究成果を発揮した多彩な内容になっています。世界との交流で生まれた日本美術を展示するという切り口は、まさに万博の年ならでは。
ぜひ見てほしい! おすすめの作品(3階の展示室)
ここからは、「そう京」スタッフおすすめの作品をご紹介♪ 京都国立博物館(以下、京博)平成知新館は3階から1階へと進む順路構成で、今回の特別展では3階は「万国博覧会と日本美術」、2階は「東アジアの日本の美術」、1階は「世界と出会う、日本の美術」というテーマで分けられています。
まず、3階では明治期の万博をはじめ、海外で高い評価を受けた作品を紹介。メインビジュアルに採用されている『富嶽三十六景』はその代表例のひとつといえるでしょう。
葛飾北斎はかつて一世を風靡したものの、明治期には十分な評価がなされていなかったといいます。しかし、ゴッホをはじめとする海外の芸術家たちの称賛により、日本でもふたたび脚光を浴びました。現代でも、海外から逆輸入する形で日本の文化が再評価されるケースがありますよね。
『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」、「凱風快晴」、「山下白雨」の三作品が並べて展示され、あらためて葛飾北斎の構図の妙に唸らされます。
※後期は和泉市久保惣記念美術館所蔵の「神奈川沖浪裏」、「凱風快晴」、「山下白雨」が展示されます。
特別展のかわいい代表は『埴輪 鍬を担ぐ男子』です。明治33年(1900)のパリ万博にあわせて出版された『Histoire de l’Art du Japon』(日本美術史)では、埴輪を日本彫刻の起源と紹介しているといいます(現在の研究では見解が異なります)。特別展では自らを「ハニ男(はにお)」と名乗り、文化財の見どころを「るつぼのツボ」という形で教えてくれます。
国宝 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆 江戸時代 京都・建仁寺所蔵 通期展示
『富嶽三十六景』とともにメインビジュアルに登場する雷神が描かれているのは、俵屋宗達筆の国宝『風神雷神図屏風』の左隻。誰もが知る名画ですが、なんとフェノロサが明治17年(1884)に調査するまでは特別注目されるようなことはなかったそうです。現代の私たちの日本美術に対する認識の多くが、明治以降に形作られたものだと展示を通して気付かされます。
新たに国宝、重文指定を受けた文化財!
今回の特別展では、前期後期を通して国宝19件、重要文化財53件が展示されます。そのうち、『伎楽面 酔胡王』の国宝指定、『旭彩山桜文花瓶』の重要文化財指定は、いずれも今年(2025)のこと。新たに日本の至宝に仲間入りした文化財を、忘れずにご覧くださいね。
※『伎楽面 酔胡王』は2階、『旭彩山桜文花瓶』は3階に展示されています。
ぜひ見てほしい! おすすめの作品(2階の展示室)
重要文化財 三彩蔵骨器 和歌山県橋本市名古曽古墓出土 奈良時代 京都国立博物館所蔵 通期展示
「東アジアの日本の美術」をテーマにした2階では、主に中国の影響を受けて作られた日本の美術品が並びます。特に遣隋使や遣唐使がもたらす文化は憧れの的。『三彩蔵骨器』は唐の焼き物「唐三彩」の意匠を取り入れて奈良で作られた「奈良三彩」です。
「唐三彩」が墓の副葬品という限定的な用途であったのに対し、「奈良三彩」は祭事や仏事など幅広く使われたそうです。憧れで終わることなく、アップデートして作ってしまうのが日本流なのですね。
唐物茄子茶入 付藻茄子 中国・南宋~元時代 東京・静嘉堂文庫美術館所蔵 前期展示
貴重な舶来品を“受け継ぐ”というのも、日本らしいポイントです。それがよく分かるのが『唐物茄子茶入 付藻茄子』。なんと、足利義満・義政にはじまり、織田信長、豊臣秀吉と、次々に時の権力者の手に渡ります。極めつけは、大坂夏の陣のエピソード。戦火で粉砕してしまったにも関わらず、徳川家康の命によって破片が拾い集められ、漆塗りの技術をもって見事に復元されました。
いま私たちが何百年も前の至宝を目にできるのは、日本人の物を大切にする精神があってこそ。
※後期は同館所蔵『唐物茄子茶入 松本茄子(紹鷗茄子)』を展示。
※後期は同館所蔵『唐物茄子茶入 松本茄子(紹鷗茄子)』を展示。
ぜひ見てほしい! おすすめの作品(1階の展示室)
十八羅漢坐像のうち羅怙羅尊者像 范道生作 江戸時代 京都・萬福寺所蔵 通期展示
最近の展覧会は写真撮影をできるフォトスポットがあるのが主流です。今回の特別展では、萬福寺の大雄宝殿に祀られている『羅怙羅尊者像(らごらそんじゃぞう)』を撮影できます。お腹に仏の顔が覗く様子にびっくりしてしまいますが、個人的に感動したのは手で引っ張られた皮膚の柔らかな表現です。展示照明によって隅々まで見えるからこそ、新たな発見があるのも特別展の醍醐味。
「世界と出会う、日本の美術」がテーマの1階の展示では、主に貿易によってもたらされた古今東西の舶来品を鑑賞できます。『鳥獣文様綴織陣羽織』はペルシア絨毯を豊臣秀吉が陣羽織に仕立てたもの。派手好きで知られる秀吉がいかにも好みそうなデザインで、周りの人の目を惹きつけたのは想像に難くありません。
楼閣山水蒔絵水注 江戸時代 京都国立博物館所蔵 通期展示
17世紀から18世紀になると、舶来品を輸入して楽しむだけではなく、日本の職人が海外向けに工芸品を作るケースが増えていきます。イスラム圏で使われる金属もしくは磁器製の水注を原型に、中国で銅器や磁器に写された品を、さらに日本で木製の漆塗りに模して作ったのが『楼閣山水蒔絵水注』です。かのマリー・アントワネットも類似品を所有していたそうで、まさに輸出工芸の成功例といえます。「金属に比べると木製で軽いこともマリー・アントワネットが好んだ理由のひとつかも」と想像を巡らせながら、その美しさに見とれてしまいました。
多彩な公式グッズ!
京博の特別展は公式グッズにも力を入れています。特に、『風神雷神図屏風』と『富嶽三十六景』を使用したメインビジュアルのグッズがいっぱい。ノート、クリアファイル、エコバッグなど、豊富な品揃えです。
お土産に買い求めやすいのは、京都北山マールブランシュのお濃茶ラングドシャ「茶の菓」。特別展のオリジナルパッケージで、焼き印は『富嶽三十六景』にあやかって富士山になっているのです! 縁起の良いモチーフは、プレゼントにもぴったり。
ハニ男くんグッズは、笑みがこぼれてしまう可愛さ。小さなミニマスコットのほかに、思わず抱きしめたくなるようなビッグサイズのぬいぐるみもあります。
「秀吉が憧れ!」という人には、『鳥獣文様綴織陣羽織』の総柄シャツをいかがでしょう。カジュアルに着こなせば、思いのほかオシャレにまとまるかも♪
「秀吉が憧れ!」という人には、『鳥獣文様綴織陣羽織』の総柄シャツをいかがでしょう。カジュアルに着こなせば、思いのほかオシャレにまとまるかも♪
■京都国立博物館 大阪・関西万博開催記念 特別展「日本、美のるつぼ—異文化交流の軌跡—」
【日程】2025年4月19日(土)~6 月15日(日)
前期:4月19日(土)~5月18日(日)
後期:5月20日(火)~6月15日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替えを行います
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替えを行います
9:00~17:30(受付終了17:00)※金曜日は~20:00(受付終了19:30)
【休館日】月曜日、5月7日(水) ※但し、5月5日(月・祝)は開館
【場所】京都国立博物館 平成知新館 詳細情報はこちら
【料金】一般2,000円ほか
【問合せ】075-525-2473(テレホンサービス)
【展覧会ホームページ】https://rutsubo2025.jp
【展覧会Instagram】https://www.instagram.com/rutsubo2025
京博と同一会期! 奈良国立博物館
ここからは、大阪・関西万博を記念して京博と同一会期で行われる奈良国立博物館(以下、奈良博)の特別展をご紹介しましょう! 今回は開館130年を迎えた奈良博が総力を挙げて開催する初の大規模な国宝展とあって大いに注目を集めています。
特別展「超 国宝—祈りのかがやき—」と題し、奈良博が開館より研究に力を入れてきた仏教美術、神道美術の至宝が勢揃いします。前期後期あわせて国宝112件、重文16件を含む総数143件は、これまでの展示で最大規模。まさに“超”といっても過言ではないラインアップです。
歴史や文化の流れを知るうえでも、京都好きも、ぜひとも押さえておきたい特別展です。
「教科書で見た!」というような文化財が目白押しですが、なかでも見応えのある展示は仏像。ケースの有無に関わらず、ぐるりと360度鑑賞できるものが多いのです!
特別展の入口に展示されている法隆寺の『百済観音』は圧巻。後ろへ回ると、肩から背中にかけてのプロポーションの美しさが際立って感じられます。
京都 大原野にある宝菩提院願徳寺のご本尊『菩薩半跏像』も全方向から鑑賞できます。右足をおろした半跏のスタイルで、お寺では如意輪観音像と呼ばれています。
何もない真っ白な空間で、ただ仏像の美しさだけに向き合えるなんて極上の展示スタイル。流麗な衣の表現、台座を支える愛らしい四天王など、見る角度や視線の高さを変えるたびに発見があります。
国宝 薬師如来坐像 平安時代 奈良国立博物館所蔵 通期展示
最後にもうひとつ、京都ファンに見てほしい仏像をご紹介します。
日本には東京、京都、奈良、九州に国立博物館があるのですが、国宝の仏像を有するのは奈良博だけ。その唯一のものが『薬師如来坐像』です。もとは京都の熊野若王子神社に伝わり、驚くことに、衣や耳の形から、東寺の講堂に祀られる立体曼荼羅の仏像と同じ工房で作られたと推察されています。仏像の姿、形だけでなく、ルーツも興味深い仏様です。
ぜひ、京都と奈良、それぞれで日本の至宝をご覧になってくださいね。
■奈良国立博物館 開館130年記念特別展「超 国宝—祈りのかがやき—」
【日程】2025年4月19日(土)~6 月15日(日)
前期:4月19日(土)~5月18日(日)
後期:5月20日(火)~6月15日(日)
※会期中、一部の作品は展示替えを行います
※会期中、一部の作品は展示替えを行います
9:30~17:00(受付終了16:30)
【休館日】月曜日、5月7日(水) ※但し、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
【場所】奈良国立博物館 東・西新館 Google map
【料金】一般2,200円ほか
【問合せ】050-5542-8600(ハローダイヤル)
【展覧会ホームページ】https://oh-kokuho2025.jp
※掲載内容は2025年4月28日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。