知ると楽しい! 京都の庭園鑑賞

長い歴史に紡がれてきた京都には、数多くの庭園があります。時代ごとに趣向を凝らした庭園が造られ、歩きながら変化する風景を眺めたり、建物の縁側に座りじっくり眺めたり、楽しみ方は様々。春は桜、秋は紅葉といった“彩り”に注目しがちですが、見方やポイントを知っていると、一年を通して庭園鑑賞がもっと楽しいものになるはず。今回はお庭のプロに京都の庭園鑑賞の楽しみ方を伺い、おすすめの庭園をご紹介します。ぜひ、四季折々の京都の庭園に訪ねてみてください。


京都の庭園の“いま”

三方を山に囲まれ、大小様々な河川や水路が流れる、山紫水明の都、京都。古くから貴族や武士、僧らによって、様々な庭園が造られてきました。池を中心とした「池泉庭園」にはじまり、石組や白砂で山水を表現した「枯山水庭園」、茶室へと向かう空間に造られた「露地庭園」など、時代とともに庭園の造りも多様化。心が癒され、教えや感動を得るのは今も昔も変わりません。京都には「国の特別名勝」も多く、社寺や城、離宮、旧邸など歴史あるスポットで、その風景が大切に守り継がれています。
(写真:智積院)


お庭のプロに聞く、京都の庭園の楽しみ方

さぁ、京都の庭園にやってきました。でも「どのように楽しめば良いのだろう・・・」と感じる方も多いことでしょう。そんな疑問にお答えすべく、嘉永元年(1848)に南禅寺の御用庭師として創業して以来、寺院や別荘、ホテルなど数多くの庭園管理に携わる植彌加藤造園の代表取締役社長 加藤友規さんにお話をお伺いしました。庭園の見方やポイントはもちろん、京都の庭園と町との関係まで、多岐にわたる内容で、京都旅がもっと楽しくなりそうです。

“視点場”をみつける

どの庭園にも、眺めるのに心地良いと感じる場所“視点場”があります。明確に分かりやすく定められているわけではなく、色々な角度から眺めて自分にとっての“ベスト視点場”をみつけてみましょう。なかには園路に、他より目立つ石や逸れた道など、立ち止まりたくなるようなポイントを設けている場合も。これは「ここから眺めてほしい」という作庭者のメッセージかもしれません。立ち止まってみると、素敵な風景が待ち受けていることでしょう。
(写真:無鄰菴)

視点場の先には“視対象”が

視点場の先に広がるのは、作庭者の見せ場となる風景(視対象)。池や滝をはじめ、石組や灯籠、茶室や橋といった建築などと、植栽をあわせた美しい眺望空間です。歩きながら楽しむ回遊式庭園には、いくつもの視点場と視対象があります。東本願寺の飛地境内地・渉成園では園路に沿って様々な建築が建ち、庭園の風景の一部に欠かせない存在です。個性的な建築にも注目してみてください。
(写真:渉成園[枳穀邸])

京都ならではの“借景”を楽しむ

庭園を構成するものは、園内だけにとどまりません。答えは、その外側。背後にある山や木々を風景の一部として借りる“借景”です。特に京都は山に囲まれていることから、借景を取り入れやすい環境にありました。

天龍寺の「曹源池庭園」は嵐山と亀山を借景にし、より壮大な庭園に。清水寺の塔頭、成就院の「月の庭」は中央に灯籠を置くことで、借景の高台寺山と庭園を一体化させ、広々とした印象をもたらしています。借景があるとないとでは、庭園の印象も異なります。その魅力を感じてみましょう。
(写真:天龍寺)

景観が守られた京都の町

京都の「借景庭園」といえば、洛北の圓通寺が挙げられます。御幸御殿は座ったときの目線の高さが比叡山となるように建てられ、まさに“比叡山を楽しむための庭園”といえるでしょう。時代とともに借景の変化が心配になりますが、実は京都市の眺望景観創生条例によって御幸御殿から比叡山を望む空間に、景観を損なう高層建築が建つことがないよう定められています。他にも条例によって眺望が保全されるエリア・スポットが多くあり、京都は町全体で景観を守っているのです。
(写真:圓通寺)

京都の町づくりのルーツは“庭園”にあり!? 

京都市の眺望景観創生条例は視点場と視対象に基づき定められ、例えば夏の風物詩「五山送り火」で知られる大文字山は「大」が視対象となり、賀茂川右岸(視点場)からの眺めが守られています。一方で、庭園は古くから視点場と視対象を大切に造られてきましたから、京都の町づくりの考え方のルーツは、庭園にあるといえるでしょう。

そもそも京都に平安京が築かれたのは「四神相応の地」ということに由来しますが、“山があり、水の流れがある”という町自体が大きく言うと庭園なのです。社寺などの庭園に訪れたら、守り継がれる町の眺望にも目を向けると、より深く京都が楽しめるのではないでしょうか。
(写真:賀茂川右岸から眺める大文字山)


深掘り! 「無鄰菴庭園」で鑑賞ポイント解説

南禅寺界隈にたたずむ別荘「無鄰菴」には、元老・山縣有朋の指示に基づき、七代目小川治兵衛により作庭された庭園(国指定名勝)があります。植彌加藤造園が管理に携わる庭園のひとつで、植栽を活かしつつ未来へと育まれています。お話の後には、無鄰菴庭園を舞台に鑑賞ポイントを解説いただきました。

①東山の視点場

園路に並ぶ飛石のなかで、ひときわ目立つ丸い石。ここが、東山を借景にした庭園を望む視点場です。東山が美しく見えるよう外縁の樹木を剪定。庭園中央には主張しない平たい大石を据えることで、東山の存在感のある空間となっています。

②三段の滝の視点場

園路から少し横道に逸れてみましょう。母屋前からは隠れていた三段の滝が池の奥の方に現れました。滝の手前のモミジは、「飛泉障り(ひせんさわり)」という庭園の空間作りのひとつ。モミジをかぶせることで、奥行きを出しています。

③醍醐の大石

樹木の間に、立派な石が見えます。豊臣秀吉が醍醐の山中から切り出させたものの、持ち運ぶことをあきらめたという石で、山縣有朋は24頭もの牛に牽かせて無鄰菴に運ばせました。まさに山縣有朋自慢の巨石です。

④三段の滝

三段の滝は、豊臣秀吉が設計に携わったという醍醐寺の「三宝院庭園」の滝を模して作られたと考えられています。周りのシダは山縣有朋の指示に基づき植えられたもの。琵琶湖疏水から引き入れた水が流れ落ち、心地良い水音を響かせながら園内の小川をめぐります。

⑤矢跡の石

石の真ん中あたりに点線状に並ぶ穴が。これは石工さんが山から石を切り出す時に矢を打ち込んだ跡で、山縣有朋はこの跡に魅力を感じ、庭園に置いたそうです。何気ない石でも、興味深い逸話が隠れているかもしれません。思いを巡らせじっくり見てみましょう。

⑥比叡山の視点場

山縣有朋は茶室から比叡山の眺望を楽しんだと伝わりますが、現在は成長した樹木で遮られています。そこで、茶室付近の園路から望めるよう樹木を剪定。木々の間から比叡山が見えるようになりました。ここは、いわば比叡山を楽しむ“平成・令和の視点場”です。

南禅寺界隈の近代日本庭園

「無鄰菴」の見どころガイド

南禅寺界隈には琵琶湖疏水の水を引き入れた“南禅寺界隈別荘庭園群”があり、その先駆けとして明治29年(1896)に造営されたのが「無鄰菴」です。非公開の多い別荘庭園群のなかでも通年公開されていて、気軽に訪れることができます。スタッフブログでは、庭園はもちろん、歴史やイベントなど、無鄰菴についてたっぷりご紹介していますので、ぜひご覧ください。

>>スタッフブログはこちら


おすすめの庭園スポット

京都市内に点在するおすすめの庭園を「回遊式」と「鑑賞式」にわけてご紹介。すべて国の名勝に指定される趣向を凝らした庭園です。ぜひ、訪ねてみてください。

のんびり歩いて楽しむ「回遊式庭園」

園路を歩きながら鑑賞するのが「回遊式庭園」。なかでも池を中心に巡る庭園を「池泉回遊式庭園」と呼びます。園路には茶室や橋、石組など様々な見どころもあり、歩くほどに変化する風景を楽しめるのが魅力です。

天龍寺

約700年前の夢窓疎石作庭当時の面影を今に伝えることから、日本最初の史跡・特別名勝に指定された「曹源池庭園」。嵐山と亀山を借景に取り入れ、四季折々に壮大な風景を作り上げています。特に秋は、池にリフレクションする紅葉が息を呑む美しさ。池越しに眺める、滝石組にもご注目を。方丈内から鑑賞すると位置が高くなり、また違う見え方が楽しめます。

スポット情報

南禅寺 南禅院

亀山法皇の離宮であった南禅院。亀山法皇自らの作庭とも伝わる池泉回遊式庭園は、京都の三名勝史跡庭園のひとつ。池は深い緑に包まれ、歩き始めると、森に入り込んだような気分です。庭園の奥からは、方丈に楓、池が調和した風景が見事。滝石組より流れ落ちる水音が絶えず響きわたり、心地良い庭園鑑賞のひとときにしてくれます。

スポット情報

渉成園[枳穀邸]

東本願寺の飛地境内地。徳川家の家臣を辞した石川丈山が作庭したと伝わる庭園は、印月池をはじめ、個性的な建築物が見どころ。その風景は江戸時代に歴史家・頼山陽によって「渉成園十三景」に選定されています。ガイドブック(※)を手に、歩きながら風景をチェックしてみて。京都駅近くに位置し、気軽に庭園鑑賞を楽しみたい方におすすめです。
※入園時に庭園維持寄付金をお納めするとガイドブックが贈呈されます。

スポット情報


建物からじっくり眺める「鑑賞式庭園」

「鑑賞式庭園」は、建物から楽しむことを目的に造られた庭園です。同じ建物でも室内や縁側などいろいろな場所から眺めると見え方も変わります。じっくり腰掛けてお気に入りの場所をみつけてみましょう。

圓通寺

比叡山が美しく見える場所を求め、後水尾天皇によって造営された離宮跡。借景庭園で知られ、御幸御殿に座ると、視線の先には造営時と変わらぬ雄大な比叡山がそびえます。訪れる時間帯や座る位置によって比叡山の見え方も異なり、様々に楽しんでみましょう。京都市中心部から離れた場所にあり、時間を忘れて、ゆっくり眺めていたい庭園です。

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智積院

桃山時代、大書院から楽しむために造られた庭園は、中国の廬山を象ったという正面の大きな築山が特徴。傾斜に石やツツジ・サツキなどの植え込みを配し、見頃の時季には華やかな風景が広がります。池は大書院の下に入り込み、縁側に座ると、まるで船から庭園を眺めているような気分。室内奥に座ると池は隠れ、また違った印象になります。

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龍安寺

龍安寺の石庭は世界的にも知られ、一度は訪ねてみたい庭園です。敷き詰められた白砂と15個の石というシンプルな構成ですが、全ての石を一度に見られる場所はないといいます。作者、作庭意図・年代はいずれも不明。謎に包まれた庭園だからこそ、楽しみ方は自由に。あなた好みの場所から、お気に入りの石の配置をみつけるのも良いかも。

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京都の庭園鑑賞マップ


京都の町で、お気に入りの視点場をみつけよう!

いくつもの視点場と視対象が定められた、京都市の眺望景観創生条例。美しい眺望空間が損なわれないよう、建築物の高さや意匠、色彩などに基準が設けられています。社寺の境内や山並み、水辺など、京都旅であたり前のように感じる眺めは、町づくりにおいて大切に守り継がれているからこそ楽しめるものです。庭園鑑賞とあわせて、お気に入りの町の視点場をみつけてみませんか。
(写真:桂川左岸(渡月橋付近)から眺める嵐山)

※写真はイメージです。
※掲載内容は2023年6月22日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。