長い歴史に紡がれてきた京都には、数多くの庭園があります。時代ごとに趣向を凝らした庭園が造られ、歩きながら変化する風景を眺めたり、建物の縁側に座りじっくり眺めたり、楽しみ方は様々。春は桜、秋は紅葉といった“彩り”に注目しがちですが、見方やポイントを知っていると、一年を通して庭園鑑賞がもっと楽しいものになるはず。今回はお庭のプロに京都の庭園鑑賞の楽しみ方を伺い、おすすめの庭園をご紹介します。ぜひ、四季折々の京都の庭園に訪ねてみてください。
京都の庭園の“いま”
お庭のプロに聞く、京都の庭園の楽しみ方
深掘り! 「無鄰菴庭園」で鑑賞ポイント解説
南禅寺界隈にたたずむ別荘「無鄰菴」には、元老・山縣有朋の指示に基づき、七代目小川治兵衛により作庭された庭園(国指定名勝)があります。植彌加藤造園が管理に携わる庭園のひとつで、植栽を活かしつつ未来へと育まれています。お話の後には、無鄰菴庭園を舞台に鑑賞ポイントを解説いただきました。
①東山の視点場
園路に並ぶ飛石のなかで、ひときわ目立つ丸い石。ここが、東山を借景にした庭園を望む視点場です。東山が美しく見えるよう外縁の樹木を剪定。庭園中央には主張しない平たい大石を据えることで、東山の存在感のある空間となっています。
②三段の滝の視点場
園路から少し横道に逸れてみましょう。母屋前からは隠れていた三段の滝が池の奥の方に現れました。滝の手前のモミジは、「飛泉障り(ひせんさわり)」という庭園の空間作りのひとつ。モミジをかぶせることで、奥行きを出しています。
③醍醐の大石
樹木の間に、立派な石が見えます。豊臣秀吉が醍醐の山中から切り出させたものの、持ち運ぶことをあきらめたという石で、山縣有朋は24頭もの牛に牽かせて無鄰菴に運ばせました。まさに山縣有朋自慢の巨石です。
④三段の滝
三段の滝は、豊臣秀吉が設計に携わったという醍醐寺の「三宝院庭園」の滝を模して作られたと考えられています。周りのシダは山縣有朋の指示に基づき植えられたもの。琵琶湖疏水から引き入れた水が流れ落ち、心地良い水音を響かせながら園内の小川をめぐります。
⑤矢跡の石
石の真ん中あたりに点線状に並ぶ穴が。これは石工さんが山から石を切り出す時に矢を打ち込んだ跡で、山縣有朋はこの跡に魅力を感じ、庭園に置いたそうです。何気ない石でも、興味深い逸話が隠れているかもしれません。思いを巡らせじっくり見てみましょう。
⑥比叡山の視点場
山縣有朋は茶室から比叡山の眺望を楽しんだと伝わりますが、現在は成長した樹木で遮られています。そこで、茶室付近の園路から望めるよう樹木を剪定。木々の間から比叡山が見えるようになりました。ここは、いわば比叡山を楽しむ“平成・令和の視点場”です。
おすすめの庭園スポット
京都市内に点在するおすすめの庭園を「回遊式」と「鑑賞式」にわけてご紹介。すべて国の名勝に指定される趣向を凝らした庭園です。ぜひ、訪ねてみてください。
のんびり歩いて楽しむ「回遊式庭園」
園路を歩きながら鑑賞するのが「回遊式庭園」。なかでも池を中心に巡る庭園を「池泉回遊式庭園」と呼びます。園路には茶室や橋、石組など様々な見どころもあり、歩くほどに変化する風景を楽しめるのが魅力です。
天龍寺
約700年前の夢窓疎石作庭当時の面影を今に伝えることから、日本最初の史跡・特別名勝に指定された「曹源池庭園」。嵐山と亀山を借景に取り入れ、四季折々に壮大な風景を作り上げています。特に秋は、池にリフレクションする紅葉が息を呑む美しさ。池越しに眺める、滝石組にもご注目を。方丈内から鑑賞すると位置が高くなり、また違う見え方が楽しめます。
南禅寺 南禅院
亀山法皇の離宮であった南禅院。亀山法皇自らの作庭とも伝わる池泉回遊式庭園は、京都の三名勝史跡庭園のひとつ。池は深い緑に包まれ、歩き始めると、森に入り込んだような気分です。庭園の奥からは、方丈に楓、池が調和した風景が見事。滝石組より流れ落ちる水音が絶えず響きわたり、心地良い庭園鑑賞のひとときにしてくれます。
渉成園[枳穀邸]
東本願寺の飛地境内地。徳川家の家臣を辞した石川丈山が作庭したと伝わる庭園は、印月池をはじめ、個性的な建築物が見どころ。その風景は江戸時代に歴史家・頼山陽によって「渉成園十三景」に選定されています。ガイドブック(※)を手に、歩きながら風景をチェックしてみて。京都駅近くに位置し、気軽に庭園鑑賞を楽しみたい方におすすめです。
※入園時に庭園維持寄付金をお納めするとガイドブックが贈呈されます。
建物からじっくり眺める「鑑賞式庭園」
「鑑賞式庭園」は、建物から楽しむことを目的に造られた庭園です。同じ建物でも室内や縁側などいろいろな場所から眺めると見え方も変わります。じっくり腰掛けてお気に入りの場所をみつけてみましょう。
圓通寺
比叡山が美しく見える場所を求め、後水尾天皇によって造営された離宮跡。借景庭園で知られ、御幸御殿に座ると、視線の先には造営時と変わらぬ雄大な比叡山がそびえます。訪れる時間帯や座る位置によって比叡山の見え方も異なり、様々に楽しんでみましょう。京都市中心部から離れた場所にあり、時間を忘れて、ゆっくり眺めていたい庭園です。
智積院
桃山時代、大書院から楽しむために造られた庭園は、中国の廬山を象ったという正面の大きな築山が特徴。傾斜に石やツツジ・サツキなどの植え込みを配し、見頃の時季には華やかな風景が広がります。池は大書院の下に入り込み、縁側に座ると、まるで船から庭園を眺めているような気分。室内奥に座ると池は隠れ、また違った印象になります。
龍安寺
龍安寺の石庭は世界的にも知られ、一度は訪ねてみたい庭園です。敷き詰められた白砂と15個の石というシンプルな構成ですが、全ての石を一度に見られる場所はないといいます。作者、作庭意図・年代はいずれも不明。謎に包まれた庭園だからこそ、楽しみ方は自由に。あなた好みの場所から、お気に入りの石の配置をみつけるのも良いかも。
京都の庭園鑑賞マップ
京都の町で、お気に入りの視点場をみつけよう!
※写真はイメージです。
※掲載内容は2023年6月22日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。