寒さ厳しい京都の冬に、ひとあし早く春を告げる”梅の花”。凛とした空気のなか、馥郁(ふくいく)たる香りをただよわせて咲き誇る可愛らしい花を見ると、ほっと心が和みます。ひとくちに梅と言っても、白梅から紅梅、しだれ梅など種類が多く、開花時期も様々。京都各地の梅の名所とともに、あわせて楽しみたい梅コラムをお届けします。お気に入りの風景をみつけに出かけませんか。
梅と楽しみたい 京都の「文学」
古くは花見といえば、梅でした。奈良時代に中国より伝わり、『万葉集』では、桜より梅の和歌が多く詠まれています。元号「令和」が『万葉集』の梅の和歌から引用されたことは、記憶に新しい話題ですよね。梅特有の美しさは古来、和歌に詠まれ、絵に描かれ、魅了された人々の思いが現代に伝わります。
北野天満宮
平安時代の文人・菅原道真公は、梅をこよなく愛したという人物。大宰府へ旅立つ際、自邸の梅に寄せて和歌を詠んだところ、梅の木が京都から太宰府へ飛んでいったという「飛梅伝説」は有名です。そのはじまりと伝わるのが、菅原道真公を御祭神に祀る北野天満宮御本殿前の御神木。創建以来、接木(つぎき)により種を絶やさぬよう大切に守り継がれています。
下鴨神社
御手洗川に架かる輪橋(そりばし)のたもとに咲く紅梅は、通称「光琳の梅」。江戸時代の絵師・尾形光琳は、この梅をモデルに代表作「紅白梅図屏風」(国宝)を描いたとされます。たった1本の古木ながら、たくさんの花をつけ、華やかに咲き誇る様子は見事。朱塗りの鳥居や社殿があわさり、まさに“絵になる風景”が楽しめます。
青谷梅林
京都府内最大級の梅林として名を馳せる、城陽市の青谷梅林。後醍醐天皇の皇子・宗良親王が「風かよふ 綴喜の里の 梅が香を 空にへだつる 中垣ぞなき」と詠んだことから、鎌倉時代末期には“梅の里”であったことが伺えます。明治以降、紀行文などに登場し、その名は全国区に。見頃を迎えると、一帯が宗良親王の和歌のように梅の香りに包まれます。
梅と楽しみたい 京都の「お祭り」
梅の名所では、見頃にあわせてお祭りなどのイベントが行われるスポットもあります。観梅はもちろん、お茶席や踊りを楽しむことで、より思いで深い1日となることでしょう。北野天満宮では、めずらしい梅のライトアップを開催。幻想的な夜も見逃せません。
梅花祭/北野天満宮
御祭神・菅原道真公を偲び、祥月命日の2月25日に行われる「梅花祭」。900年以上の歴史を誇り、北野天満宮を代表する行事です。境内では豊臣秀吉公が催した「北野大茶湯」にちなみ、上七軒の芸妓さん舞妓さんによる野点(のだて)茶席が設けられます。梅苑の梅が次々に花開く頃、芳しい香りに包まれ、華やかなひとときを過ごせます。
しだれ梅と椿まつり/城南宮
「しだれ梅と椿まつり」は圧巻の風景が広がることから、近年、SNSで話題に。神楽殿では期間中毎日、梅の花を冠にさした巫女さんが「梅が枝神楽」を舞い、美容健康と招福を祈願した「梅の花守り」を授かる方はお一人ずつ巫女さんに神楽鈴でお祓いをしていただけます。特別御朱印の授与や植木市の出店、名物「椿餅」の限定販売も。
はねず踊り/隨心院
隨心院では、お寺ゆかりの小野小町が愛した“はねず梅”にちなみ「はねず踊り」が行われます。そのテーマは、小町と深草少将の恋物語。地元の子供たちが着物をまとい、わらべ唄にあわせて踊る様子は愛らしく、和やかな雰囲気です。「はねず踊り」の一場面も描かれた、堂内の襖絵「極彩色梅匂小町絵図」もあわせて楽しんで。
梅と楽しみたい 京都の「食」
歴史ある京都の代表的な“食”に、和菓子やお酒が挙げられます。梅が開花に先駆けて、和菓子屋では梅をテーマに職人さんが考えた生菓子が店頭に並びます。お酒といえば日本酒ですが、京都には梅酒を醸造する酒蔵も。和菓子やお酒を味わいながら“梅”に思いを馳せてみませんか。
※生菓子の写真はイメージです。
梅✖︎和菓子
亀屋良長
享和3年(1803)創業、この地に湧き出る名水「醒ヶ井水」で京菓子づくりを行う亀屋良長。梅を象った干菓子の小箱「暦(寒紅梅)」が可愛らしく、おみやげに喜ばれそう。様々な梅の様子をとらえた、季節の生菓子も並びます。
老松
京情緒あふれる花街・上七軒に暖簾を掲げる老松。北野天満宮のほど近くにあり、この時季の店内は梅づくし。生菓子はもちろん、北野天満宮の梅苑でも提供される麩焼せんべいと梅茶、「寒紅餅」など、お気に入りをみつけて、持ち帰りましょう。
鶴屋吉信
220年以上の歴史を誇る、西陣の老舗和菓子店。本店2階の菓遊茶屋では“カウンター割烹”さながらに、職人さんによる生菓子の実演を楽しみ、できたてを味わえます。内容は季節で異なり、例年1月から2月は梅の生菓子が登場予定。
梅✖︎お酒
松井酒造
比叡山から流れ出た地下水を使い、鴨川のほとりで酒造りを行う松井酒造。2023年末、リキュールの神蔵「蜜號(みつごう)」から梅酒を新発売。肉厚の梅を代表銘柄「神蔵」で漬け込み、甘すぎず爽やかな梅酒が誕生しました。
城陽酒造
京都府南部唯一の酒蔵。地元・青谷で育まれた、肉厚で香り豊かな「城州白」で漬け込んだ梅酒が人気です。3年以上の熟成にこだわり、色合いやアルコール、梅の調和が見事な味わいが自慢。お酒が苦手な方は、ジュース、サイダーをどうぞ。
山本本家
京の酒処・伏見で、名水「白菊水」を仕込み水に約350年酒造りを続ける老舗酒蔵。「梅想い」は、青谷の梅を使い“梅酒本来の旨味”を目指して作られたお酒。まろやかな味わいが特長で、後味はスッキリ。梅の香りのなか、ほのかに日本酒を感じます。