五感で感じる京都の涼

酷暑で知られる京都の夏。この暑さを少しでも和らげようと、古くから京都に暮らす人々は、さまざまな工夫を取り入れてきました。川に床を設えた夏の風物詩「川床」も、その工夫から誕生したもの。そんな知恵の結晶ともいえる京道具や、現代のライフスタイルに合わせた新たな涼アイテムをご紹介します。京都ならではの五感で感じる涼を、暮らしに取り入れてみてはいかがでしょう。


涼を感じる京道具

三方を山に囲まれた盆地の京都は、古くから、うだるような暑さに悩まされてきました。京町家の暮らしにおいて、夏の室礼(しつらい)への衣替えは大切な行事。障子は風通しの良い簀戸(すど)や簾(すだれ)に、畳にはひんやりとした網代(あじろ)を敷くなど、見た目や触感からも涼を取り入れてきました。そんな涼の感じ方への工夫は、京道具にも生きています。先人の知恵がつまった涼アイテムをご紹介します。

京うちわ

「京うちわは扇ぐだけではありません。お部屋に飾って目からも涼を感じることができます。エアコンからの冷風も良いですが、デザインで“心”から涼を感じる風も良いものですよ」と教えてくださったのは、京うちわの老舗・阿以波(あいば)の饗庭さん。

今では、涼を取る代表的な道具のうちわですが、「御所うちわ」の流れを汲む京うちわは、優美な絵が施され、見て楽しむものでもありました。面と柄を組み合わせる挿柄構造で、骨組が強く、良い風を起こしてくれます。戦後登場した「透かしうちわ」は、“見て楽しむ”という原点に立つ京うちわ。職人技ともいえる美しい骨組に繊細な切り絵細工が施され、何とも涼しげです。阿以波の京うちわは購入の際、お香が添えられており、その移香(うつりが)も嬉しいもの。ほのかに香る風に、目で楽しむデザイン。まさに心で涼を感じられる京うちわです。

京扇子

扇子発祥の地といわれる京都で、1000年以上の歴史をもつ京扇子。1本仕上げるのに88もの工程があり、現在も職人さんが分業で作られています。昔と変わらぬ扇の形ですが、その素材やデザインに変化があるそう。

「京扇子を手にして、いちばん目にとまるのが扇面。昔は紙が主流でしたが、透け感や刺繍を施したり、さまざまな素材を取り入れた京扇子が登場しています。夏着物に使われる西陣織の『紗』でできた京扇子は、見た目も涼しげです。もちろん、夏らしい図柄で涼を感じるのも良いですね」と話すのは、京扇子の老舗・白竹堂の笹山さん。

コンパクトになる京扇子はいわば、持ち歩く涼道具。最近はお食事時の飛沫予防にも役立つとされ、一年を通しての必須アイテムとも言えそうです。

お香

暑い夏の暮らしのなかで、ふわり漂う香りは、ほっと心を和ませてくれます。お香といっても、お線香や匂い袋、練香など、形や用途はさまざま。平安時代は貴族が香りを部屋や衣服に移す「移香」を楽しみ、江戸時代にはお線香の製造技術が中国から伝わり、庶民のあいだにもお香が浸透していきました。そして現在、おうちでのリラックスタイムに、お香を楽しむ方が増えているそう。

「お香といえば“和”をイメージされる方が多いかと思いますが、お花やフルーツなどをイメージしたさまざまな香りもあります。夏は爽やかな香りを選び、涼を演出するのがおすすめ。香皿や香立も季節に合わせ、透明感のあるガラス素材を選ぶと、一層涼やかな気分を楽しめますよ」と、香老舗 松栄堂の寺本さんは話します。古くから育まれてきた香りの文化。お気に入りの夏の香りをみつけてみてはいかがでしょう。
※写真の香炉・香皿は、松栄堂の参考商品です。

風鈴

音で涼を感じるといえば、風鈴。軒先からの涼やかな風の合図の音は、暑さを和らげてくれます。そんな夏の定番道具のルーツは、邪気を払うため、お寺に吊された青銅製の風鐸(ふうたく)なのだそう。江戸時代以降、涼を感じる道具として広まり、ガラスや陶器製などが登場していきました。

京都には神社仏閣の多い街ならではの風鈴があります。それが老舗おりん工房・南條工房のブランド「LinNe」の「Ren」。仏具のおりんが、風鈴になりました。
「佐波理おりんの音を身近に感じてもらいたいと、作り上げたもののひとつが、風鈴タイプの『Ren』です。他の風鈴とは異なる、澄み切った音で心地良い気分になってほしいですね」と南條さんは話します。お馴染みの仏具・おりんと、仏具をルーツとする風鈴。その音色は涼を感じるとともに、邪気も払ってくれそうです。



涼を感じる京道具のお店

京都にある京道具のお店を紹介。足を運んで、手にとって、お気に入りの1点を探しに行ってみてはいかがでしょうか。

京うちわ 阿以波

元禄2年(1689)創業。現在も自社工房で、ひとつひとつ手作業で京うちわ作りに取り組まれています。繊細な切り絵細工の「透かしうちわ」は、夏のインテリアや贈り物としても人気。飾り用の「両透」、実用性を兼ね備えた「片透」があります。朝顔や蛍などのモチーフからも、夏を感じてみましょう。

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白竹堂

創業300年を超える、京扇子の老舗。屋号は、京都画壇の巨匠・富岡鉄斎より賜ったものと伝わります。店内には、伝統的な京扇子から現代の暮らしに寄り添うものまで、さまざまな扇子が勢揃い。最近では飛沫予防に役立つ、小ぶりな「お口元扇子」が注目を集めているそうです。

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松栄堂

創業300余年、12代目に至る今日まで一貫して香づくりに励んでいます。人気の「Xiang Do(シァン ドゥ)」シリーズから、夏におすすめの香りはマリン・ロータス・フォレストの3種。ライトブルーの香皿に貝をモチーフにした香立を使えば、より夏気分に。香りはぜひお店で、お試しを。

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薫玉堂

西本願寺前に位置する、文禄3年(1594)創業の香老舗。京都の情景をイメージしたお香のシリーズがあり、夏のおすすめは「音羽の滝」。清水さんの滝つぼに流れ落ちる、音羽山の湧き水をイメージした涼やかな香りで、線香と匂袋をご用意。お好みのタイプをお選びください。

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南條工房

創業約190年、鳴物神仏具を専門に製造する老舗工房。佐波理おりんの音を気軽に楽しめるブランド「LinNe」から、2020年に誕生したのが「Ren」。風鈴の形になっていて、風を受けると、佐波理おりん特有の澄んだ音色が響き渡ります。紐は宇治の老舗・昇苑くみひも製。

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TOKINOHA

毎日の食卓、器を変えるだけで、グンと涼しげになります。清水焼ブランド「TOKINOHA」では、さまざまな“涼を感じる器”がラインアップ。マットな質感の「copper」シリーズは、光に当たると煌めく青色の釉薬が使われ、味わい深い“青”に夏らしさを感じます。

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清課堂

天保9年(1838)創業、現存する錫(すず)工房で日本最古といわれる清課堂。暑い日にはビールや冷酒が飲みたくなりますが、酒器には“錫”がぴったり。錫の特性上、冷たいまま味わうことができ、錫の香りがお酒の旨味を引き立ててくれるそう。上品な見た目もポイントです。

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永楽屋細辻伊兵衛商店

伝統的な布製品、手ぬぐい。吸水性・速乾性に優れ、夏は手ふきに汗止め、日除けアイテムとして大活躍。嵩張らず、持ち歩きにも便利です。永楽屋細辻伊兵衛商店ならデザインが豊富で、きっとお気に入りの一枚がみつかるはず。室内に飾り、夏のインテリアとしてもおすすめです。

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PONTE

京都・八瀬に工房を構える、ガラス作家・佐藤聡さんのショップ。グラスやお皿、花器は、どれも“宙吹き”という技で作られる一点モノです。夏のおすすめは、レースのような透かし模様の「レースガラス」シリーズ。見つめるだけで、涼をもたらしてくれそうです。

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進化する涼アイテム

歴史あるものと新しいものがあふれる京都。古くからの伝統を大切に、現在のライフスタイルにマッチした京道具も登場しています。どれも目を引くすてきなアイテムです。

大西常商店

ルームフレグランス「かざ」

扇子は涼風と香りをあわせて楽しむものが多く、竹を加工した扇骨は保香性が高いそう。その特徴に着目した京扇子の専門店・大西常商店が、2018年に考案されたのがルームフレグランス「かざ」。清水焼の器に香料を入れると、涼しげな透かし彫りの扇から香りがふわりと漂います。和を感じる3種の香料があり、夏は、朝のお寺をイメージしたすっきりとした「白檀」がぴったり。長年、京扇子と向き合ってきたお店ならではのインテリアグッズです。

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山本仁商店

KYOTO BLUE

京都には鴨川や白川など涼を感じる川の風景があり、地下からは名水が湧き、京都の食づくりに活躍してきました。「KYOTO BLUE」は、そんな“京都の水”をコンセプトに、2018年に山本仁商店からデビューしたブランドです。夏のおすすめは吸水性の良い2種類のハンカチ。「花染めはんかち」は綾目や桔梗など4種の花から抽出した“青”を麻生地に染めています。水のモチーフが描かれた「二重ガーゼはんかち」もあり、一枚あるだけで重宝することでしょう。購入は公式オンラインショップにてどうぞ。

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熊谷聡商店

置型風鈴「涼の音」

長年、京焼・清水焼の企画開発を行ってきた熊谷聡商店。2014年にオリジナルブランド「=K+(ケイプラス)」を立ち上げ、デザイナーとコラボした新たな京焼・清水焼の魅力発信に取り組まれています。そこで完成したのが、置型風鈴「涼の音」。“風鈴は軒先に吊すもの”というイメージを覆す、室内のインテリアとしても楽しめる風鈴です。冷房や扇風機の風を受けると、奏でる焼き物ならではの涼音。繊細な京焼・清水焼「花結晶」も室内に華を添えてくれます。
※熊谷聡商店が運営するギャラリー洛中洛外、またはオンラインショップでもご購入いただけます。

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西陣やまひで帯

接触冷感「西陣織マスク」

今では生活の必需品となったマスク。コロナ禍に伴い、多くの業界がマスクづくりに注目しましたが、昨春、西陣やまひで帯から誕生したのは京都らしい「西陣織マスク」です。西陣織の袋帯や和雑貨を手作りしてきたお店で、夏にはいち早く“接触冷感タイプ”を販売開始。表地は西陣織、裏地は綿の接触冷感生地となり、ひんやりした肌触りが夏のマスク生活を快適にしてくれそう。南天や七宝など上品かつシンプルなデザインで、ファッションアイテムとして取り入れやすいのも嬉しいですね。

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山田松香木店

薬種シリーズ「アロマスプレー」

江戸時代中期、薬種商として創業した山田松香木店。香木をはじめ線香、匂い袋など、さまざまな“香りアイテム”が揃う専門店です。そんな同店から2021年春、新たに「薬種シリーズ」が誕生。創業当時の原点に立ち返り、薬種にこだわった天然香原料を使用し、「アロマスプレー」は部屋や寝具に吹きかけてリラックスタイムに、マスクの香りづけにもおすすめ。「クール」は薄荷(はっか)、レモンを配合した涼しげな香りで、暑い夏も心地よい気分にさせてくれそうです。

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スタッフおすすめ京の涼食!

涼を感じる京道具を求めて京都を訪れたら、涼食でひとやすみ。夏の大定番「冷麺」「かき氷」から、名前からして気になる関西独特の「ひやしあめ」まで、スタッフのお気に入りをピックアップしてみました。ぜひ、味わってみて。

鱧(はも)/料理旅館 奥貴船 兵衛

京都の夏を代表する味のひとつ「鱧」。せっかくなら涼を感じる“貴船の川床”でいただきませんか。貴船は京都市街地より気温が5~10度ほど低いとされる避暑地。兵衛では、鱧しゃぶや鱧落としなど鱧づくしの会席を川床で贅沢に味わえます。

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冷麺/中華のサカイ本店

夏グルメの大定番「冷やし中華」。関西では「冷麺」と呼ばれることが多く、京都の冷麺といえば中華のサカイが有名です。焼豚とハムの2種類があり、味の決め手となる特製だれは、酸味と甘味のバランスが絶妙。お取り寄せも人気です。

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奴豆腐/とようけ茶屋

名水が湧く京都では、なめらかな「豆腐」も名物のひとつです。とようけ茶屋は、明治30年(1897)創業の京豆腐の名店・とようけ屋山本が手がけるお店。ひんやり冷たい奴豆腐は、暑い日の最高のごちそう。奴膳やお好み奴豆腐ではお豆腐の種類を選ぶことが可能。

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ひやしあめ/京あめ とにまる

「ひやしあめ」は飴ではなく、関西で知られる夏の定番ドリンク。水飴をお湯で溶かし生姜を加えて冷やしたもので、昔懐かしい甘さと爽やかな生姜の風味が暑さを和らげてくれます。とにまるでは、多彩なひやしあめドリンクがラインアップ。
※京都駅CUBE店にて販売

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紫蘇ソフトクリーム/土井志ば漬本舗

大原名産の「赤紫蘇」は栄養価が高いとされ、夏バテ予防にぴったり。明治34年(1901)創業の土井志ば漬本舗では、珍しい赤紫蘇のソフトクリームがいただけます。鮮やかな色とヨーグルト風味のさっぱりとした味わいに気分も爽快♪
※本店・三千院前店・清水店にて販売

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かき氷/さるや

下鴨神社の糺の森内にある休憩処・さるやの大人気メニュー、鴨の氷室の氷。かつて神社の大炊殿に氷室があったことにちなみ名付けられたかき氷です。森林浴を楽しみながらいただく冷たいかき氷は、夏の思い出のヒトコマに。

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京都ツウが教える、京の小話

第六感で感じる京都の涼!?「幽霊子育飴」

さまざまな逸話が伝わる京都でも、特にゾクッと涼を感じそうなのが、六道の辻界隈。“あの世とこの世をつなぐ”という井戸がのこる六道珍皇寺のほか、450年以上に渡り「幽霊子育飴」を販売する飴屋さんも。食べるのも恐そうな名前なのですが実は・・・

時は慶長4年(1599)、毎夜、飴を買いに来る女性がいました。ある日、不審に思った店主が女性の後を付けたところ辿り着いたのは墓地。そこで赤ん坊の泣き声が聞こえ、掘り起こすと、女性の亡骸と飴をくわえた赤ん坊が! 幽霊となった母が子供のために飴を買いに来ていたのです。

そんな逸話から、この飴はいつしか「幽霊子育飴」と呼ばれるようになりました。少し恐いですが、飴は、お母さんの愛情を感じる優しい味わい。お話を思い浮かべながら、ぜひ味わってみてくださいね。
「みなとや 幽霊子育飴本舗」はこちら。



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※写真はイメージです。
※掲載内容は2021年8月20日時点の情報です。最新情報は各掲載先へご確認ください。